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もう挫折なんてしてやるものか。

「シェリー、もう無理だって。あの鬼のような笑みを浮かべている人たちを見てよ」

 シェリーはチラッと彼らの顔を見たが平然とこういいきった。


「あぁ、あれが普通よ。あの人たちなぜだかわからないけど、血に飢えているのよね」

 三文役者のソランを無視して鬼の形相の人間たちがどんどん近づいてくる。


 あの鬼たちに囲まれたら僕の魔法では加減ができない。公爵家の使用人を殺したとあっては、助かったとしても殺される。ならいっそのことこのまま死んでしまう方がいいのではないか……。


 執事がもう一度、氷炸裂弾を放つため魔力を貯めているのが見える。

 僕の生涯は短いものだった。


 父さん、母さん、ダメな息子の僕はもうすぐそちらへ行けそうです。短い別れでしたが、すぐに会えて嬉しいです。


 そう心の中で両親への挨拶をした。

 覚悟は決まった。


「シェリーもう、無理だよ」


 僕が諦めて魔力障壁を解除すると、彼女は腰に回していた手をほどき、急に立ち上がり彼らに満面の笑顔をむけた。


「みんな聞いて! この子の持っていた回復薬を飲ませてもらったら、急に呼吸が楽になったの!」


 彼女が立ち上がったことで執事が僕めがけて放った氷炸裂弾の斜線上へと割り込む形になってしまった。


「危ない!」


 僕はとっさに彼女をかばうように引き倒すと、左の腕に熱い衝撃が走り左腕は弾き飛ばされ、彼女を抱きしめながら地面へと倒れた。


 僕はこの時、痛みと共に学んだことがある。

 中途半端に諦めることは返って危険だということ。


 もう挫折なんてしてやるものか。


 僕の左腕は下手糞な回復術師のせいで今でも傷跡が残っているが障害は残らなかった。

 彼女は僕の回復薬のおかげで病気が回復したと言いはり、僕にはお礼としてありあまるお金をもらえたので、そのお金で相続税を払い魔法の研究を続けて慎ましく生活した。


 ただ、あれから何年も立っているのに、未だに彼女に振りまわされているので誰もいないところに秘密の家を買えばよかったと少し後悔している。


 公爵家という絶対的な権力には逆らわず、僕は柳のように右から風が吹けば右へ流れ、左から風が吹けば左へ流れるといった感じでなんとかやりすごしてきた。


 まぁ断ろうと思えば断れたんだけど、断った代償が僕の命くらいってだけで、ある意味わかりやすくていい。

 シェリーの病気は完治が難しく定期的に水分量を調整してやる必要があるので仕方がないというのもあった。

 残念なことに僕以外に彼女の病気の進行を抑えることはできなかった。


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