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彼女が夢見ている自由も、夢も、希望も……すべてはまやかしでしかない。

 僕の家は門からかなりの距離がある。

 庭には絶対に人に懐かない魔獣や、人食い植物、侵入妨害のためにかぼちゃの魔物ジャック・オウ・ラウンターンがいたりする。道から外れると、骨も見つからない可能性があった。


 庭で色々な実験をしていたら、いつのまにか変なものばかりが住み着いていた。おかげで街の人からはお化け屋敷と呼ばれているが、泥棒が庭から侵入してくることはないので、良しとしている。


 他人の家に正面から入ってこない人間は消えたとしても仕方がないと思う。


「いやー地下室暑かったね」

「君には妖精がいるんだから暑くないでしょ」


「そんなことないもん。空気感というか、ダレルと一緒にいるからとか……」

「そうだね」


「今の私の告白ちゃんと聞いてた?」

「もちろん」


 ソランが先頭を歩き、僕とシェリーは並んでゆっくりと歩いて行く。正門までは歩いて10分ほどかかる。シェリーの魔力に惹かれて魔獣が近づいてくるが、僕たちが歩いている道には魔物避けの結界がはられているので遠巻きに見ているだけだった。


 僕たち以外がこの道を歩くと、魔物避けがあっても威嚇するので、人には懐かないが誰が主人なのかは理解している、と思っている。


「いつも私の告白にあいまいだよね」

「そう……かな?」


「こんな可愛い女の子が告白しているんだよ?」

「あっ……あれかな? シェリーの護衛は僕の魔道具よりも危険って告白かな?」


「そこまでさかのぼらないとダメ? もう、ダレルはダメね。女の子の話をちゃんと聞かないと嫌われるんだからね」


 まるで、小さい子に言い聞かせるかのように、僕に言ってきた。でも、残念ながら彼女の助言を役立てることはないだろう。僕が彼女以外の女性と絡むことは、ほとんどないからだ。


「わかったよ。次から頑張る」

「次何てないかもしれないでしょ」


 彼女はいつもへらへらした顔とは違い、真剣な顔で僕の顔を覗き込んできた。

 僕は彼女のあまりの可愛さに、一歩後ろに下がる。

 この可愛さは反則だ。


「わっわかったよ。今回から頑張るよ」

「そうだよ。明日も会えるなんて保証がないのは君が一番わかってるはずでしょ」

「そうだね」


 僕はそのままゆっくりしたペースで、彼女の視線を避けるように歩き続ける。

 平常心、平常心、平常心……可愛いなんて思っちゃダメだ。

 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は予想の斜め上のことを言いだした。


「それじゃ、ほら、ここがチャンスだよ? ソランはこういうのをスルーする力あるからいないものと考えて大丈夫。普段こうやって二人になれるなんてことないんだからね」


「あのさ……ここの魔獣がこれだけいて、今後ろで人食い草がギリギリ狙っているような場所で告白して欲しいの? それに地下室ではずっと二人だったし」


「私は別に……ってなんて顔してるのよ」


 よほど変な顔をしていたのだろう。

 彼女越しにソランが少しクスリと笑っているのが見える。

 僕は酷い人間だから心にもないことを平気で言える。


「そんなことよりも君はいつ消えてしまうかわからないのに、こんな場所にいる方が不思議だよ」


 彼女が本当なら欲しい言葉を知っている。だけど、それを言わずにわざと話題を変えた。

彼女は少し考える。


「うーん。私は公爵家に生まれて本当だったらダレルとこうやって歩いていることなんてできない関係なのに、こうやって自由にさせてもらっているってことは、私の運命は幸せになるために動いていると思うよ」


「また病気になって死ぬかもしれないのに?」

「それよ。一度病気になってそれが不幸だとしても、その後もずっと不幸でいなければいけないなんてことはないと思うの。それともダレルは私にずっと不幸でいて欲しいの?」


「そんなことはもちろんないよ」

「でしょ。ならほら、ここで膝をついて一生幸せにしますって言ってもいいよ?」


 彼女もなかなか手ごわかった。そう簡単には逃げ切れないらしい。


「言わないよ。でも、今日みたいに僕の家の地下室の掃除よりも、他に有意義な生活とかあるんじゃないかなって思って」

「例えば?」


「貴族同士でいかに愚民から税金を巻き上げるか優雅な策略をねるとか? 王様の狩につきあってキャーキャー言うとか? あそこのご子息様が素敵でみたいな恋バナ?」


 彼女は呆れた表情をして一瞬固まる。


「それのどこが有意義なのよ。全然楽しくないじゃない。君はそんなのが楽しいことなの?」

「いや……僕はそうだな。ずっと引きこもって魔法の研究をしていたいかな」


「そんなのいつだってできるじゃない。他にもっとこうあるでしょ?」

「そうだね。ないこともない」


「ダレルの命も永遠にあるわけじゃないのに。私への告白を先送りにしていると思うの」

「別に告白はしないけどね」


「やりたいこと毎日できている人なんて、ほとんどいないと思うよ。だから、気にするだけ無駄よ。それにどうせ死ぬなら許される範囲で好き勝手したいじゃない。私はあの倉庫をキレイにして私の部屋にするわ」

「それはやめてくれ。あんな地下室を君の部屋にしたら僕が君の家族に殺される未来しか見えないから」


「地下室じゃなきゃいいわけ?」

「部屋は……あまっていないことはない」


「ソラン聞いた? 私たちの部屋がこの家にできたわよ。さっそく家具とか準備しないと」

「かしこまりましたお嬢様。私、フリフリできゃわきゃわの部屋にしますから、任せてください」


「頼むわね」

「二人とも、冗談はほどほどにね」


 彼女の話に付き合っていたら本当に家におしかけられてしまう。

 冗談かと思ったことが本当だったなんてことはよくあるからだ。

 嫁入り前の女の子にそんな既成事実を作られたら、間違いなく公爵家の人間が暗殺者を送り込んでくる。


 公爵家の人間は庶民からは考えられないことを平気でしてくる。

 生まれた時から恵まれていた彼女たちは。僕たちとは考え方が違うのだ。

非常に残念なことにこの世界で自分の好きなことをして生きて行けている人なんて、権力を持っているごく一部の限られた人だけだ。


 僕はたまたま一緒に過ごすことを許されているが、本来だったらありえないことだった。

 彼女のことをどう思うかと聞かれれば、いつもニコニコしているし性格もいい。スタイルも抜群だし、たまに暴走することを除けば完璧だといえる。


 とはいっても、彼女と僕の間には埋めることのできない身分の差があった。

 こんな僕に優しくしている彼女の『今』が異常なのであって、この異常な状況はそんなに長く続きはしない。


 今はまだ彼女に結婚などの話が本格的なきていないだけで、公爵家と政略結婚をしたい相手は沢山いる。夢も希望もない話だが、公爵家の娘として生まれたからには、それは当たり前のことだった。


 彼女が夢見ている自由も、夢も、希望も……すべてはまやかしでしかない。

 彼女も公爵家の中では奪われる側なのだから。


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