逆ハーレムの主と思われていた令嬢の思い
「お姉様、まだお帰りにならないの?」
もう、何度目の質問かもわかりません。
夕方頃からずっと言い続けている気がいたします。
二つ年上のお姉様は、優しくて、愛らしくて、賢い、わたくしの自慢の姉です。
お姉様が十歳の時、第一王子殿下、今の王太子殿下との婚約が成立しました。
王太子殿下は、お姉様の一つ年下。
国王王妃両陛下のたった一人の御子です。
わたくし達のお母様と国王陛下が姉弟ですので、子供の頃はよく一緒に遊んだものです。
年齢以上に大人びていたお姉様を殿下が憧れの目で見ていたのは、殿下よりも幼かったわたくしにも分かりました。
我が家は公爵家ですので、家格も、本人同士の相性も、問題のない婚約に思えました。
ですが、徐々に影が差してきたように思います。
人一倍責任感の強いお姉様は、妃教育に加えて、王妃陛下のお手伝いをしたり、王太子殿下に任せられ始めた執務のお手伝いをしたりして、負担を抱え込み始めました。
対して、王太子殿下は、お姉様が殿下を手伝ったりすることを、あまりにも当たり前のことのように受け取っていらっしゃるようでした。
幼い頃の、お姉様なら何でも出来る、という感覚をまだ持っていらっしゃるのかもしれません。
この国の王侯貴族は、十六歳になる年から三年間学園に通います。
学園では、王族とその婚約者、公爵家と侯爵家の令息のみが加わる生徒会があります。
学園に二人が通う様になってからは、生徒会の執務も加わり、お姉様が帰ってくる時間は、さらに遅くなっています。
……今日は、お姉様の誕生日なのです。
お姉様をお祝いしたくて、お姉様に少しでも休んでほしくて、
「お姉様、今日は絶対に早く帰ってきてくださいね。約束よ」
朝、お姉様に言いました。
「分かったわ、マリエッタ」
そう約束してくれたのに。
今、テーブルに、殿下からお姉様に宛てたメッセージカードが広がっています。
お姉様に断りもしていないので、マナー違反です。
けれど、これは、お父様が命じたこと。
「酷いわね」
お母様がつぶやきました。
わたくしもそう思います。
「これほどまでとはな」
お父様が今日届いたカードと三年前のカードを見比べています。
お父様が見比べているカードは逆になっても、誰にもわからないでしょう。
「三年前から全部同じカードだなんて……」
王侯貴族の間で、カードの使い回しには作法があります。
紙が黄ばみやすいためです。
紙をいつまでも白く出来るように職人が苦心していると聞きますが、数か月で新品とは明らかに差が出てしまうのが、今の紙です。
身分の高い者の間では、これを逆手にとって、
「あなたのためにカードから新調しました」の意味を込めて、贈り物に新しいカードを添えたり、
「カードを使い回すほど困っています」の意味を込めて、古いカードで慈善事業の寄付を募ったりします。
下位貴族であれば、寄り親貴族などから下げ渡しのカードがどれ程新しいか示すことで、後ろ盾の表現になるでしょう。
「こんな意味のない使い回しをされているなんて!婚約解消の理由になるでしょう?」
お父様に訴えます。
お姉様が可哀そうですもの。
ですが、お父様もお母様も俯いてしまいます。
「……婚約者がわたくしに入れ替わるだけですのね……」
わたくしも分かってはいるのです。でも
「政略結婚そのものが廃れつつあるのに……」
なぜ、お姉様だけが犠牲に……
あれから、お姉様は、日付が変わる程の深夜にやっと帰っていらっしゃいました。
お姉様の好物ばかりのお料理にほとんど手を付けることもなく、倒れるように眠ってしまいました。
……何か、お姉様の助けになれることは……
今日からわたくしも学園に通います。
あれから、お姉様のためになることを思いつきまして、準備を進めて今日の日を楽しみにしてきました。
お父様お母様にも内緒、と言いたいところでしたが、そのようなわけにもいかず白状させられました。
お父様には渋い顔をされましたが、お母様が許して下さったので、お父様も折れて下さいました。
入学式では、隣に並んだ侯爵令嬢の方やその向こうの伯爵令嬢の方々と、仲良くなることが出来ました。
学園生活の滑り出しは上々でしょう。
ですが、それ以上に成し遂げたいことがあります。
終了後、ある場所にやってきました。
「テオドア様」
「マリエッタ様。
ご足労いただいて申し訳ございません。
こちらが、ウェイルズとアンソニーでございます」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いしまっス」
ヘンドリックス王太子殿下の側近の方々です。
お三方とも子爵令息で、身分は高くないのですが、殿下の乳兄弟であるテオドア様を中心に、殿下に最も近しい方々です。
あれから、殿下からお姉様へのメッセンジャーを務めることもあるテオドア様に連絡を取りました。
テオドア様もまた、殿下の使い回しのカードに苦心しているように思う出来事があったためです。
手紙で連絡を取り合ってきまして、向かい合って会うのは今日が初めてです。
「もう一度確認させていただきます。
学園は自由を謳っていますが、それでも私共とこのように会っているのを見られれば、マリエッタ様のご評判に関わります。
それでも、ご協力いただけますか?」
「もちろんですわ。
両親の許可も取りました。
何より、大事なお姉様のためですもの」
「私共が不甲斐ないばかりに、ご迷惑おかけして申し訳ありません。
ですが、正直、助かります。
よろしくお願いいたします」
「具体的には、どうすればいいのかしら?」
「先ずは生徒会の仕事をクリスティーン様から取り上げてきて下さい。
元々は、ヘンドリックス殿下が、私共に投げるべきものです。
仔細はこちらに」
生徒会は王族と高位貴族令息しか入れませんが、それぞれの執務はそれぞれの側近に任せることが出来ます。
ですが、お姉様は女性ですので執務用の側近はいません。
「分かりましたわ。
これらのお仕事の書類をお姉様から奪ってきて、テオドア様たちにお渡しすれば良いのね。
やってみせます」
新学期が始まっております。
入学式で仲良くなったのは、侯爵令嬢のカトレア様、伯爵令嬢のデボラ様とパメラ様。
学園では大体四人で過ごしております。
「学園から俱楽部活動なるものが推奨されておりますが、皆様どうなさいますか?」
カトレア様は、婿を取って侯爵家を継ぐことを考えておられる方。
この国では、王族や妃しか政治に関わらないとされているため、まだ周囲には内緒で進めているそうです。
発言力が強く、わたくし達の中心的存在です。
わたくしの方が身分が高いので、最初は遠慮なさっていたのですが、気にしないようにわたくしから申し上げました。
「わたくしにはやりたいことがございますので、あまり時間を取られるものはご遠慮したいですわ」
「まぁ、何かもう決めた事がございますの?」
瞳を輝かせたパメラ様だけでなく、カトレア様とデボラ様も興味深そうにしています。
「実は、お姉様のお手伝いをしたいのですわ」
先日、早速お姉様からお仕事を奪い取って、テオドア様達に渡してきました。
お姉様の学級まで訪ねて行きました。
お姉様は夜遅いですから、学園内で会ってしまった方が確実です。
責任感の強いお姉様から、負担になるようなことを取り上げるのは、少しコツが要ります。
「お姉様、それ、わたくしにも分けてくださいな」
「駄目よ。これはヘンドリックス殿下から私に下されたものですから」
「まぁ、お姉様ばかりズルいですわ。
お姉様でなくてはならないものではないのでしょう?
テオドア様達にも加わってもらいますから、大丈夫ですわ。
わたくしに譲ってくださいませ」
「テオドア様達ですか……
では、渡しますわ。
でも、何かあれば、私に返して下さい」
「ありがとう、お姉様」
お姉様ばかりズルい。
このように、妬ましそうに言うと譲っていただけるのです。
普通に手伝うと言っただけでは、駄目なのです。
妹ならではの特権ですので、他の方には出来ませんが。
負担になるようなことではないもの、本当に羨ましいものは、お父様やお母様に相談いたします。
何か代わりのものを手配してくださいますもの。
お姉様に言うことはありませんわ。
でも、今回、思った以上にあっさりと譲っていただけました。
やはり、お姉様、お疲れなのでは……
「先日、お会いした時に思ったのです。
クリスティーン様、おやつれになったと……」
「私も思いました。
目の下のくまをお化粧でかくしていらっしゃるな、と」
わたくしの話に三人も共感してくれました。
「何かお手伝いできることがありましたら、私で良ければ……」
引っ込み思案なところのあるデボラ様が申し出てくれます。
「私も手伝いますわ」
「私もですわ」
「ありがとう、皆様」
わたくし、お友達に恵まれましたわ。
お姉様から取ってきたお仕事は、わたくしの思う以上の多さでした。
テオドア様達は喜んで受け取ってくださいましたが、お三方で文官向きなのはテオドア様だけです。
アンソニー様は護衛のために、一学年繰り上げて入学されており、お勉強は苦手だそうです。
ウェイルズ様は、表には出ない仕事をしている家系の出で、ご自身の能力も家系のお仕事に向いているそうです。
表に出ない仕事が何かは教えていただけませんでしたが、テオドア様ほどには書類仕事は向いていないそうです。
人手が足りないように思ったわたくしは、お手伝いを申し出ました。
直ぐに出来るようになることではないので、今回のお仕事がひと段落してから、やり方を教えていただけることになっていました。
「こちらから助力を申し出ましたのに、力不足で申し訳ありませんわ……」
「私達もです……」
カトレア様、パメラ様とデボラ様が肩を落としていらっしゃいます。
お仕事のやり方を教えていただけることになっていることを聞いた三人が、参加を申し出てくれたのです。
お仕事は予算に関することが多く、計算が苦手らしい三人には難しかったようです。
「そんなに気にされなくても良いですヨ。
でも、もし良ければ、メッセンジャーをお願い出来ませんかネ?」
「メッセンジャーですか?」
「生徒からの予算申請を差し戻しする必要などがあるのです。
私共は身分が低いのもあって、なかなか応じていただけなくて……」
「クリスティーン様が見かねて手伝ってくださってたんで、クリスティーン様のご負担になってたっス」
ウェイルズ様とアンソニー様は、少し変わった語尾でお話しされます。
ウェイルズ様はやり取りの多い他国の訛りが、アンソニー様は平民出の騎士で剣の師匠だった方の口癖がうつったとか。
「もう今更直せないっス。
偉い人との話は二人に任せて、出来るだけ黙ってるっス」
「私は、直そうと思えば直せます。
ですが、仕事柄、侮られていた方が何かと都合が良くて……」
ウェイルズ様のご事情はよく分かりませんでしたが、二人には、いつも通りの口調で話をしてもらうことにしました。
「書類の差し戻しを渡しに行くのですね。それなら、お手伝い出来そうですわ」
「私達もお供します」
「もちろん、助けていただきますわ。
……ちょっと思いついたことがありますわ。
皆様、少しよろしいでしょうか?」
幸い私は、計算仕事も何とかなりそうでした。
テオドア様に教えていただきながら、お手伝いいたします。
カトレア様は、『生徒会補助』俱楽部というものを立ち上げました。
生徒会のお仕事を、身分と性別に関わらず手伝う、という趣旨の活動です。
近隣諸国に民主化の波が押し寄せる現在、学園に通うすべての者に執務の学びの場を、と先生方を説得するカトレア様は格好良かったですわ。
俱楽部活動になったお姉様のお手伝いですが、流れは初日とあまり変わりありませんでした。
生徒会のお仕事は、俱楽部活動の運営などの通常のお仕事に加えて、ヘンドリックス殿下が提案されるお仕事があります。
まず、ヘンドリックス殿下が思い付きをご提案、お姉様に実現を託します。
お姉様が各所に打診したりして、実現可能なお話としてまとめます。
さらに、お姉様が実現に必要な細々とした書類を作成します。
本当は、この段階でテオドア様達がお手伝いに入れると良いのですが、殿下がお許しになりません。
婚約者のお姉様に殿方が近づくのが許せないそうです。
……これまでは、ここから最後まですべてお姉様のお仕事でした。
殿下曰く、発案が殿下で、実現がお姉様で、平等、だそうです。
「あり得ませんわね」
カトレア様が憤ってくれました。
「酷いと思います」
デボラ様が涙ぐんでしまいました。
「クリスティーン様のお力になれるように頑張りますわ」
パメラ様が仰ってくれました。
今は、わたくしがお姉様からお仕事を取ってきます。
テオドア様が書類を仕分けます。
未完成のもの、完成済みのもの。
参加する生徒への打診、学園側への申請の数々。
各所へのやり取りは、カトレア様達が行ってくれます。
未完成の書類は、テオドア様達とテオドア様達に教わりながらわたくしが行います。
アンソニー様は苦手と仰いますが、これまでも行ってきておりますからね。
皆様のおかげで、お姉様のお帰りになる時間も早くなってきました。
少し顔色も良くなってきたようで、ホッとしています。
でもまだ、目の下のくまが残っています。
お帰りの時間も、以前より早いだけで、まだ遅いです。
「テオドア様。
お姉様の王宮でのお仕事も手伝わせていただけませんか?」
多少渋られましたが、了承していただきました。
生徒会のお仕事と同じように、学園でお姉様から取ってきて、テオドア様に聞きながら進めます。
学園でテオドア様達と一緒にいる時間が長いために、男女逆転のハーレムのようだ、と言われることもありますが、お姉様の方が大事です。
そうして、わたくしの入学から半年たち、お姉様の目の下のくまも薄くなってきた頃。
「お姉様、よくお似合いですわ」
「ありがとう、マリエッタ」
休み明けの新学期初日は、学園で夜会の練習という名のパーティーがあります。
ドレスは高額になりすぎない範囲で、各自が用意することになっています。
お姉様の胸元には、先日の女神祭にヘンドリックス殿下から贈られたコサージュが飾られています。
流行りの純白のコサージュに、お姉様のお好きな深い緑の縁取りがあります。
お姉様はとても喜んでいらっしゃいました。
女神祭は、仲睦まじい夫婦神の神話にちなんだもの。
夫婦や恋人で、男性から女性へ贈り物することになっています。
逆の男神祭もありますわ。
メッセージカードは、テオドア様達が新しいものに替えてくれました。
肝心のメッセージは、「女神祭、おめでとう」というあり得ないものでしたが……
普通は「男神から女神への愛と同じくらいの愛を」など、夫婦神にちなんだメッセージです。
……国王王妃両陛下を始めとして、多くの大人はヘンドリックス殿下とお姉様の婚姻を望んでいる、と聞いています。
ヘンドリックス殿下のお姉様への対応は疑問もありますが、テオドア様達に聞いている限り、お姉様に愛着を持っていることは事実のようです。
お姉様が幸せになれるなら、何も文句など言うつもりはないのですけれども。
……パーティーはまだ終わっていません。
血の気が引いたようになってしまったお姉様を支えながら、帰りの馬車に向かっています。
高位貴族のわたくし達が途中で抜けるために、カトレア様達が奔走してくれました。
「クリスティーン様、マリエッタ様、申し訳ございません!」
「テオドア様?
それにウェイルズ様にアンソニー様も、どうされたのですか?」
「あのコサージュは、私共が手配したものでした……」
「……そ、そうだったんですか」
ヘンドリックス殿下から、お姉様への贈り物はいつも、その時流行っているものそのものでした。
お姉様の好みに合わせた工夫が凝らされていたのは、あのコサージュが初めての事だったそうです。
ですが、パーティーでヘンドリックス殿下はお姉様に、こう尋ねられました。
「何故クリスティーンのコサージュだけ、皆と違っているんだい?」
「マナー違反を承知でお尋ねします。
コサージュに添えられていたメッセージを教えて下さい」
青くなって俯いてしまったお姉様に代わって、わたくしが答えます。
「『女神祭、おめでとう』です」
女神祭と男神祭のメッセージを本人以外が見るのは、マナー違反です。
お姉様に頼み込んで、見せてもらいました。
「そ、そんな……」
「もう潮時だヨ」
「もう諦めるっス。
このままじゃ、クリスティーン様があんまりっス」
テオドア様達は、殿下が御小さい頃から仕えています。
殿下の初恋がお姉様だ、ということも知っています。
殿下がお姉様に上手く愛情を伝えられていないことも、知っていました。
ずっと、何とかしようとしてきていたそうです。
テオドア様のお母様は、王妃陛下の侍女、殿下の乳母でもあります。
ウェイルズ様とアンソニー様のお父様は、それぞれ、国王陛下の侍従と護衛です。
それぞれ、相談されていたそうです。
テオドア様達自身は、殿下本人を諌めてきたそうです。
相談された、テオドア様達のお父様お母様は、それぞれ、国王王妃両陛下に話を上げていたようです。
「ですが、どれも聞き入れられませんでした。
三年前のカードの使い回しのようなことすら、聞いてはいただけなく……」
そこで、テオドア様達から思いもかけない提案を受けました。
「マリエッタ。
私、昨晩の提案をお受けしようと思います」
「良いと思います。応援しますわ、お姉様」
一晩悩んだお姉様は、目の下のくまこそ濃くなってしまっていますが、すっきりした顔をしています。
一緒にお父様お母様のところに行きました。
意外にもお父様は、割とあっさり了承してくださいました。
お母様の方が渋られたくらいです。
もっとも、お姉様の身の安全を心配しただけで、反対なわけではないですが。
あれから、お姉様は王宮通いを止められました。
準備を進める時間を取るためです。
元々、妃教育も修了していて、王妃陛下や殿下の手伝いがなければ、王宮に用はなかったのです。
王妃陛下や殿下には、我が家から、お姉様の体調不良を伝えています。
実際には、抱え込む仕事が減ったために、前よりも健康になっていますけれど。
学園では、お姉様は殿下との時間を最小限にするようにされました。
元々、学年が違いますから、接触は生徒会だけになります。
相変わらず、生徒会のお仕事を振られているようですので、「お姉様ズルい」と言って奪い取ってきます。
そんなに申し訳なさそうにしなくても良いのに。
準備も整ってきました。
一足早く密かに学園を卒業したお姉様は、北の新生共和国に渡ります。
「お姉様、お元気で」
「ありがとう、マリエッタ。貴女も元気で」
別れの抱擁を交わします。
寂しいですが、心配はしていません。
道中はテオドア様達が付き添ってくださいます。
テオドア様達の準備も既に終わっているそうです。
そうして、お姉様と同学年の方々が卒業式を迎えた後、
王太子殿下とお姉様の婚約解消が発表されました。
近隣諸国に押し寄せる民主化の波。
時代の変化を少しでも穏やかに受け止めることが出来るように、特権階級の若い世代に、民主主義を学んでもらう。
そのために、婚約を解消して、お姉様に北の新生共和国の大学に留学してもらう。
表向きの理由は、そのように説明されました。
実際は、お姉様が北の共和国の新設の国立大学に首席合格を果たしたことによるものです。
自由を謳い、身分も国籍も性別も問わないという理念の大学に、外国の貴族女性であるにも関わらず、首席合格したことで、お姉様は一躍時の人となりました。
今更、わが国が身分制度や政略結婚を理由に連れ戻そうとすれば、国際問題になりかねません。
お姉様に、ヘンドリックス殿下と婚姻する気持ちは、もう全く残っていません。
必要とあれば、いつまでも共和国に残り続けることでしょう。
王家はお姉様を諦めざるを得ませんでした。
ヘンドリックス殿下は、ショックで寝込んでいるそうです。
お姉様に、一度も気持ちを伝えたことも無いのに。
と思っていたら、王家からの婚約の打診が求愛だと思っていたそうです。
受けてくれたので、お姉様もまた殿下のことを愛していた、と思っていたと。
王家から公爵家への婚約の打診を、ですよ。
普通、政略だと思いますでしょう。
お父様達もカトレア様達も呆れておられましたわ。
大半の貴族達は、この婚約解消を、未来の妃をお姉様からわたくしに交代する布石、と捉えているそうです。
絶対に嫌ですわ。
学園では、『生徒会補助』俱楽部の活動が評価されて、生徒会は学園の生徒であれば、誰でもなれる規則に変わりました。
民主主義を習って、選挙という制度で役員が決まります。
倶楽部は解散になってしまいましたけれど、カトレア様が次期生徒会長に立候補しています。
わたくし達も役員に立候補する予定です。
カトレア様達とは、わたくし達も留学をしようか、という話もしたりします。
まだ、もう少し先ですけれどね。
心配だったのは、テオドア様達です。
最悪の場合、王家への反逆と捉えられる可能性がありました。
そのために、まず、テオドア様達は、あらかじめご実家と縁を切られました。
形式的なものです。
テオドア様達のご両親は、ご自身達の身を挺しても、テオドア様達を庇うおつもりでした。
ですが、無関係な親族まで巻き込むわけにはいきません。
泣く泣く、形式上の縁切りをされました。
事が済みましたので、王族の側近を辞して、貴族籍すら抜いて、家族でテオドア様達と合流される予定です。
一連の流れの間、お父様が彼らの後ろ盾になり続けてくれました。
テオドア様達は恐縮されていましたが、元々はお姉様のために動いてくれていましたから。
テオドア様達は、何も咎めないわけにいかなかったらしい王家により、国外追放刑になり、平民になりました。
元々領地なしの形式的な子爵家だったということで、気にしていないと言ってくれました。
今は、北の新生共和国で、お姉様が入学する大学に入学出来るよう学んでおられるそうです。
もちろん、お父様が手厚く援助してくれています。
やっぱり、わたくしも留学しようかしら。
今、世界には自由への風が強く吹いています。
全ては自分次第ですね。
わたくしも頑張ろうと思います。
読んで下さってありがとうございます。
↓後日譚、ざまぁ説明回になります。
『逆ハーレム要員と思われていた側近たちの申し開き』
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以前に投稿済みのものです。
書いたタイミングが違うので、文章も違いますが、
よろしければ、お付き合い下さい。