入学式 前編
時の流れは早いもので、俺たちが出会ってからもう一週間も経ち、いよいよ今日が高校の入学式だ。
とはいっても、朝することがあまり変わるというわけでもなくて、いつものように六時頃に起床して隣の部屋で寝ている詩織を起こしに行く。
「ほら、もう朝だぞ」
「……んぅ、後五か月だけ……」
「冬眠する熊かっ! 熊ならもう春だから起きろ」
「冬なら寝てていいの?」
「ダメだけど、とりあえず今日から学校だからとっとと起きてくれ」
「ああ、そういえばそうだったわね。誠、お腹すいたから朝ご飯早く作って」
「あんたが後五か月とかいうからでしょ!」
「誠、声がうるさいわ」
こっちだって好きで朝から大きな声を出してカロリーを消費したいわけではない。
だが、それのおかげか完全に目が覚めたので詩織の要望通りさっさと朝食を作るとしよう。
「ああ、もう。入学初日から遅刻しそうになってるんだよ」
現在の時刻は八時十分で、始業時間は八時半なので、あと二十分しか猶予がない。
そのため、俺たちは通学路を全力ダッシュしていた。
「誠、疲れたからおんぶして」
「おんぶしたらいよいよ遅刻するわ」
「誠のけち」
「けちでいいから今はとりあえず急いでくれ」
なぜこんなことになってしまったのかというと、本来ならとっくに学校に着いている時間なのだが、通学路を歩いている途中の公園で猫が木の上から降りられなくなっており、詩織がどうしても助けたいというので、俺が木に登って猫と格闘していたらこんな時間になってしまったというわけだ。
まあ、詩織も満足そうにしていたのでそれはいいのだが、俺は顔にひっかき傷を付けられてしまったのと、こうして朝から全力ダッシュをしなければならなくなってしまった。
息を切らしながら校門に着いて時計を確認すると、八時二三分だったのでギリギリ間に合ったようだ。
「なんとか間に合ったな」
「誠がおんぶしてくれたら疲れなかったのに……」
「まだ言ってんのかよ……そんなことしてたら遅刻してたんだって言ったろ? どうせ入学式なんて座って話聞くだけなんだから疲れも取れるさ」
「……むぅ」
最後に詩織がジト目で見ていた気がするのだが、こんなところで駄弁っている余裕もあんまりないので、急いで体育館に行く。
体育館に着くと、ほとんどの生徒が集まっていたので急いでそれぞれ自分の席に座ってホッと息をなでおろす。
すると、横の席の奴から急に話しかけられる。
「入学初日から彼女とイチャイチャ登校か?」
「違うっての」
「そうかい? 少なくとも俺の目にはそう見えたんだけどな」
「ならそれは目の錯覚だろ、俺と詩織はそういう関係じゃない」
「ふーん?」
と、ニヤニヤと横のやつが見てくるので、少しイラッとする。
「っと、悪いな別にからかうつもりはなかったんだが、お前さんの反応が面白くてついな」
「ついってお前……」
「俺はお前じゃなくて松山優斗、愛媛県の松山市の松山と、優しいの優に北斗七星の斗で優斗だ優斗って呼んでくれ。お前は?」
「俺は上崎誠。誠でいいよ」
なんともフレンドリーで、そしてかなり変わった奴だ。
「っと、もう少し話してたかったんだが、どうやら式が始まるようだな。初日から怒られたくないしまた後で話そうぜ」
「……分かったよ」
変わった奴に話しかけられたが、誰とも話さずに高校生活をスタートするより何倍もいいので嬉しいっちゃ嬉しい。
式は、中学校の時とあまり変わらないようなもので、校長先生からありがたいお話をいただきつつ、現生徒会長の人がこれからよろしく的なことを言っていたと思う。
どうして説明が雑なのかって? それは、それ以上に入学式で驚くべき事があったからである。
生徒会長さんの話が終わり、次は新入生代表挨拶になった時、それは起きた。
新入生の代表は、受験の時の点数が最も高かった主席がするようで、そんなやつとは多分かかわらないであろう俺にはあんまり関係ないなとか思っていた。
「それでは新入生代表、一条詩織さんお願いします」
「はい」
そう思っていたのだが、返事をして立ち上がったのは、ほかでもないあの詩織だったのである。