お隣さんから――
俺達は帰省を終えて、いつもの日常に帰ってきていた。
いつもと違うところといえば、詩織との距離くらいだろうか。
あの公園で告白に成功した後、家に戻ると速攻で俺と詩織の距離が妙に近いことに勘付かれて、その流れで俺達が付き合いだした事が両親にばれてしまった。
早かれ遅かれ報告するつもりではいたのだが、こんなに早くばれてしまうとは思っていなかった。
母さん曰く、「親は意外とちゃんと子供を見てるのよ」だそうだ。
その後お赤飯を炊かなくちゃ、なんていうひと悶着もあったのだがなんやかんやおめでとうと祝福されてここに帰ってきた。
俺の両親には一応報告出来たということは、次は詩織の両親にも報告しないといけない訳で、現在詩織の実家に向かっている。
特に俺の背中を押してくれた義さん達に報告しない訳にもいかないからな。
「やっぱり緊張するな……」
「パパが怖い?」
「それもあるけど、やっぱり相手側の両親に報告するってのはドキドキするんだよ」
「そう? 私は早く教えたくてうずうずしてるけど」
「……俺もそのメンタルを見習いたいよ」
正直、まだ結婚をするわけでもないのに付き合って数日程度で報告しに行くというのもおかしなな話ではあるが、顔見知りだし、よくしてもらっているのも間違いない。
詩織にパパとママにも帰ったらすぐ報告する、と言われてしまえば行くしかないだろう。
今日は迎えに来てもらう訳ではなく電車に乗って向かっているのだが、やはり詩織は視線を集めていた。
そりゃあ、こんな美少女が同じ電車に乗っていたら気になってしまうのも無理はないだろう。
かと言って、彼氏である俺からしたらどうにも喜ばしくないのも事実。ということで、そっと詩織の手を握ることにした。
「どうかしたの?」
俺が急に手を繋いだものだから、少しびっくりしたようにそう聞いてくる。
「詩織は周りからの目を引くだろ? だからちょっとした嫉妬」
「心配しなくても、私は誠以外気にしてないわ」
「……」
相変わらず詩織が可愛い……。
なんやかんやありつつも、電車から降りて少し歩けば大きなお屋敷の前にたどり着く。
いつ見ても凄い大きいなと感じつつ、緊張する手でインターホンを押せば、数秒もしないうちに門が開いた。
時間を少し作っておいて欲しいということを伝えていたので、待っていてくれたのだろう。
忙しい中、時間を空けてくれた相手に待たせるのも失礼なので少し早足でお屋敷の入り口まで行けば、そこに日向さんが待っていた。
「お久しぶりです」
「久しぶりって言っても二週間ぶりくらいだけどねー。二人共元気にしてた?」
「まあほどほどには元気です」
最近外出する事が多くて、この暑さにやられそうではあるが、元気といえば元気だ。
「しおりんはどう?」
「凄く元気よ」
「それは良かったよ――それに二人の中もすっごく縮まってそうだしね?」
と、俺と詩織の丁度間を見て言うのでなんだろうと俺もそこを見れば、電車に乗っている時からしっかりと繋がれている手があった。
「あっ……」
「私は最初から何となく分かってたし、パパも覚悟はしてると思うけどほどほどにしなよ?」
「……はい」
流石に会う時から手を繋いだままというのはまずいと思ったので手を離そうとしたのだが、詩織が離そうとしてくれない。
「別に離さなくてもいいんでしょ?」
「いや、そうだけどさ……」
ダメとは言わないが、最初から手をつないで義さんと会うのは些かハードルが高い。
俺らの会話を聞いてニヤニヤとしている人が近くにいるというのも問題だ。
結局手を離さないまま日向さんに連れられてお屋敷の中を進んでいくのだが、相変わらず迷路のように広い。
ここに住んでいれば慣れるのだろうが、まだ数回しか来ていない俺には覚えられそうもない。
「じゃあここで待っててね、パパとママ呼んでくるから」
「分かりました」
「二人きりになるからって変なことしちゃダメだよ?」
「しませんよ!」
全く、なんてことを言うんだろうか……そんなことを言うから変に意識しそうになるじゃないか……。
まあ何をするわけでもなく、一分も経たないうちにコンコンとドアがノックされて義さんと美緒さんそして日向さんが入って来る。
義さんの顔はかなり険しい表情で、逆に美緒さんと日向さんはニコニコ、ニヤニヤとしていた。
「……話があると聞いたんだが、聞かせてくれるかな」
一度大きく息を吸ってから義さんがそう告げる。
「……はい……先日から詩織とお付き合いさせていただくことになりました」
「……っ、予想はしていたけどやはり堪えるものだね……」
もとより険しかった義さんの顔に更にしわが寄る。
「あらあら、昨日から心の準備してたんじゃないの?」
「それとこれとは話が違うんだよ……」
「……やっぱり全員知ってたんですね」
心の準備なんていうくらいだから、俺と詩織が付き合っていることが知っていたかのようだ。
「この前の海に行った時には誠君の気持ちは分かったし、詩織はそもそもこんなに家族以外に心を許した事が無かったからね。それで報告したいことが、なんて言われたら直ぐに想像がつくよ……それでなんだけどね、まさかとは思うけどこれ以上報告する事があるなんて言わないよね?」
「いや、特にこれ以上報告するような事はないですけど……」
「本当かい? 実は子供ができたけど黙ってるとか無しだからね?」
「そんな事ある訳ないじゃないですか!」
一体なんてことを言い出すのだろうかこの人は。そもそも詩織とはキスすらしたことが無いというのに子供なんて作っている訳もない。
「……ふう、取り乱してしまってすまない。つい不安になってしまってね……」
「あなた、後でお話があります」
「え、いや、でも本当に不安で……」
「お話があります」
「……はい」
やはりどの家庭でも父親は母親に勝てない定めなのか、少し可哀想ではあるが自業自得なのでしっかりお話しておいて欲しい。
「あの人はああやって言っているけど、なんやかんや詩織と誠君が一緒に舞ちゃん達の家に行った時くらいから覚悟をずっと決めようとはしていたから許して欲しいわ」
「別に怒ってはないので許しますけど……」
「それはそうとして、もし子供が出来ちゃったら私には先に教えてね」
あんたもかっ! 全く、この家族はいい人なんだけど、余計な事を言うな……。
「ねえ誠、どうやったら赤ちゃんって出来るの?」
「待って? この話題は一旦止めよ?」
そこでこの話題に乗ってくるのは勘弁して欲しい、日向さんもゲラゲラと笑っているし俺の味方が誰一人としていなくなってしまった。
「子供は三人欲しいわ」
「なら詩織も頑張らないとね」
「誠と一緒に頑張るわ」
もうやめてくれ……。
「冗談はこのくらいにしておいて、おめでとう、詩織。誠君も、詩織の事を選んでくれてありがとう。これからお互いに支えあっていくのよ」
「まるで結婚するかのようですね……」
「するんじゃないの? 左手の薬指を見た時にそうだと思ったのだけど」
「……あ……大学を出るまでは待っていただけると……」
この前の夏祭りの時に取った指輪を詩織はかなり気に入っていて、いつも付けていた。
俺は流石に恥ずかしかったので今日は付けてきてはいないのだが、詩織が付けているのを見てそう思ったのだろう……。
「あら、考えてはくれているのね。なら楽しみにしておくことにするわ」
「勘弁してください……」
付き合いだしたというだけでいっぱいいっぱいなので、そういう事はもう少し後で考えさせてほしい。
詩織の方を見れば、「私も楽しみにしておくわ」なんて言っているので、また六年後くらいに頑張らないといけない事になるだろう。
この先の未来になにがあるかなんて誰にも分からない。でも、詩織が隣にいればきっと乗り越えていけるだろう。
高校生になってから大きく変えられてしまった人生だけど、これからは詩織の隣でずっと支え合って生きていこうと思う。
これにて、『一人暮らしをするために引っ越したら、お隣のお嬢様に目をつけられてしまった』の本編を完結とさせていただきます。
初めはこんなに長く書き続けられるとも思っていませんでした。
しかし書き続けられたのは、ここまで読んでくださった読者の皆様のお陰です。
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これ以上長々と書いてもあれなので、ここらで締めさせていただきたいと思います。
重ね重ねにはなりますが、読んでいただき本当にありがとうございました!!!
またどこかでお会いしましょう!




