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散歩



 両親が部屋を出て行った後に少し気まずい雰囲気になってしまった訳なのだが、今回は特に落ち着かない。

 家では二人共会話せずに過ごすことなんてよくあることだったのに、今の無言の空間は妙にそわそわとしてしまう。


「……あー、なんだ、せっかくこっちに来たんだし散歩でもしに行くか?」

「勝手に行っていいの?」

「母さん達ああなったら三十分はかかるし、書き置きでも残しとけば大丈夫だと思う」

「なら付いてく」


 ささっと、30分程度散歩をしてくるという文をメモしておいて外に出ると、日差しがかなり強かったので詩織は日傘を持って出たが、俺も何かしら対策をして出たらよかったかもしれないと思わせる程の暑さだった。

 散歩をしに行くといっても、三十分程度で家まで帰ってこれる範囲だとそこまで遠くには行けないので、近くの公園くらいまで行こうかと考えていると、ふと詩織がこちらに近づこうとしていることに気が付く。


「どうかしたか?」

「誠が暑そうだったから入れてあげようと思って」


 どうやら日傘に入れてくれようと、近づいていたようだ。


「嬉しいけど、そうすると詩織の肩が日傘から出ちゃうから、俺のことは別に気にしなくてもいいぞ?」

「大丈夫よ、この日傘は大きめだから」


 そう言いながら日傘を俺の頭の上にまで持ち上げて、肩ををこちらにピタッとくっつけてくる。


「それにくっつけば外には出ないわ」

「……暑くない?」

「日差しが当たるよりはいいでしょ?」

「まあ、それは……」


 恥ずかしいが、せっかくの好意を無碍にすることはできないので恥ずかしいのは諦めて、ひょいッと詩織の手から日傘を取る。


「あっ」

「このくらいは俺にやらせてくれ、腕伸ばすのしんどいだろ?」

「むぅ」


 なぜか頬を少し膨らませて不満そうにしているのかは分からないのだが、俺は何かまずいことをしただろうか……

 何がダメだったのか、うんうんと考えながら少し歩いていると、不意に服の袖を引っ張られる。


「あれ何?」


 詩織が指を指した先には、いわゆる屋台がいくつも置いてあった。


「ん? ……ああ、それは夏祭りの屋台の準備だな。確かここの夏祭りは明日からだったと思うけど……」

「今度陽彩達と行く花火大会とは違うの?」

「みんなで行くやつよりは規模は小さいけど、最後には花火も少しは打ち上がってたな」


 小さい頃は毎年親にせがんで連れて行ってもらっていた記憶がある。

 あの頃は、お祭りという雰囲気だけでも楽しめていた気がする。


「行ってみたいわ」

「いいけど結構人多いぞ。人ごみ苦手なんだろ?」

「じゃあ、誠が守って」

「守るって……、手でも繋いどくか?」


 混雑しそうなのは元々分かっているのではぐれないためにも手を繋げたらいいな、とは考えていたのでそれなら願ったり叶ったりなのだが。


「離さないでね?」

「……もとより離すつもりはないけどさ、……なんで今、それも日傘を持ってる手を握ろうとしてるんだよ」

「握りたくなったから?」

「疑問形で返されても俺が分かる訳ないからな?」


 というか詩織と俺だと少し身長差があるので、傍から見れば詩織が俺から日傘を取り返そうとしているように見える気がする。

 ご近所さんに見られてしまう前にも手を繋ごうとするのを諦めて欲しいところだが、詩織は諦めてくれそうにない。仕方が無いのでここは俺が折れて日傘を持つ手を反対に変えて詩織側の手を下げる。


「詩織って変なとこで頑固だよな」

「変じゃないわ」

「じゃあ普通に頑固か」

「……」

「いや、ごめんって」


 ちょっといじってみれば、詩織が無言でジト目をするので謝るしかない。


「っと、思ってたよりも進んできちゃったけどどうする? この先は公園があったと思うけどそこで休憩してから帰るか?」

「じゃあそうする」

「はいよ」


 少し歩くペースは落ちたが、その後ものんびりと会話をしながらその公園まで散歩を楽しんだ。

 その途中で知り合いのおばさんに見られて、「あらあら」と微笑ましい視線を向けられたが、気にしないことにしよう。気にしたらきっと負けだと思う。






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