お風呂?
向こうの部屋で晩御飯を食べ終えて、食器を洗った後、俺は自分の部屋に戻ってきていた。
一応義さんに言われていた業務内容は終わったので、掃除機をかけた後にお風呂に入ろうとスイッチを押そうとした時に、唐突にインターホンが鳴る。
誰だろうと思いつつ、こんな時間に俺の家のチャイムを押す人なんて一人しか思い浮かばないわけで、ドアを開けるとやはり詩織が立っていた。
「どうしたんだ? 晩御飯も終わったし俺の仕事は終わったはずだろ? まさか一緒に寝ろなんて言わないよな?」
「別にまだ寝ないけど誠は一緒に寝たかったの?」
「冗談だよ、別に一緒に寝たいわけじゃない。それで? いったいどうしたんだよ」
「お風呂に入りたいの」
「風呂なら帰る前にタイマーで今くらいに沸くように設定しただろ?」
「ええ、だから一緒にお風呂に入りたいなって」
いったいどういうことですか? 詩織さん
「は、はぁ?」
「だから、一緒にお風呂」
「い、いや別に聞こえなかったんじゃなくて、俺は男で、お前は女。OK?」
「NOよ」
「なにがだよ!」
訳が分からん。
「とにかく、男女でお風呂なんて入らないの」
「どうして?」
本当に訳が分からないというような顔で詩織が聞いてくる。
「どうしてって、そりゃ、あれだよ……間違いが起きちゃダメだろ?」
「小さい頃お父さんとも入ったわ」
「それはまだ小さい頃だし、お父さんとだろ? ていうかなんで一緒に入りたいんだよ」
「それは体と髪の毛を洗ってほしいからよ」
「……いつもはどうしたんだ?」
「お手伝いさんに洗ってもらっていたわ」
なるほど、今日からはそのお手伝いさんが俺というわけなんですね……
いや無理に決まってるじゃん。確かに詩織は美少女だし、スタイルもかなりいい。更にそのサラサラな銀髪をお手入れできるというのも魅力的だ。だが! だからこそ、一緒にお風呂というのは一般男子高校生にはハードルが高すぎる。
「いや、だとしてもな流石に男女が裸でっていうのは……」
「裸がダメなら水着でも着ればいいじゃない」
渋っている俺に、詩織がそんな提案をする。
確かに水着なら俺も学校用のものなら持っている。
「うーん、まあ水着を着るなら……いい、の、かな?」
「じゃあ交渉成立ね」
「ただし、水着の下は自分で洗えよ?」
「誠はやっぱりわがままね」
「わがままでも何でもいいからそうしてくれ」
じゃないと俺がもたない。
ここで断っておくのが正解だったのだろう。このせいで後々とてつもなく苦労することになってしまうのだから……
ていうか、うまいこと詩織に言いくるめられた気がしないでもないが、気のせいだろうか。
決まってしまったことはもうどうしようもないので、お風呂に入るために隣の部屋に水着とパジャマを持って行く。
「じゃあ、俺が先に入って自分の体を洗うから、それが終わったら入ってきてくれ」
「わかったわ」
「くれぐれも、水着を着て入るようにしろよ? 頼むからな?」
「何度も言われなくてもわかってるわ」
というわけで、脱衣所で服を脱いだ後水着を着る。
今から風呂に入るのに水着を着るというのはなかなかに変な感覚だが、仕方がない。
お嬢様が住んでいるだけあって、お風呂はかなり広く、浴槽も二人が入っても余裕があるくらいには大きい。
二人が入るとぎゅうぎゅうになる、なんてことがなくて助かった。
男がそんなに体を洗うことに気を使うこともないので、さっさと洗い終えて詩織を呼ぶことにする。
「はぁ、なんで風呂に入るだけなのに緊張しないといけないんだ……」
少しの間待っていると、ドアが軋む音がしたので、おそるおそるそちらの方向を向く。
そこには、白のビキニを着た詩織がいた。