俺は至って普通な高校生だ
「詩織、そろそろ起きないと林間学校に遅刻するぞ~」
林間学校当日、朝ご飯を作り終えた俺は、朝ご飯を作り終えるまで寝たいと言う詩織を起こしに来ていた。
いつもなら起こしてから朝ご飯を作るのだが、昨日寝るのが遅かったのか少し長めに寝ていた。
「やっぱり後二か月くらい……」
「夏休みまで寝るつもりかっ! 冗談はいいから早く起きないとマジで遅刻するぞ」
こんな会話を以前もしたような――前は冬眠だったか。
「……抱っこ」
「はあ?」
「だから、抱っこして連れてって」
「いや、さすがにそれは……」
「じゃあ寝る」
「はぁ、分かったよ抱っこすればすればいいんだろ、やってやるよ」
「ん」
そう言って布団の中から手が伸びてくる。
背中に自分の腕を回しつつ体をゆっくり持ち上げると、その手が俺の背中に回されてギュッとしがみつく。
胸のあたりに柔らかい感触がある気がするが、気のせいだ、気のせいったら気のせいなのだ……
「大きな赤ちゃんだな」
「じゃあ誠がパパ? あ、でも家事を全部してくれるからママ?」
「性別を変えないでくれよ……てかパパでもない」
ていうかその話絶対に義さんの前でするなよ? 視線だけでころされてしまう気がする……
「むぅ、でも誠がパパだったら、忙しくて一緒にいてくれなくなるからやっぱりパパじゃない方がいい」
「お金持ちの娘っていうのも大変なんだな」
「そうかも?」
「……ていうか雑談してる暇はないんだったわ、さっさと朝ご飯食べて出発するぞ」
「ん」
てなわけで急いで抱っこで詩織を連れていき、作っていたご飯を食べる。
二人ともが食べ終わると、そろそろ家を出ないといけない時間になっていたのだが、詩織がまだ着替えてすらいなかったので着替えさせつつその間に俺が、詩織についていた寝癖を直す。時間がなかったので致し方なかったんだ……と誰が見ている訳でもないが。
「お前何かの行事がある時は、遅れそうになるっていう決まりでもあるのか?」
「んなもんないけど」
「ならなんで入学式に引き続き、林間学校の出発前にもそんなに息切らして来てるんだよ」
「……ちょっと朝寝坊しただけだよ」
詩織が、という言葉が文頭に付くんだけれども
「ふーん? ならなんで一条さんも一緒に走ってきてるんだい?」
「……偶然詩織も寝坊してたんだよ」
「まあ言いたくないならいいけどさ、もうちょいましな噓をつけよ」
「噓じゃないって」
「はいはい」
いやほんと、詩織が寝坊してたのは噓ではないんだけどね。
実はお互いマンションの隣の部屋に住んでいて、毎日起こしに行って朝ご飯作ってます。なんて言えるわけがないんだよなあ……
それから数分もしないうちにバスが到着したので、点呼を取りそのままバスに乗り込むことになった。マジでギリギリだったようだ。
バスはクラス単位で計四台あるので俺達は三番目のバスに乗る。
チラッと運転手さんの顔を見ると、豊さんだった。一体何者なんだ、あの人は……
席は班ごとに座るのだが、俺らの席はかなり後ろ目で、前に優斗と柊さん後ろに俺と詩織、そして委員長の中野さんはバス酔いがひどいので前のほうの席に移動させてもらっている。
目的地までは二時間半くらいかかるので、酔い止めがあってもしんどいらしい、まあ時間は関係なくバスの後ろは結構揺れるので乗り物酔いする人には厳しいものがあるのだろう。
「怜さんがそんなに乗り物酔いがひどいなんて思ってなかったなあ」
「まあでも、ひどい人はマジでしんどいらしいしな、俺の親父もめっちゃしんどそうにしてるもん」
「確かに優斗のお父さんは乗り物全般無理だったもんね」
「そうそう、まあそれを遺伝で受け継がなくて本当に良かったよ、そういや誠達も大丈夫か?」
前の座席から顔をヒョイと振り向かせて優斗が聞いてくる。
「一応酔い止めの薬は飲んできてるから心配はないと思うぞ、詩織は元から大丈夫らしいし」
「ならよかった、せっかくまだまだ時間があるんだし、誠達も一緒になんか話そうぜ」
「いいけど、俺はそんなに話題ないぞ?」
「そうか? 俺にはネタの塊にしか見えないんだけど」
「どこがだよ……」
俺は至って普通の男子高校生だぞ? そりゃあ、今年の春にお隣さんにちょっと目をつけられて、何故か半同棲みたいなことはしているが、それ以外は何一つおかしなところはないどこにでもいる奴だ。




