大人気だな
その後も、学校での出来事などを少し話して、時間ももう遅くなってしまったということで、晩御飯をごちそうしてもらうことになった。
「本当にいいんですか?」
「美緒さんがまだ君と話せてないからね、このまま帰っちゃうと後が怖いんだよ......それにもう一人君に会いたいって言っている子もいるしね。まあ、いつも朝昼晩の三食作っているんだろう? なら今日の夜はやっとお休みをもらえたってことで食べて帰ってくれ」
「そこまで言うならありがたくいただきます」
俺に会いたい人がまだいるのか......ってことは詩織の兄妹とか姉妹とかだろうか、俺はこの家族から大人気だなハハハ......
元居た部屋から移動してダイニングに行くと、かなり大きいテーブルと、そして知らない人が待っていた。
「お、やっと来た! 詩織の愛しの誠君が来るっていうから早く来すぎて待ちくたびれちゃったよ」
「えーっと、こちらの方は?」
「そうだね、とりあえず自己紹介からだね、私は一条日向、しおりんのお姉ちゃんだよ! よろしくね、誠君」
おぉう、また癖が強めな人が来たな......
「えっと、上崎誠です、よろしくお願いします」
「そんな固くならないでよ、しおりんと同じようにタメ口で話してくれてもいいんだよ?」
「流石に年上の人には厳しいです......」
「そっか、まあいいや――あ、でも名前は日向かひーちゃんって呼んでね?」
「......では日向さんで」
ここは譲れない! というような感じの表情だったので、折れてさん付けで呼ぶことにする。......流石にひーちゃんなんて呼ぶ度胸はない。だから詩織もそんな怖い顔で俺を見るのはやめようね?
「ぶー、つれないなぁまあいっか、これから仲良くなればいいんだもんね」
「まあまあ、誠君も困ってるようだし一旦その辺にしておいて、とりあえずディナーを食べましょう?」
「仕方ないなぁ、じゃあ食べながらしおりんとの出会いとか詳しく教えてね?」
「確かに私も気になってたから、しっかり教えて頂戴ね」
「わかったわ、任せて」
詩織さん? そこでそんなやる気にならなくてもいいんですよ?
ほら、義さんも食べながら喋るのはマナーが悪いとか言ってくださいよ......
そう思ってこの会話に混ざっていない義さんの方に視線を飛ばすと、諦めたような顔をしていた。
それでも俺のためを思ってか、それとも可愛い娘と男が一緒にいるときの話を聞きたくなかったからか、注意をしようとする。
「ほ、ほら食事中に喋るのはマナーが――」
「あなたは黙ってて」
「ア、ハイ」
......
その後の食事中は、詩織が美緒さんと日向さんに俺との日常について聞いてはそれにキャーキャー言っていた。
俺はというと何も考えずただひたすらに高級なディナーを味わって食べていた。
うん、なかなかこんな凄い料理を食べることなんてできないからね、黒毛和牛のステーキとかめっちゃ美味かったもん。
「じゃあ、くれぐれも林間学校は気を付けて、そして楽しんでくるんだよ」
「はい、ありがとうございました」
「詩織も気を付けるんだよ?」
「うん」
「じゃあしおりんと誠君またねー! 今度は誠君からもお話聞かせてね、あ、それと私にもご飯作ってね!」
「き、機会があれば」
「んー、じゃあ今度しおりんの家に遊びに行くよ、その時にお願いね!」
「は、はい......」
きっと、詩織が毎日俺の作った料理を食べていることを話したから気になったのだろう。まったく、今日食べた料理に比べれば足元にも及ばないようなものなのに大丈夫だろうか......また練習とかもしとくか。
そうして、長い一日を終えて車で自分たちのマンションに送って行ってもらい、自分たちの部屋に戻る。
「疲れたな」
「そう? 私はそうでもないわ、そんなのじゃ明日からの林間学校が大変ね」
「まあある意味では大変なのは間違いじゃないな」
「でも、私は楽しみだわ、だって知らないところでお泊まりするなんてこと今までなかったんだもの」
「そうなのか? 小学校や中学校でも修学旅行とかもあるだろ?」
俺だって行った、まあ中学三年の時は完全にボッチだったのでそんなに楽しかった思い出とかはないのだが......
「修学旅行先のホテルは全部行ったことがある所だったから」
「あぁ、なるほどな」
きっと安全面も考慮して、財閥が経営でもしているところにされたのだろう。
「だから楽しみなの」
「今回の場所は知らないところだからってわけか」
「それもあるけど、誠と一緒に行けるから」
「......そっか」
「今までこんなに一緒にいてくれて楽しかった人なんていなかったから」
「そりゃありがたい限りですよお嬢様」
「お嬢様って呼ぶのは嫌」
「ごめんって、気を付けるよ」
茶化してしまったのはそんなことを真っ直ぐ言われて気恥ずかしかったからか、それとも......
まあ、明日からの林間学校で忙しいんだし、早くお風呂に入って寝ないとな。




