謎の美少女
「あなた、名前は?」
「えーっと、上崎誠といいます。今日から隣の部屋に住むことになったので、ご挨拶に参りました。つまらないものですがこちらをどうぞ」
俺はペコリと頭を下げつつ持っていたお菓子の入った袋を渡す。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「お隣さんってそんなによろしくするものなの?」
「え、いや、そういうわけではないんですが、隣に住むんですし、出かけるときとかに偶然顔を合わせるぐらいではないでしょうか」
「ふーん、そう」
何とも会話のテンポが嚙み合ってない気がするが、ガラの悪いような人ではなさそうなのでホッと息をなでおろす。
そして、さっき一番気になったことを聞いてみることにする。
「あの、さっき言っていたビビッとくるってどういうことなんでしょう?」
「そうよ忘れてたわ、私はあなたにビビッときたのよ!」
「は、はぁ……」
いったい何が何だかって感じなのだが、いったいこんな俺のどこにビビッと来る要素があったのだろうか?
「なぜ俺にビビッときたのか聞いてもいいですか?」
「なぜって、ビビッときたからビビッときたのよ」
なるほど訳が分からない。この子はいわゆる不思議ちゃん? っていうやつなのか?
「それで誠、あなたわたしの下で働かない?」
「え、お断りします」
「どうして?」
「どうしてって、だって学校とかありますし……」
見知らぬ美少女が名前で呼んでくるなんて状況が来るとは思っていなかったので、少しドキッとしたがそれとこれとは別で、今から高校生になるというときに、学校に行かずに働きだすだなんてことはあまりしたくない。
というかまだ働きたくないでござる。
「上崎様、失礼ですが諦めた方がよろしいかと」
「うわっ、だ、誰ですか」
急に俺の真横に執事のような人が立っていて、思わずびっくりしてしまう。
ほんと、この人どこから来たんだ?
「えっと、それで諦めた方がいいとはどういうことですか? 俺流石に中卒は嫌なんですけど......」
「それに関しては多分大丈夫かとは思いますが、お嬢様がああ言われておりますし、申し訳ありませんが、今から本邸まで来てもらいます。お嬢様もよろしいですか?」
「ええ、かまわないわ」
「では上崎様、こちらにどうぞ」
そして、俺はマンションを出て黒塗りの高級車に乗せられる。
何がどうなっているんだよ……
とんとん拍子で何もわからないまま俺は名前も知らない美少女に、どこかへ連れられてしまうのだった。