失言
「誠、一緒にご飯食べよ」
昨日は入学式だったので昼までしかなかったが、今日からは普通に授業があるのでお昼ご飯は学食にするか、弁当を持ってくるという二つの選択肢がある。
なので今日からは少し早起きをして、朝ご飯を作るついでに昨日のあまりものと追加で作ったお弁当を二人分用意していた。
明日からも毎日弁当を用意することになるだろう。
「ほれ、詩織の分のお弁当はこっちな」
「ありがとう。今日は何?」
「昨日のから揚げといろいろ」
それを聞くと詩織は机をくっつけてお弁当を広げ始めたので、俺も弁当を準備する。
昨日のから揚げは自分としてもいい出来だったと思うので、少し多めに作っておいて正解だった。
「美味しいわ」
「それは作った甲斐があったよ」
詩織は毎回作ったご飯を食べたときに美味しいと言ってくれるので、作った側としてもとても嬉しい。
あまり表情は変わらないのだが、少しだけ口角が上がっているので詩織も喜んでくれているようで何よりだ。
優斗はまたからかいに来るかと思っていたのだが、チラッと見てみるとほかに友達を作ってそいつらと食べているらしい。
流石のコミュ力である、俺にも少しくらい分けてほしい。
「……誠はさっきの人とご飯食べたいの?」
「え? いやそういうわけじゃないけどどうしてだ?」
「だって向こうをちょっと見てたじゃない、さっきも仲良さそうにしゃべってたから食べたいのかなって思ったの」
「なるほどな、でも優斗は他に友達がいるみたいだし、それに一緒に食べたかったんじゃなくてさっきからからかってきてばっかりだったからまた来るんじゃないかって思ってただけだよ」
「そう」
午後からはお昼ご飯を食べたのもあって少し眠かったのだが、授業に遅れるわけにもいかないので眠気に耐えつつ授業を終えた。
「今からクラスのみんなで顔合わせもかねてカラオケに行くんだけど、一条さんも来ない?」
放課後になって俺と詩織が帰る支度をしていると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。
「それは絶対に行かなければいけないの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど、みんな仲良くなりたいからどうかなってことなんだけど……」
「なら別に私はいいわ」
「……上崎君も連れてきていいからさ、どう?」
この人も、詩織に来てほしくて必死だったのだろう。それに加えて、周りからの圧のようなものもあって、詩織が断りそうになって焦った結果、彼女は失言をしてしまった。
「誠も?」
「う、うんそうだよ!」
「どうしてクラスのみんなでって言ったのに、元は誠を誘おうとしていないような事を言ったの?」
「え、いやそういうわけじゃ……」
「誠、行こ」
この人が弁明する前に詩織は席を立って早足で教室を出てしまった。
俺もこの空気の中ここにいるのもしんどいのですぐに後を追いかける。
後ろから睨まれたような気もするが、これに関しては完全にそちら側の自爆なので、俺に怒りをぶつけるのはお門違いである。
「詩織怒ってる?」
「怒ってないわ」
「怒ってるよな、ちょっと声強めだし顔もいつになく無表情だし……別に俺は誘われようが誘われまいが行く気なかったし、別に気にしてないぞ? 確かに俺で詩織を釣ろうとしたのはどうかと思ったけど」
「……そうじゃない」
「どういうことだよ」
「誠を仲間外れにしようとしたのが許せなかったの。たとえ誠が許してても、なんかモヤモヤしちゃって」
詩織がこんなにも俺のことを考えてくれていたことを知って、胸の奥がジーンと暖かくなる。
「まあいいじゃん、俺も元から行く気がなかったし、詩織も行く気がなかったんだから結果は変わらないんだしさ」
「そうじゃないって言ってる」
「まあまあ、俺もなんとも思ってないんだし俺の顔に免じて、な?」
「……そこまで誠が言うなら」
この話題ばかり話していても、良いことにはならなさそうなのでさっさと話題を変えることにする。
「そんなことより今日の晩御飯はなにがいい?」
「む、それは迷いどころね――今日は誠が食べたいものがいいわ」
「そうか? うーんじゃあそうだなあ、炊き込みご飯にでもするか」
「タケノコ入れる?」
「お、確かに旬だしいいな。じゃあこのままスーパーに行くか」
「うん」
俺が話題を変えたいのが分かってくれたのか、この話に乗ってくれたので怒りを収めてくれたことにホッとしつつ、詩織は怒ると怖いということが分かったので、そういうことはしないようにしようと心に誓った。




