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入学式 後編



 名前を呼ばれた詩織は、そのままステージの上まで行きマイクを持つ。


「新入生代表の一条詩織です――」


 そう言って話し出したのは、いつものようなのんびりとした声ではなく、凛として透き通るような声だった。


「――以上で新入生代表代表挨拶を終わります」


 詩織が挨拶を終えてステージから降りて戻っていくのだが、俺は驚いたままだった。


 なにしろ、勉強がとてもできるというのはお嬢様だったしまあ分からないでもないのだが、あのぐーたらな詩織が普通に、いや普通以上にしっかりと人前で話している事が驚きだったのである。


 いつも俺や家族の前ではあんな感じだったので、人前では『きちんとしたお嬢様』を演じていたのだろうか。家に帰ったら後で詩織に聞いてみるとしよう。 

 あの感じだと、教室では話しかけられないかもしれないからな。


 そう言って辺りを見ると、「あの子可愛かったな」だとか「あんな子が自分と同じ学年でラッキー」だとか「後で連絡先を教えてもらおうかな」だとか聞こえてくるので教室ではそういう人たちに囲まれているだろうな。


 少し気持ちがモヤモヤするが、別に俺は詩織の彼氏というわけではないので口を出すのはお門違いというやつだろう。



「あの代表の子、誠と一緒に来た奴じゃなかったか?」


 と横からの声で思考が戻ってくる。


「へ?」

「あれ、違ったか? あんな感じの子と一緒に来てただろ? 名前も呼んでたし」

「……まあそうだけど、お前も詩織が気になるのか?」

「お、嫉妬か? まあ気になるのはそうだが、別に取ろうとは思わねーよ。俺には別に好きなやつがいるんでな」

「嫉妬じゃないっての、別に付き合ってるわけでもあるまいし。ていうか優斗は好きなやつがいるんだな、イケメンだしてっきりもう誰かと付き合ってるのかと思ってたのに」

「まあ、な。幼馴染のやつなんだが昔から一緒にいるがゆえにこの関係が壊れるのが怖くて言い出せないんだよ」

「の割には何でもないかのような顔してるんだな」

「それは誠が分かりやすいだけだけどな」


 俺ってそんなに顔に出るのだろうか……確かにこの前もポーカーフェイスをしたつもりが詩織にばれてたし。



 そんなひと悶着もあったのだが、その後は無事に入学式の項目が終わり、一度自分の教室に行くことになった。

 体育館の入り口に自分のクラスが張り出されているのだが、少し驚いたのは詩織と優斗と同じ一年三組だったことだ。


 

 優斗と実のない話をしているうちに自分達の教室に着いたので、黒板を見ると自分の座る席が書かれていた。

 どうやら入り口の前から順番に出席番号順に並んで座るようで、自分の番号は十番だったので二列目の前から三番目というなんともいえないような場所だった。


「お、俺は一番後ろの席だからラッキーだな」

「俺は前から三番目だから何とも言えないな」

「そんなこと言うなよ、みんなからしたら一番羨ましい席だと思うけどな」

「は? どうしてこんなビミョーな席がいいんだよ」

「はぁ。まあいいや、とりあえず俺は自分の席に行くからお前もさっさと行けよ」

「分かったよまた後でな」

「おう」


 いったいなんでこの席が羨ましいのだろうかと考えながら席に向かう。

 

「誠、遅いわ」

「ああ、悪い悪いつい優斗と話して、て……ってなんで詩織が横にいるんだよ」

「私の苗字は一条で誠は上崎でしょ? 別におかしくはない」


 言われてみれば確かにそうである。なるほど、だからこの席がみんな羨ましいと言っていたのか。

 俺的には家にいるのとあまり変わらないので、そうでもないように思えるのだが……


「誠、聞いてるの?」

「ん? ああ聞いてるよ」

「ほんと?」

「ほんとだよ、別に俺たちの席が隣でもおかしくないって話だろ?」

「やっぱり聞いてない。その後の話は?」 


 その後も話してたのか、つい考えていて気付かなかった。


「すまん、ちょっと考えてて聞いてなかった。もう一度言ってくれるか?」

「今日の夜ご飯はカレーが食べたいの」

「分かったよ……あ、でも確かお肉とかないし帰りに買って帰らないとな。それくらいは付き合ってくれよ?」

「ん、分かった」



 と晩御飯のメニューの話をしていると、ドアがガラッと開いたので視線を飛ばすと、先生が入ってきたので会話を止める。



 先生は、これからの大まかな流れを説明してくれた後、プリントや書類などを配ってくれた。


「じゃあ、最後にここでクラス委員長と副委員長を決めたいと思います。立候補か推薦はありますか?」

「はい、一条さんはどうでしょうか? 代表挨拶でもしっかりしていたので、いいと思います」

 

 と、クラスメイトの誰かが言う。


「他にありませんか?――では一条さんはどうですか?」


 先生がそう言ったのでクラス全員の視線が詩織に集まる。そして詩織の視線は俺に向いている。


 あ、嫌な予感がする。


「上崎君が副委員長をするのであれば考えます」

「では、その上崎君はどうですか?」


 クラスがざわざわしたのだが先生が俺の方を向いて聞くので、今度は俺のほうに視線が向く。

 はぁ、胃がキリキリして来た。あと優斗、お前はニヤニヤしながらこっちを見るな。


 とりあえず俺は元凶である詩織に小声で聞くことにする。


「それで、本当はどうなんだ?」

「正直めんどいからやりたくない」

「だと思ったよ……はぁだからって俺を巻き込まないでくれよ」


 小声で話すのはこの辺にしておいて、俺はクラス全員に聞こえる声で言う


「俺はクラス委員なんて柄じゃないし、まとめることなんてできないと思うので辞退させて頂きます」


 またクラスがざわざわするのだが、そこに追い打ちをかけるかのように


「なら私も辞退します」


 と横から声が聞こえた。


 

 




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