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追憶の列車  作者: いまの
8/11

理想の先で

弱い風と小雨の中、一本道の線路の上に降りる。

三日月が僕らを照らして、真愛さんの後を追うように歩く。

視界にはだんだんと扉が近づいて、何も思い出したくない気持ちが僕の足を止める。

後ろを振り返ると、さっきまで歩いてたレールと地面が消えて崖ができていて、さっきまで僕がいた駅のホームは霧に覆われて微かにしか見えない。

この崖から飛び降りて死んでみるしか、扉を開く事から逃げる道はないだろう。

崖の下を覗くと、終わりの見えない深い闇に恐怖を感じた。

胸の内から広がるゾワっとした確かな死の感覚が僕の体を震えさせる。

死ねない。

別に生きていたくないのに死ねない。

死ぬのが怖い。

ここで止まる事もできるけど僕は前へ進んだ。

僕の中で前へ進めと、何かが駆り立てるから。

扉の前で真愛さんが微笑んで僕を待ってくれていた。


「よく逃げなかったね。この扉は君の記憶を全部戻す扉。

あの過去を経て、君が何をしたかを見る扉。いってらっしゃい。」

「・・・・・・」


僕はずっと下を向いたまま扉に触れた。

扉の中には真っ白な世界が広がっていて、その中心に僕はいる。

欠落した記憶が空をスクリーンとして映し出される。

これは誰かを殴ってしまった時。

これは誰かに酷い言葉を浴びせてしまった時。

自分は両親と変わらない人間ではないかと落胆する。

スクリーンに流れる僕は幼い時から誰かの役に立ちたい、優しい人間になりたい理想を抱いて焦燥感に追われている。

そうしないと自分の存在している意義や意味、自分に価値を見出したかったから。

自分の事よりも誰かがそれで助かるならそれでいい。

でも、底が無い壺のようにずっと僕の心が満たされる事はなかった。

中学生の時に僕と似た様な同級生がいた。

僕と同じ様な境遇の子で、痛みがわかるから力になりたい、ほっとけないって思った。

その子にかけた優しい言葉や綺麗事の裏は自分だって出来てないことばかりで、言葉を投げかけている自分に酔いしれていただけだった。

それに気づいた時、自分が嫌になった。

罪悪感が離れなくて僕はその子との関係を切って逃げた。

最低な選択をした。

その時の僕は身軽になったつもりだけどちゃんと背負っていくべきだったはずだった。

元から僕に関わる権利なんてない。

理想の先で僕は最低な偽善者になっていったんだ。

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