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追憶の列車  作者: いまの
4/11

わからない

「ささっと寝ろ!この鈍間!!」


幼いころから毎日、両親は大声と怒りの表情で僕を叱ってきた。

あまりにも昔で、どうしても記憶の映像が流れてこない。

頭に流れてくるのは、両親にこう言われた、こうされたって事実だけ。

すごく傷ついたことは確かなんだ。

毎日のように浴びせられる罵声と暴力が悲しくて怖くて痛くて辛かった。

それでも学校に行くのはとても楽しかったし、体罰の事を先生に言う事なんて思うことはなかった。

もし先生に言ったとして、その場で保護してくれる訳でもない。

親に言ったことがバレたらさらに体罰を受けるんだ。

まだ幼い子供に、親を切り捨てるという選択肢は難しい。

他の家の子はこんなことされてないのに、どうして僕だけがこんな辛い思いをしないといけないんだ。

みんな楽しそうな顔してる中で僕だけは心の底が埋まっていかない。


「あんたみたいな馬鹿が一番嫌い!二度と帰ってくるな!!」


寒い夜、家の外に締め出された。

僕は夜の道の端っこで泣きじゃくるだけだった。

たまたま道を通りかかった、40代くらいの男の人が僕に話しかけてきた。


「こんなところで何してるの?家はどこ?」


僕はただ無言で泣く。

少ししてから、僕は家の方を指さした。

男の人は僕の手を握って家まで送ってくれた。

家に着いて、母親と男の人が話している。

母親は外向きの顔でへこへことしているだけ。

僕が外にいる理由も、自分が外に出したと言わず、僕が勝手に出て行ったと嘘をついてその場を収めた。

そしてまた叱られた。


「私のこと困らせて楽しい???」


そんなつもりある訳がないだろ。

そっちが家から閉め出しといて、それを聞く訳がわからない。

僕は本当に親がわからない。

どうして勉強ができないからって怒るのか。

どうして出来ないからって怒るのか。

どうして頑張った事に対して、こんなの出来て当然って言うのか。

どうして頑張ったのに認めてくれないのか。

どうして僕を叩くのか。

どうして傷付くことを言うのか。

ずっと疑問がぐるぐるしていた。

あいつらは人の心を解るつもりがないのだろう。

だから、大声で投げかけられた言葉が心を砕くのは難しくないことすら解らないんだ。


「さっさとやれ!このバカ!!なんでこんなのもわからないの!!」


たしか夏休みの宿題をやっていたんだっけ。

叱責と同時に棒で頭をおもいっきり叩かれた。

それから母親は気に食わない事があると、その棒を使って殴ってくるようになって棒の先端は徐々に凹んでいった。

中学に入る頃に、体罰は消えていったが言葉の暴力は続いていった。

母親と話をしている最中、体罰についてのニュースが流れた。

殴ったり、暴言を吐いたこと、ましては棒で殴った事を忘れてないと僕は伝えた。

帰って来た返答は「しょうがないじゃん。」の一言で、言葉を失ったのと同時に心の底から

生まれて初めて本当の殺意が芽生えた感覚がする。

急に心拍数は上がり、ふつふつと煮えたぎるような衝動が体から溢れてきて仕方がなかった。

今すぐにでも同じように殴りつけて「しょうがない。」で片付けてやるべきか。

殴っても親と変わりがないから、殴ることはなかった。

何よりも気にかかるのは、自分の非を認めずにそれを肯定するかの様な態度。

僕はそれでずっと傷付いて苦しんできたのに。

そのせいで自己肯定をすることもできず、何もない人間になってしまったのに。

大人のくせに自分の非を認めて謝れない事、子供の僕の方が謝ることができる事が恥ずかしくなのだろうか。

絶対に許せない。

その日を境に、ずっと思ってきた両親のような人間に絶対にならないとさらに強く決意した。

事実を思い出してる間、体にはその時与えられた痛みが襲ってきた。

悶えながら、あまりの容赦なく振るわれた体罰の痛みに涙が出てくる。

そして心の中で反骨精神が芽生えてきていた。

暗闇だけの世界が光を放った。

目を開くと、高校三年生の僕は映画館の前に立っていた。

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