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18 伯爵との再会

 護衛役のパオロから早馬で手紙が到着した。家令から渡されたその手紙を読み、伯爵はその内容になんとも言えない不思議と運命を感じる。


「なんとまあ。王妃様直々にお声がけされてモニカを呼び戻そうと手紙を出せば、既にあの子はクリスティーナ王女様に呼ばれて王宮に向かっているらしい」

「その上ジルベルト殿下も驚くほどの御執心です。これはもう、運命じゃないかしら」

「そうだといいのだがなぁ。コルシーニ領を出た日から計算すれば、三日後には王都に入るだろう。ダフネ、王宮に入る前に一度モニカと話をした方がいいだろうな?」

「でも今回はコルシーニ子爵の絡んだお話なのでしょう?」

「なに、構わんさ。あちらの領地には毎年遊びに出かけているし、子爵とも何度か話をしたことがあるんだ」


 ベルトーナ伯爵家の者が王都の門の近くでモニカ達を待ち受けることになった。


♦︎


 王都に到着してすぐ。モニカは伯爵家にいる。


「伯爵様!お久しぶりでございます。色々とお手数をおかけしました」

「モニカ。元気そうだ。海辺の暮らしが合っていたようだね」

「はい!クララちゃんにもパオロさんにも波止場亭のご夫婦にもとても良くしてもらいました。戻る時にはなにか王都でお土産を買って帰ろうかと思っているんです」


 モニカはコルシーニ領にまた戻るつもりでいるが、それを聞いた伯爵夫妻は少々気まずそうな顔になった。


「まずはゆっくりお茶でも飲もうじゃないか。王女様との面会は明日に決まったのだろう?子爵には今夜はうちに泊まると言っておいた」

「ありがとうございます。なんだか懐かしくて」

「積もる話はたくさんあるのだが、まずは王妃様のことで話があるんだ」


 思いがけない名前にモニカの顔が怪訝そうになる。


「王妃様?」


 伯爵は順を追ってモニカに話をした。ジルベルト王子が何度もモニカの行方を知りたいと訪ねて来たこと。自分が悪かったとおっしゃっていること。


 それでもモニカの行き先を教えないでいたら王妃様に呼び出されてモニカを早く呼び戻すよう暗に催促されたこと。


「そんな……。私のことでそこまでご迷惑をおかけしていたなんて。申し訳ございませんでした。それにしても、なぜ殿下はそんなに私に用事があるのでしょう。私の方はもう二度と殿下のお目には触れない覚悟ですのに。それに王妃様までとは。私、何かとんでもない失礼をしていたのでしょうか。まさか投獄されたりしませんよね?」

「モニカ……」

「モニカ様……」

「……」


 伯爵もクララも無言の家令も「お前は何を言ってるんだ」という目つきでモニカを見ていた。


「まさか私のことを気に入ったなんてことはあるわけないですもんね。え?ええ?そうなんですか?だって私、特別美人てわけじゃないし、山奥の資産もない男爵の娘ですし。そもそも殿下にそんな甘いお言葉をいただいたこともありませんし!」


「モニカ、殿下は口が上手い方ではないのだよ。だが、誠実なお人柄なのだと、今回のことで私は僭越ながら見直したんだ」


(ジルベルト殿下が私を?どの辺が気に入ったわけ?いくらでも綺麗で家柄のいい御令嬢がいるでしょうよ。そもそもモニカちゃんは王子様とお付き合いできるような教育をされてないし、無理じゃない?第一に王子は十七才なんだけど!)


 黙って考え込んでいるモニカを見てダフネ夫人が口を開く。


「モニカは殿下のことをどう思っているの?」

「どう、と言われましても。綺麗な顔だなぁとか、背が高いなぁとか、口下手だなぁとか」


 答えが不足らしく質問が重ねられる。


「あとは?」

「うーん。食べ方が綺麗、くらいでしょうか」


 部屋の中になんとも気まずい空気が漂う。


「あの。もし、もしですよ?殿下が私を気に入ったとしてですよ?山奥の質素な男爵の娘が王子様とどうこうなることって、ありえますか?それに他の貴族の方々も黙っていないのではありませんか?」

「ああ、それは心配いらないよ。モニカさえ良ければ私たちの養女になるという手もある。それでも何か言う貴族がいれば、我が家の寄親の侯爵家に頼むこともできる」

「そうですか。私は、私は……一生気楽に一人で暮らすのがいいかなぁと思っているのです。そのためなら縫い物でも化粧水作りでもなんでもやる覚悟でした。だから……困ります」

「困りますって……モニカ」


 伯爵の方が困った顔になった。


「とにかくだ。まずは王妃様とジルベルト殿下にモニカが戻って来たこと、明日は王宮でクリスティーナ様に面会の約束があることをお伝えしなくては」


♦︎


「誰かジルベルトを!ああ、違うわね。クリスティーナ!」

「なんです?お母様」


 椅子に座って本を読んでいたクリスティーナが何事かと顔を上げた。


「あなた、モニカ・タウストと会う約束をしていたのですか?」


 クリスティーナ王女はモニカのことは名前を知らずに呼び寄せたので、何のことだと首を傾けた。


「それは誰のことですか?」

「モニカは、あぁ……ジルベルトと親しい令嬢です」

「お兄様の?そんな方とは約束してませんよ。私はジュリアを作った者と会うのです」


 王妃がパン!と扇を手に打ち付ける。


「ああ、ああ、そうでした。ややこしいわ。クリスティーナ、それがモニカなのです。モニカと会うのは私の後になさい」

「ええー。嫌です。私が呼び寄せた人なのに」

「クリスティーナ!後にしなさい!いいわね?」

「はぁい、お母様」


 常日頃、王宮の真の最高権力者は自分の母ではないかと思っているクリスティーナは、一応おとなしく引き下がった。


(このお人形を作った人がお兄様の親しい令嬢。たしかこの前の美味しいお菓子を作ってくれた人もお兄様の好きな人。ということは、モニカ・タウストが人形を作った人でお菓子も作れる人ってこと?)


(これはなんとしてもお兄様ともっと仲良くなってもらわなければならないわね。お人形も作ってもらえるしお菓子も作ってもらえるし、お人形の家やベッドやテーブルも作ってもらえるじゃない!すごいわ)


 クリスティーナ王女の中でモニカ・タウストという会ったことのない令嬢の評価が急上昇する。


「お母様のお話が終わったら私の順番だから、あとからゆっくりお茶をしながらお話をすればいいわ。私にも人形の家も作ってくれるよう、頼んでみなくちゃ」

「きっと大丈夫でございますよ」


 ヨランダが何か良い話らしいと勘を働かせて相槌を打つ。

 王女は膝にジュリアと名付けた人形を乗せて、モニカと会うのをワクワクしながら待つことにした。

 一方、クラウディア王妃はジルベルトを探している。本日王家の私的エリアを守っている者に王子の行き先を尋ねると、冬の祭事のことで神殿に向かったという。


「また間の悪い子ね。神殿なら途中で呼び戻すわけにもいかないじゃないの。仕方ないわ。私が会って話をして、それでも戻らなかったらクリスティーナに面会、ということにするわ。場所は二階のサロンで。ジルベルトが帰るまではモニカ・タウストは引き止めるように。必ずよ?」

「かしこまりました」


 王妃付きの侍女エルダが了解の意味で上品に腰を屈める。


「あ、それと、やはり神殿に遣いをやって。用事が終わり次第、他には寄らずに真っ直ぐこちらに戻るようにジルベルトに伝えて」

「かしこまりました」


 エルダは素早く、しかし上品さを失わない程度に王妃の部屋を出る。王妃の様子から、おそらくその令嬢は重要人物に違いない、と胸に刻む。


 ドアの前に立っている騎士の一人に神殿にいる近衛騎士への伝言を伝える。足早に立ち去る騎士と入れ替わりに通路の端にいた騎士がドアの前に立った。王妃の安全はいついかなる時でも複数の騎士が守ることになっている。


(さて。王妃様と御令嬢のお茶と菓子はどれにしようか。菓子担当の責任者と相談しなきゃ)


 エルダはクラウディア王妃が嫁ぐときに実家から連れてきた侍女で、クラウディア様のことなら陛下より詳しいと自負している。


(クラウディア様があんなに落ち着きをなくすなんて珍しい。きっとジルベルト様の想い人なのね。うまくいきますように)


 今まで全く女っけが無かったジルベルト殿下に春が来たのであろうことがエルダには嬉しかった。



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