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死にたい僕と死ねない彼女  作者: 鈴本貴宏
3/3

03 覚えていますか?

 窓から入る春風が髪を揺らし、ポカポカと暖かい日差しが布団の中の僕の身体を温める。

 外からは始業式を終えたばかりの小学生が、帰路に着く賑やかな話し声が聞こえる。

 眠たい僕には喧しいだけのその音は、過ぎ去っては、また別の音源を携えてやって来る。


「これじゃあ、眠れない……」


 怠くなった上身体を起こし、ギブスがようやく取れた左腕を伸ばし窓を閉める。

 パソコンを開き、動画サイトで「風の音」と検索。

 出てきた一番上の動画をクリックして、また布団に潜り込む。


 退院して約二ヶ月。

 僕は寝るだけの生活を過ごしている。


 あの日に覚悟を決めた証として、十五年掛けて集めたゲームを全て捨てた。

 そして全ての貯金と毎月のお小遣いも、返済に充てられる事となった。


 今は残ったパソコンとスマホを眺めるだけ日々。

 

 仕方ない。

 自分がやってしまった事だ。

 

 そう思い、今日もまた布団をかぶる。


 ………。 

 ……………。

 …………………。




 ピンポーン! 

 ピンポーン、ピンポーーン!

 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーーーン‼︎


 何度も際限なく鳴るチャイムの音は、本格的な三度寝に成功していた僕を叩き起こした。


「ん、母さん! 母さーんーーー⁉︎」


 返事がない。


「そうだった。カルチャースクールに行くって言ってたな」


 少し待ってもチャイムは鳴り止まない。

 いつしか連打されるようになり、ピ、ピ、ピ、ピ、ピンポーン、とリズムを奏でるようにまでなって行く。


「はいはい。いくらやっても出ませんよぉ」



———真紘さーーん! 



 誰か呼んでいるのか?



———岡田真紘さーーーーん‼︎



 やはり僕の名前を叫んでる。

 早く辞めさせないとヤバい!


 布団から飛び起きて、寝巻きのまま玄関に駆け足で向かう。


 近所では人畜無害の好青年ニートとして通っているのに、変に目立つ訳にはいかない。

 ご近所付き合いは毎日の積み重ねが大切なんだぞ。


———ガチャ!


「どちら様ですか⁉︎」

「遅いです! 叫ぶのも疲れるんですよ!」


 息を切らし玄関の扉を開けると、目の前にはあの女の子が立っていた。

 

「はぁ……。それで何の用件ですか?」


 少し高圧的な態度を取った。

 何故なら示談は成立しているのだ。

 彼女にはもう必要以上にへりくだる必要はもう無いんだ。


「あの! 約束、覚えていませんか?」

「約束? はて、何のこと?」


 本当は覚えている。

 覚えているが、僕のモットーは《触れず関わらず》なのだ。

 面倒なことには最初から立ち入らないのが鉄則。


「忘れたんですか⁉︎ 冷たい人ですね」

「はい! そうです。心も体もカチコチなので、もう一寝入りしてきます! それではさようなら」


 バイバイと手を振り扉を閉めようとすると、彼女は白いスニーカーを力強く扉に挟み、僕の動きを止めた。


「あのーーぉ。離して頂けませんか?」

「とりあえずついて来て下さい。さも無いと警察呼びますよ!」

「え、待って。おかしい。警察呼ぶのは僕の方じゃ無いの?」

「チッチッチッ‼︎ 『お巡りさん! 家に無理やり連れ込まれそうなんですぅ!』とか言えば、私の勝ちですよ」


 彼女はまるで性犯罪寸前の被害者のような迫真の演技をして見せた。

 そうなったら僕は確実に刑務所行きだろう。

 この女、意外と侮れない。


「わかったよ。着替えて来るから少し待ってて」

「はい‼︎ よろしくです!」


 部屋に戻り、クローゼットから約三ヶ月振りに外行きの服を出した。

 怪我で筋肉が落ちたせいか、少し緩くなったズボンをベルトでキツく縛り上げる。

 Tシャツは面倒なのでそのままで、上着のパーカーだけ羽織る。


「お待たせしました。じゃあ……」


 靴を履きながらそう言うと、彼女は不満げな表情を見せた。


「服、地味ですね」

「はぁ、まぁね。君は派手だ」


 彼女の服装は黒の革ジャンとギターがプリントされたTシャツに所々がほつれた青いジーパン。

 そして前と同じくアクセサリーが耳と首と指にジャラジャラと。

 病室で会った時より、だいぶ派手になっている。


「君じゃありません。恋歌です!」

「そうですか。僕は真紘です」

「知っていますよ。何度も呼びましたから」

「そうでしたね」


 軽く聞き流しながら玄関の鍵を閉める。


 さぁ行くか……。

 僕が終わろうとした、あの場所へ。

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