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20話 旅立ち

 翌日。


 昨日の雨が嘘のような晴天だった。


 メモしたリストに従いながら俺は外へ、エイハは廃宿で出発の支度をし始める。


 俺はアイハとの戦いで折れた軍刀の代わりを探しに、あの詰所へ向かっていた。

 詰所にたどり着くまで、ほとんど延死者に出会うことはなかった。アイハによってほとんどが殲滅されたようだ。


 所内に落ちている軍刀を拾い集める。

 それを机の上に並べて比べてみる。その中でマシな剣を二本選び、鞘に収めた。

 ちなみに前回使用していたマスケット銃はエイハに持たせてある。リスク的にその方が良いという判断だった。


 ――とはいえ、前回はエイハに助けられたのだが。


 エイハ曰く、「一度起こした奇跡は特殊なものでなければすぐに行使できる」とのことらしいので、延死者に対して特攻を持っているのはエイハの方だ。


 まあ自分に関してはいくらでも逃げようがあるため、それほど間違った判断ではないだろう。

 剣を机に置いたまま物色。前回は武器ばかりに目が行っていたが、考えてみればこの場所にはほかにも使えるものがあるはずだ。


 無造作に置かれた引き出しを開ける。

 入っている書類は、俺には読めないものばかり。それでも何か情報がないか探す。


 しばらく探していると鍵の付いた引き出しから、赤い判子が押された書類が出てきた。どうやって鍵付きの引き出しを開けたかはお巡りさんに怒られそうなので黙っておく。

 機密書類か何かだろうが、もちろん自分には理解できない。これは後でエイハに読んでもらおう。

 その後、出てきた書類の一部は使えそうだと考え、紙を折りたたみ、バックに入れる。


 ひとつは、地図だ。正確にどこの地図かまではわからなかったが、地図の中心に壁で囲われた街があることからオーサネア中心の地図だと予想できる。


 もう一つは、延死者の絵が描かれた書類だ。特徴や弱点が書き込まれていたらこちらとしてはうれしいが、これも例に漏れず、エイハに見せて翻訳してもらう必要があるだろう。


 他にも数日の移動に不可欠なものや使えそうなものがないか探す。


「こんなもんか」


 バックにみっちり詰められたそれらを眺めて呟く。


 本当はもっと少なく済ませるつもりだったのだが、あれも必要だろうか、これも必要だろうかと考えているうちにどんどん増えていった。


 ――さすがにこれだけの重さの物を数日持っていくのは無理があるか?


 まあこの辺はエイハと相談しながら決めればいいか。

 そう考えながら俺は廃宿へと向かう。


 向かったのだが――。


「なんですかこの量」


 呆れられた。

 エイハはバックの中から色々取り出し、整然と並べる。

 彼女はその中から一つを手に取る。


「咲さん。これは何ですか?」


「……サングラスだな」


「ではこれは?」


「……針金だな」


「どれも必要ありませんね」


 どんどん除外される。


「いやなにかに使えるかもしれないだろう?」


「使えるかもしれないと言ってしまえばすべての物は必要になってしまいます。今は確実に必要になるものか、高確率で必要なものです。咲さんはお片付けが苦手な人間とお見受けしました」


 ――うぐっ。


 図星を突かれる。確かに俺の部屋はあまりきれいではなかった。埃とかゴミが転がっているという意味ではない。ゲーム機や機械のパッケージ、小さなころ使っていた粘土とかクレヨン等、後々使えるのではないかと思い取っておくのだ。最近はちゃんと捨てるようになり、ようやくマシになってきたと思っていた悪癖である。気のせいだったようだが。


「……エイハが選んでくれ」


「そう致します」


 エイハは手際よく判断をしていく。

 俺が持ってきた物資の半分は要らないとされてしまった。

 ふとエイハの手が止まる。彼女が手に持っているのはあの三枚の書類だ。

 彼女は三枚を食い入るように眺め、読み進める。


「なにかわかったのか?」


「……いえ。特に目新しい情報はありませんでした。一枚は暗号化されている様で私にも読めませんでした」


 彼女はあの赤い判子が押された書類を指した。


「他のはどうだった?」


「はい。一枚はオーサネア周辺の地図、もう一つは延死者の情報について記載された書類でした。とはいえ一般論の裏付けとなる情報ばかりのようです」


「持ってき損だったかな」


 彼女は頭を横に振る。


「そうでもありません。情報が確定するというのはそれだけ相手の行動を予想しやすくなります」


「……まあ、確かにそうだな」


 そうはいっても、かなり重要なことがわかりそうだった分、肩透かしを食らったような感覚だ。だが何の成果も得られなかったわけではないというのが慰めにはなる。


 必要なものの判断が終わったエイハは合格した物品をバックへと戻す。

 ちなみにエイハは廃宿で食料と寝るための道具を探してもらっていた。エイハはまだ『泥棒』には慣れないと言っていたが。


「準備はいいか」


 バックを持った彼女は俺を見据えて言う。


「はい。いつでも出られます」


「……行こう」


 俺たちはオーサネアへの旅路を歩き始めた。




◇-----------------------------◇


 報告書



 所属 オーサネア 特務隊第七部隊

    隊長 ユウ・ソラリアル



 本書は、連絡の途絶えた聖域の一つ、孤島・コルタランドの調査、及び現在の世界の情勢・状況の調査した物を纏め、報告するものである。

 


 オーサネアが造られる以前より、聖域の在り方や協力体制、運営の仕方について、協議や法整備をしてきたコルタランドが一か月前より連絡が付かなくなった。

 遠征隊第七部隊の調査の結果、コルタランドの住民のほとんどは約三週間前に溺死によって全滅していたことが明らかになった。

 コルタランドから逃げ延びた島民の話を聞くと、一体の延死者の存在が浮上した。

 我々はその存在を「スキュラ」と名付け、調査を行った。恐らく聚呪者の類だと考えられるが正体は不明である。

 また絶海の孤島であるコルタランドにどのように侵入したかも不明であり、生還者からの情報もそう言ったものはない。



 このことを受け、各地観測所や連絡所への情報共有の結果、現在の世界の人口は約七千万人と推測されることがわかった。

 これにより三年前、十一億人いたことを考えればおよそ93%の人類が死亡、及び転化したことになる。現在も月に15%もの減少が確認され、この減少の速さはさらに早くなると予想されている。

 このままいけば後一年で文明を維持できなくなり、さらに一年後には、人類の最小存続可能個体数を下回る。

 この計算には聖域内の人口は換算していないが、今回のことから、オーサネアも何かしらの対策をする必要があるだろうと考えられる。



 以上が今回の遠征で得られた情報である。



 なお、本書類は記載されている情報全てを機密事項とし、友人、家族含む他者への口外を一切禁ずる。


◇-----------------------------◇



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