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19話 お前がパパになるんだよ!

「本当か!?」


 思わず前のめりになる。


「というより、知っているかもしれない人に心当たりがあるのです」


「それでもいい。聞かせてくれ」


 そういうと彼女は自身の聖書を取り出す。


「まず一つ、祈りというのはその祈りが叶えられた時点で効力は消失します。例えば誰かを癒す祈りならば、対象の人間がある程度回復した時点の効力は消えます。身体能力の向上ならば場合にもよりますが、休憩を一分以上入ると一つのインターバルとカウントされ消失します」


「ずっと身体能力を上げていたい、そう願った場合はどうなる?」


 エイハは首を横に振る。


「祈りというのは基本的に終わりが定義されて、そうして叶うのです。ですからそのような願いは叶いません」


「だがエイハの願いは――」


「はい。一人になりたくない。それが私の願いでした」


 ――だから俺が呼ばれて……?


「ちょっと待て、わからなくなってきた。そうなると俺がこの世界に来た時点で君の願いは叶ったことにならないか?」


 エイハはこくりと頷いた。


「はい。この願いはもともと矛盾を孕んだ祈りなのです。ですが今、咲さんはここにいます」


「つまり?」


「これは、私の祈りと、それとは別に他の誰かの祈りが混じっていると考えられます」


「余計帰還が遠のいた気がするんだが」


 呼んだの人間は説明責任を果たしてほしい。


「あなたが帰るには、あなたがここにいるもう一つの理由を知らなければいけません」


「なるほど、それを知っているかもしれない人間を知っているということか」


「はい」


 エイハは聖書をを机に置く。


「その名は陽月教現総主教、ソーン・タイタニン様です」


 ――総主教。そんな人間に会おうと居たら何年掛かるだろう?そう簡単に会えるような相手でもないだろう。


 だが現状それ以外のヒントはない。今はそれに縋りつくしかない。


「その、総主教は今どこに?」


 エイハは待ってましたと言わんばかりに、珍しくドヤ顔で口にした。


「私たちの向かう場所、聖都・オーサネアです」


「……なるほど。そこでつながってくるのか」


「総主教様は物事を見通す奇跡を行使できると聞いています。その力を行使すればわかるかもしれません」


 そこでふと疑問が頭に浮かぶ。


「そう言えばなんだが、毎回その祈りを捧げなければ奇跡を使用できないのか?」


 エイハは少しばかりの時間、んーと悩む。


「少し説明が難しいですが、許可制という感じです」


「許可制?」


「一度目の許可をもらうにはすごーく苦労するし時間もかかるんですが、一度通ってしまえば次は割と簡単に許可が下りる、みたいな感じです」


 微妙に例えがわかりづらいな。


「なるほど。一度試したわけか」


「?……何をですか?」


「あれ?俺を呼んだ同じ奇跡をもう一度行使しようとして失敗したんじゃないのか?だからその混ざっていることに気付いたのだと思ったんだが」


 エイハは首を横に振る


「流石に二人も責任取れません」


「そういう問題?」


 責任が取れたらもう一人読んだりするのだろうか。というか責任ってなんだ。俺は拾われた犬か何かか?


「まあいいか。で、向かうオーサネアってどんな街なんだ?」


「はい。ではオーサネアについての説明をしますね」


 コホンと一つ咳払いをする。


「オーサネアとは現在六つある聖域<サンクチュアリ>の一つで、四方を高い壁に囲まれた街です。聖域というのは外敵を阻むために何かしらの工夫の施された場所のことです。そして聖都、つまり私たち陽月教の聖地があった場所に作られた街なのです。インフラ等の完備はもちろん、人々を守るため軍隊もいる村人憧れの街なのです」


 とはいえ、とエイハは続ける。


「この国の人間全員が入れるわけではありません。避難民や高位の人から優先に入城していきます。入城には入城許可証が必要なのです」


「そうはいっても俺は持っていないよな」


 向こうさんも身分のわからないやつを入れるわけにはいかないだろう。それに関しては正論なのだがこちらが困った。


「そこで咲さんに提案なのですが」


「提案?」


「私のお父さんになってくれませんか?」


 ――。



 ――――。



 ――――――。



 ―――――――――なんて?


「すみません。言わなきゃ言わなきゃって思って色々飛ばし過ぎました。これが私の許可証、そしてこれが私の父、クアッド・オズの許可証です」


 つまり彼女の言いたいことは、俺の許可証はないから死んでしまった自分の父親のものを使って入国しろということだった。


 まあなんというか、随分と割り切っている。


「というか、俺はまだ十六なんだが」


「五歳で?」


「お前が作った設定だろ!」


 エイハはくすくすと笑う。どうやらからかっていたらしい。

 なんだかくすぐったくて俺は話の流れを切る。


「とにかく。無理がないか?俺さば読んだとしても十八がせいぜいだろう?」


「大丈夫ですよ」


 ふっと遠くを見る。


「世界にはいろいろな人がいますから」


「……まぁ、エイハがいいなら俺も文句は言わない。あ、でもお父さんとか呼ぶなよ」


「パパ?」


 ――スパーンとエイハの頭に軽く手刀を落とす。


「うぅ。冗談だったのに」


 ため息を零しながら、細かなことを確認していく。


「で、オーサネアまでの距離はどのくらいなんだ?」


「はい……。早馬で一日。歩くと四日くらいって感じです」


 一日二十五キロ歩くとすればおよそ百キロくらいか。

 しっかり準備を整える必要があるだろう。


「支度しないとな」


 とつぶやくが、すぐに思いとどまる。

 今は雨が降っているし、今日くらいは、だらだら過ごしても罰は当たるまい。


「エイハ」


「はい?」


「今日は何もしない日にしようか」


 エイハは少し意外そうな顔をして


「……そうですね」


 と短く返した。


 俺はベッドに横たわり、雨音を聞く。ゆっくりと時間は流れていった。



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