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18話 咲の身の上話

 水浴びから戻るとエイハが料理を作って待っていてくれた。


「有り合わせの物で作ったのでおいしくできているか不安ですが……」


 乾いたパンと剥かれた萎びた林檎は昨日と同じだったかそれに加え、スープと目玉焼きが付いていた。

 なんというか、全体的に茶色い。作ってくれた手前文句も言うつもりもないのし、あったものがこれしかなかったのだから仕方ないとは思う。


 が、毎日桜の渾身の料理を食べていた俺は少しばかり、色が寂しく感じてしまう。


「いただきます」


 高くない期待のまま目玉焼きを一口。


「――旨い」


 見た目はシンプルな目玉焼きだが、味付けになにか特別なスパイスでも使っているのか、うっすら感じる辛みがアクセントになっている。そして焼き目である裏には焦がしたはちみつなのか、香ばしく甘い何かを感じる。

 だが他には奇抜なアレンジは特になく、基本の塩加減や火加減もを抑えた、あくまで目玉焼きといった感じだ。


 ――ではこっちはどうだ。


 スープを見やる。

 見た目はシチューの様だが香りはそれほど強くない。口に運んでみる。


「……!」


 驚いた。ジャガイモの味がする。ジャガイモのポタージュといったところか。温かく滑らかな舌触りといい感じの塩味は疲れた体に染みる。

 この料理は初めて食べるが手間がかかりそうだ。

 そう考えると彼女の手際はなかなかのものだ。


 ――これは、桜と張り合うかもしれないな。


 有り合わせの食材ではなく、本気の料理を見てみたい。それほどにエイハの料理はおいしかった。


「お口にあった様で何よりです」


 エイハは俺が食べる様子を見て、にこやかに笑う。


「本当においしかった。ぜひ俺の妹と料理対決をしてほしいところだ」


「えぇ。機会があればぜひ」


 食事を進める。ゆっくりと流れる時間が心地いい。


「咲さん」


 食べ終わり、ぬぼ~天井を眺めているとエイハが声を掛けてきた。


「ん?」


「あの、咲さんのこと、咲さんの世界のこと、教えてくれませんか?」


 そこで、自分がエイハに対して聞いてばかりで、自分のことをあまり話していないことに気付いた。


「そうだな。確かにフェアじゃなかったな」


 咳払いを一度して、どこから話したものかと口に開く。


「そうだな……。俺のいた国は日本っていうんだけど、ここよりは科学的に発展した国にいたんだ。電気とか、自動車とかそういうものが開発されていたんだが――」


「あの、……えと、電気とか自動車ならこの世界にもありますよ?」


「あるのか?」


 てっきりこの世界は15世紀当たりのヨーロッパ程度の文明だと考えていた。


「はい。といっても電気や水道のインフラ設備が整っているのは一部の都市だけですし、自動車も偉い人が乗るようなものですね。私たち村人には関係のないことですが」


 頭の中に埋もれている歴史知識を引っ張り出す。科学技術的には第二次産業革命の最中といったところだろうか。

 そしてこの延死者による騒動で発展がストップしてしまった、そんなところだろう。


「では、科学的には二、三世紀先を行っているだけなのか?まあ、そのような国だ。だが、前にも言ったように奇跡とか呪いとかそういたものは俺たちの世界では行使できない技術だ。で、そこで俺は妹と母の三人で住んでるよ」


 エイハは少し遠慮がちに質問した。


「えと、お父様は……?」


「ああ。残念ながら片方は存命だ」


「……?」


 エイハは『残念ながら』というところに疑問符を浮かべていた。

 これは少々込み入った事情があり、説明するのが面倒なので省く。


「そういえば、ぱるー……、なんとおっしゃいましたっけ。そのようなものをやっていたとお聞きしましたが」


「ああ――。パルクールっていう、簡単に言うと、地形に合わせて飛んだり走ったりする障害物競争みたいなスポーツがあるんだが、それをやっていたな」


 選手が聞いたらあーだこーだ指摘してきそうだが、簡単に説明するためだから許してほしい。

 残念ながら、日本にはスポット言われる屋外で練習できる場所はそう多くはない。いや、練習しようと思えばどこでもできるのだが、基本的にはあの行動は迷惑行為に等しいため、大抵の団体は練習場所の許可を取って行うか、既にストリートカルチャーやスポーツを許容しているところで行う。もしくは警察にバレないところか。

 だが、先日俺の所属する団体の一人がそれを無視して通報され、代表者が警察に怒られ、一か月の練習禁止が言い渡されていた。


「たしかにただ走ることだけを極めた人の動きではありませんでしたね」


「そう。結構大変なんだ。擦るし、転ぶし、脛打つし許可もらってても白い目で見られるしで」


「ですが、そのおかげで私たちは助かることができました。剣術もそのスポーツで?」


「いいや。それは小さなころに数か月だけ習った。あまりいい思い出ではないけど」


 それどころか最大級のトラウマだが。


「そうなのですか」


「まあとにかく、この世界なら存分に走り回れるなと思うけど、やっぱり慣れた場所で行いたいと思うよ。まあ妹にはいい顔されないだろうが」


 自嘲気味に笑う。


「では、戻らなければいけませんね。もといた世界に」


 少し申し訳なさそうに、エイハは言った。


「だが、どうすれば戻れるのか検討もつかないな」


 だからお道化て返した。


「あの、そのことなのですが、少し心当たりがあります」


 意外な一言をエイハは口にした。


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