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13話 覚悟

 俺たちは逃げた先は廃宿だった。


 廃宿、と言っても建物自体が壊れかけという意味ではなく、営業していないという意味合いだ。

 しっかりと閂を差し込んで、できる限り家屋の中央に位置する部屋を選んで入った。


 この村には閂が備えられている家が多いのだが、別に鍵が発明されてないわけではない。存在もあるし、機能もしているようだがやはり原始的なものが延死者に対しては心強いのだろう


 逃げ込んですぐに眠り込んでしまい、気付けば次の日の朝だった。


「おはようございます。咲さん」


「おはよう。エイハ」


 俺より早く起きたエイハが微笑む。この世界に来て三日目の朝は、しっかりしたベッドからの始まりだった。


 喉の渇きに気付き、昨日のバックを探すが時計塔に置いてきたことを思い出す。

 時計塔の南に位置するこの場所からそれほど時間はかからずに取りに行けるが、気分ではない。


 結局また他人の食料を勝手にもらうことにした。

 エイハも観念したのか、何も言わずに乾いたパンとしなびた林檎を食べる。


 小さな宿ではあったが、中央には屋外の井戸汲み場があり、わざわざ危険を冒して水を組まなくてもいいのはポイントが高い。

 静かに食事が進む。それほど多くはない食事はあっという間に消えた。食べ終わった後もしばらく静寂になっていた。


「咲さん。お願いがあります」


 テーブルの向こうにいるエイハが真っ直ぐに目を見る。

 幼いその目は、この二日間で見てきた目では考えられぬほどの鋭さと輝きを放っていた。


「お願い?」


 その目に問いかける。


「私と一緒にお姉ちゃんを、アイハを殺してくれませんか?」


 ――殺す、か。

 救うでも、止めるでも、倒すでもない。もっと過激で直接的な言葉。

 だが、これは感情的に判断できるものではない。


「わざわざ、殺しにかなくてももう村から出られる。もしも君が行くのだとしても俺はいかない、と言っても君は彼女の下に行くのか?」


「はい。私は――。私はお姉ちゃんをあのまま置いていくことはできません。もしも貴方の協力が得られないとしても、私は行きます」


 できるなら、このままオーサネアに向かった方が絶対に良いはずだ。そんなこと、彼女はわかっているはずだ。


「君がそこまでする理由はなんなんだ?」


 エイハは首飾りをぎゅっと抱きしめる。


「彼女を、ちゃんと殺して、そして弔いたいのです」


「そうか」


 エイハを無理矢理連れていくことは不可能ではない。だが、この問題は彼女自身の問題だ。決めるのは俺ではない。


 本当は――、本当に行くべきではない。だが彼女がそれで前へ進めるのなら――


「わかった」


 彼女の依頼を承諾する。

 だが、彼女と戦闘を行うにしても、わからないこともある。


「一つ、あの教会の延死者たちの死体はなんなんだ」


 ――あれはなんだったんだ。あそこにいた延死者はアイハ以外全員死亡していた。どう考えてもあの状況は異常だった。


「アイハは、特殊なんだと思います」


「特殊?」


「あの場に私が付いたとき、彼女は何かを食べていました。でもあの場所にいたのは延死者だけ」


「まさか延死者が、アイハがあの場にいた延死者全員を食った、とでもいうのか?」


 その仮説が通るのならば、確かに説明はつく。

 もしも、彼女が延死者たちを倒してくれるのならば、そのまま放置して他の奴らも倒してもらうのはどうだろうか?


 いや違うだろう。何のためにこんな話をしている?俺たちは彼女を殺すための話をしているはずだ。無駄な考えは捨てろ。


「わかりません。ですが、物を投げるという行動も普通の延死者はできません」


「投げた?アイハには、意識がある、ということか?」


 そういうと、しかしエイハは首を横に振る。


「残念ですが、それはないと思います。私も投てきをする延死者なんて初めて見ましたけれど、行動原理は他の延死者と同じ『食事』でしたから」


「そうか」


 それもそうか。意識があるのならばそもそも妹のエイハを襲うことはないだろう。


 だがしかし、話を聞いていて、少しだけ怖くなる。


 俺が対峙しようとしているのはただの延死者なのか。

 ゾンビのように、心臓や頭を潰せば動かなくなるのか?

 ゾンビのように、鈍く単純な動きしかしないのか?

 ゾンビのように、全てを忘れて歩き回っているのだろうか?


 現実を逃避するように俺は立てかけていた武器を手に取り、テーブルに置く。


「これは、軍刀とマスケット銃だ。警察か軍か、この世界の制度は俺にはわからないがとにかくそこの詰所から拝借してきた。この刃ですでに何人か殺めたけれど、首に入ればたぶん仕留めるのは十分なダメージを与えられるだろう。銃もあの威力ならば当たり所によっては即死だ。」


 エイハがびくりと肩を震わせる。


「俺はこの剣を使おうと思う。何かあれば君がその銃で狙撃してほしい」


「その私はその、使ったことないのですが、大丈夫でしょうか?」


「構わない。狙撃といっても遠距離から撃つわけじゃない。数メートルの、ある程度距離を開けた場所から撃ってくれれば」


 彼女に銃を渡し、簡単な構造と撃ち方を教える。とはいえ、自分も引き金を引いたのはあれが初めてだ。だから正直細かな狙い方とかというのはわからない。

 だが体に負担のかからない構え方はわかった。


「エイハは右利き?左利き?」


「右です」


「じゃあこうだな」


 エイハの手を取り後ろから抱きしめる形で、銃の構えを教える。


「まずは右手をトリガー、左手を重心に置き、しっかり握る。」


「はい」


「対象に向けて直線になるように足を置き、銃は体に寄せる」


「こうですか?」


 エイハの体から離れ、一歩引いて眺めると、なかなか(さま)になっていた。

 修道服を着た少女がその体には似つかわしくないゴツイ銃を構える姿は絵になる。


「次は弾の込め方だ」


 そうして彼女に細かな動作を教えていく。

 正直彼女がこれを使う機会がないのが一番ではあるが、それでも彼女は俺だけに戦わせたりはしないだろう。

 最悪自分が押されたときのバックアップだ。何があるかはわからない。


 そうしてまた、日没まで時間は過ぎていく。


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