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あの山の向こう
あの山の向こうに何があるのかどうしても知りたいと、トンネルを掘り出したのは自分で
先の見えない重労働に嫌気がさして逃げ出したのも自分で
平穏な毎日の繰り返しに身を浸し、あそこにはもう戻れないと諦めたのも自分で
真綿のようなしがらみにじわじわと首を絞められ、息ができなくなっても知らんふりしたのは自分で
そんな毎日を悲しげに見るのはあの山の向こうを目指していた自分で
いつまでたっても崩れない硬くて石だらけの壁は、まるで自分の言い訳で
あの山の向こうの人々を羨ましがって途方に暮れる自分は、その人たちの苦しみなんて想像もできないで
知りたいと思ってしまったから、もうその前の自分には戻れないで
暗澹たる気持ちはずっと拭えないで
もう一度あの山の向こうを目指して、何があるのか確かめないと前に進めないままで
何も知らないまま今が全てだと信じていた頃の自分を懐かしく、でも忌々しく、嫌いで




