後
現在ヤポンでは空前のタピオカブームが巻き起こっていた。原因は何とたった一枚の写真。
史上最悪の薬物タピオカ。そしてミルクティー。この二つが出会った奇跡の一枚がヤポン国民のインスタ魂に火を点けたのだ。
ボスの情婦アネッサがヤポンに着いてからインスタントミリグラムにUPした写真。艶めかしい表情でタピオカミルクティーのストローを咥えるアネッサ。
文面はこうだった。
『東南アジアで爆発的人気のタピオカミルクティーをヤポンで初めて飲んだのはアタシ。流行に遅れてるヤポン人には分からないでしょ?』
この文面に最初に反応したのはアネッサのフォロワーの一人、メリケン人俳優のマッカ・バトラーだった。彼はすかさずこうフォローした。
『ワァオ、何てエキセントリックな飲み物なんだい! メリケン人もビックリさ!』
ヤポン人女優のスカーレット・小原も反応した。
『タピオカの食感とミルクティーの相性がグンバツに合いそうね。タピオカって名前もシャレオツでいいわ。ザギンで飲めないのかしら?』
タピオカが何か知らないヤポン人はたちまち熱狂を始めた。理由は簡単。俳優や女優が賞賛したからだ。
そして……タピオカが何か知る者達も動き始めた。そう、東南アジアにマフィアがいるならヤポンにもゴクドーがいる。彼らはタピオカの正体を正確に知っている。知ってはいるがヤポンで商売できるほどの量が確保できそうにないことから二の足を踏んでいた。
しかし、ここに至ってはやるしかない。自分達がやらなければ遅かれ早かれ他の組織が商売を始めるのだから。出遅れは組織の弱体化を意味するのだ。
ヤポンのゴクドー達はこぞって東南アジアへタピオカの入手ルートを開拓するために潜入していった……
これこそが手下の狙いだったのだ。流行に流されやすいヤポン人が動けば需要は一気に膨らむ。需要が膨らめば供給が追いつかなくなる。きっとミソッパの街は混乱するだろう。しかも、そこに国外から多くの無法者達が訪れるのだ。その混乱を収拾できる者などいない。
「ボス、港の第四倉庫が燃えてます。あそこは『ムーサテ』のもんですよね。タピオカも出ましたよ。」
「おお、ムーサテの奴らもタピオカを扱ってやがったか! よぉし、ちょっくら行ってシゴウしゃげたるわぁ!」
「いってらっしゃーい。」
ミソッパの街で一番の老舗マフィア『ガイヤーン』でボスを務めるこの男。頭の出来はよくないが、戦闘力なら国内で無敵である。今回のように敵の正体や居場所さえ特定できれば誰も太刀打ちなどできない。相手は一晩もかからず殲滅される運命であった。
こうして、老舗マフィア『ガイヤーン』はタピオカを扱う組織を一つ一つ丁寧に潰したあげく、生産農家までも潰した。
そして、ようやく彼らの扱う薬物『カフェイヌ』や『プロテイヌ』が再び売れるようになったのだ。
ガイヤーンは滅亡の危機を乗り越えたのだ。いや、それどころかタピオカ中毒のジャンキー、いわゆる『タピ中』の者は以前にも増して薬物を欲している。つまり、売り上げは倍増。ガイヤーンは一躍ミソッパ随一の闇組織へと返り咲いたのだった。
そして半年後。
「ボス! 大変です! 新たな秘薬『ナタデ・ドコ』が発売されました! 常用性、多幸感ともに歴代最高です!」