東方破壊神神話~幻想郷に残された残留思念~
「ちょっと良いかしら、霊夢?」
私はスキマから現れた紫を見て、溜め息を洩らしながら縁側に座る。
此処は幻想郷の博麗神社。
この幻想郷は妖怪と人間が共存する場所。
博麗の巫女はその幻想郷の護り手みたいな物よ。
まあ、詳しくは東方projectーーとか言うのをググりなさい。
「紫が来たって事はまた異変でも起きたの?」
「それがよく解らないのよね?」
「解らないって、どう言う事よ。貴方、幻想郷一の賢者でしょ?」
「なんだか、歴史を改変された様で……。
でも、異変には違いないわ。それも宇宙ーーいえ、銀河規模のね?」
「宇宙?銀河?なにそれ?」
「そうね。なんと言えば、良いのかしら?この星の外?
月よりももっと遠い所よ」
「月よりも遠いの。そんな場所、流石に私の管轄外じゃない」
「そう言わないで?幻想郷にも外の世界にも関わる話だから」
「ふぅん。どんな話よ」
「名前までは解らないけれど、それは間違いなく、幻想郷に来ているわ」
「仕方ないわね。それじゃあ、行きましょう?」
「ええ。今回は幻想郷屈指の助っ人を大勢呼んだから、何とかなるでしょう?」
「あら、そうなの?なら、今回は楽が出来そうね?」
私はそう言って紫の用意したスキマに入って行く。
それがどんな意味かも知らずに……。
ーーー
ーー
ー
それが数分前の話よ。
今、私達はかつてない危機に直面している。
「ガアアアアアアアアァァァーーッッ!!」
それは二本の角を生やし、翼と腕を広げながら吠える。
それだけで空間が歪み、音の衝撃波が生まれて私達を襲う。
「本当!何なのよ、あれ!」
「解らないんだぜ!だから、こうやって一致団結しているんだろ!」
耳を押さえて叫ぶと魔理沙の言葉に周囲の妖怪や神々が頷く。
これだけの面子がいるのにそれは臆する事もなく、恐ろしいまでの速さと怪力で迫って来る。
「おおおりゃあああああぁぁぁーーっっ!!」
それに対して真っ向からぶつかったのは星熊勇儀だった。
勇儀の拳とそれの拳がぶつかり合い、衝撃波が生まれる。
鬼の四天王にして力の勇儀と恐れられた勇儀の能力は怪力乱神。
その異常な怪力さには誰も太刀打ち出来ないーー筈だった。
だが、それはまともにぶつかり合った勇儀の拳をへしゃげて弾き返す。
「勇儀!」
勇儀を心配して同じ鬼仲間の萃香が叫ぶ。
負傷した拳を押さえて後ずさる勇儀。
そんな勇儀に対して、それはハンマーの形をした先端をした尾を振るうと勇儀の胴体をミシミシと言わせて、吹き飛ばして行く。
あの勇儀が力で負けた?これはヤバいわね?
それを見て、他のメンバーもまずいと感じたのか、遠距離攻撃に切り替える。
だが、それにダメージを与えられているのか、疑問だ。
勇儀の攻撃さえも通用しなかったそれにただの弾幕が通用するとも思えない。
私自身もお札を出して投げ付け、爆風に埋もれたそれを固唾を飲んで見守る。
それは想像通り、此方の攻撃が通用してないかの様に平然としていた。
まさに万事休すだわ。
そう思っているとそれに変化が訪れる。
萃香の密度を操る程度の能力の様に巨大化し出したのだ。
しかも萃香のそれと違い、星をも超える勢いで巨大化している。
そうして、それはその巨大化した顔で蟻以下にまで小さくなった私達を見下ろし、数多の星を砕きながら右手を振るう。
あの星をも超える巨大化した拳ーーしかも、あの速さはまずい!
私はそう判断すると夢想天生を使い、半透明になってそれの攻撃を回避しようとする。
あんなのを正面から受けたら堪った物ではない。
魔理沙もファイナルスパークで巨大化したそれの拳の衝撃を少しでも和らげようとする。
こんな時でも諦めたりしないのは魔理沙らしい。
でも、それには今までの様な常識は通用しない。
「魔理沙!」
私が叫ぶと魔理沙は私に顔を向け、それの拳を諸に受けーー
ーーようとする所でそれの拳が止まる。
何事かと思っているとそれの拳が塵となって徐々に消えて行くではないか。
そして、それは自身の存在を維持できなくなったかの様に身体全体が塵となって消えた。
ーーと頭上から何かが降ってくる。
それがあの人間の里で出回っている純白のスペカの残骸だと察した瞬間、私の中である人物の名が出てくる。
少し前に出会い、紅魔館の門番と恋仲にまでなっておきながら、何故か改変されていなくなってしまった一人の男の名を……。
「……紫!」
「どうしたの、霊夢?そんな恐い顔をして?」
「あんた、私達からあいつーー陰猫の歴史を慧音に食わせたわね!?」
その言葉に紫自身も驚いた様子だったが、やがて、落ち着いた物腰で私に頷く。
「ええ。その様ね。貴女に言われるまで私も忘れていたわ。
いえ、忘れようと自ら暗示を掛けていたのかもね?
力のある妖怪には上白沢慧音の歴史を食べる能力は効かないもの」
「そんな事はどうだって良いわ。陰猫が最後に産み出したもの……それがあれね?」
「そうみたいね?恐らく、あれは大量に陰猫さんが使ったスペカの余剰した魔力から産み出された残留思念ね?
巨大化した事で魔力が枯渇して自身の存在を保てなくなったんでしょう」
「此処に門番がいたら、もっとスマートに解決していたかもね?」
私はそう呟くと夢想天生を解除し、かつてないスケールのデカさと脅威に放心した魔理沙に近付く。
「……魔理沙」
「……霊夢。私達、勝ったのか?」
「一応はね?あれが完全な状態だったらと思うとゾッとするわ?」
「結局、なんだったんだ、あれ?」
「どっかの馬鹿が残した忘れられた記憶よ。まあ、もう思い出す必要もないでしょうけどね?」
「? どう意味なんだぜ?」
「もう、あいつが現れる心配がないって事よ」
私はそう魔理沙に言うと唯一、負傷した勇儀に萃香が駆け寄るのを目にする。
本当。ろくでもないものを残したわね、あいつ。
私はそんな事を思いながら、陰猫の残したスペカの残骸が消えるのを眺めてから、紫が用意したスキマの中へと入って行く。
「この歴史も消した方が良いかも知れないわね?」
スキマを潜りながら私は紫の言葉に頷く。
「そうしなさい。あれは誰にも悟られず、忘れ去られるのみの存在よ。原初の破壊神の事なんて忘れてしまった方が良いわ」
「あら?貴女、よくあれが神様って気付いたわね?外見は悪魔の姿に近かったのに?」
「気付いたのはさっきよ。あんたの以前、話しをしてくれた陰猫が作ったって言う破壊神に似ていたからね?」
「そうね。陰猫さんはとんでもないものを幻想郷に残してしまった。幾ら、幻想郷が全てを受け入れるとしても銀河全てを葬る存在なんて限度があるわ」
「まあ、また慧音にでも歴史を食わせて、記憶から消しましょう。あいつの事はもう誰も覚えてないんだし」
「ええ。そうね」
私と紫はそう言って幻想郷へと戻ると勇儀を永遠亭に預けてから寺子屋にいる慧音の元へと向かうのだった。
……ん?力のある妖怪は覚えている?
なら、妖怪の門番はあいつの事を覚えているの?
最近、紅魔館に行った時にそんな素振りがあったろうか?
これは勘だが、門番は忘れてないんじゃなかろうか?
まあ、全てが終わってしまった今となっては確証もない。
せめて、門番が新しい出会いをするまで夢の中だけでも支えてやりなさいよ、陰猫。