1.訪れてしまったもの
一日の授業の大半をただただぼーっと過ごすこと数時間、ようやく学校が終わりを迎えた。
帰りのHRが終わり、帰宅の準備をし始めた俺のところにさながらいつものことのようにカイトがやってきた。その笑みを浮かべた顔を見るに、恐らく女子達と遊びに行く約束でもしたんだろう。
「ツキト〜これから遊び行かない〜?女の子達とカラオケに行くんだけど男がなかなか集まらなくてさ、心細いんだよね〜」
「断る。俺がそういうことに興味無いこと知ってるだろカイト。それになんでわざわざ俺を誘う?他にも当てはいるだろお前。」
「それはさ?毎日退屈そうにしてる、女子との繋がりが全くなさそうな級友が目の前にいるんだぜ?友人として女子と仲良くなれる場面を提供して上げようかなという善意だよ善意!」
「余計なお世話だ…。」
女子達の目的はカイトだろうに、そんなことに気付いてないのか、カイトは満面の笑みを浮かべ俺を誘っている。傍から見たら嫌味にしか聞こえないだろうが、これでいて本人は本当に善意で俺を誘っているのである。本当に余計なお世話だ。
「で、どうする?行く?行く??」
「行かない。それに今日は元々すぐ家に帰る予定なんだ、なんと言われようと俺はすぐ帰るぞ」
「ちぇー。つれないなー。」
「他をあたればいいだろ。俺は帰る、じゃあな。」
「え、ちょ待ってよ___」
帰ろうとする俺をカイトが引き留めようとした瞬間、突然地面が揺れ始めた。さほど揺れは大きくはないものの、まるで地面だけでなく空間も揺れているような感覚に陥ってしまうような地震だった。揺れは数秒間続いたが、これといって大きな影響もなく揺れが収まるとすぐに教室はいつもの雰囲気に戻った。
「びっくりしたぁ…。ここ最近地震多い気がするなぁ…そう思わない?カイトさんや」
カイトが言うように、ここ最近、特に1ヶ月前ぐらいから地震が何度か起きている。しかし専門家達からは大きな地震の予兆という訳でないと言われており、さほど問題視されていない。
「珍しく同意見だが、まぁ何か問題がある訳ではないからな…。まあいい、俺は帰る。」
「まあそりゃそうか。じゃあねー次は一緒に遊び行こうぜー。」
「断る。」
そう言い捨てた俺は、やっと退屈な学校を出て帰路についた。時間は既に18時を過ぎており、季節が夏から秋に変わり始めた頃だったため、辺りはもう既に暗くなっていた。俺の住んでいる街は割と都会よりではあるが、帰り道には都会とは似つかわしい木々の群れがいくつか存在していて、暗い夜道となるとかなり不気味な雰囲気を醸し出していた。
「もう暗くなるのが早くなってきたな…真っ暗になる前に近道通ってさっさと帰るか…」
俺は少し足を早め、近道のある月神林へと入っていった。
林の中はやはり夏のときよりも暗くなっており、注意しながら進まないと枝にぶつかりそうになる。しっかりと前方に注意しながら進み、林もあと少しで抜けそうというところで、再びあの空間が揺れるような感覚に襲われた。
「ん?また地震か?」
またいつもの地震かと思ったが、今回は何かがいつもと違うように感じた。学校で地震にあったときよりも空間が揺れているように感じるのだ。えも言わぬ不安感に襲われた俺は、揺れが収まる前にすぐに林を抜けようと足を踏み出した。
その瞬間、世界に亀裂が走った。
形容しがたい世界の裂け目の様なものが目前の空間に広がった。その裂け目の中に見えたのは月神林と似た森。
しかし、明らかに違っていたのはその裂け目から出てきた生き物だった。まるでファンタジーの世界にいるような生物。いくつもの触手が生えた大きな瞳。俺の過ごしている世界に土足で踏み込んできた、この世界に似つかわしくない姿をした怪物は今、俺の目の前に現れた。
「Gigyururugi?」
触手の生えた目玉、確かゲイザーって言うんだっけか。俺は目の前に現れた存在に、ただただ呆気にとられていた。呆然としていた俺のことをその目玉の怪物は容易く見つけてしまった。
「Giigggiggirurugi!!!!」
ゲイザーは俺を見つけるや否や大きな奇声を発し、まるで格好の獲物を見つけかのように俺を見つめた。
逃げないと。
本能に従うまま俺はすぐにその場から逃げようとした。しかし、狩りに慣れている捕食者に貧弱な獲物は逃げられる訳がなかった。駆け出す前にヤツの触手に足を掴まれてしまっていたのだ。
あっ、死んだな。
俺は自分の死を本能で察した。
確かに、自分はこの未来に希望の持てないつまらない世界が嫌いだった。
変化もなく、ただただ似たような日々を過ごすしかないこの世界が嫌だった。
俺は幾度となく、何か大きな変化がこの世界に訪れることを望んでいた。
だからと言って、どこからともなくやってきた世界の変化、それによって死んでしまうとはあまりに悲しい話ではないか。
こんなことなら不満も不安も気にせず普通に生きていればよかった。
ヤツの目に光と熱が集まり始める。触手に掴まれた足はビクともしない。
あぁ、死ぬんだな。
俺は考えるのを辞め、ただ自分の死ぬときを大人しく待つしか出来なかった。
ヤツの目に集まった光と熱が俺へと向けられる。
恐らく集められた光と熱が、ビームみたいに発射されて俺を焼くのだろう。
ヤツがまるで笑っているかのように蠢きだす。
そして、ヤツは俺に向け高熱の光を発射し____
「精霊さん!お願い、あの人を助けて!」
少女の声が聞こえた。
声の必死さとは裏腹に、愛らしさが残る響き。
ゲイザーの後ろ、まだ開いていた世界の裂け目から1人の少女が現れた。
背は低くボロボロで、汚れている。しかし、育ちの良さを感じさせる凛とした立ち姿。
「Gyuri!?giyuaaaaaaaaaa!!!」
彼女が叫んだ次の瞬間、ゲイザーは炎に包まれてた。いつまのにか俺の足を掴んでいた触手も切断されており、自由を取り戻した俺は肉が焼ける臭いに包まれながら灰に変わっていくゲイザーを見つめていた。
どのくらいの長さで書けばいいのかまだよく分からない…(˘ω˘)