はっぴー・はろうぃん!!【前編】
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「そうだ、ハロウィンをやろう!」
「「「はろ、うぃん???」」」
「……また、アイリーンの何かが、始まったわね……」
唐突に叫ぶアイリーン様、単語の解らない私とライオネル様とソラン君。
そして、美少女に似合う溜息を吐いたサラ。
『私とライオネル様の婚約何とかしようの会』でソラン君の部屋に集まった私達四人。
確かに途中から、皆で持ち寄ったお菓子の品評会になってしまってはいた。
一応、主題となっている身としては、あんまり脱線して欲しくはないのだけれども。
……いや、真っ先に『全種類食べるにはどうしたらいいか』と声を上げた身でもあるので、何も文句を言えないのではあるのだけれども。
「アイリーン様、はろうぃん、って何です?」
「えっとね!前世の行事でね!!」「……アイリーン???」
説明の途中を、身も心も凍り付くようなサラ様の声が遮る。
だが、最近サラ様に耐性のついてきたアイリーン様は、半泣きになりながらも抗う。
「だ、だってぇ、ここには喋っても大丈夫な人しか、いないもん!!!」
「―――はぁ…ここだけにしなさいよ?」
と、お許しが出た途端、涙が吹き飛び満面の笑みを浮かべるアイリーン様。よかったねー。
微笑ましく眺めていると、アイリーン様が『はろうぃん』なるものを説明してくれた。
ふむふむ、外国から来た行事で、収穫時期の魔のものが溢れる日に連れ去られないように同じ恰好になる日で。
なるほど、「とりっく・おあ・とりーと」と謎の呪文を唱えると、いたずらをして欲しくない人からお菓子を堂々と貰えると。
……素晴らしい行事じゃない??特に、お菓子を貰えるところが特に。
「仮装して皆で集まったり、ハロウィンっぽいものを飾ったり、色々するんだよ!」
「へぇー、アイリーンの仮装、かぁ……」
「武装した方が効果が「ライオネル様」……だめか?「だめ」そうか…」
「他宗教の慣習への寛容さは聞いていたけれど、なんでも取り入れる国なのね」
「ってことで、やろう!ハロウィン!」
アイリーン様の期待のこもった眼差し。ソラン君の別の下心がこもった眼差し。
私のお菓子食べたい眼差し。ライオネル様のまだよく解っていない眼差し。
それら四つの眼差しが、サラに集まる。
「いいわよ、実を言えば、今日出来ることはもうないもの」
あ、あれ?サラ様??今日はサラ様の号令で対策をするって集まってて……?
視線を疑問に変えて、そのまま見つめていると、ふいっとサラが視線を逸らす。
「……最近、皆忙しくて、会えてなかったから」
で、デレた!!サラ様が、デレたぁぁぁぁぁぁ!!!!
えっ、可愛、え?ええ?サラ?本物?サラ???
混乱した私と、目がギラギラになったアイリーン様の目が、合う。―――思いは一つ。
「サラーーー!!私も会いたかったよーーー!!!!」
「サラさーーーーん!!がわぃぃいいい!!私もーーーー!!」
「…………暑苦しい」
右にアイリーン様、左に私と、心を込めてぎゅうぎゅうとサラを抱きしめる。
よしよし!今日はいっぱい遊んじゃうもんね!!
心の思うままに、サラの両頬をアイリーン様と協力して頬でぐりぐりした。
サラはちょっと眉を寄せているが、うん、これは嫌がってないな!このぅ!素直じゃないんだからぁ!!
そんな私達の様子を、うずうずしているライオネル様と羨ましそうなソラン君が、見守って…いる。
うん、ちゃんとその場で待って見守ってくれている。
「で、何をするのかしら?」
「うーん、仮装に必要なものは…今公爵家にリストを贈ったから、やっぱりアレだね!カボチャのランタン作り!!」
「ふぅん?でも、かぼちゃなんて食堂に行かないとないんじゃないですかー?」
「………実は、あるんだよね…多分」
この部屋の主のソラン君が、言いづらそうに挙手をする。
ソラン君のその何かあり気な様子に、私は素直に疑いの気持ちを表情にした。
もしや、かぼちゃに見せかけた、別の妙な危険生物なんじゃ……?
「い、いや、多分大丈夫?だよ?種は、かぼちゃだったし、形も、うん、かぼちゃだし?」
焦りながら弁明するソラン君曰く、以前の爆発ダイズから植物の品種改良にハマって色々と試していた一部らしい。
やっぱり怪しくない?それ。
「流石ソラン!よし、そのかぼちゃでランタン作ろう!」
「え、いいの?怪しいじゃないですか?」
「え?でも、ソランが大丈夫って言ってるし、大丈夫!」
いい笑顔でアイリーン様が言う。
……ほんとかなぁ?まぁ、いざとなったらライオネル様がいるから、大丈夫だけどね!
喜色満面のソラン君が奥の部屋へかぼちゃ(仮)を取りに行っている間、存分にサラを堪能する。
と、ふっとサラが笑った。
「貴方の騎士団長閣下が、辛抱できないみたいね」
「え?」
そう言われて見ると、ライオネル様が落ち着かない顔で両手を中途半端に広げている。…どうしたの?
首を傾げる私に行ってきなさい、とサラに言われるがまま、最近の定位置と化しているライオネル様の膝の上にすとんと座った。……あれ?
「すまんな、サラ嬢。これでも我慢はしているのだが……」
「ふふ、いいんですよ。貸しひとつ頂ければ十分ですわ?」
「ああ、解った。だが、サラ嬢の『貸し』は高い「騎士団長?」……もちろん、きちんと返すつもりだ」
遠い目をして私を抱えるライオネル様へ、サラが楽し気に笑う。
それに、サラさんかっこいい!と目を輝かせるアイリーン様。
……なんか、いいなぁ。
いつだって自慢の親友のサラで、だけど私以外にはサラらしさを見せようとしなかったから。
最近のサラは本当に楽しそうで、嬉しくて頬が緩む。
「あったよー!これでいい?」
そんなほのぼのとした雰囲気をぶち壊すような質量の何かが、目の前のテーブルにどすりと置かれた。
―――かぼちゃだ、本当にかぼちゃだ。……見た目は。
少し大きいものの、形も色も見たことのあるかぼちゃでしかない。
それが逆に怪しく感じてしまうのは、疑い過ぎなのだろうか。
「いいね、ソラン!これを……こんな感じで顔っぽくしてくりぬくの!」
取り出したペンで、さらりとかぼちゃに顔を描くアイリーン様。
そんな感じで顔にしてかぼちゃの中身をくりぬいて、その中に明かりをいれてランタンにするのか。ほうほう。
「もちろん、顔じゃなくても好きな模様でいいからね!よーし、皆好きなかぼちゃ選んでー」
「―――何を、してるんだい?君たちは」
「ひっ」「うわぁ!」「…うわ」「…閣下」
「これから、かぼちゃをくりぬくところですが、王弟殿下」
王弟殿下が現れたぁぁぁぁ!!!
び、びっくりした、ってなんでびっくりしてるの、私とアイリーン様だけなの?!?!
ソラン君とサラは眉を寄せただけだし、ライオネル様に至っては普通に返事してるしぃぃぃ!?!?!?
「かぼちゃ…?まあ、いいや。サラ、仕事だよ」
少し怪訝な顔をした王弟殿下だったが、直ぐに持ち直して綺麗な笑顔で冷酷なことをのたまった。
え?しごと、仕事ですってぇぇぇ????
「…私、休暇を頂いておりますが?」
―――そうだそうだ!!いけいけ、サラ!
「いやぁ、休ませてあげたいのは山々なんだけどね。君が手掛けていた案件の、かの国から大使が来ちゃっててね?」
―――ぐっ、なんでそんなタイミングが悪いんだ、その大使ぃぃぃ!!サラがお休みの日なのにぃぃぃ!!!
「……閣下がご対応くださっても、問題ないのでは?」
―――そうだそうだ!!王弟殿下が仕事するんだ!!!
「そうしても、いいよ?ただ、部下の手柄を横取りなんて、したくないんだけどなぁ」
―――え、そんな今日重要なの!?!?!?そこは何とか調整してよ、王弟殿下が!!!
「………解りました。私が対応いたします」
「えぇぇえええ!!行っちゃうの!?サラ!!!!」
しまった、声に出ちゃった!!
慌てて口を塞ぐ私に、少し困ったように笑うサラ。
「集まってもらって悪いけれど、私は行ってくるわ」
「……仕事じゃ、しょうがないもんね……。サラ、頑張ってね」
「あっ、サラさん、これ!このお菓子、持ってって合間に食べて!!」
しょんぼりと別れを惜しむ私。
そして、慌ててバスケットにお菓子を詰めたアイリーン様が、バスケットをサラに差し出す。
が、サラが受け取る前に、ひょいっと横から王弟殿下がそれを受け取った。
「楽しんでたところ悪かったね。サラは借りていくよ」
そう言うと、王弟殿下は、非常に、非常に意地の悪い笑みをこちらに寄越して、転移でサラと共に消えていった。
―――かっちーーーーん。
な、なんだ最後のあの顔は!!!!え、もしかして邪魔しに来たの???
え?なんなの、あの王弟殿下、喧嘩か、喧嘩を売ってきたのか????
「アイリーン様」「ルルリーアさん」
なんだなんだと見守る男性陣を余所に、がしりと二人で手を握る。
「復讐だ!!」「復讐だね!!」
「………なんの?」
「ソラン君解らない?あれ、絶対嫌がらせだよ、仲間に入れてもらえないからって拗ねる陛下と同じだよ!!!」
「普通に仕事なんじゃ…」
「ソラン騙されてるよ!サラさんを片時も手放したくないって主張だよ!」
「えぇ……そう、なの……?」
困惑しているソラン君は置いておくとして。
何か……そう、王弟殿下に一矢報いる何か―――閃いた、私、天才かもしれない。
「アイリーン様、とっておきがあるじゃない!『とりっく・おあ・とりーと』だよ!」
「…………なるほど、ルルリーアさん天才?」
「ルルリーアは天才だぞ」
「なんなの、このノリ……」
しょうがないなソラン君は。
一人ついてこれていない彼に、私は親切にも説明をしてあげた。
「さっきの、はろうぃんの呪文『とりっく・おあ・とりーと』を言われたら、お菓子渡すか、いたずらをされるか、しかないわけよ?」
「あぁ…うん」
「と言うことはつまり?そんな異世界の慣習を知らない王弟殿下に、その呪文を言えば?」
「え、うん……」
「もう、ソランってば!つまり、いたずらし放題ってわけだよ!!ルルリーアさん天才!!」
「あー…うん、ソウダネ……」
何故か返事に気合の入らないソラン君。
だが、そんなことは障害にもならない。
才女であるアイリーン様だって褒めてくれてるし、ライオネル様も頭撫でてくれてるし!!
「ライオネル様も、協力してくれますか?」
「ああ、王家に反するものでなければ、大丈夫だ。王弟殿下個人になら拳くらい向けても問題ない」
「いいんだ……騎士の、チュウセイ……」
「いたずらだから、大丈夫だね!!」「これで百人力だね、アイリーン様!!」
「僕には、聞かないの…?」
「え?ソランは当たり前じゃない」「うん、え、やらない気だったの?ソラン君」
「ぃいや…そ、そんなこと、ないけど……やるけど……」
なんだかもじもじと赤くなったソラン君。何、どうしたの?
よく解らないけど、これで問題解決!!あとはどうしてやりましょうかねぇ?王弟殿下。
「よーーし、絶対いたずらで目にものをみせてやるぞーーー!!!」
「おーーー!!」「……おー……」「ああ」
―――私達からサラを奪った報い、しっかり受けてもらうんだからねぇぇぇぇぇ!!!!
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―――外務大臣・執務室。
「―――わかるけど、その冷気抑えてくれないかな?サラ」
しんと静まり返った室内に、王弟殿下の声が響く。
遺憾ではあるけれど、この部屋には私と王弟殿下の二人だけ。
先程までは他にも人がいたのだけれど、一人、また一人と用事を思い出して出て行ってしまった。
まあ、あの先輩達は自身が言うほど繊細ではないから、直ぐに戻ってくるのだけれど。
はぁ、と溜息を吐いて、苛立ちを少し鎮める。―――八つ当たりは、良くなかったわね。
「かの国がこれほど早く決断するとは、私だって予想がつかなかったから」
苦笑交じりにそう付け加えられると、別の苛立ちが込み上げてくる。……子供扱い、ね。
確かに苛立っていたのは、まだ動かないと読み間違えた私に対して、だったのだけれど。
……その看破された苛立ちを表に出すのは、酷く癪だわ。
だから、私は、なんでもないと顔を澄ませる。
……この意地すらも見通しているような気がして、目の前の男が非常に腹立たしい。
彼から目を背けるように、話題を変えた。
「――いくら機密であったとはいえ、皆の前であのような言い方をしなくてもよかったのでは?」
先程の部屋での一言に、苦言めいた主張をする。
内情を知っている私には緊急度も重要度も伝わったけれど、ルルリーアとアイリーンには、王弟殿下がわざと邪魔をしたと、誤解されたみたいね。
そう含めて問いかけると、彼の目が若干泳いだ。
「いや、それは、余りにも楽しそうにしていたから、つい……」
ほんの出来心で、なんて何処ぞ聞くような凡庸な言い訳をする王弟殿下。その姿に構えていた身が緩む。
……そう、呼び出されたこの件は、ルルリーアがらみの案件なの。
私が、ルルリーアに関わることには並々ならぬ情熱を傾けることを知っていて、留め置いても進めてもよかったというのに、態々知らせに来てくれたのだから、むしろ感謝すべきなのだけれど。
「―――迅速に了承を勝ち取りますわ、王弟殿下」
「あぁ、もちろんこちらに最良の形で、ね」
先程までの情けない顔から一転、毒の滴るような笑みを浮かべる王弟殿下。
それに頼もしさを感じてしまう私に苛立つ。もちろん、これだって見せる気はない。
―――当分は、素直になんて、なれそうにないわね。
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※読まなくてもオッケー!王弟殿下とサラの副音声だよ!!
「…私、休暇を頂いておりますが?(緊急ですか?)」
「いやぁ、休ませてあげたいのは山々なんだけどね。君が手掛けていた案件の、かの国から大使が来ちゃっててね?(緊急だよ、想定より大物が来て、しかも相手は決定を急いでるね)」
「……閣下がご対応くださっても、問題ないのでは?(私必要な案件ですか?)」
「そうしても、いいよ?ただ、部下の手柄を横取りなんて、したくないんだけどなぁ(ルルリーア嬢の婚約がらみの、あの件だよ?自分でやりたいでしょ?)」
「………解りました。私が対応いたします(私がやりたいです……)」
※唐突に季節ものを書いてみたくなりました。後編、間に合うかなぁ……(現在、後編進捗0文字)




