13話
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ひとまず、目の前の問題は片付いた、のかな?
何の因果か、世界とやらの選択をしてしまった私。ああ、本当になんで私だったんだ?
ちょっと前までは何故なのかが理解が出来ていたけれど、急速にその部分がぼやけていく。
……え、私この年でもう既にぼけてきて……?
―――ピキリ
悩む私の頭上から、なんとも嫌な音がして恐る恐る見る、と。
うわ……天井にめちゃくちゃ大きな亀裂が、入ってる……!?!?!?
ドーム状になって星が瞬いていたはずが、歪なくらい穴が開いていた。それは、音を立てて少しずつ広がっていく。
的中したくない想像を思い浮かべながら、両方の竜と龍へ視線を送る。――これは、もしや。
《そうだな、ここは選択の場ゆえ、選択が為されれば不要だからな》
《ああ、そうじゃの。崩壊しておるの》
「―――そ、そそそそれって、めちゃくちゃまずいじゃないですかぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず叫んだ。思いっきり叫んだ。
てっきり、選んだらどちらかが送ってくれたりするのかと期待してたんですけど!?!?
微かに残る願いを込めて天眼竜様を見つめると、にっこりと笑顔が返ってきた。
……チガウンデスネ、ソウナンデスネ。
確定だ。自力でここから出ることが今、確定した。
いやいやいやいや、おかしいでしょ、なんでこの場に居る私以外全員落ち着いてるの。
周りをよく見てくださいよ、空間が崩れるという異常事態がどんどん進んでいるんですよ???
特に騎士団長!!!!そ、その笑顔を早くしまって私と一緒に取り乱してよ、同じ人間として!!!!
その私の願いが通じたのか、笑顔から真顔になった騎士団長が私の肩に手を置く。
「落ち着くんだ、ルルリーア」
「こ、これが落ち着いていられますか、折角帰るって決めたのにここで死んじゃうんですけど、そういえばなんで呼び捨て――」
「大丈夫だ」
やけに自信たっぷりに言い切る騎士団長。……そ、その心は?
「俺が来れたんだから、帰れるに決まっている。多分」
「たぶん、多分って言っちゃったよ、その一言でめちゃくちゃ不安になったんですけど!?!?!?」
来れたから帰れるって騎士団長。
いやいや、来た時ってソラン君とかアイリーン様とか魔術師団長とかサラとか、大勢の天才たちが取り囲んでたわけでしょ??
全く説得力無いんですけど、考えれば考えるほど不安が増していくんですけど!!!
私の心からの叫びと、声にならない叫びを両方とも無視して、崩壊していく周囲を落ち着き払った態度で眺める騎士団長。
「……あの辺か、いやもう少し右?いや下のような気がするな」
―――祈ろう。もう私に残された道は、祈りしかない。
ああ、慈悲深き女神ヴィシュヌ様、然程熱心な信者でなかったことは深くお詫びいたします、帰ったらお供え物を致します、何が良いですか、旬の果物が良いでしょうか。
……だからお願いいたします女神様、どうか、どうか騎士団長の勘がぴったり当たりますように!!!!
《女神も管轄外で祈られても困るじゃろうて》
冷静で無情な声が、聞こえた。
……カンカツガイ、私よくわからない、だから、金剛龍様私の希望を絶やさないでぇぇぇぇ!!!!!
祈りを断たれて項垂れる私に、するりと金剛龍様が寄り添う。
《まあ、そう不安になるでない。肉体保護くらいなら、まだわらわにも出来るでな。多少迷っても問題ない》
「あ、ありがとうございます、金剛龍様!!!!お供え物は何が良いですか!!!」
そう金剛龍様を拝むと、嬉しそうに《玉が良いのう》と予想以上に高い供え物を言われた。
……玉……陛下にでも頼もうかな……。
「きゅる!!!」
「え、ダドラも、頑張ってくれるの?」
いつの間にか騎士団長から逃れていたダドラが、金剛龍様と反対側に寄り添う。
いまいち詳細には伝わってこないが、心の支えをする、的な感じのようだ。
じゃあ、帰ったら蜂蜜沢山マーニャに用意してもらわなくちゃ。
いや、こうなったら誰かの権力を駆使してもらって、ダドラが食べきれないくらい集めるぞ!!!
「きゅる」
「ん?金剛龍様と同じ?え、うそ、ダドラが高級志向にっ!?」
我が子に裏切られた親の気分に浸っていたら、騎士団長がこちらに来た。
その足取りは自信に満ち溢れていて、とても唯一の帰り道を勘で決めようとしてる人には全くもって見えない。
「行くぞ、ルルリーア。そろそろここも限界のようだ」
そう上を仰ぐ騎士団長につられて、私も見上げる。
既に天井は崩落しきっていて、何処までも暗い黒い空間が広がっていた。
地面すらも端から崩れ、まだ広いとはいえ、今立っている場所も崩壊するのは時間の問題だ。
その、落ちてしまいそうなほど暗い空間に、迫る命の危機に、ぞわりと身体が震える。
寄り添っていたダドラを抱え込んでも、宥めるように金剛龍様に尾で撫でられても、それは収まらない。
今までだったら、きっと意地とか気合とかで、怖い気持ちにも不安な気持ちにも目を瞑って、勢い任せで進んでた。
……でも、それはもうできない。
知ってしまったから、どんな未来もあり得ることを。
解ってしまったから、選択肢の中に取り返しのつかないものもあることを。
騎士団長を見上げる。
羨ましい程平然とした顔が、こちらを見ていた。
ぎゅっと、ダドラを更に抱きしめる。……うん、決めたんだ。
帰ることを、騎士団長を信じることを。
細かく震える手を伸ばすと、力強く握り返された。
「――いくぞ」
「――はい」
騎士団長は私を片腕で抱えると、剣の切っ先をひたりと一所に狙いを定めた。
左肩にダドラ、右肩に金剛龍様を乗せ、騎士団長は腰を落とすと、勢いよく跳躍する。
――ぐっ、舌噛みそうだった、危なっ!
振り返ると、天眼竜様が崩れゆく空間の中一人、佇んでいた。
星を湛えていた目はありふれた茶色になり、超然とした空気は薄れていて、まるでただの少年のように見える。
その姿に、何かを言いたくて、言葉を探していたら、ぽろりと口から飛び出た。
「あ、えっと、い、いってきます!」
……あれ?違くない?いってきます、じゃなくない???
恐らくこれが天眼竜様との最後になるかもしれないのに、間抜けじゃない、私!?!?
少しだけ緊張感が弛緩してしまった空気のまま、跳んだ勢いに乗って、高さはどんどんと増していく。
―――崩れ落ちる空間の中、小さくなった天眼竜様が、ずっとこちらを見ているような気がした。
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飛び込んだ先は、色があるようでないような、奇妙な空間だった。
辛うじて先に進んでいる感覚はあるけれど、密度の濃い壁を潜り抜けているような圧迫感で、酷く苦しい。
回された騎士団長の腕に、力がこもる。
見上げると、歯を食いしばっている顔が見えた。
震える剣を持つ腕、白くなる程きつく柄を握る手。
……強大な力に負けそうな、私が観たことがない騎士団長の姿。
―――嫌だ。
ただ、抱えられているだけなんて、嫌だ。
少しでも助けたい、一緒に帰りたい、その思いを込めて、片手を伸ばす。
たったそれだけだったのに、切り裂かれるように腕が痛んだ。
その痛みに怯みつつも、少しずつ伸ばして、騎士団長の腕に添える。
……絶対、帰ろう。みんなの元に、私の世界に。
頭の上で、騎士団長が少しだけ笑った気配がした。
それに力を貰えた気がして、袖をぎゅっと握る。
目の前に、小さな光が見えた。
最後の力を振り絞るように、騎士団長の腕に力がこもる。
―――そして。
光を切り抜けたその先に、青い空が、見えた。
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放り出されるようにあっけなく、空に漂った。
一瞬の停滞の後、思い出したかのように、落ちる。……おち、る。
「お、落ちてるぅぅぅぅ!!!!」
高い、眼下に雲が見えるってことは、雲より上に居る。
このままだと、ぐしゃりと落下死だ、どうしよう!!!
……いやいや、いやいやいや、落ち着きなさいルルリーア。
大丈夫、こっちには天下の騎士団長がいるんですよ?
このまま落下し続ける訳が、な、い……。
「ぐぅ……」
「……え?」
…………え、え?
ぐぅって、なに?え、ねて、寝てるの??今?ここで、この場面で????
「お、おき、起きてっ、お願いします、騎士団長様!!!最後まで、地面に降り立つまでが帰り道だからぁぁぁぁ!!!」
渾身の力を振り絞って、騎士団長を揺さぶる。が、風の抵抗の所為で、強く揺さぶれた気がしない。
そしてなんたることだ、騎士団長は全く起きる気配がない。
どういうことなの、折角戻ってきたっぽいのに、また死の危機なんですけど!?!?!?
ぶわり、と雲を抜ける。
まずい、非常に、まずい。地面がどんどん近づいてくる。
遠目だけど懐かしき我らが王城が見えてきたというのに、騎士塔や城下町やらが見えてきたというのに。
帰って来れたという喜びも安堵も、微塵も感じない。
どうしようどうしよう、なにをすれば、どうしよう!!!!
そうして私が焦っている間に、どんどん人がたくさん集まっている地面に近づいていく。
あれ、ここって、もしや、王城の鍛錬場??
こちらに気付いたようで、誰かが指を射したらみんな一様にこちらを見上げた。
……じゃなくて、じゃなくてぇぇぇぇ!!!
たす、たすけて!!!!
手を振るというより風圧で只伸ばしただけになってしまったが、合図を必死で送ったのに、あちらはまばらに振り返してくれるだけ。
……ち、ちがうんです!!これ『おーい』じゃないの、騎士団長が、寝ちゃってるんです!!!!
サラやソラン君や、アイリーン様の顔が判別できるほど近づいて、ああもうこれは駄目だと目を瞑る。
―――ふわり。
身構えていた衝撃はなく、胃が浮くほどの浮遊感の後、落下が止まる。
薄目を開けると、騎士団長に抱えられたそのまま、地面に降り立っていた。
どうやら、直前に騎士団長が起きて、ちゃんと着地してくれたようだ。
…………よ、よかった……落下死するかと思った、本当に良かった……。
安堵のあまり、ぐったりと騎士団長にもたれかかる。
と、ぐらりと、視界が傾いた。
「……ぐえっ?」
「ぐぅ……」
あれという間もなく、成人男性の重みに潰される私こと、か弱い乙女。
―――嘘でしょ、まだ寝てるの?いやいやいや、お願いだから、起きて騎士団長!!!!!
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※読んでも読まなくてもオッケー、地上の様子だよ!
騎士A「なぁあれ、なんだ?」
騎士B「ん?鳥じゃないか?」
魔術師A「ばっか、今は緊急用の結界を魔術師団長自ら張ってんだぞ?ここに鳥なんて飛んでるわけないだろ?」
騎士A「え、じゃああの黒い影、なんだ?」
魔術師B「……今望遠魔法掛けるから待――お、おいあれ!騎士団長と、ルルリーア嬢だぞっ!?」
魔術師A「お、おいまじか、魔術師団長ー!戻ってきましたよーーー!!!」
魔術師B「なんか、妙だな……落下が速すぎる……」
騎士A「お前、俺らの騎士団長が一緒なんだぞ?大丈夫に決まってるだろ」
騎士B「そうだそうだ!あ、手振ってる!おーい!!」
魔術師B「うーむ……まぁそうか……でもなぁ、なんか、速いよなぁ……」
「「「嘘だろ、寝てたのかよ!?!?!?」」」
((でも寝てても着地できるとか、やっぱ騎士団長すげーーー!!))




