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【閑話】どうでもいいです青年は胃を苛まれる

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 あぁ、胃が痛い。


 妹が生まれて兄となった瞬間から、俺の人生は試練の連続だった。


 もちろん、赤子のときの妹ルルリーアは、赤子らしく可愛かった。

 ただただ、ばぶばぶと不明瞭な声を発し、こちらに母上特製のドラゴン人形を投げつけてくるだけだった。



 試練が始まったのは、リーアが自分の意志で行動出来るようになってからだ。



 目を離すと、色々な事を引き起こしてくるのだ。

(本人曰く、自分は何もしていないというが絶対に違う。)



 這うだけの時期はまだいい。

 庭師のトムが突如花壇に現れたリーアを見つけて腰を抜かしたが、拾って部屋に戻すことができるからな。ソレで解決だ。


 それに被害は屋敷の中だけ、父上が胃を痛め、母上が気絶するだけだ。



 二足歩行を始めてからが本番だ。・・・思い出しただけで胃が・・。



 伯爵令嬢として、初めての女児として、大切に警護されているはずのリーアが、何故か他国の商船に乗っていたり、父上の部下の養子になりかけていたり。


 リーアに理由を聞いても『あるいてたらおっきいおくちー』とか『ばしばししてたのー』とか幼子特有の理論で全くわからなかった。

 く・・・、回収しに行くのは俺なんだぞ!?



 しかし当時は本気で『養子に行かないかな』と思ったものだが、それも今思えば可愛いものだった。



 真の試練は、リーアに、あの魔王の友達が出来てからだ。


 名前を言うと恐らく察知されるから、名を言うことも憚られる彼女だが、驚くべきことにリーアと同い年の少女なのだ。

 魔王少女は我が領の隣領の伯爵令嬢で、実直な性格の騎士である伯爵から何故あのような恐ろしい娘が生まれたのか謎だ。大いなる謎だ。



 そう、魔王少女が友だちになってから、事態が俺の手に負えなくなった。



『こぶんができたのー』と言うので調べると、自領に20人規模の自警団のようなものが出来ていたり。

 ・・・・・裏組織への偵察までしていたので、我が家への火の粉を払うのに苦労したなぁ・・・。


『わるいひとがいたのー』と言うので調べると、海賊らしき一団が居たような残骸があったり。

 ・・・・・違う領へ行ったようなので慌てて警告を出した。あのときは戦争が起きるかと思った。


『変な物を売りつけられた』と言うので調べると、密航船が停泊していたり。

 ・・・・・違法薬物を売っていたので逮捕できた。これはお手柄だな。父上母上は倒れたけど。


 全部後始末だな・・・。しかしリーアから話を聞かなければわからなかったので、我が家では家族会議が必須となった。



 ある事件・・・・に遭ってからは大人しく、はなってないが、少なくとも回避行動はとるようになった。

 もしかしたら、俺の知らないナニカが起きているのかもしれないが、今のところ我が領への影響はない、はずだ。




「兄様っ!聞いてます??」



 憤慨するリーアに向けてチョコを放り投げると、器用に口で受け取る。・・・一応貴族なんだから、手で受け取りなさい。


 幸せそうに顔を緩めるリーアを見て、妹が学園へ行っていた間は平和だったな、と胃の辺りを握りしめる。



 卒業早々、『国王専属愚痴聞き係』なんていうめんど・・・名誉な役を任じられ、王弟殿下と騎士団長に目をつけられるとは・・・。

 一応高位の方々への対応は成長していると思うが、厄介事を成長させるのは止めてほしい。本気で止めてほしい。



「あぁ、聞いている聞いている。王弟殿下に迫られて陛下に相談事を頂いて騎士団長閣下に勧誘されたんだっけな」



 ・・・自分でまとめておいて何だが、あまりの事態に意識が遠のきそうだ。

 俺はお前と違って繊細なんだよ。



「ひどいっ!そこじゃないわっ!殺気ぃぃ!殺気を向けられたのよ!!私淑女なのに!!」



 リーアが淑女じゃないのは周知の事実なのに、最近自分のことを『淑女』というのが妹の流行りらしい。


 ・・・・・・そこは兄が敢えて触れなかったところだよ、妹よ。

 王国最強の騎士に殺気向けられて耐えられる淑女は居ない。賭けても良い、いない。この世に存在しない。



 居るのは同じ強者だ。よかったな、騎士団長の嫁か、大出世だなリーア。



 ・・・・・・・・・・いやいや待てよ?妹の夫・・・つまり俺の弟に騎士団長・・・。



 無理無理、絶対無理だ。胃が持たない。

 あんな強くて美丈夫な男に『兄』なんて呼ばれた日には、俺の胃は爆発する。父上と母上は儚くなりそうだな。




「逃げろよ。全力で、頑張れリーア」




 胃がシクシクと痛むのを宥めながら、妹へ応援の意を込めて、チョコをもう一つ投げてやった。






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