2話
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「今日の愚痴はのう・・・」
王弟殿下の執務室から廊下に一歩出た瞬間、近衛騎士様に拉致、もとい連行されました。
そうして放り込まれた応接間で、すぐさま陛下からの愚痴が始まりそうだったので、先手を打つことにしました。
「あのー陛下。もう愚痴係は良いんじゃないでしょうか」
そろそろと手を上げて陛下へ提案する。
だってアイリーン様は今婚約を自粛してて、来た縁談も全部断ってるっていうし。
公爵家の仕事に専念するって言ってたし。
もう愚痴なんて溜まらないんじゃない??もう私を解放してくれても、いいんじゃなかな??
「この頃は、アイリーン嬢関係は平穏なんじゃがのう・・・」
何故か私をジト目で見る陛下。私に心当たりはまったくない。
え?なになに??私が言ったの正解でしょ??もう愚痴係必要ないよね??
「ルルリーア嬢関係で、愚痴が溜まっておる」
「うぐっ!!そ、それは私には不可抗力ですぅぅぅぅ!!??」
またかぁぁぁ!!王弟殿下と一緒か陛下ぁぁぁ!!!
流石は兄弟ですね!ってほんと私にはどうしようもないんですよ!!!
叫んだ私を放置して、陛下は後ろに控えている従者さんへ合図を出す。
「まあ、愚痴はさておき、今日は別の用事があるんじゃ」
陛下がそう言うと同時に、従者さんが陛下と私の間に、ドサリ、と紙の束を置く。
その衝撃で一枚、紙の山からはらりと落ちる。
え?何か人の絵と細かい文字が・・・??
「ルルリーア嬢のお見合いに必要な、釣書じゃ」
「・・・・・・・・・・えぇぇええええ!!!??わ、私に、ですか!!??」
いや確かに、私婚約者いないし、どうしようかなって思ってる次第なんだけど。
陛下に紹介してもらうなんてそんなめんど・・面倒な事にしかならないし、出来れば遠慮したい。
戸惑う私に構わず、陛下は次々と絵姿を見せてくる。
最新の技術で描かれているみたいで、かなり緻密だ。
って、嘘でしょ、王弟殿下まで居るぅぅぅぅ!!???
ああ、王弟殿下の釣書なんて見ちゃったよ絶対呪われるぅぅぅ!!!
「ほれ、よりどりみどりじゃぞ??パーシアスのやつも・・いい男だと思うしの」
「いや、王弟殿下はちょっと・・・・」
さっき会ってきたけど、あの王弟殿下、やっぱり底の知れない何かがある。
私じゃ絶対に対抗できないし、多分婚約しても結婚までの間にあの絶対零度によって凍死するに違いない。
それはつまり命の危険があるということだ。是非ともお断りさせて頂きたい。
本来であれば、王族からの御達しを我が弱小伯爵家が断ることなんて以ての外、口に出すのも不敬なのだ。
がしかし!他にも釣書があるってことは、王弟殿下断る余地があるってことだよね???
「ほう・・・それでは最近仲の良い、ソランはどうじゃ?」
「うぇっ!?ソラン君は友達で・・・」
「ふむ、では、ルルリーア嬢も知っている学園長もどうじゃ?侯爵家じゃしのう」
「え、ちょ、ちょっと待っ」
「あとはのう・・・魔術師団長も良いし辺境伯も年齢が近くて丁度よいのじゃないか??」
「へ、陛下!!ちょっと待って下さい!!!」
次から次へと絵姿を示す陛下へ、堪らず制止する。
一体どうしたんだ?陛下は。だって、今迄そんな話なんてしなかったのに???
「急に私に縁談など・・・どうしたのです??」
私が尋ねると、すっと陛下の表情が変わる。
さっきまでの楽しげな雰囲気ががらりと変わり、急に厳粛な空気になった。
「ルルリーア嬢は、既に我が国にとって重要な立ち位置に居るのでな。王家に連なる家か、権威のある者と正式に婚姻してもらわんと、計り知れない火種になるんじゃよ」
厳かな声で告げる陛下に、失礼にならないようこっそり息を吐く。
えぇ・・・うわぁ・・・私そんな立ち位置にいつの間になったんだ・・・・。
めんどくさ・・・責任重大ですねぇぇぇ??なんでだろう、やっぱりあの忌々しい二つ名かな。
ああもう返上したいぃぃぃ!!付けたの誰だぁぁぁ!!
「なんと言っても、ルルリーア嬢と結婚すれば、もれなくドラゴンが一体ついてくるからのぅ。実のところ他国からの打診が煩くてかなわん」
そんなおまけみたいな・・・いやこの場合私がダドラのおまけってことか。
ってぇぇ!!そんなドラゴン目当ての他国へお嫁に行きたくないぃぃぃ!!!
憤りつつも、先程の陛下の話の、ツッコミどころ満載なお見合い相手の部分で、少し引っかかったことを素直に口に出す。
「あの・・・騎士団長は・・・??」
・・・・・・・・・・・あっいやそのね???
べ、別に、騎士団長と結婚したいとかじゃなくてただ魔術師団長が候補で騎士団長がいないのは変だなと思っただけなんですからね!!???
と何故か言い訳がましく考えていると、陛下が目を細め為政者の顔になった。
・・・その圧に、思わず身体に力が入る。
そんな私に、陛下はゆっくりと口を開く。
「ライオネルだけは、駄目じゃ」
普段とは違う陛下の冷たい声に、ひやりと鳥肌が立つ。
・・・・え、そう、なんだ。・・・でも、騎士団長だけが駄目って、なんで??
疑問に思ったのがバレバレだったんだろう、陛下はそのまま話を続けた。
「『竜騎士の花嫁』のみであれば最適じゃったろうが、『救国の聖女』であり『竜の寵愛』たる令嬢となってしまった以上、確固たる血筋と他国と渡り合える才覚のあるものでないと、守りきれん。・・・あれは血の分からぬ奴でな・・・・。そういった意味でも、今のルルリーア嬢には相応しくない」
・・・それにしても、と思う。(一つ何か厄介なものが増えてるような気がするが、聞かなかったことにしよう)
陛下の『血の理解らぬ』の言葉に、言い様のない違和感を覚えた。
異国人であるヴィディカ様を騎士団長として受け入れ貴族との結婚を許すほど、他の王権国家ではあり得ないほど、陛下は寛容な方だ。
なのに、血で、生まれで、そこまで言うなんて、何かが可笑しいとしか思えない。
ふと思い出す。あれ、騎士団長って貴族の出って聞いたことあるよ??
「確か、騎士団長は前前騎士団長の子息、だったかと?」
「そうじゃ。・・・詳しい説明は省くが、『俺の子ではない』と本人がはっきり言っておっての。聞いても奴は・・・」
そこで言葉を切って顔を顰める陛下。
その態度に嫌な予感しかしない。
「化物の子、じゃと」
「なんですかそれ」
反射的に応える。ぎりり、と無意識に歯を食いしばった所為で、唸るような声になってしまったが気にしない。
息子にしといて何なのソイツ。ちょっと、じゃない大分腹立つなソイツ。
そんな暴言吐くなら、なんで息子にしたのさ、ぐぁぁ!!イライラしてくるぅぅぅ!!!
・・・・ちょっとまって?陛下はその言葉で、騎士団長が私に『相応しくない』としたの??
「・・・陛下はそれを信じたのですか?」
若干低い声で苛立ちを隠さない私に、陛下は寂しそうに笑う。
「わからん、わからんのじゃよ。調べれば調べる程、人間には有り得ん結果になるのでな・・・。止めてしもうた」
陛下の、その言葉に息が止まった。その悲しげな表情に胸が傷んだ。
多分陛下は力を尽くしたんだろう、そんなことなどないと、お前は人間だと、言いたかったんだろう。
そう思ってしまう程、陛下は沈んだ目をしていた。
私は、目を瞑って騎士団長を思い出す。
あの無表情を、殺気を、失礼な笑い顔を思い出す。
・・・・確かに騎士団長は、人の枠に収まらない程、物凄く強いし鉄仮面だし殺気ぶつけてくるし。
---だとしても。
「騎士団長は、騎士団長に変わりないし」
ぽつりと、陛下に返事をしたわけでもなく、呟いた。
だって、一度も会ったことがない人ならいざ知らず、今更騎士団長が人じゃないかも、なんて聞かされてもねぇ。
これまで私を振り回したり命を助けてくれたことが、そんな事で無かったことになる訳じゃない。
・・・・そうでしょ?
真っ直ぐ見る私に、陛下は少し目を張った後、嬉しそうに笑った。
そして、次の瞬間、悪戯を考えついた様な笑顔に変わる。
「なんじゃルルリーア嬢。随分とライオネルの奴の肩を・・ほうほうそうかそうか、ルルリーア嬢は・・・そうかそうか」
「ちょ、なんですかぁぁぁ!!なにが、そうか、なんですかぁぁぁ!!??」
いやいやいや、これは、ほら、普通の反応ですからね??
べべ、べつに、騎士団長が、その、特別とか、そういうんじゃないんですからねぇぇぇ!!??
「若いとは良きことじゃのう。ま、結婚の邪魔はするがの」
「結局そこに戻るんですかぁぁぁ!!!邪魔とか、いやそのだから・・・陛下ぁぁぁぁ!!!」
叫ぶ私をまるっきり無視して、陛下は何故かウキウキした様子で山となった釣書を私にぐいぐい押し付けてくる。
その山の一番上は王弟殿下だ。やばい、目が合った、凍らされるぅぅぅぅ!!!
「さぁさぁ、どの者にするんじゃ?わしのオススメはやはりパーシアスが」
ちょっと待てぇぇぇ!!さっきまでの真剣な空気はどこへ行った、王弟殿下は嫌だって言ってるでしょ、整理、整理させろぉぉぉ!!!
色々ブチ込まれてこっちは何から考えていいか、わからんてばぁぁぁ!!!
ぐるぐると考えすぎて、ぱっと思いついた事をもうヤケだと叫ぶ。
「ほ、保留でぇぇぇ!!保留でお願いしますぅぅぅ!!」
「いや、仮にもわし国王じゃから。国の頂点じゃから。保留とか許さんぞ?」
ぐぬぬ、なんてことだ。この素晴らしい提案を即座に却下するとは!!
いやいや待つのよ、ルルリーア。
そう、今大ピンチなのよ私!!よぉぉぉく考えるのよルルリーア!!
高位貴族とか色々と大変そうなものに、私成りたくない。
こちらに選択肢があるのであれば是非回避したい。
一つ方法が閃いた。・・・・完全なる他力本願だ。
だけど、効くかどうかもわからないけど、一か八か、あの手に賭けるしか無い!!
「ヴィディカ様とイザベラさんのお気に入り特権で保留でお願いしますぅぅぅ!!!」
私がそう叫ぶと、一気に顔色の悪くなった陛下の手から、釣書がはらりと落ちる。
「あ、悪夢のお気に入り・・・じゃと!!???」
ガタガタ震え始める陛下。顔が青を通り越して白になっていく。
え?そんなに??そんなに怖がるの??我が国の国王陛下なのに??
・・・一体陛下に何したんですか、ヴィディカ様イザベラさん!!!
釣書を握り潰しながら、震える声で陛下が私へ伺うように言う。・・・ほんとそんなに??
「・・・わ、わかった、保留、保留じゃな??保留にすれば、あの悪夢たちに何も言わんのじゃな!??」
「えっ、はい」
ほう、と胸をなでおろす陛下。
・・・これは選ばずに断るって手もあるんじゃないか??なーんて思っていたら幻影の兄様に微笑みながら『馬鹿かお前は、全部断ったら生涯独身だぞ』と言われた。酷い。
いや確かに、幻影の兄様の言うことにも一理ある。言い方は納得出来ないけど。
ここで全部断っちゃったら、私何処にも引き取られないな。
だって皆身分高いだろうし、それを断った私と結婚をしようなんて奇特な人はそうそういないだろう。
・・・・・・・・・あれ?なんでだろう。
私、平和で穏やかな未来を生きていきたいのに、なんで公爵侯爵王家とか大変そうな嫁ぎ先しかないのだろうか。
どんより沈む私へ追い討ちをかけるように、陛下が曰う。
「しかしそうか、ルルリーア嬢の好みはライオネルか・・・。外見ならパーシアスも負けておらんぞ??」
「だからそうじゃないです王弟殿下は絶対に嫌だぁぁぁぁ!!!」
その後、陛下は、ところどころで王弟殿下を推しつつ、愚痴をたっぷり私に聞かせました。
私に関する愚痴を私に言うとかどういうことなんですぅぅぅ!!???
こうなったら絶対に愚痴係なんで辞めてやるぅぅぅ!!!
・・・・いや違うそっちじゃない、お見合い・・・どうしよう、決めなきゃ、駄目かな・・・。
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