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10話

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 調査の対象である例の黒いアレが、こっちに向かってきます。


 なんでなのぉぉぉ!!??

 こういう時ってアレを調べてる人たちの方に、そう、例えば魔術師団長とか魔術師団長とか魔術師団長とか、そっちに行くでしょぉぉぉ!!??



「に、逃げないとっ!!」



 隣を見ると、顔を蒼白にして目を見開いて固まる少年辺境伯。

 その手を力の限り引っ張ったが、全く動かない。びくともしない。

 私より・・いや私と同じくらい細いのに、なぜ・・?


 少年辺境伯を見ると、その背には大きくていかめしい、ハンマーが。


 ・・・ソイツのせいかぁぁぁ!!!道理で重いと思ったぁぁぁ!!

 ってそんな場合じゃない、うわ、もう黒いのが目の前にぃぃぃ!!???


 硬直する少年辺境伯を置いて避けることも出来ず、瞬くのも忘れ、その忌々しい黒を凝視して。



 ----そして、次の瞬間、薄茶色の壁が立ち塞がる。



「ガァァァァァアアアッ!!!!」



 少し首を引いた駄ドラの口元に光が集まったのが見え、咆哮と共に視界が白い光に包まれた。

 咄嗟に庇った手首の表面を熱気が掠め、チリチリと軽い痛みが走る。



 ----これは、ドラゴンブレス、だ。



「だ、だどらぁぁーーーーー!!!」



 あ、あり、ありがとうぅぅぅ!!!もう帰ればいいのにとか、思わないよぉぉぉ!!!


 ドラゴンブレスによって散らされて黒いやつが、歪な球体にまとまる。

 これは諦めたか?とホッとしたのも束の間、帯状になってこちらを伺うように揺らめく。


 こ、これは、また来る感じ、だよねぇぇぇぇ!!??

 もうっ!!なんなの、あの黒いグニャグニャ!!ほんとにしつこいよ!!



「は、はやく行くよっ!!ほら、立っ----」



 少年辺境伯を急かすが、細かく震える彼はやはり動かない。

 ・・・理解るけど、私だって怖いけど、動いてよぉぉぉ!!!


 揺らめいていた黒いアイツが、こちらを囲い込むかの様に、無数の帯になって八方から迫る。

 これじゃあ、範囲が広過ぎて、ドラゴンブレスで対抗するのは無理だ。


 思わず、少年辺境伯の前に一歩踏み出す。

 別に庇おうとかそういうのじゃなくて、反射で。本当に、無意識で。


 ・・・でも、これからどうしようぅぅう!!!???何も考えてなかったぁぁぁ!!!



「ガゥゥゥウウッッッ!!!」



 いつもと違って鋭く吠えた駄ドラが、黒い帯を引きつけるかのように羽根を広げて飛び立とうとする。

 それに反応するかのように、黒い帯の勢いが緩む。


 何この頼もしさぁぁぁ!!ほんとに、駄ドラなのぉぉぉ!!??

 さっきのドラゴンの誰かと、入れ替わってないよねぇぇぇ!!??


 ふわりと宙に浮く駄ドラ。に引っ張られる、鎖。・・・く、さり??

 駄ドラが離れるにつれて、手首に繋がっている魔法の鎖がカラカラと音を立てて、どんどん持ち上がっていく。


 ま、まって駄ドラぁぁぁ!!!手首が、私の手首が引き千切れちゃうぅぅぅ!!!


 咄嗟に固定魔法陣を足場にして、駄ドラに飛び乗る。

 ・・・ふう、これでひとまず、私の手首は安泰だ。


 無事その背に着地した途端、グンッと駄ドラの高度が上がる。

 そして当然のことのように、黒いウニャウニャの複数の帯が、後を追って来た。


 ほうほう、やはり駄ドラか、もしかしたら限りなく低い可能性で私、が標的ですか、そうですか。


 ・・・やっぱりこっちに来るのかぁぁぁぁ!!??

 いや少年辺境伯は助かったから、いいか・・いや、私がピンチだよ、よくなぁぁぁい!!!


 全く、この腕輪のせいで駄ドラについて来ちゃったよ、酷い目に合ってるわ私。

 誰なのよ、これ嵌めようとか言い出したの。


 んー、しかし、腕輪、そう・・・うで、わ。取り外し、可能の、腕輪。


 黒いアレから遠ざかろうと羽ばたく駄ドラの背中で、項垂れる。



 ・・・・・・・ま、間違えたぁぁぁ!!これ、腕輪、外すだけでよかったやつだぁぁぁぁ!!!



 暫く、世の無常について、私の迂闊さについて考え込む。

 その間にも、駄ドラは高度をぐんぐんと上げていく。わあ、地上が遠いなー。


 ・・・いいや、こうなったらヤケだ。

 何を、かはともかくとして、もうとことんやってやろうじゃないか。


 なんたって現状飛び乗ってしまった以上、駄ドラについて行くしか、選択肢無いしね!!!



 いろんなものを振り切って見渡すと、海面上に浮いていた球体すらもがこちらへ向かうのが見えた。



 ・・・・これ、私にどうしろ、と???




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「ル、ルルリーアじょうーーー!!??」



 ああ、少年辺境伯の声が、とっても遠くに聞こえる。


 ヒュン、という音が耳元を通り過ぎた。

 ・・・あのー駄ドラさん??黒いのが結構、近いなーなんて思うんですがー??


 四方から来る黒いアイツを、駄ドラが空を滑るように紙一重で避ける。



 い、いま、わたし、ふわって浮いたぁぁぁ!??背中から落ちるかと思ったぁぁぁ!!!



 駄ドラの羽根の付け根を必死で掴んでいるが、駄ドラの体勢によっては私の身は危うい。

 コレは不味い。落ちながら固定魔法陣なんて、私展開できない。

 ちなみに泳げないので、落ちたらそのまま海で溺れ死ぬ。そんな最後は嫌だ。


 手元の鎖をちらりと見る。・・・・やっぱりこれしかないかな。

 ふう、と息を整えて覚悟を決める。


 駄ドラが旋回して身体が押し付けられた瞬間を狙って、魔法の鎖消す。

 そして素早く私と駄ドラを纏めるように巻き付けて、鎖をぎゅっと締める---この間2秒(多分)。


 ・・・いやったぁぁぁ!!成功した!!

 ちょっと落ちそうになったけど、これで私の胴体が二つにならない限り、落ちはしないだろう・・・あっ想像しちゃった。

 もうこのまま飛んで王都に帰ろうよ、駄ドラ!!!


 黒い帯が、まるで剣のように鋭く突き立てようとしてきた。

 それを、少しだけ身体をずらして通り抜ける駄ドラ。


 ぞわり、と何かが背筋を駆ける。恐怖、あるいは歓喜・・・歓喜??

 ・・・私、なんで喜んでるの?この危機的状況を??


 私が考え込んでいる間にも、駄ドラは黒と黒の隙間を縫うようにひらりと躱す。

 その時に、地上に対して完全なる垂直になった駄ドラの背中から、右に青い空、左に青い海が、目に映る。


 ---なんなの、これ怖いぃぃぃ、それに、なんてたのしいんだろう!!!・・・・え??


 自分の心に湧き上がった、『たのしい』と言う気持ちに、酷く違和感を覚える。

 いやいや、だから私楽しくないって・・・。



「キュルゥゥゥ!!」



 駄ドラの楽しそうな声が、流れ聞こえた。・・・駄ドラは、楽しそう。楽しそう???


 左手が光っている。駄ドラの額も光っている。

 ・・・・・・ってことはつまり、あの妙ちくりんな龍紋のせいで、駄ドラの感情が私に流れてきているってこと???



「キュキュゥゥゥ!!」



 嬉しそうに声を上げる駄ドラに合わせて、私に嬉しいという気持ちが流れてくる。



 ---お、お前かぁぁぁぁ!!!駄ドラぁぁぁぁぁ!!!!



[----ちゃん、嬢ちゃん、聞こえてるか??]

「・・・え??魔術師、団長???」



 首元から、魔術師団長の声が聞こえる。

 ちょっと待って、今驚愕の事実が、発覚したところだから・・・・って、え?なんで??魔術師団長の声???



[聞こえてるみてぇだな。こんな事もあろうかと、やった石に通話機能つけといて正解だったな]

「!?何つけてりゅっ、っっったぁぁ!!」



 舌、噛んだぁぁぁ!!急に回転しないでよ駄ドラァァァァ!!



[まあ、試験的なもんだし、今んとこ短距離しか出来ないがな]



 ちょっとぉぉぉ!!なんで普通の世間話みたいになって・・うわあぁぁあ!!だから急降下するときも何か合図出してよ駄ドラァァァァ!!



[ってのは置いといて。面白いことになってんなぁ?嬢ちゃん]



 面白くない。全然面白くない。代わってくれ魔術師団長。


 と無言の抗議をしていたら、四方八方から来ていた黒いグニャグニャが、減った???


 下を見ると、幾つかの魔法陣で壁になって遮られているのと、あ、少年辺境伯もハンマーで叩いて反らしてくれて・・・って力尽くだな!!



[ルルリーアちゃん!!大丈夫、じゃないよね!もうちょっと頑張ってー!!]

[ルルリーア!解析するまで持たせて!!絶対助けるから!!]



 レナルドさぁぁぁぁん!!ミシェルさぁぁぁぁん!!

 まともに心配してくれてるぅぅぅ!!!ありがとうございますぅぅ!でも、早く、早くお願いしますぅぅぅ!!



[それにしても推測が当たらねぇ当たらねぇ。参るぜこりゃ]


[団長!そういうこと言うとか気遣いとかないのか!!]

[団長の鬼!!空気読まない!!]

[女性への気遣いは紳士の義務です!!]


[・・・お前らな]



 少年辺境伯の声も聞こえる。


 ・・・なんだか、未だに危機的な状況だし全く解決してないんだけど、駄ドラの感情じゃなくて、私自身のもので笑みが零れた。

 ああ、全部、皆に預けちゃって大丈夫。


 だから、私は私の出来ることをしなくちゃ、ね?駄ドラ・・・うん、ダドラ。


 鱗を撫でると、気持ちいいと返ってくる。

 こんな状況なのに、ホント相変もわらず呑気だな、ダドラは。



 ---ねぇ、アレ、どうにか出来る?



 問いかけると、素直な感情が返ってきて、まあ一言で言うと『わかんないっ!!』・・・さいですか。


 避けきれなかった黒に、ダドラがブレスを放つ。

 うわぁ!!!近っ!熱っ!!怖っ!!!


 直撃して、塵のように細かく散った黒いのが、また集まって形となる。

 あれじゃもう無限じゃないか、無理だ[今ので思いついたぞ]・・・わー流石魔術師団の長なだけあるわー。



[恐らくあの黒い奴は魔力や物体を取り込む、しかも空間の亀裂による現象が「そこ割愛で」・・・ちっ]



 だからっ!!こっちは今、絶賛襲われ中なのっ!!ちゃんと見てよこの状況をっ!!!



[あの黒い奴の一番大きい塊に近距離でドラゴンブレスを、と頼めるか?]



 ほほう、なるほど、あの無数の黒いグニョグニョを避けて避けて避けまくって、私とダドラがその大本に到達すればいいのね。

 ・・・ウネウネしてるあの中に、突っ込むのか・・・。



[そうしてくれりゃ、後は俺らが何とかする]



 そう言われたら、全部預けちゃった私としては、やりましょうの選択肢しかないわけで。



 ---ダドラ、やれる?



 返事代わりに、高揚した感情と決意みたいなものが、私に流れてきた。


 ・・・上等上等。それでは、やろうじゃないかダドラよ。

 私の感覚もわかるんでしょ?


 さあ、視覚も聴覚も触覚も、全てをお前に明け渡そうじゃないか。

 その気持ちに応えるかのように、ダドラが私を通して見ているのが理解る。



 ---私はあの黒い塊から、目を離さない。だから好きに飛んで。



「行きます」

[・・・ああ]



 言葉は短かったけれど、魔術師団長はわかってくれたみたいだ。


 散らばった決意を吸い込むように、深く息を吸う。

 何も言わなかった、何も伝えなかった。けど、私が息を吐くと同時に、ダドラが黒い塊を目指して急旋回した。


 無数の魔法陣が、ダドラの周りを囲む。

 それはドラゴンブレスのように塵にはならないが、進行方向を変えさせることはできるようだ。

 ---それでも皆無にはならない。


 その零れた黒いアレを、少年辺境伯が叩いて減らしていく。

 ---それでも完全ではない、でも。


 黒い帯の多くが視界から消え、ダドラの速度がぐんと上がる。



 飛びやすくなって嬉しい・・そうだね皆のお陰だ。

 一緒に飛べるのが楽しい・・うんわかってるよ。


 流れ込んでくる歓喜と高揚感に溺れそうになるのを、ぐっと堪える。

 私が目標を見失ったら、駄目なんだ。



 ---さあ、彼処へ向かって。



 ひらりと宙を舞うと、一瞬の停滞の後、切り裂くように垂直に降下する。

 浮き上がる胃を気合で押し込んで、ひたすら黒い球体を睨みつけた。


 そんな私達を迎え入れるかの様に、空を埋め尽くすかの様に、黒い帯がその数を増やした。

 肉薄する黒い存在に、恐怖で喉が引き攣る。でもやけくそ気味ににやりと笑う。


 ---そんなんじゃ、止まらないけどね?



 黒い帯を潜り抜けて魔法陣の間を縫って、漸く目の前に黒い空間が広がった。



 ---やろう、ダドラ。

「ガァァァァァアアアッ!!!」



 青白い光が、甲高い音を立てて黒を貫く。



 《---------!!!!》



 無音の悲鳴のような振動が、空気を震わせる。


 そのまま通り抜け、海面に飛沫を上げさせながら旋回して様子見。とする間もなく、黒い奴が在った場所に、大きな魔法陣が二つ、挟み込むように展開されていた。


 そのままカチリと重なると、輪になった光が空を走る。


 --- 一瞬遅れて、衝撃波が襲ってきた。


 その強風に煽られて、ダドラが体勢を大きく崩す。


 うわっ!!ちょっ!!揺れる傾く落ちる千切れるぅぅぅぅ!!!!

 いだっ!!痛いぃぃぃ!!お腹がぁぁ!!お腹に鎖が食い込むぅぅぅ!!!


 そんな私の感情を察知してくれたのか、ダドラが身体を水平に戻してくれた。

 危うく二つの私になるところだった・・・。危ない危ない。


 落ち着いた所でさっきまで黒い球体が在ったところを見る。

 そこには欠片も黒いものはなく、綺麗な空が広がっていた。



 ・・・・・・終わった??終わったんだよね??


 いやったぁぁぁぁ!!私生きてるぅぅぅ!!!

 勝った、あの黒いグニャグニャに、勝ったぜぇぇぇ!!!



「大勝利だね!!ダドラ!!」

「キュルゥ???」



 何を言ってるの?とばかりの、困惑の感情が伝わってくる。

 ・・・・・・そこは乗ってきてよ!!!ダドラァァァ!!!!



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※ひっそりと・・・

【第1回HJネット小説大賞】を受賞致しましたー(小声)わーぱちぱち。

これも偏に読んでくださっている皆様のお陰でございます。

(作品紹介に『ラブコメディー』と書かれていて、びびってなんて、いませんよ?タグだって恋愛だし、恋愛・・いないけど・・・くすん)

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