10話
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調査の対象である例の黒いアレが、こっちに向かってきます。
なんでなのぉぉぉ!!??
こういう時ってアレを調べてる人たちの方に、そう、例えば魔術師団長とか魔術師団長とか魔術師団長とか、そっちに行くでしょぉぉぉ!!??
「に、逃げないとっ!!」
隣を見ると、顔を蒼白にして目を見開いて固まる少年辺境伯。
その手を力の限り引っ張ったが、全く動かない。びくともしない。
私より・・いや私と同じくらい細いのに、なぜ・・?
少年辺境伯を見ると、その背には大きくて厳しい、ハンマーが。
・・・ソイツのせいかぁぁぁ!!!道理で重いと思ったぁぁぁ!!
ってそんな場合じゃない、うわ、もう黒いのが目の前にぃぃぃ!!???
硬直する少年辺境伯を置いて避けることも出来ず、瞬くのも忘れ、その忌々しい黒を凝視して。
----そして、次の瞬間、薄茶色の壁が立ち塞がる。
「ガァァァァァアアアッ!!!!」
少し首を引いた駄ドラの口元に光が集まったのが見え、咆哮と共に視界が白い光に包まれた。
咄嗟に庇った手首の表面を熱気が掠め、チリチリと軽い痛みが走る。
----これは、ドラゴンブレス、だ。
「だ、だどらぁぁーーーーー!!!」
あ、あり、ありがとうぅぅぅ!!!もう帰ればいいのにとか、思わないよぉぉぉ!!!
ドラゴンブレスによって散らされて黒いやつが、歪な球体にまとまる。
これは諦めたか?とホッとしたのも束の間、帯状になってこちらを伺うように揺らめく。
こ、これは、また来る感じ、だよねぇぇぇぇ!!??
もうっ!!なんなの、あの黒いグニャグニャ!!ほんとにしつこいよ!!
「は、はやく行くよっ!!ほら、立っ----」
少年辺境伯を急かすが、細かく震える彼はやはり動かない。
・・・理解るけど、私だって怖いけど、動いてよぉぉぉ!!!
揺らめいていた黒いアイツが、こちらを囲い込むかの様に、無数の帯になって八方から迫る。
これじゃあ、範囲が広過ぎて、ドラゴンブレスで対抗するのは無理だ。
思わず、少年辺境伯の前に一歩踏み出す。
別に庇おうとかそういうのじゃなくて、反射で。本当に、無意識で。
・・・でも、これからどうしようぅぅう!!!???何も考えてなかったぁぁぁ!!!
「ガゥゥゥウウッッッ!!!」
いつもと違って鋭く吠えた駄ドラが、黒い帯を引きつけるかのように羽根を広げて飛び立とうとする。
それに反応するかのように、黒い帯の勢いが緩む。
何この頼もしさぁぁぁ!!ほんとに、駄ドラなのぉぉぉ!!??
さっきのドラゴンの誰かと、入れ替わってないよねぇぇぇ!!??
ふわりと宙に浮く駄ドラ。に引っ張られる、鎖。・・・く、さり??
駄ドラが離れるにつれて、手首に繋がっている魔法の鎖がカラカラと音を立てて、どんどん持ち上がっていく。
ま、まって駄ドラぁぁぁ!!!手首が、私の手首が引き千切れちゃうぅぅぅ!!!
咄嗟に固定魔法陣を足場にして、駄ドラに飛び乗る。
・・・ふう、これでひとまず、私の手首は安泰だ。
無事その背に着地した途端、グンッと駄ドラの高度が上がる。
そして当然のことのように、黒いウニャウニャの複数の帯が、後を追って来た。
ほうほう、やはり駄ドラか、もしかしたら限りなく低い可能性で私、が標的ですか、そうですか。
・・・やっぱりこっちに来るのかぁぁぁぁ!!??
いや少年辺境伯は助かったから、いいか・・いや、私がピンチだよ、よくなぁぁぁい!!!
全く、この腕輪のせいで駄ドラについて来ちゃったよ、酷い目に合ってるわ私。
誰なのよ、これ嵌めようとか言い出したの。
んー、しかし、腕輪、そう・・・うで、わ。取り外し、可能の、腕輪。
黒いアレから遠ざかろうと羽ばたく駄ドラの背中で、項垂れる。
・・・・・・・ま、間違えたぁぁぁ!!これ、腕輪、外すだけでよかったやつだぁぁぁぁ!!!
暫く、世の無常について、私の迂闊さについて考え込む。
その間にも、駄ドラは高度をぐんぐんと上げていく。わあ、地上が遠いなー。
・・・いいや、こうなったらヤケだ。
何を、かはともかくとして、もうとことんやってやろうじゃないか。
なんたって現状飛び乗ってしまった以上、駄ドラについて行くしか、選択肢無いしね!!!
いろんなものを振り切って見渡すと、海面上に浮いていた球体すらもがこちらへ向かうのが見えた。
・・・・これ、私にどうしろ、と???
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「ル、ルルリーアじょうーーー!!??」
ああ、少年辺境伯の声が、とっても遠くに聞こえる。
ヒュン、という音が耳元を通り過ぎた。
・・・あのー駄ドラさん??黒いのが結構、近いなーなんて思うんですがー??
四方から来る黒いアイツを、駄ドラが空を滑るように紙一重で避ける。
い、いま、わたし、ふわって浮いたぁぁぁ!??背中から落ちるかと思ったぁぁぁ!!!
駄ドラの羽根の付け根を必死で掴んでいるが、駄ドラの体勢によっては私の身は危うい。
コレは不味い。落ちながら固定魔法陣なんて、私展開できない。
ちなみに泳げないので、落ちたらそのまま海で溺れ死ぬ。そんな最後は嫌だ。
手元の鎖をちらりと見る。・・・・やっぱりこれしかないかな。
ふう、と息を整えて覚悟を決める。
駄ドラが旋回して身体が押し付けられた瞬間を狙って、魔法の鎖消す。
そして素早く私と駄ドラを纏めるように巻き付けて、鎖をぎゅっと締める---この間2秒(多分)。
・・・いやったぁぁぁ!!成功した!!
ちょっと落ちそうになったけど、これで私の胴体が二つにならない限り、落ちはしないだろう・・・あっ想像しちゃった。
もうこのまま飛んで王都に帰ろうよ、駄ドラ!!!
黒い帯が、まるで剣のように鋭く突き立てようとしてきた。
それを、少しだけ身体をずらして通り抜ける駄ドラ。
ぞわり、と何かが背筋を駆ける。恐怖、あるいは歓喜・・・歓喜??
・・・私、なんで喜んでるの?この危機的状況を??
私が考え込んでいる間にも、駄ドラは黒と黒の隙間を縫うようにひらりと躱す。
その時に、地上に対して完全なる垂直になった駄ドラの背中から、右に青い空、左に青い海が、目に映る。
---なんなの、これ怖いぃぃぃ、それに、なんてたのしいんだろう!!!・・・・え??
自分の心に湧き上がった、『たのしい』と言う気持ちに、酷く違和感を覚える。
いやいや、だから私楽しくないって・・・。
「キュルゥゥゥ!!」
駄ドラの楽しそうな声が、流れ聞こえた。・・・駄ドラは、楽しそう。楽しそう???
左手が光っている。駄ドラの額も光っている。
・・・・・・ってことはつまり、あの妙ちくりんな龍紋のせいで、駄ドラの感情が私に流れてきているってこと???
「キュキュゥゥゥ!!」
嬉しそうに声を上げる駄ドラに合わせて、私に嬉しいという気持ちが流れてくる。
---お、お前かぁぁぁぁ!!!駄ドラぁぁぁぁぁ!!!!
[----ちゃん、嬢ちゃん、聞こえてるか??]
「・・・え??魔術師、団長???」
首元から、魔術師団長の声が聞こえる。
ちょっと待って、今驚愕の事実が、発覚したところだから・・・・って、え?なんで??魔術師団長の声???
[聞こえてるみてぇだな。こんな事もあろうかと、やった石に通話機能つけといて正解だったな]
「!?何つけてりゅっ、っっったぁぁ!!」
舌、噛んだぁぁぁ!!急に回転しないでよ駄ドラァァァァ!!
[まあ、試験的なもんだし、今んとこ短距離しか出来ないがな]
ちょっとぉぉぉ!!なんで普通の世間話みたいになって・・うわあぁぁあ!!だから急降下するときも何か合図出してよ駄ドラァァァァ!!
[ってのは置いといて。面白いことになってんなぁ?嬢ちゃん]
面白くない。全然面白くない。代わってくれ魔術師団長。
と無言の抗議をしていたら、四方八方から来ていた黒いグニャグニャが、減った???
下を見ると、幾つかの魔法陣で壁になって遮られているのと、あ、少年辺境伯もハンマーで叩いて反らしてくれて・・・って力尽くだな!!
[ルルリーアちゃん!!大丈夫、じゃないよね!もうちょっと頑張ってー!!]
[ルルリーア!解析するまで持たせて!!絶対助けるから!!]
レナルドさぁぁぁぁん!!ミシェルさぁぁぁぁん!!
まともに心配してくれてるぅぅぅ!!!ありがとうございますぅぅ!でも、早く、早くお願いしますぅぅぅ!!
[それにしても推測が当たらねぇ当たらねぇ。参るぜこりゃ]
[団長!そういうこと言うとか気遣いとかないのか!!]
[団長の鬼!!空気読まない!!]
[女性への気遣いは紳士の義務です!!]
[・・・お前らな]
少年辺境伯の声も聞こえる。
・・・なんだか、未だに危機的な状況だし全く解決してないんだけど、駄ドラの感情じゃなくて、私自身のもので笑みが零れた。
ああ、全部、皆に預けちゃって大丈夫。
だから、私は私の出来ることをしなくちゃ、ね?駄ドラ・・・うん、ダドラ。
鱗を撫でると、気持ちいいと返ってくる。
こんな状況なのに、ホント相変もわらず呑気だな、ダドラは。
---ねぇ、アレ、どうにか出来る?
問いかけると、素直な感情が返ってきて、まあ一言で言うと『わかんないっ!!』・・・さいですか。
避けきれなかった黒に、ダドラがブレスを放つ。
うわぁ!!!近っ!熱っ!!怖っ!!!
直撃して、塵のように細かく散った黒いのが、また集まって形となる。
あれじゃもう無限じゃないか、無理だ[今ので思いついたぞ]・・・わー流石魔術師団の長なだけあるわー。
[恐らくあの黒い奴は魔力や物体を取り込む、しかも空間の亀裂による現象が「そこ割愛で」・・・ちっ]
だからっ!!こっちは今、絶賛襲われ中なのっ!!ちゃんと見てよこの状況をっ!!!
[あの黒い奴の一番大きい塊に近距離でドラゴンブレスを、と頼めるか?]
ほほう、なるほど、あの無数の黒いグニョグニョを避けて避けて避けまくって、私とダドラがその大本に到達すればいいのね。
・・・ウネウネしてるあの中に、突っ込むのか・・・。
[そうしてくれりゃ、後は俺らが何とかする]
そう言われたら、全部預けちゃった私としては、やりましょうの選択肢しかないわけで。
---ダドラ、やれる?
返事代わりに、高揚した感情と決意みたいなものが、私に流れてきた。
・・・上等上等。それでは、やろうじゃないかダドラよ。
私の感覚もわかるんでしょ?
さあ、視覚も聴覚も触覚も、全てをお前に明け渡そうじゃないか。
その気持ちに応えるかのように、ダドラが私を通して見ているのが理解る。
---私はあの黒い塊から、目を離さない。だから好きに飛んで。
「行きます」
[・・・ああ]
言葉は短かったけれど、魔術師団長はわかってくれたみたいだ。
散らばった決意を吸い込むように、深く息を吸う。
何も言わなかった、何も伝えなかった。けど、私が息を吐くと同時に、ダドラが黒い塊を目指して急旋回した。
無数の魔法陣が、ダドラの周りを囲む。
それはドラゴンブレスのように塵にはならないが、進行方向を変えさせることはできるようだ。
---それでも皆無にはならない。
その零れた黒いアレを、少年辺境伯が叩いて減らしていく。
---それでも完全ではない、でも。
黒い帯の多くが視界から消え、ダドラの速度がぐんと上がる。
飛びやすくなって嬉しい・・そうだね皆のお陰だ。
一緒に飛べるのが楽しい・・うんわかってるよ。
流れ込んでくる歓喜と高揚感に溺れそうになるのを、ぐっと堪える。
私が目標を見失ったら、駄目なんだ。
---さあ、彼処へ向かって。
ひらりと宙を舞うと、一瞬の停滞の後、切り裂くように垂直に降下する。
浮き上がる胃を気合で押し込んで、ひたすら黒い球体を睨みつけた。
そんな私達を迎え入れるかの様に、空を埋め尽くすかの様に、黒い帯がその数を増やした。
肉薄する黒い存在に、恐怖で喉が引き攣る。でもやけくそ気味ににやりと笑う。
---そんなんじゃ、止まらないけどね?
黒い帯を潜り抜けて魔法陣の間を縫って、漸く目の前に黒い空間が広がった。
---やろう、ダドラ。
「ガァァァァァアアアッ!!!」
青白い光が、甲高い音を立てて黒を貫く。
《---------!!!!》
無音の悲鳴のような振動が、空気を震わせる。
そのまま通り抜け、海面に飛沫を上げさせながら旋回して様子見。とする間もなく、黒い奴が在った場所に、大きな魔法陣が二つ、挟み込むように展開されていた。
そのままカチリと重なると、輪になった光が空を走る。
--- 一瞬遅れて、衝撃波が襲ってきた。
その強風に煽られて、ダドラが体勢を大きく崩す。
うわっ!!ちょっ!!揺れる傾く落ちる千切れるぅぅぅぅ!!!!
いだっ!!痛いぃぃぃ!!お腹がぁぁ!!お腹に鎖が食い込むぅぅぅ!!!
そんな私の感情を察知してくれたのか、ダドラが身体を水平に戻してくれた。
危うく二つの私になるところだった・・・。危ない危ない。
落ち着いた所でさっきまで黒い球体が在ったところを見る。
そこには欠片も黒いものはなく、綺麗な空が広がっていた。
・・・・・・終わった??終わったんだよね??
いやったぁぁぁぁ!!私生きてるぅぅぅ!!!
勝った、あの黒いグニャグニャに、勝ったぜぇぇぇ!!!
「大勝利だね!!ダドラ!!」
「キュルゥ???」
何を言ってるの?とばかりの、困惑の感情が伝わってくる。
・・・・・・そこは乗ってきてよ!!!ダドラァァァ!!!!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※ひっそりと・・・
【第1回HJネット小説大賞】を受賞致しましたー(小声)わーぱちぱち。
これも偏に読んでくださっている皆様のお陰でございます。
(作品紹介に『ラブコメディー』と書かれていて、びびってなんて、いませんよ?タグだって恋愛だし、恋愛・・いないけど・・・くすん)




