2話
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「そうか、それはすまなかったな。ルルリーア嬢」
そう謝るのは氷の騎士(笑)、ライオネル・アレスタント騎士団長である。
そしてその隣りにいるのは、あの後もたっぷり陛下から愚痴を聞かされてやさぐれそうな16歳乙女、ルルリーアでございます。
「王弟殿下は普段そのような暴挙に出る方ではないのだが、アイリーン嬢が絡むと駄目でな」
ソレがわかってるのなら何故一人で歩かせたんだ、騎士団長よ。
あまりの薄情さに嫌味を言いたくなる。
「へぇ、私、てっきり騎士団長閣下もそうなんだと思ってましたわ」
「???そう、とは??」
大の男が首を傾げても可愛くないぞ。でも無表情のくせに、妙に似合ってて乙女としてはムカつくわ。
「アイリーン様の信奉者なんだと思ってました」
そう言うと、騎士団長は嫌そうに眉を寄せた。
どうもいつも一緒に居たのは、信奉者達が諍いを起こすのを、力尽くで止めるためなのだと。力尽くって・・。
いいのかそれで、騎士の団長よ。
「何故そう思ったんだ?」
「あーー、卒業パーティーのときに、その、騎士団長閣下から殺気を感じまして。それで」
唐突に騎士団長が足を止める。え?なになに?
だいぶ上の方にある騎士団長の顔を見ようと・・・・・うぇぇぇ!なんか、喜んでるっ!!!
「そうか、あれに気づいてなお・・・。やはり私の見込みに間違いはなかったようだ」
「やはり、とは?」
なんか一人で納得してるけど何が起きてるの!説明しろ!!!!
「卒業パーティーのあの場で、証言に立たされたルルリーア嬢に『偽証するな』と合図を。殿下寄りの証言だった場合煩いのが居たからな」
・・・って殺気を合図にするなぁぁぁ!!!見てちょうだい!このワタシ!
どこからどう見ても可憐な淑女でしょ!!!
「私がその殺気に耐えられなかったらどうされるおつもりでしたの」
その時証人が倒れたとなると、やったやってないの泥仕合が始まっていたはずだ。
騎士団長は、私に対して、もっと穏便な手段で、伝えるべきだったんだぁぁぁぁ!!
「だからいってるだろう。見込み通り、だと」
「へ?」
騎士団長はこちらに向き直ると距離を詰める。
もちろん、詰めても尚紳士に相応しい距離では在ったが、身長差から覆いかぶされるようにされると、どこにも逃げ場がないように錯覚してしまう。
「ルルリーア嬢なら、耐えられると思っていた。事実悲鳴すら上げなかったしな」
意味ありげにこちらを見つめる騎士団長。
「部下たちですら、あの殺気に耐えられるのは何人いることやら」
ゲェ!!そんなもん私にぶつけたんか!??
「それを、貴方は、訓練など受けていないのに、耐えた」
薄い水色の目が、段々と怪しい熱を帯びてきたような気がする。
騎士団長は、嫌な予感で強張っていた私の手を、そっと握る。
「ルルリーア嬢!いまからでもおそくはない!騎士にならないかっ!」
・・・・もう私の許容範囲を超えた!オウチカエリタイ!!!!!!
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王家の秘密通路を通りながらの帰り道。氷の騎士(笑)様から騎士にならないかと誘われました。
私、伯爵令嬢、なはず???
「所詮、実戦では技量よりも胆力がものをいうところがある。ルルリーア嬢は稀に見る胆力の持ち主なのだ。だから騎士に!」
「お断りいたします」
淡々と言われるが、褒め言葉みたいなものが聞こえてくるが、私は断じて認めんぞ!!
おうち遠い。兄様ァァァ!!助けてェェェ!!
幻影すら出てきてくれない・・・くすん。
騎士騎士しつこい騎士団長にイライラが募る。
「大体、淑女が騎士になりませんし、私自身なりたいと思ったこともありません」
「あぁ、惜しい・・・。これで剣の腕があれば・・・。」
何故此処まで惜しまれるのだ??ちょっと興味が出てきたぞ?
憂いを浮かべて溜息を吐く騎士団長。どうした???
「私の理想の女性になるだろうに・・・」
ふぁっえっあ、あぶなっ!!私か弱くてよかったァァァ!!!
「騎士団長閣下の理想の女性とは・・?」
これは好奇心。だって気になるじゃん。
少し頬を染めて恥ずかしそうにいう騎士団長。
「ああ、どのようなことにも動じない胆力を持ち、私と共に戦うことのできる女性だ」
ぜ、絶望的ーーーーーー!!騎士団長は自分の力量、分かってるの????
鍛錬とかいって、単独ではぐれドラゴンを討伐せずに群れに返した、あの騎士団長だよおおおお!!???
ドラゴンと戦える女性・・・・我が国にはいない・・・。あ、一人いたわ。
「それならば、アイリーン様は?彼女の魔術は一級品と名高いはず。ドラゴンとですら戦えるのでは?」
「うむ、確かに実力はあるのだが、戦い方が好みでないのでな」
あ、さいですか。好感=戦い方ってどうなのそれ脳筋か脳筋野郎なのか。それでその年、24歳まで結婚してないのか。
「それにやはり」
ヒュッ
空気を切り裂くような音がしたかと思ったら、騎士団長に、首にナイフ当てられてるよ、どゆこと。
全く反応できなかった。少しでも動けば、私のか細い首など簡単に落ちてしまうだろう。
加えて。
目の前の男はさっきまで隣りにいた騎士団長なのだろうか。
ドロドロに溶けてしまいそうなほどの殺気を、目の前の私に向けて容赦なく浴びせてくる。
・・・・怖いは怖いが・・・ムカムカしてきた。
なんだかわからんが、いきなり殺される理由もわからん。そして死んでやるつもりもない。全くね!!!
体中の全ての部位が、全力で逃げ出そうとするのを精神力だけで押さえつける。
恐怖で喉が引き攣って、情けない声以外出そうになかったので、残りの精神をかき集めて。
全力で、騎士団長を、睨みつける。
「そう、こうでなくてはな」
うっとりとした顔で、呟く。
「こういう女性を、探していたのだ」
殺気を跡形もなく消し、ナイフも現れたときと同じようにいつの間にか無い。
「その睨みつけてくる目が、いい。美しい」
そっと、愛しいものに触るように、騎士団長は私の目元に指を添わせる。
----ぷっちん
キレた。私キレました。
ドガッッッッッ!!!!
「っ!なっ!ルルリーア嬢っ!!??」
私の非力な手じゃ止められると思って、脳筋野郎(騎士団長)の脛をヒールで思いっきり蹴飛ばした。
「何回私に謂れのない殺気をぶつければ気が済むんだァァァァ!!!!!!」
もう一度蹴ろうとしたが、ひょいとかわされてしまった、いやそこは蹴飛ばされときましょうよ。空気読めよ。
「す、すまんっ!ついつい・・・ルルリーア嬢なら平気だからと・・」
ギロっと睨むと、騎士団長は口を噤んだ。
殺気をぶつけられて平気な淑女がどこにいるんじゃ、ここかぁぁ!!?平気だけど怖いんだよっ!わかれや!!!
「もうこのようなことは金輪際しないでいただきたい。そしてこの先体を鍛える気もありません。なので、貴方の理想の女性とやらには、絶対全くなりませんので、ご了承下さい!!!!」
こんな脳筋野郎の奥さんなんて苦労しかしなさそう!無理無理無理っ!
「むぅ・・・惜しいなぁ・・・」
口を尖らせるな、氷の騎士(笑)よ。世の中には叶わぬことのほうが多いのだよ。
「そうだ!騎士団長補佐、ということで、見習い騎士から始めないか?」
なにを、始めるんだぁぁぁぁぁ!!!?????
誰かこの脳筋野郎に『諦める』って言葉を教えて下さいぃぃぃいい!!
後日送られてきた、騎士のバイブル『騎士のすすめ』を速攻で燃やした私は悪くない、悪くないぞ!!!
もちろんそんな意味不明な贈り物を前にして、父様母様兄様仲良く倒れました。
それもこれも、全部、『国王専属愚痴聞き係』が悪い!!!!!
・・・・・そうだよね???
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※裏設定
・国王陛下:
アイリーン信奉者が年々増えていき、愚痴すら言えないのが悩み。がルルリーアによって解決!←イマココ
・王妃殿下:
息子に愛を注ぐも、聡明なアイリーンへはそれ以上に愛を注ぐ。バカ息子のせいでせっかくアイリーンが娘になってくれるはずだったのにぃ!!←イマココ
・王弟殿下:
ようやくアイリーンの婚約がなくなって、これから本気出す。と思ったら、陛下にアイリーンを袖にした変な小娘が近づいてきてて探ろうとして叩かれた!?女性に叩かれたことなんてなかったのにっ!←イマココ
・騎士団長:
アイリーンの信奉者の始末もつけて、面倒な任務が増えてゲンナリしていたら、一級品の素材を見つけたっ!嫁か部下にほしい!!←イマココ
・主人公:
自分は何もしていないはずどういう流れでこうなったオウチカエリタイ←イマココ