【閑話】どうでもいいので魔術師は達観する
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「団長・・・。そろそろ話しかけては如何です?」
騎士鍛錬場の近くの柱に潜む、自分の上司に声を掛ける。
もうかれこれ、2時間は経っているんだけどなー。
そろそろ、仕事して欲しいなー。
「ばっ、ばかやろう!そ、そ、そんなおいそれと、声かけらんねぇよ!!」
普段の強気な団長が、顔を真赤にして俺に怒鳴る。
はいはい、わかったから、まだ心の準備の時間が欲しいってことね。
・・・まったく、好き過ぎて話しかけられないって、どこの純情少年だよ。
一応、魔術師団の長なんだけどなー。今は全然見えないなー。
「・・・そうか、美しい身体全体で、というよりも、あの綺麗な鱗の一枚一枚が、見事に調和し構成することで、魔法干渉を防御して・・・」
ブツブツとドラゴン観察を呟き始める、我が国の誇る魔術師、アレイ・ベザレル。
ドラゴンへの賛辞は省いて、その考察のみ書き留める俺、通称『団長のドラゴン係』。
団長のドラゴンへの熱意が暴走した時に、監視するのが俺の仕事・・・の一つ。
団長は、俺と同年代なのにいくつも新たな複合魔法を発見したりしていて、本当に素晴らしい魔術師だし、普段は尊敬もしてるんだけど。
今は、なんか、尊敬出来ない、というかなんかやだ。
そんな身を屈めて密かに見ないで、もうちょっと堂々とすればいいのに。
・・・ああ、そうすると憧れのドラゴンにみつかっちゃうからか。うん、これもなんかやだ。
もう、ほんとぉぉに、コレさえなければ、団長モテるだろうになー。
目の前の、見事な赤金色の髪の、野性的な美貌を持つ彼を、醒めた目で見る俺。
養子がいるくせに、今だに独身なのは、ドラゴンマニア過ぎるせいだ。
・・・・俺に、その美貌の一部をくれれば、もっと有効に活用するのに。こういうのを、『宝の持ち腐れ』っていうんだよ。
それにしても、ドラゴンに夢中な団長を見守るこの位置、誰か代わってくれないかなー。
良い笑顔で俺に『団長のドラゴン係』を押し付けた副団長、並びに同僚たちを思い出す。
うん、誰も代わってくれそうにないな!・・・あれはまさに血で血を洗うような気持ちで始まった、熾烈な戦いだったもんなー。
・・・・ドラゴン手当とか、ないかなー。
あっ、でも給料増えても、趣味ないし、彼女もいないから、俺使う機会ないんだった・・・・。
寂しい我が身を思い出してヘコむ。
・・・うん、よし、現実逃避しよう。
今団長は、ドラゴンを褒め称えてるところだから、聞き流して問題ないからね。
団長が熱心に見ている、鍛錬場に目をやる。
ドラゴンは・・まあ置いておいて、そこには、あの少女が居た。
「だーかーらー!お前のいる場所は、ここじゃないのよ!!」
「キュウ?」
何故か、ドラゴンを説得しようとしている。
・・・うん!新しい視点だ!!流石、『竜騎士の花嫁』にして『救国の聖女』だね!
少し前に、いきなり魔術師塔に訪ねてきて、自分からドラゴンの話を団長にするなんて、自殺こう・・・おかしな少女だと思ってたけど。
やっぱり、二つ名の付く人は違うねぇー。
そうそう!団長も騎士団長とお揃いの、『炎の魔術師』とかいう恥ずかしい二つ名、持ってるもんねー。
おっと噂をすれば、騎士団長だ。
・・・そう言えば、あの二人、婚約関係なんだっけな。『竜騎士の花嫁』だし。
あれ?でも最近、彼女ソランの部屋によく来てるみたいだし・・・。
いやいや、ソランはアイリーン嬢一筋のはずだよね?
俺は無害そうな少女の顔を見る。・・・女って恐ろしい。
そんな恐怖に震えていると、横から歯ぎしりの音が聞こえる。
これは、騎士団長に対して、『同じ寂しい独身者だったのに裏切り者め!』じゃなくて『あんな堂々とドラゴンに近づきやがって羨ましい!』の歯ぎしりだ。
まったく、同僚である騎士団長にも、自分の息子にも、浮いた話があるっていうのに、ドラゴンに興味持ちすぎじゃないかな、団長?
生粋の魔術師の家系のはずなのに、その辺は頑張らなくていいのかなー?
まあ、俺が心配することじゃないけど。
そうのんびりと構えていたら。
ヤバイのが、来た。
離れているはずなのに、少年にしか見えないソレの、その魔力の密度に、圧力に、思わず膝をつく。
・・・あれが、例のドラゴンか。
確認次第、速やかに騎士団長及び魔術師団長に報告、って両方共ココに居るじゃないかー!
現れた時に両方共居る時は、どうすればいいんだ?
と、俺が混乱している間に、騎士団長が少年を弾き飛ばして何処かへ消えていった。
・・・・とりあえず、ほっとする。
団長は?と、様子を見ると、案の定、両手で顔を覆っている。
うん、わかってた。
邪竜召喚の時は、戦闘中、魔力が荒れててきちんと観察できなくて落ち込んでたんですよねー。
・・・戻ってきた時、団長上の空だったから、仕事は捗ったけれども。
それなのに、この間来た時、あの『悪夢の双璧』の左元帥閣下である母上から逃げるのに必死で、出遅れちゃって悔しかったんですよねー。
それが、今、目の前に現れて、感動している、と。
もう、生暖かい目で、見るしか出来ないよ。団長。
この状態は暫く続くから、今のうちに執務室に連れて行こう。そうしよう。
長いドラゴン観察時間の所為で、仕事溜まってるからなー。
「団長ー。行きますよー」
一応上司なので、一言声を掛けてから引きずる。
だが、返事はない。それもわかってた。
さあて、団長!溜まった仕事を片付けましょうねー!!
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※この後の話を大幅に変更したので、次回更新時まで暫しお待ちいただけますと幸いです。




