1話
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どうもごきげんよう、ベッドの上から失礼します、ルルリーアでございます。
邪竜召喚騒動の激戦後、崩れるようにして倒れました。
私、健康には自信があったんですけどねぇ・・・。
慌てて父様が神殿に診察依頼をし、神官様が我が家に来て下さった。・・・私が動けないので。
そうして、私を診てくださった神官様曰く、『過労です』、とのこと。
・・・あれ?私、16歳のうら若き乙女のはず・・・。なのに、過労とか・・・。
立ち会った兄様がその診断結果に大爆笑したので、必殺『モテない呪い』をかけておいた。
兄様なんて!一生、独身で居ればいいんだぁぁ!!
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「リーアがいない間、大変だったのよ?」
そういうのは、いつの間にか外交官に就職したサラだ。
『堕ちた英雄』一味を資金援助かつ匿っていた国を、王弟殿下とネクロ補佐官様と一緒に叩きのめしてきたそうだ。
ほうほう、それは凄いなー。
「まあ、そうだったけど。・・・それより、リーア。あれ程、あの栄養剤は短期間で飲んじゃ駄目って言ったのに」
そういうのは、王都防衛戦で大活躍したソラン君だ。
左元帥閣下とともに大規模結界陣を補佐して、なんと一時的にだけど、魔物の属性魔法封印に成功したそうだ。
ほうほう、ようわからんが、それは凄いなー。
・・・淑女の寝室に、平然と居るけど不問にしてあげよう。
「ルルリーアさん!!『おじやもどき』作ったよ!!」
そう飛び込んできたのは、公爵家として貴族たちの舵を切ったアイリーン様だ。
反対する貴族を黙らせるために、右元帥閣下と共に最前線で大奮闘したそうだ。
ほうほう、それは凄いなー。
ん?んん???
・・・・・・・あれ?みんな、凄すぎじゃないか??
サラは、外交官としてもう仕事してるみたいだし。
ソラン君は、魔術師団長補佐として仕事してるみたいだし。
アイリーン様は、公爵家を継ぐために仕事してるみたいだし。
あれ?え?16歳って、働いてないと、駄目なんだっけ???
いやいやいや、ソラン君はまあアレとしても、サラとアイリーン様は結婚一択じゃないの??
・・・正直に言うとサラが結婚してる姿が、全く思い浮かばなかったけど、アイリーン様は違う。
だって、アイリーン様、旦那候補がたくさんいたような??
「はい、ルルリーアさん!あーん」
「あーん」
どろっとしたスープのような食べ物を、食べさせてくれるアイリーン様。
それを見て羨ましそうにこっちを睨むソラン君。
おお、中々美味しいな!アイリーン様の手料理!!
くっくっくっ、ソラン君よ!どうだ!羨ましいだろう羨ましいだろう!!
存分に羨むがいい!!
・・・・あー、はい、調子乗りました。
ソラン君が魔力暴走させる前に、アイリーン様、その『おじやもどき』なるものをこちらにください。
「へぇ、『おじやもどき』、ねぇ?」
サラが、アイリーン様が言った『おじやもどき』に反応した。
その顔は、古の邪悪なるダークドラゴンが目の前で堂々と金塊を盗もうとしている盗人を見るが如く、冷たい笑顔だ。
「ひぃ!ご、ご勘弁を!!」
そう言うと、アイリーン様は、巨大なクマのぬいぐるみの後ろに隠れた。
・・・そうなのだ。いきなり我が家にあの従者どのが訪ねてきて、置いていったそれだ。
特別に作らせたらしいそのぬいぐるみは、全く可愛くなく、本物のクマそっくりの凶悪な顔だ。
そして、何故か、口と爪からは赤い何かがはみ出ている。・・・そう、何か、がね。
凶悪なソイツにアイリーン様が付けた、その名も『ぐりずりー』。
異世界に居るクマの種類らしい。・・・・ちなみにやはり凶暴なのだそう。
どう考えても、乙女には評判の悪そうなぬいぐるみであるが、アイリーン様は気に入っているようだ。
相変わらず変な趣味だな、アイリーン様。『これはこれでアリ・・』とか呟いてたけど、私的にはナシだよ!?
なんでこんな感じなの、もうちょっと可愛いとか可愛いとか何かあったでしょうがぁぁ!!
そして、当然のことのように、兄様によって私の寝室に置かれるソイツ。
・・・・・ねぇ!こんなもの、私の寝室に置かないでぇぇぇぇ!!
怖いから!ほんと、怖いから!
たまに起きた時目が合って、うひゃあって叫んじゃうから!
「ねぇ、アイリーン??迂闊に異世界の用語を使わないでって言ったはずだけど?」
「「!!?」」
例の顔のまま、目を細めるサラ。
その圧に、アイリーン様、は隠れていてちょっとよくわからないが、隣りにいたソラン君まで、顔を青くする。・・・完全なるとばっちりだ。
「イエス!マム!!」
「いえす?まむ!?」
クマの血付き右腕をクマの額に当てるアイリーン様。
それにつられて、狼狽えながら左手を額に当てるソラン君。
「・・・ねえ、アイリーン。『いえすまむ』って何?」
「・・・それはね、絶対に逆らっちゃいけない女性に対して言う、服従の言葉なんだよ」
アイリーン様、ちっちゃい声で言ってても、それサラに聞こえてるから。
新たな悲鳴が上がり、おいおいここ病人の寝室だよと思いながらも、和む。
ああ、ちゃんと帰ってこれたな。そう実感する。
そうそう、(私が一番)疲労困憊であったけれど、戻ったその足で、陛下たちに報告をした。
私は騎士団長に担がれたまま、で。
・・・・いや、もちろん、そんな姿で偉い方々の前に出るなんて、躊躇はしたんだよ??
でも、降ろされたら確実に寝ちゃいそうだったから、仕方なく恥ずかしくも胃を圧迫される方を選びました。私、エラい!!!!
そうして、囮を買って出た功労者である私に、宰相閣下からの微妙な視線を感じつつも、騎士団長、魔術師団長、私の三人がいない間の、国に起こったことを聞いた。
やっぱり、あのネズミ男の言った通り、ルメールに強化された魔物の大群が押し寄せたそう。
もちろん、予期していた陛下は、抜かりなく準備していて、各地に防衛戦線を敷いていたので、見事迎え討つことが出来た、と。
流石陛下!私の読み通りだね!!
それでも、一進一退の攻防が続き、流石に疲弊してきたところに、ドラゴンたちが援軍に来たそうな。
・・・それを聞いた魔術師団長が、両手で顔を覆ったのは、見なかったことにした。
しかし、ドラゴンの助勢があっても、魔物の勢いも衰えない。
これは・・と思い始めた時に、急に魔物が弱くなったそうな。
恐らくこちらで天眼竜様が出現し邪竜を押さえ込んだときだろう、と騎士団長が報告した。
・・・それを聞いた神官長が、微笑みながら地団駄を踏んだのは、見なかったことにした。
うん、ウチの国、大丈夫だったみたいだね!!
一件落着!!ってやつだね!!
その時を思い出して、スッキリした私は、『おじやもどき』を食べる。
いやあ、それにしても、アイリーン様が作ってくれたこれ、美味しいな!
「アイリーン様アイリーン様ー。コレ、すごい美味しいー」
「ほ、ほんとっ!?よかったぁ!ルルリーアさんに喜んで貰えてぇぇ!!」
『ぐりずりー』がコチラを向く。
・・・・それ怖いから、そいつに返事とかしたくないからね?アイリーン様??
「本当は醤油があれば、更にいいんだけど・・・」
項垂れる『ぐりずりー』。
・・・いやもうそれいいから。いい加減そいつから出てこよう?アイリーン様?
「『しょうゆ』?」
「うん、魚醤もいいんだけど、やっぱり醤油が美味しいんだよねぇ!!」
ソラン君に聞かれて、力説する『ぐりずりー』じゃなくてアイリーン様。
「でも原材料の大豆が何処にもなくて・・」
「それって、どんなものなの?」
サラが興味を引かれる。恐らく『何処にもない』に引っかかったのだろう。
それに、ぬいぐるみ越しであるが、きちんと受け応えが出来ているアイリーン様。
アイリーン様曰く、『ぐりずりー』で目隠しして、優しかったサラさんの顔を思い浮かべることで、会話が可能になるとのこと。
・・・・うん、もう、何も言うまい。
「植物でね?コレくらいの半月状のサヤに入っている、丸い種なんだけど」
クマの爪を使って大きさを示す。うーん、5センチくらい??
「・・・それなら、大陸のガヤ地区で生育されている穀物かも、しれないわ」
「ほ、ほんとっ!?公爵家で探した時は無かったよ?」
「ああ、それ飼料用だからでしょうね。公爵家にそんなもの、紹介するわけないもの。ただし、飼料用だから、味は保証出来ないわよ?」
それを聞いて項垂れる再びの『ぐりずりー』。
そんなアイリーン様を見て、ソラン君が呟く。
「それなら、魔術師団でなんとかなるかも。師匠が新しい研究始めたから」
その言葉に、一変万歳をし始める『ぐりずりー』アイリーン様。
そんなに嬉しいかアイリーン様。・・・いや、その『しょうゆ』とやらが、美味しいのか?じゅるり。
そんなこんなで満足しつつ、食べ終わった食器を侍女のマーニャに下げてもらう。
「おいしかったよー。ありがと、アイリーン様」
「えへへ。こちらこそ、うへへ」
にへらと笑いながら例の緑のお茶を入れてくれるアイリーン様。
呆れたようにハンカチで私の口を拭いてくれるソラン君。
さり気なく食べるために立てたクッションを調節してくれるサラ。
おうおう!!至れり尽くせりとは、このことだね!!
一人ニヤけていると、サラが少し怪訝な顔をした。
・・・ん?どうしたのかね?
「・・・外が騒がしいようね」
え?外の音なんて聞こえないけど、ってうわぁぁぁ!!部屋の隅にいつの間にか知らん人が居るぅぅぅ!!
その人に向かって、サラが手を振ると、その知らん人は煙のように消えた。
・・・外交官になって、凄みが増したような気がするよ、サラ様。
「・・・そのようだね。これは」
と、気になるところで言葉を止めるソラン君。
ようやくぬいぐるみの影から出てきたアイリーン様と顔を合わせ、頷き合う。
・・・え?どうしたの?みんな?私には何も感じられないけど・・。
「リーアは此処に居てちょうだい」
「そうだね、病人なんだし」
「うん!私たちに任せて!!」
「お、おう・・・」
確かに立ち上がるのも難しいほどの、完全なる病人な私ですからね。
そう言うと、三人が寝室から外へ出る。
気になると言えば気になるけど、たくさん食べた所為かちょっと眠くなってきた。
まあ、なんだかよくわからないが、みんなにおまかせしよう、そうしよう。
そうしてウトウトして、まさに寝かけた時。
バタンっ!!!
「リ、リーアァァァァ!!!」
勢い良く扉が開いた。・・・ココ、今病人の寝室ダヨ??
そこに居たのは、顔面を蒼白にした兄様。
いつもの様に胃の辺りを握っているけど、一体どうしたのかな??
「お前が、病人なのはわかっている!!だがっ!!」
ものすごい勢いでこちらに近づく兄様。
・・・・なんなのなんなの、何事??勢いがありすぎてちょっと怖いんですけど、兄様。
「もう、俺には、どうすることも出来ないぃぃぃ!!助けてくれぇぇぇ!!」
半泣きになりながら、私こと病人に訴える兄様。
え?ほんと、何事なの??
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