表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/86

4話

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ・・・・・ピチャン



 湿っぽい匂いと漂う冷気に、ぶるりと身体を震わせ、意識が浮上する。

 ぼんやりした視界で見ると、何人かに囲まれているようだ。


 身体を起こそうとして初めて、手足を縛られてないことに気がつく。

 ・・・縛っても縛らなくても、一緒ってことかな?


 私を過小評価してくれるのは大歓迎なので、それは問題ない。

 転じると、身体は擦り傷くらいで、一番心配だった足の腱も無事なようだ。よかったよかった。



 ・・・・あああぁぁぁぁぁ!!!や、やばい!!腕に、あうう、足にもぉぉ!!擦り傷がついてるぅぅぅ!!!



 は、早くも、騎士団長に怒られ、ソラン君にも怒られ、アイリーン様には泣かれるだろうな・・・。

 そ、そして、サラ様にはぁぁ!傷口に塩を塗られる!!!

 サラさんや、消毒のためよ?というけれど・・・考えただけで、うぅ、痛そう・・・。



「・・・もうよいか」



 無茶苦茶威圧感のある声に問いかけられる。

 ・・・えーと私、だよね??


 起きていきなり擦り傷を発見して動揺する私を、彼は待っていてくれたようだ。



「単身此処へ乗り込んできたお主を見て、少しだけ昔を思い出した」



 恐らく地下深くの洞窟であろうこの場所で、ごつごつした岩に腰掛けて、彼はそこに居た。


 結構な距離はあるし、コチラに敵意を向けているわけでもない、剣だって抜いていない、それなのに。

 今より少しでも近づけば、彼に殺される未来しか見えない。


 それすごいな!もう色々と格上過ぎて、どうでも良くなってきた私こと『囮で罠』だよ!



「今置かれている立場は、理解しているか?」

「ええ、貴方が何方どなたかは、知りませんけど」



 私の一言に、殺気立つ周りにいる人たち。

 なんだろう護衛?でもこの人に護衛なんて必要なさそうだけど。あ、さっきの怖い人も居た。


 しかし動じること無く、指を軽く叩くだけで周囲を抑える彼。どんだけ掌握してるんだよぉぉ!!



「私はかつて『大陸の守護者』であった『堕ちた英雄』、アルカイオスだ」



 やっぱりかーーー。


 『大陸の守護者』として活躍してたのは、何十年も前だって聞いてたから、枯れ木賢者までとはいかなくても、もっと、こうおじいちゃんぽいのを期待してたのにぃぃ!!


 しかも何あの二の腕、丸太?丸太なの??筋肉つき過ぎじゃない?顔は辛うじて年齢を感じるものの、どう見たって壮年止まりだ。

 その上、威圧感も相まって、巨大な魔物みたいに見える。何この人、怖ァァァァ!!!


 ・・・これ大丈夫だよね?騎士団長勝てるよね??


 靭やかな動きで岩から降りて、堕ちた英雄がコチラに来る。・・・関節も滑らかかそうか。どこかに弱点ないのぉぉぉ!???


 殺気も放たれず、堕ちた英雄は、単に歩いてくるだけ。

 でも、ヤバさは連れてこられたあいつらの何倍、いや何百倍もある。


 今私が転がらされているのは、何かの魔法陣が書かれたその真中だ。

 堕ちた英雄が私の側に来るまで、まだ距離がある。



 今だぁぁ!!今が使い時だ!!!


 右手甲から、ソラン君にもらったネックレスを引っ張り出す。

 これを適当に首に巻いたら、準備完了だ。


 そして、攻撃用魔法石の袋を取り出だしてっと。

 よし!態勢は整ったぜ!!!!



「ほう、中々良いものを持っているな」



 足を止め、少し感心したように私を、違うな、ソラン君特製ネックレスを見る。



「ふふん!!私の友達が作ってくれたものよ!」



 いいだろ!と自慢すると、周りから『お前じゃないじゃん』という視線を感じた。

 わかってるわぁぁ!!でも凄いんだから良いでしょうがぁぁ!!



 パキン



「君が作ったんじゃないんだ」

「っ」



 側面からの衝撃で吹っ飛ぶ。

 流石に受け身がとれなくて、ゴロゴロと転がって岩にぶつかる。


 いったぁぁぁ!!頭打ったいったぁぁぁ!!!


 だれだ!こんなか弱い少女に向かって不意打ちするのは!!??

 うわ!今のでダイヤが一個割れたァァァァ!!!


 ありがとうございますソラン様ァァ!!



「へぇ、ソレ凄いねぇ?剣戟も無効化するんだ。欲しいなぁ欲しいなぁ」



 ゆっくりと、上体を起こす。


 目に忌々しいあの緑頭が、飛び込んでくる。



 ・・・やっぱり緑野郎、お前かぁぁぁ!!!


 私が睨みつけると、あの時から殆ど変わっていない軽薄な顔を、ニヤリと歪めた。



「他の石には対魔法もついている。豪勢なことだな」



 何事もなかったかのように、落ち着き払った声で冷静に分析する堕ちた英雄。


 ・・・部下がいきなり斬りつけたのは不問ですかそうですか。

 ちゃんと部下管理しろやぁぁ!!堕ちた英雄めぇぇ!!



「やあ、久しぶり」

「・・・馴れ馴れしく話しかけるな」



 へぇ、と面白いことでも聞いたかのように、緑野郎は楽しそうに嘲笑う。


 まるであの惨劇が、無かったかのように、長年会わなかった知人に対するように、私に話しかける緑野郎。

 ・・・いや、こいつにとっては、あの出来事は、有っても無くても同じことなんだろう。


 彼らを彼女らを、私が大切にしているものを冒涜されているようで、気分が悪い。

 だけど、覚悟をしていたからか、思ったよりも冷静に対処できてる。


 うん、緑野郎に向かって唸りそうだけど、冷静だよ私!!!



「そういえば、英雄サマ?なんでまだ邪竜召喚してないんです?」



 ふい、と私から視線を外して、堕ちた英雄に問いかける。

 ・・・・そう言えばそうだな。いや、私には猶予ができてよかったんだけども。



「いや、この娘に聞いておきたいことがあってな」



 まだ離れたところからであるのに、彼は、私の目を覗き込む。必然的に私は『堕ちた英雄』の目を見返してしまった。

 その、底知れない空虚さに身震いが止まらなくなる。


 ・・・でも、それでも、絶対に引かないぞ。

 その意志を込めて、その目を、睨み返す。


 終始無表情だった堕ちた英雄が、微かに笑ったような気がした。



「私の『竜紋』とお前の『龍紋』と合わせ、邪竜を復活させようことは知っているか」

「・・・知っている。でもさせない」



「ほう。では、儀式の後、例えお主が五体満足であろうとも、我らが生かしておかぬことも、わかっているか」

「・・・わかっている。でも死なない」



 パキン



「っ!!」



 今度は目の前に剣が迫るのが見えた。

 流石に二回目、吹っ飛んだものの三回転で踏みとどまれた。


 またかぁぁ!!今話してるでしょうがぁぁ!!ダイヤも無料ただじゃないんだからな!!

 そして、どんだけ手癖悪いんだ緑野郎めぇぇ!!!!


 さっきまでの、軽薄な笑みのまま、でも少しだけ苛立ったように私を見る。



「ねぇねぇ、君、弱いじゃん?どうやって俺らを止めるの?」



 パキン、パキン



 炎を剣に纏わせ、私に振り下ろす。その攻撃でまた二つ魔法石が割れる。


 その剣が弾かれた隙に、危ない緑野郎から距離をとる。

 熱っ、くないけど!!やめろ!燃えそうだからやめろぉぉ!!



「その程度で、どうやって生き残るつもりなのかなぁ?」



 直接、攻撃は当たらずとも既にボロボロになりつつある私を、緑野郎は嘲笑を浮かべることもなく見下す。


 ・・・ああ、そうとも。そうだとも。

 私に力が無いのなんて、嫌というほど知ってるわ。



「・・・弱いなんて、百も承知だこの緑野郎」



 ゆっくり立ち上がる。

 たった三回の攻撃で、足元が震えるほど、私は弱い。

 ・・・・やっぱり、あいつを、直接殴るのは無理か・・・・・・・・・



「だがな!!」



 勿体つけるように、自信満々に見えるように、髪をかき上げる。

 ・・・散々転がって土まみれで縺れて上手くかき上げられなかったが、まあいい。


 握り締めた魔法石が、どんどん光を強めていくのが見える。



 ---あと、もう少し。



 びしりと指差して、私は高らかに宣言する。



「貴様らと戦うのは私じゃない。もっと、ぇえっと、そう!怖い人達だ!!」




 ----ドゴォォォオオオォオオン!!




 背後から爆破音と衝撃が伝わってくる。

 ・・・び、びびびっくりしたぁぁぁ!!え??なになに??私は何もしてないよぉぉ!!??



「無事か。ルルリーア嬢」

「生きてるかぁ!?嬢ちゃん」



 土煙の中、水色の頭と赤い頭が見える。



 き、来たァァァ!!!騎士団長と魔術師団長だよぉぉぉ!!

 いやいや無事じゃない死にそう!!もう持たないと思ってたァァァ!!


 洞窟の壁に空けた大穴から、一足飛びに私の前に来る両団長。

 その背中の安心感が半端ない。拝みそうだよありがとうございます!!!!



 ふう、と左側にある大岩に手をついて、息を整える。


 ・・・ん?こんな所に岩なんてあっ・・・うわぁぁぁああぁあ!!

 あ、あぶな!もうちょっとで潰されるところだったぁぁ!!!!



「おうおう、楽しそうな連中が揃ってんなぁ?」

「・・・傷だらけだな」


「いやいやその前に見てくださいよ!この岩!!もうちょっとで潰され・・・って殺気ぃぃ!!その殺気はあいつらに向けて下さいぃぃ!!騎士団長ぅぅぅ!!」



 私の隣の大岩には全く触れず、楽しそうに敵を見る魔術師団長。

 擦り傷だらけの私をお気に召さなかったのか、殺気を放ち始める騎士団長。


 ・・・あれ?さっきまでの安心感がぁぁぁ!!??



「・・・へぇ?何が来るかと思ったら、ルメール最強の双璧じゃないですかぁ??」



 くるり、と剣を回して挑発するように二人へ話しかける緑野郎。



「てめぇが、『堕ちた英雄』の片腕『死霊のイオ』か。擦り潰すぞゴラァ」

「・・・・・」



 はい、挑発に乗りましたよ我が国の双璧。

 魔術師団長は魔力上げて戦闘態勢に、騎士団長は無言だけど殺気が跳ね上がったァァァ!!


 そんな挑発した二人を見ずに、緑野郎は私を見る。



「それで?君は、隠れてるだけかな?お嬢さん」

「はん!やかましいわ!この緑っ!」



『みどり?』と首をひねるやつに構わず、私は続ける。

 渾身の力を込めて、続ける。



「私は、貴様を、必ず一発殴る、そう誓った」



 脳裏に浮かぶのは、優しい仲間と涙を流す少年。

 ああ、やっとこの時が来た。・・・彼に誓った時の『一発』とはちょっと違うけれども。



「見なさい!この二人が来たからには、貴様らの企みなど、終ったも同然!」



 両手を広げて、両団長を示す。ウチの国の最強だぞ?恐れ慄くがいい!

 ・・・うん、前方二人からの視線は気にしない気にしない。



「つまりぃぃ!今のこの状況こそが、私から貴様への『一発』だ!!わかったか!!」


 

 よし!言い切った、言ってやったぜ!!


 さあさあ覚悟しろ!!緑野郎め!!

 これが!直接殴れない私の、今の私の、最大最善の『一発』だ!


 そう突きつけ、緑野郎を睨みつける。


 くっくっく!呆然としているな、緑野郎めっ!


 そうだろうそうだろう!貴様の言う『弱い』私に、してやられた気分はどうだ?

 こそこそと隠れていたみたいだけど、私の捨て身囮作戦で見つかったわけだからなぁ?


 何を企んでいたか全部は知らないが、少なくとも邪竜復活計画はここで潰える。

 騎士団長と魔術師団長と、ついでに私の手でな!



「・・・こりゃ、期待に応えなきゃな。ライ」

「・・・あぁ、そうだな。アレイ」



 向き直り、互いに笑みを深める魔術師団長と騎士団長。

 ・・・よかったぁぁぁ!やっちゃってください!!!あいつらを!!



「ふ、くはははははははっ!!」



 それまで静観していた筈の堕ちた英雄が、急に哄笑し始めた。

 ちょっ、こ、こわいよ!!いきなり笑わないでよ!!!



「こんな娘が居ようとはな!してやられたな、イオ」

「・・・まあ、そんなの上手く行けば、ですよ。英雄サマ」



 苦々しい顔で吐き捨てる緑野郎。ははん!上手くいくに決まってるだろ!

 ・・・もちろん信じてるよ!魔術師団長!騎士団長!!



「トルク、半数を使い儀式を進めておけ。残りはイオにつけ」

「英雄サマは、一人でいいので?」



 そう緑野郎に言われると、『堕ちた英雄』は獰猛に嗤った。

 私では両手でも持ち上がりそうにない大剣を軽々と抜き、目に狂気を宿らせて騎士団長を見つめる。



「あれは、の獲物だ」

「・・・・・」



 見返す騎士団長の目にも次第に狂気が宿る。

 おわぁぁぁ!!騎士団長、タノシソウダナァァァァ!!!



「ってことは、俺の相手はてめぇらか」

「魔術師は苦手、なんだけどなぁ??」



 雷を纏い複数の魔法陣を展開する魔術師団長。

 あの、私、まだ、チカクニイルヨォォォォ!!??



 どちらが先に動いたか、全く見えなかった。

 ただ、ぶつかり合う音と衝撃が伝わっただけだ。



 ----こうして、二対多数の乱戦が、始まった。




 ちょ、ちょっとまってぇぇぇ!!いま、いまかくれるからぁぁぁ!!!




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ