【閑話】四人は一人のために『騎士団長』
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「私達を呼んで、何の用かしらね?」
「・・・それは、大方わかっているだろう?」
扉の横に立ちながら、目の前の彼女に返事をする。
鋼のように輝く癖の強い赤髪を弄ぶ彼女を見ながら、いつまでも容姿の衰えない嫌味な女だと思う。
トントン
軽く扉を叩く音が聞こえ、小剣を構える。
そんな私を見て、彼女は軽く天を仰ぐと、どうぞと訪問者に応える。
ヒュッ、ガキン
扉が開いた瞬間に振り下ろした小剣が、しっかりと受け止められる。
うむ!私の僅かな気配を察知したか、よしよし!
「・・・相変わらずですね。右元帥閣下」
「少しはやるようになったな。騎士団長殿?」
愛弟子の剣で押し返され、少し距離を取る。
ふむふむ、鍛錬は欠かしていないようだ、実に喜ばしい。
「まったく!貴方達ときたら野蛮なんだから!」
「お越しいただきありがとうございます。左元帥閣下」
堅苦しい挨拶をする我が愛弟子ライオネル。
こういったところは、ちっとも変わらんな!!うむ、元気そうで何より。
「もう!そんな堅苦しい肩書で呼ばないで!いつもみたいに、イザベラさんって呼んで?」
「・・・そのような呼び方をしたことは一度もありません。左元帥閣下」
ライちゃんてば真面目!と詰られ、苦々しい顔で応えるライオネル。
・・・イザベラのやつが苦手なのも変わらんな。
我らが魔術師団長、騎士団長であったときから、か?
いい加減、慣れれば良いのに。
小剣を鞘におさめ、イザベラの横に座る。
それを見てライオネルが剣を収める。が、私を警戒して立ったままだ。
ますます喜ばしい!
「で?何かしら?私とヴィを呼び出すなんて」
「ヴィディカだ。略すな」
はいはい、と適当に頷くイザベラ。全く、このやり取りは何百回目だ?
私には、ヴィディカという、良い響きの名があるのだ。愛する我が夫も、素敵だと褒めてくれるのだぞ?
「一時国防をお願い致したく」
そうライオネルが言った瞬間、イザベラの空気が一変して剣呑なものとなる。
む?ここで、ライオネルとイザベラと私の三人で戦闘か?始めるのか???・・・いや違うみたいだな・・。
「現役の両団長がいるというのに、隠居の身である私たちに頼むのは何故?」
ふむ、まあイザベラの言い分も理解る。
元帥、といいつつ実際は肩書だけで、実務からは離れて久しい。まあ体のいい重しみたいなものだ。
通常であれば実質的な長である、騎士団長と魔術師団長が国防という大事に当たるのが、定石だな。
「敵の頭を叩きに行きます」
端的に言うライオネル。
ほうほう、と頷く私を置いて、イザベラの方は納得していないようだ。
「ならば、私達がそちらへ行ったほうが、良いのではなくて?」
「そうだな、『堕ちた英雄』には私も興味が「戦闘狂は黙りなさい」・・むう」
叱られてしまった。
私としては防衛戦でも遠征戦でも、戦えればどちらでもよいのだが。
これは長くなりそうだな・・・。話の決着が着くまで、精神統一でもしていようか。
「・・・国外へ知らしめるためにも、現団長にて対処を」
「それは、陛下からも聞いてるわ。でも納得がいかない。国の存亡に関わる事態に、貴方が他所へ行くなんて」
「女、だろう?」
「「は?」」
鞘に納めた剣先にりんごを置いて遊んでいたが、イザベラに魔法で奪われてしまった。
ぐぬぬ!魔法ってやつはこれだから!
「女ってどういうことよ!この、鉄仮面朴念仁残念趣味のライちゃんに!女なんて出来るわけ無いでしょ!!」
「・・・左元帥閣下」
イザベラさんよ!と叫びながらも、こちらに詰め寄る。
ライオネルだって、そんなことは・・うん、顔!顔の造形はいいぞ??あと浮気はしないぞ!そんな育て方してないからな。
「男が変わるのは女が出来たときだからな」
「・・・そういうわけでは、ないのですが・・・」
らしくなく歯切れの悪い言い方をするライオネル。
それを見て、これは!と顔を輝かせるイザベラ。
ほら、いったであろう???
「やだ!そういうのは早く言ってちょうだいな!ライちゃんてば!!」
「うむ、守る女が出来てこそ、一人前と言うもの。で?結婚はいつだ?」
イザベラが素早くライオネルを強制的に隣に座らせ、肩を遠慮なく叩く。
「理解った!あの『竜騎士の花嫁』が相手でしょ?何かの冗談だと思ってたわ!」
「ほう、そうなのか?私はてっきり単なる事故だと思ってたぞ?」
「あの」
「やだやだ、事故で花嫁にならないでしょ?確か、ルルリーアちゃん、だっけ?」
「ん?その名前・・・あぁ!今回の『囮』になる少女じゃないか?」
「ですから」
「きゃー!!やだ!もしかして、やだー!!お姫様を助けに行く騎士ってことね!!」
「ほうほう、なるほどな。それは心踊る状況だな!」
「いや」
「苦難を乗り越えて愛を確かめる二人・・・いいわ!!」
「うむ、苦難こそ愛を強めるものだ。私と愛する我が夫もそうだったからな」
「ちょ」
なんだ、さっきからモゴモゴと煩いな、ライオネル。
「わかったわ!その頼み、ヴィと私が引き受けるわ!・・・正直陛下から打診があったときは、防衛指揮なんて面倒だから断ろうと思ってわ!」
「ヴィじゃないヴィディカだ。うむ、我らに任せよ」
「・・・・・・・・ありがとうございます」
満面の笑みで返答するイザベラと私。
ん?なんだ、あまり嬉しそうじゃないな?ライオネル。目が虚ろだぞ?
しかし、あのライオネルが、伴侶とはな。
十のときに剣を振るこやつを見て、問答無用で弟子にした頃が懐かしい。
どんなに扱いても泣きもしなかった少年が、結婚か、そうかそうか。
「そうそう、ライオネル」
「・・・なんでしょうか」
「この場に来てない、ウチの馬鹿息子にも今の伝えといてね?」
「・・・はい」
笑顔ではあるが、怒りからか魔力が膨張し窓を震わせるイザベラ。おお、控室から茶器が割れる音がしたな。
そう言われてみれば、ライオネルと双璧の、イザベラの子は来てないな。
両団長が出る、という話のはずだが。
まったく、あやつはまだ反抗期なのか?
「さあさあ!どんな子なのか、詳しく教えてちょうだい!ライちゃん?」
「そうだな、我が愛弟子の伴侶は何色が好みだ?首飾りでも買ってやろう」
「そろそろお暇を」
がしり
「逃さないわよ?」
「何色なんだ?」
腰を浮かせたライオネルを、二人で押さえ込む。
おお、良い攻防をするようになったなライオネル。だがこちらは二人だ。
観念して全てを話すが良い!!
そしてライオネルがその子に逃げられぬよう、早く贈り物をしなければ!!
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※元騎士団長視点でした。
※この二人、王都防衛戦話で活躍させるつもりが、話自体をカットしたので涙の人物紹介です。
※本筋には関係ないので、読まなくても問題ありません。
・右元帥(元騎士団長)ヴィディカさん(女性)
大陸のとある草原の騎馬民族出身。なんやかんやあって用心棒になってルメールに来たら、そこで出会った男性に一目惚れ!持ち帰ろうと拐うも、当時の騎士団長に止められた。一目惚れした彼は実は貴族様で、なんとか射止めようと力技で騎士団長職にまで昇りつめて目出度く結婚。外国人が団長にまでなるのは異例で、普通爵位を与えられるが彼女にはなし。が、拳でなんとかやっていけました。
子供好きのため、怯えられないよう普段は普通の騎士姿に小剣のみ。が、戦闘時には騎馬民族衣装に短弓とククリ刀で馬に乗って戦う。馬は普通の荒馬ですが、飛びます。
・左元帥(元魔術師団長)イザベラさん(女性)
現魔術師団長の母親。年齢不詳の美魔女。代々魔術師の家系で、魔術要素の高かったイザベラさんは、幼い頃から純血の子を産めと強要されるのが嫌で逃亡。長らく逃亡生活をしていたが、幼馴染の彼に捕まって結婚。その当時、女性は妊娠後魔力が不安定になるため、魔術師に向いていないとされていたが、新しい魔力計測方法を発見・確立し、不安定でなく別のベクトルに安定していると実証したため、女性魔術師進出の礎となった、実は女傑。その功績から、魔術師団長に就任。大規模防御魔法が得意。
最近は魔物の研究に凝っていて、ヴィディカさんを誘って魔物刈りをしたりしてます。
・主人公:屍のように休憩中。




