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【閑話】どうでもよくない少女は叫ぶ

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 どういうことなのっ!!

 私の『記憶』じゃ、こんなこと起こらなかったのにっ!!


 本当だったら、王太子妃になれるはずだったのに、殿下から引き離されて狭い部屋に押し込められて。



 どうしてなのっ!



 扉を叩いても、取手を回しても、出してと叫んでも、何も起こらない。

 こんなの、『記憶』にないわっ!



「・・・何かの間違いよ・・・。そうよ、みんな、間違えてるのよ・・・」



 そう呟いてみると少しだけ安心する。そう、これは間違いなのよ。



 私には、幼い頃から『記憶』があった。



 その『記憶』はとても素晴らしく、幼い私は直ぐに魅了された。


 でも、何をしても麗しい殿方から愛されるのなら、誰だって、そうでしょう?



 学園に入れば、王太子妃にも、辺境伯の妻にも、未来の魔術師団長の妻にも、何にだってなれるのだから。



 お父様にもお母様にも口煩く『礼儀作法を弁えろ』なんて言われたけれど、そんな不必要だとわかっていて習うなんて馬鹿馬鹿しい。

 そう言って、絶対に習わなかった。



 好きな時に遊んで、好きな時に食べて、好きな時に寝て。



 何をしても構わない。だって私の未来は決まっているのだから。




 なのになのになのになのになのになのになのに!



 バンッ



 勢い良く扉が開けられると、そこには白い顔をしたお父様が居た。



 ・・・・・どうせなら、王弟殿下がよかったわ。

『記憶』には無かったけれど、素晴らしい金の御髪に甘やかな顔立ち。少し年上だけれど、あのような素敵な殿方に愛を囁かれるのも悪くないわ。


 うっとりと王弟殿下を思い返していたら、突然頬に熱さと衝撃を感じて、呆然とする。



「っこのっ親不孝者めがッ!!あれ程言い聞かせたと言うのに、なんてことをしてくれたのだっ!!!」



 お、おとうさまが、わたしに、てをあげた・・????



 お父様はいつだって私に甘くて、少し小言をもらうくらいで手を上げられたことなんて一度もなかったのに・・・。


 言葉も出ずに頬を抑えている私の前に、お父様がうずくまる。



「・・なんてことだ・・こうなれば・・・命をもってお詫びするしか・・・」



『命を』???どうして?そんなこと、しなくてもいいのに????だってわたしは・・え?どうして??



「その必要はない」



 冷たい声が部屋に響く。呻くお父様を見たくなくて、声の主を見る。


 そこに居たのは騎士団長様だった。

 氷の騎士の名に相応しく、薄青に煌めく銀の御髪、切れ長の水色の目と整った顔の美丈夫の彼に、ときめいてもいい筈なのに、何故か恐怖が先に立って思わず腰を浮かす。


 すると、彼と目があった。その瞬間私の身体は少しも動けなくなった。



 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 顔を動かすことも、声を出すことも、何もしたくない。だだひたすら、怖い、この男が怖い。


 彼が私から視線を外しても、私は動けなかった、いや動きたくなかった。

 もう一度彼に見られるのは、耐えられない。



「貴方のような有能な臣下を失うのは忍びない、と仰せでな」


「っ!なんともったいないお言葉をっ・・・」



 そう泣き始めるお父様。



「おい、ソレを片付けておけ」

「はっ」



 扉の影でよく見えなかったが、黒っぽいナニカを引きずっていく騎士様。



「そ、それはっ」

「あぁ、アイリーン嬢の信奉者の誰かが差し向けた暗殺者だな」



 あん、さつしゃ?おとうさまに?それとも・・・、そんな筈ないわ!私はわたしはっ!!



「重ね重ね・・・・閣下にはなんとお礼をすればよいか・・・」


「必要ない。強いて言えば普段通り・・・・過ごしてくれればよい」



 そう言われると、お父様は強く目を閉じた。そして。



「・・・畏まりました。娘は修道院にて勤めさせます」


「わかった。そうお伝えする」



 そんなっ!!

 思わず、叫び声をあげようと口を開くと、あの男と、目が合った。




 そこでふつり、と意識が途絶えた。





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 目を開けると、そこは見慣れた私の部屋だった。



 あぁ、夢だったんだ。なんて酷い夢を見ちゃったのかしら。

 安堵の溜息をつくと、扉の向こうからヒソヒソと声が聞こえた。



「・・お嬢様ほんとにやっちゃったのぉ?」

「そうらしいわよ?旦那様がそれはもうお怒りで」

「そりゃ怒るわよ、相手は王太子殿下でしょ?不敬過ぎじゃない?」

「ほんとほんと」



 クスクスと笑い声も聞こえる。

 侍女たちの非礼も忘れて、聞き入る。


 え?・・・あれは、夢、だった、はず????


 フラフラと扉へ近づく。

 私が起きているのにも気付かず、侍女たちは続ける。



「それにしてもよくやるわよねーお嬢様」

「お小さい頃から、妙なこと言うと思ってたけどまさか、ねぇ?」

「そうそう!まぁ夢を見るのは誰だって自由だけど、ねぇ?」



「「あの体型で、ねぇ?」」



 ぎしり、と心が軋む音がした。



「もう少しおキレイなら、まだしもねぇ」

「バカねぇ!綺麗でも、男爵でしょ?ムリムリ」

「そうねぇ、でも元は良いのにもったいないわよねー、お嬢様」

「そうそう!あれだけ食っちゃ寝してたら誰でもああなるわよ」

「あらアンナ、ソレって自分のこと?」

「あっ言ったわねぇ!・・・・」



 姦しい侍女たちの声が遠ざかる。



 見てこなかった現実が追いかけてくる。

 扉の横にある鏡を見ると、ぱさついた黄色い髪をした、肥え太った、醜い女と、目が合う。





 いやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよ!




 こんなの、うそ、うそなのよっ!!!!





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