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【閑話】どうでもいいか双子は悟る

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 目の前であの賢者がうずくまって、帝国兵士たちに取り囲まれている。

 おれたちを恐怖で支配していた、アイツ。



「・・・ユユイ・・」



 おれの片割れが、呆然とした顔で手を握りしめてきた。

 多分、おれも同じ顔をしてると思う。



 わけの分からない言葉を呟いて、虚ろな目をしているアイツを見ても、今までのような恐怖を感じなかった。



 いつも『穢れた血め』と怒鳴るアイツの声を、耳を塞いで聞こえないようにした。


 わめきながら手当たり次第ものを投げてくるアイツを、机の下に潜ってやり過ごした。


 毒で苦しむおれたちを見てニヤつくアイツの視線を、シーツに身を包んで耐えた。



 それなのに、今は。



 ----ただの、やせ細った、老人にしか見えない。



 攫われて、縛られて、生贄にされかけて。

 ひどいことをされたばかりはずなのに、なんでなんだろう?



「・・・まったく・・・あの枯れ木賢者め・・・」



 左手を服でこすりながら、ルルリーアが近づいてきた。

 ・・・こすっても、その龍紋は取れないと思うよ?



 ・・・・・・・・・・・ん??

 え?枯れ木って・・・アイツの、ことか???


 ナナイと目が合う。



「「ぶふーーーーー!」」



 枯れ木って!!アイツ、帝国最大の権力者であり、今代の『賢者』であるアイツを、枯れ木って!!!

 だ、だめだ!笑いが、止まらないっ!!


 ナナイと腹を抱えながら笑い転げていると、呆れたようにルルリーアに言われた。



「誘拐されたっていうのに、のんきね?」

「「ルルリーアにだけは言われたくない」」



 即座にきっぱりと、迷うこと無く、言う。

 これは、ナナイとおれ、目を合わせなくても心からそう思ってる自信がある。


 そう自信を持って頷いていると、服になすりつけていた手を今度はこっちになすりつけようと、おれの額にグリグリと当て始めた。



「そういえば、ココ帝国領内よねぇ?そうすると、あの妙な蛇ドラゴンは帝国の所有よねぇぇ??ってことは、この変な模様は貴方たちが持つべきよねぇぇぇ???」


「いだだだっ!!!」

「ゆ、ユユイぃぃぃ!!」



 ナナイが涙目になりながら、おれの名前を叫ぶ。


 ほ、本気でなすりつけようとしてるっ!!??無理なのにっ本気だっ!!

 手のひらから本気が伝わってくる!!!


 おれがグリグリされてると、ルルリーアの後ろにあの金髪の怖いお・・・ルメール王国のパーシアス様が立つ。



「な・に・を、してるのかなぁ?ルルリーア嬢??」

「いだだだっ!!!」



 あーあ、ルルリーア頭鷲掴みにされてるよ。・・・あれ?あいつ、貴族じゃなかったか??



「ねぇ?人が折角色々用意したのを足蹴にした挙句更なるドラゴン問題をもたらしたルルリーア嬢?」

「っく!淑女の頭を何だと思ってるんですか王弟殿下ぁ!良いじゃないですか!首謀者だって捕まって万事解決ですよ!ドラゴンは不可抗力ぅぅ!!」



 パーシアス様の手から逃れたルルリーアが、力説する。

 ・・・・まあ、誰も死ななかったし、アイツも捕まったし、そうなのかな?


 ・・・え?淑女???ドコにいるんだ??



「例えそうであっても、私の労力が無駄になって、腹立たしい」

「大人げないッ!!??」



 そう叫んだルルリーアは、再度頭を鷲掴みにされて悲鳴を上げる。

 ・・・あいつ、アホなのか?一回会っただけのおれたちですら、パーシアス様にあんな口利いたら、どうなるか予想つくぜ??



「・・・ナナイ様、ユユイ様」



 呆れながら目の前の喜劇をナナイと眺めてたら、後ろから懐かしい声で呼びかけられる。



「「じいっ!?出てこられたのっ!!」」



 振り向くと、牢に入れられていたはずのじいが、少し痩せた顔で微笑んでいた。

 すると、後ろに従えていた兵士たち共々、おれたちの前にひざまずく。



「お迎えが遅れましたこと、この老体面目次第もございませぬ」


「っ!?じいのせいじゃないっ!」

「そうだよ!だってじいは僕達のせいで牢屋にっ!!」



 ナナイと一緒にじいに駆け寄る。


 小さい頃から邪険にされていたおれたちに色々教えてくれたのも。

 二年前兄者に殺されそうになったおれたちを逃してくれたのも。

 おれたちの命を何回も救ってくれたのも。


 全部、じいのお陰なんだ。



 そう思って、ナナイと一緒に、じいの手を握る。



「・・・あぁ、お優しい。あまりにも、お優しすぎる・・・」



 少し目をうるませたじいが、溜息と共に零す。

 そっと立ち上がって、おれたちの手を握ったまま、まっすぐ強い目でおれたちを見る。



「皇帝陛下が、崩御なされました」

「「・・・えっ?」」



 一瞬、何を言われたのか、分からなかった。



「随分前より、彼奴によって薬物で傀儡にされておりましたようで、その際お身体を酷使され・・・・」



 痛ましげに首を振るじいの前で、頭が真っ白になった。


 ・・・陛下のことを父と思ったことは、一度もない。

 愛情どころか、声すら掛けられたことがないのだから。


 だから、悲しいという気持ちは、全然湧いてこない。それよりも。



 ----おれたちのどっちかが、この国の、皇帝になるのか?



 考えようとしなかった、いつかは来て当然のその事実を目前にして、足が震える。


 皇帝になりたいなんて、一度も考えたことがなかった。

 死にたくないからココに居た、ソレだけだったのに。


 その重圧に、どうしようもなく逃げ出したくて、何かにすがりたくて、目線を上げる。



 ひたり、とルルリーアと目が合う。



 左右を見、私?とばかりに自分を指差すルルリーア、に必死でナナイと一緒に頷く。



 そうそう!!お願い助けてぇぇぇ!!ルルリーアお嬢さまぁぁ!!



「んー・・・とりあえず逃げる?」

「・・・最後の皇位継承者である両殿下を、連れ出せると思っているのか」



 殺気立つ兵士たちを前に、ルルリーアは喧嘩を買うように一歩前に出て睨みつける。



「その両殿下を守りきれてない貴方達に、何かを言う資格はない。私は、そこにいる、ただのナナイとユユイに、聞いてるの」



 二人が皇位を捨てたがってるんだから関係ないと、鼻で笑う。

 ぐっと詰まる兵士に構わず、おれたちをまっすぐ見る。



「それに」


「そんなに泣かれたら、助けないわけにいかないでしょ」



 ・・・言われて初めて、自分が泣いているのに気付く。ナナイも涙を零しながら、びっくりした顔をしている。



 いいの、かな?逃げても、いいのかな?



「・・・ナナイ様、ユユイ様。微力ながらこのじいも、お手伝いいたしましょう」

「っ!?ロウエン様っなにを!?」



「なに、国などいずれ滅ぶもの。・・・いや、既に帝国は、滅んでおったのだよ」



 じいがそう寂しげに言うと、兵士たちは悔しそうにうつむく。

 そっと乾いた温かい手で撫でられ、はっとしてじいを見る。



「我らが壊してしまったものを、御二方に背負わせるわけには、参りませぬ」



 柔らかい笑みを浮かべるじいを見て、いつの間にか止めていた息を吐く。



 おれたち、逃げても、いいんだ。



『逃げる』と言おうとして、喉がひりついて戸惑う。

 ナナイも、戸惑っているのがわかる。



 ・・・・わかってる。嫌な思い出がたくさんあるけど、どうしても去った後のことを、考えてしまう。


 逃げられる、そうわかったからこそ、考えてしまった。


 滅びる国を、民を、そして何よりじいのことを。



「・・・逃げられない」

「・・・うん、逃げたくない」



「・・・よろしいのですか?」



 そう、じいに言われて、それが正解かもわからず、頷く。



「二人がそう決めたのなら」



 ルルリーアが丁寧に礼をする。・・・早くも決心が鈍りそうだ。

『やっぱり』といいかけると、ルルリーアがぽつりとつぶやく。



「・・・王弟殿下囮にして逃亡生活かと思ったわ」



 ナナイと目を合わせる。

 ・・・・ルルリーア、本気で、考えてくれてたんだ。


 口の端が自然と上がる。



「お心を決められたようで何よりです。両殿下」

「いだだだっ!!!」



 にこやかに、ルルリーアの頭を掴みながら言うパーシアス様。



「君に囮にされるくらいなら、私が両殿下を逃がすよ」

「で、ですよねぇぇ!!」



 世にも恐ろしい顔でルルリーアに言う。・・・・パーシアス様も逃してくれるんだ。

 さっきまで、帝国兵を睨んでいた姿はどこにもなく、涙目で叫ぶルルリーア。



 あぁ、なんだよ、もう。



 ナナイと手をぎゅっと握り合って、笑って、笑って、笑って。



 別に何が変わった訳でもない。帝国内はぐちゃぐちゃ、味方はじいしかいない。



 それでも。



「ぼくらは、皇位を継ぐよ」

「二人でな!」



 はっきり、きっぱり、宣言する。



「次代の『賢者』をロウエンに任ずる!」

「ぼくらが皇帝になるんだから、じいも巻き込むよ?」


「ははっ、喜んで巻き込まれましょうぞ」



 白い髭を撫でながら、嬉しそうにじいが応える。


 おれたちに流れる血を、無かったことには出来ない。

 だから、もう、流されるままも、怯えるだけも、やめにしよう。



「では我がルメールを巻き込んだことについても、話し合いましょうか?」

「そうですなぁ、先代の『賢者』に聞いてみましょうかの」



 じいと、パーシアス、殿が、互いに探り合うように笑い合う。

 それを見て、うわあと言いながら距離をとるルルリーア。




 まだ震える手を握り合って、おれたちはやっぱり腹の底から、笑い声を上げた。






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