6話
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「遅いっ!!!!何故っ、我が帝国でっ、一番有名な此処に真っ先に来なんだぁ!!」
ぇぇええ・・・。普通、有名な観光地に攫われた人間が居るとは思わないでしょ・・・。
あ、双子居た。よほーー!!
うんうん、無事だね、縛られて転がされてるけど無事だね。よかったぁぁぁ!!
とりあえず、双子のそばに行って、縄を解く。
気を失っているみたいだけど、命に関わるような傷も術もかけられてないみたい、でほっとした。
そう、双子の世話をしている間も、枯れ木賢者はまだブツブツと怒っていた。
「あれだけ証拠を残してやったと言うのに!時間を掛けおって!」
「・・・証拠がありすぎて逆に此処じゃないと思ってた」
ぽそりと呟く王弟殿下。やっぱりあからさますぎると、逆に、って思っちゃいますよねーわかるわかる。
怒りからか、身を震わせるやはりの帝国の枯れ木賢者。・・・もうちょっと捻りが欲しかったー。
「っなにをするんだっ!」
そう叫びながら、私達が入ってきたのとは別の入口から連れてこられたのは、あの女嫌い皇子だ。うわー。
・・・ちなみに連れてきたのはあの大根役者ではない。別のちゃんと怖そうな人だ。
「っ殿下!申し訳ございませんっ!!」
一緒に連れてこられた護衛らしき人は、ボロボロになりながらも女嫌い皇子を守ろうとする。
「いいんだ」とか「殿下っ!」とか盛り上がる二人、を静かに見守る王弟殿下と私。
・・・こちらとの温度差が激しすぎるぞ。
あのー、王弟殿下。
つかぬ事をお伺い致しますが、あれが本来の貴人の姿では???
大体、護衛の騎士様全員置いてきて罠を探す王位継承者って駄目なんじゃ、あ、すみませんもう余計なこと考えません。
「ふんっこれで生贄が揃ったな」
「なんだとっ!?」
「くっ貴様っ!」
「「・・・っここは!?」」
「「・・・・・」」
お、双子が起きた。やほーー!
うーん、この流れだと、私も『な、なんだとぉ!?』とか言ったほうがいいんだろうか?
でも王弟殿下も何も言ってないし、いいか。
・・・だめだ、あの大根役者の所為で、まったく緊張感が持てない。
そう、全てアイツのせいだ、そうそう。
私達が真っ当な反応が出来ないのは、大根役者が迎えに来たからだ。
あっちの怖い人だったら、もうちょっと違う感じで、ここに来たはずだ!!
こちらが驚く反応(二名除く)に満足したのか、枯れ木賢者は懐から自信満々に手のひら大の玉を取り出した。
「穢れた血諸共、邪魔なお前たちを、此処で始末してくれようっ!!!!」
「「・・・!??」」
「血迷ったか貴様っ!!」
「「・・・・・」」
顔を青くする双子、叫ぶ女嫌い皇子、黙り込む私達。
・・・ノリノリだな、女嫌い皇子よ。いや今はあの反応が正解か??
すると、枯れ木賢者が持つ玉から、濃密な大量の魔力が一気に放出された。
その圧に、女嫌い皇子とその護衛さんが膝をつく。
流石の王弟殿下も真面目な顔になって、懐に持っていた結界石を発動させる。
王弟殿下に張ってもらった結界内に、私は双子を抱えて入り込む。
誰もがピリピリとしている空気の中、聞き覚えのあるだみ声が響いた。
「くははは!良いざまだなぁ!殿下、いやハロルド!そしてパーシアス!!」
「お、お前はロンデーン伯爵っ!何故っ!!」
「・・・・・」
まぁたなんか出て来たよ!!??
ん??あれ夜会の時に王弟殿下(と私)に絡んで補佐官様に撃退された、あの酔っぱらい伯爵じゃないか??
そして女嫌い皇子よ、何故と聞かれて答える馬鹿が居るはずが・・・・・。
「ふんっ哀れな貴様に教えてやろう!」
あっ、教えてくれるんだ・・・・、親切だな酔っ払い伯爵よ。
ああ、王弟殿下が天井を仰ぎ始めたぁぁぁ!!
「最期の言葉として聞くが良い!
私は帝国の名高き賢者の誘いより、第二皇子たる貴様を血祭りに上げ、憎きルメールの罪とし、穢れた血であるそこな双子の血をもってして、開戦の狼煙をあげようと、そう企んだのだっ!」
うわ、すっごい分かりやすい説明だな。さっきの大根役者よりよっぽど様になってるよ。
酔っぱらい伯爵よ。こんなことしないで、役者にでもなればよかったのに。
「そして最後には帝国をも我が皇国のものにっ!」
「最後に笑うは帝国じゃがな!」
・・・・え?ちょ、え??酔っぱらい伯爵と枯れ木賢者の声がかぶったぞ??
ええと、整理するよ??
酔っぱらい伯爵は、自国の第二皇子と帝国の双子を王弟殿下が殺したことにして、それを正当な理由としてルメールに攻め込んだと見せかけて、帝国を手に入れようとしてて??
枯れ木賢者は、自国の双子とアルファイド皇国の第二皇子を王弟殿下が殺したことにして、ルメールに攻め込んだ皇国を、後ろから裏切ろうとしてて???
・・・・言っていいかな???
うちの国全くもって関係ないよね!!???すごいとばっちりなんだけどっ!!???
帝国と皇国で勝手にやっててくれればよかったのに!!
なんでうちをまきこむかなぁぁぁぁ!!??
「その程度で我が国を巻きこめると思われてるとは・・・・・舐められたものだな」
唸るように声を零す王弟殿下。
ひぃぃぃぃ!!古の混沌たる邪神様が降臨したァァァ!!
で、ですよねぇぇぇぇ!!!
あーあ、酔っぱらい伯爵まともに見ちゃったよ。さっきまでの勢いが萎んでるよ?
「ふんっ貴様のような小者、邪竜の贄としてくれるわッ!」
・・・・・邪竜????え?邪竜を復活、とかさせる感じなの???
疑問を感じて枯れ木賢者を見るが、言い間違えた!とかそんな反応ない。復活するのか???
それにしても、枯れ木賢者は凍えるような視線の王弟殿下に耐えられてるよね。
・・・・あれか?ちょっと離れた、王弟殿下の顔が見にくいのか、な??お年だもんね・・・。
いやいや気付ておこう?これ後で十倍にして返されるやつだからね??
枯れ木賢者が目で合図すると、先程の怖そうな人たちが、酔っぱらい伯爵を掴んで、こちらに放り投げる。
周りに、酔っぱらい伯爵を守ろうとする人は居ない。
・・・・あいつ、単身で来てたんだ・・・・えぇぇぇ・・・。仮にも二国に宣戦布告するんでしょ??護衛くらい雇おうよ。
「フフフ・・・・さぁ、準備は整った!」
そう言うと、枯れ木賢者は、怪しげな光を放つ玉を捧げ持つ。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・うん、あの、わかってるよ?
魔力の圧がどんどん上がってるし、足元の魔法陣発動してるし、今すごく真面目な局面だよね??
あの枯れ木賢者が言う『邪竜』を、私達を生贄にして、あの玉で復活させるんだよね?多分。
「これにある『竜の宝珠』により、我が呼び声に応えよ!」
『竜の宝珠』っていうんだ、凄い白い光出してるけどあれ。
うーーーーん、多分今の呪文なんだよね?あの王弟殿下も、結構厳しい顔してるし、うん。
・・・・・ううっ・・・っでも・・・気になるのっ・・・。
「邪竜よ!我が支配を受け」
あの、枯れ木賢者、手が、プルプルしてるのぉぉぉぉ!!!
あっ、ちょ、そんな高くあげないでぇぇぇ!!
もう呪文も耳に入ってこないよ、あれ絶対落とす。あの『竜の宝珠』とかいう玉、絶対落として割る。
「その姿を現し」
気になったらもうそこしか見えない。あぁ、気になる・・・。あぁ、腕までプルプルしてる・・・。
あれもう、落として割る、落として割る、落として割る、落として割る・・・・・
「・・・落として割る」
「え」
----ぱりん
つるんと震える手から離れた『竜の宝珠』が、剥き出しの床にぶつかって、あっさりと2つに割れた。
・・・・・割れた・・・・・割れ、た?????
・・・・・・・・・え????
ほんの少し前までこの場を圧倒していた魔力が跡形もなく消える。
そして、沈黙と無言の視線がぁぁぁぁ!!!!!
「「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」」
「・・・・ルルリーア嬢」
その場に居た全員に見つめられる、花も恥らう乙女ルルリーアでございます。
・・・・え?私!!???私のせいなのぉぉぉ!!??
ちょ、ちょっと心の声がもれちゃっただけだからぁぁぁぁ!!!!
だから、何かを疑うような目で見ないで王弟殿下ァァァ!!!
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