3話
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
どうもごきげんよう。ルルリーアでございます。
何故、私が一人(我が家の侍女付き)で、王宮にいるのだろうか。
それを説明するには、少し前に遡る必要がある。
夫婦仲良く倒れた後、どうにか復活した父様が、禿げる勢いで悩みながら執務室に篭って3日後。
本当はもっと、いや永遠に悩んでいたかったようだが、それはそれで不敬であるので断念。
そこで出した結論は、『そうだ、我が家ではなくて領民へ与えよう』とのこと。血の繋がりを感じます。
名目は、先々月兄様が部署異動された祝いの、領主からの有り難い振る舞い、ということになった。
部署異動と言っても、所属の名称が変わっただけで実質異動なんてしていないのだが、領民から見れば貰えればなんでもいいだろうからよしとする。
そう晴れ晴れとした顔で語った父様から、一枚の書状を受け取る。
「これは???」
「陛下がな、私ではなくお前に直接褒美を渡したいと仰せでな。ということで、王宮行って来い」
ええええええええええ!!!せっかく父様に丸投げしたのにぃ!!
というわけで、清々しい笑顔で家族全員に送られた私。あぁ、これも楽をしようとした報いなのかしら・・・。
私だって、アイリーン様からの招待状はやっぱり来るわ、サラから文句を言われるわで、心休まらない3日間だったと言うのに!
・・・・・すみません嘘です。サラとお菓子食べて刺繍して本読んで、楽しくいつも通り過ごしてましたが何か!?
「マーニャ、どうしてこうなったのかしらね」
「それはお嬢様がお嬢様であったからですね、あと運」
なんて酷い侍女でしょう!もう恋愛相談なんて受けてあげませんからね!
「なんだか悪い予感がするのでとりあえず謝ります。申し訳ございません、お嬢様」
マーニャは可もなく不可もない侍女であったが、勘の良さだけはピカイチなのである。自分に関すること限定ではあるが。
はぁ、とため息をつく。
「そうよね、陛下はお忙しい身。型通り褒美を頂いてすぐに帰れるはずよ」
「お嬢様自身、信じておられないでしょうに。とても空々しく聞こえます」
そうよねぇ・・・。わざわざ父様じゃなくて娘を呼び出すのだもの・・・。何かあるわよね、夢くらい見たって良いじゃない、マーニャ。
そう遠い目をしていると、近衛詰所に到着。マーニャが手続きをしてくれている。
騎士様に控室にて待つように言われて大人しく紅茶を楽しむ。ふむ美味しいな!!
「待たせたな、ルルリーア嬢」
ぶっほぉおお!淑女にあるまじきことに、紅茶を吹き出してしまった。
それを面白そうにジロジロ見てくる目の前のお方。感じが悪いことこの上ない。
「・・・・失礼致しました、騎士団長閣下」
そうだよ!殺気野郎(騎士団長)だよ!!なんでここにいるんだぁ!
「陛下よりルルリーア嬢のエスコートを命ぜられた。・・・ぶっ・・・、こちらに」
優雅に手を差し伸べているが、顔が笑ってるぞコラァ!
心のなかで青筋を立てまくりつつ、エスコートを受ける。落ち着け私、笑顔を作らねば!
「ありがとうございます」
そっけなくなってしまったのは仕方ないだろう、大目に見てくれ。こちとら10代の繊細な心の持ち主なのだよ。
そんな考えなどお見通しなのか、まだ笑いが収まらない様子。ご機嫌麗しいようでようございましたねぇ!
ジト目で見ていたのに気づいて、殺気野郎、もとい失礼野郎(騎士団長)はこちらに軽く頭を下げた。
「これは失礼した。見事な・・・ふっ・・・吹きっぷりだった・・。くくっ」
氷の騎士(笑)の珍しい光景に、すれ違う人が目を丸くして注目が集まるぅぅぅ!
「お褒めに与り恐縮でございます」
努めて平静に返そうとしたが、顔は完璧な淑女の笑顔、声は不満たらたらというアンバランスな出来になってしまった。
ら、更にツボに入ったのか、声を上げて笑い始めたよ、氷どこ行ったのさ!失礼野郎(騎士団長)!!
いいから、とりあえず、わらうの、やめてくれないかなぁぁぁ!!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「これはこれは珍しいものを見たものだ」
結局、隣の失礼野郎(騎士団長)は、陛下の応接室まで、笑い止むことはなかった。なんということだ。
陛下の前で笑うなよ不敬な奴め。
「遅くなり申し訳ございません・・・ぶふっ・・」
笑いながらも、エスコートは完璧だったイケメン爆ぜろ。
そうやって乙女たちを弄んでは、「勘違いするな」とか冷たくあしらうんだな!!
まぁ、私の場合、いらぬ注目を浴びて別の意味で弄ばれてた気分だがなっ!
「お呼びに与り参上仕りました。陛下」
失礼野郎(騎士団長)はとりあえず無視して、陛下へ挨拶とカーテシー。
「よく来た。さ、座るが良い」
にこにこと上機嫌な陛下に警戒しつつ、座る前にとりあえず一応エスコートしてもらったような気がする失礼野郎(騎士団長)へお礼を言わないといけないと思い、向き直る。
・・・・・なぜ、貴方も座ってるんですかァァァァ!!!!
思わず怪訝な顔を一瞬してしまった、のを見逃さず(そこは紳士として見逃せよ)ばっちり見た失礼野郎(騎士団長)が、またもや吹き出した。
今日は沸点が低いんですね氷の騎士(笑)様・・・・。
顔を背けて笑いを堪える彼奴を放置して、不本意ながらも隣りに座る。そこしか座るとこないからね!
「この珍しい光景が気になるところではあるが。まずは用事を片付けてしまおうかの」
陛下、私にはひとつの用事しか心当たりがありません。
なになになんなの、他に何があるのぉ!!
控えていた従者が捧げ持ってきた封書を、ひょいと軽々しくこちらに渡す陛下。
出来るだけ恭しく見えるように受け取る私エラい。
父宛だから私見なくていいよねっ!
「褒美は領民へ、ということじゃからの。王家秘蔵のワイン10樽と護岸工事の補助申請受理書じゃ」
よっしゃぁぁぁ!意外といいもんもらえたぜ、やるな父上!!
うち弱小だから補助申請とかものすっごく後回しにされるんだよねー。みんな喜ぶよーー。
「有難く頂戴させていただきます」
満面の笑顔でお礼を言うと、陛下に微妙な顔をされた。なぜ????
「あやつらも大概な態度であったが、顔だけはよいはずであるのに。うら若き乙女が、あやつらよりも書類の方に満面の笑顔を・・・。よもやその年でもう枯れてしまったのか?」
失礼だな陛下。直接聞きすぎだろ。
「はぁ・・・。特にそういうわけではございませんが。ただ」
あーー、正直に言うとこれ不敬にならんかね???
と思って陛下を見ると、「よいよい」という感じで促されたので、非公式だしまあいいかな、と本音をぽろり。
「どう考えてもあの方々は百害あって一利なし、に比べて、補助金は領民も喜んで家族も喜んで良いことづくし。比べるまでもないかと」
なんか『やめてくれぇぇぇ』と叫ぶ兄様が見えたような見えないような。幻覚だなうん。
「ほうほうほう!百害とな!」
なんで目を輝かせるのさ陛下。いや手を離してくれ、いたっいだだっ!
力がつよいぃ!!わたし、淑女、淑女だからァァァ!!
「わかるか!わしの目に狂いはなかった!」
なんか感極まってるのは良いから早く手を、ってなぜ貴方まで肩に手を置いてくるんだぁぁ!もう心のなかで『失礼野郎』とか思わないから、離れてくれ騎士団長閣下ぁぁ!
「陛下、これはもう間違いございませんね。本題に入れるかと」
いやいや本題はもう終わったよ何言ってるんだワタシオウチカエリタイ。
「うむ!そうじゃな!」
そう力強く頷くと、陛下はそのご尊顔にキラキラした笑顔を浮かべて、宣言された。
「ルルリーア・タルボット!そなたを国王専属愚痴聞き係に任命いたす!」
潰されそうな手も、重苦しい肩も忘れて、ポカンと呆ける私。
え、それ辞退しちゃだめですかぁぁぁ????
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※裏設定
・ヒロイン(マリア嬢):
前世記憶(?)ありヒロイン。逆ハーレムルートになぜかはいれなかったので、ちょろい王子ルートに・・・がどうしてこうなった!??←イマココ
・悪役令嬢(アイリーン様):
前世記憶あり悪役令嬢。死亡フラグが恐ろしくて色々な人のトラウマを回避したり、訳あり従者を拾ったりと奔走したため、無自覚人誑しとなった。とりあえず冤罪免れてホッとしてる。←イマココ
・主人公(ルルリーア嬢):
何も知らない完全に巻き込まれたオウチカエリタイ←イマココ