4話
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背もたれの影から全く出てこないアイリーン様。と対峙している私達。
我が国の公爵令嬢であるアイリーン様が他国の民だった、なんて結構深刻な真実だと思うけど、やっぱり滑稽な光景だなこれ。
「で?どこから来たの?」
全くブレないな!サラよ!!
毛先見ても枝毛ないから!大丈夫だから!せめてアイリーン様の方ぐらい見てあげてっ!!!
古の邪悪なるダークドラゴンが獲物だと思ってたものが噛んでみたら美味しくなかったと言わんばかりの、興味の失いっぷりだよ!
「あーー、アイリーン様?多分、おそらく、今のところは、サラ誰かに吹聴するつもり、無いと思いますよー?」
「ふ、不確定過ぎるぅぅ!!安心できないぃぃぃ!!」
アイリーン様が隠れる椅子がガタガタと揺れる。
ちっ!面倒だな。コレ聞かないとサラ帰らないし、ってことは私も帰れないからな。
「で?」
「ごっごめんなさぃぃいいい!!異世界から来ましたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
サラの再威圧によって簡単に喋った残念アイリーン様。
????『いせかい』って何処????なんか似たような言葉を、最近聞いたような聞いてないような??
頭を捻らせる私を置いて、サラはそのままの態度で続ける。
「へぇ・・・。どうやって?」
「ふぇえ・・・信じて、くれるの??」
頭頂部だけちょこっと見えてるぞアイリーン様。ああもう、欠伸しないのサラさん。
「信ずる根拠も無いけど、否定する根拠も無いもの」
「サラさんッ!!!」
あー・・・サラは否定してないだけで信じてはいないみたいですよ??アイリーン様???
半分出てきた顔が何かの期待でキラキラしてるけど、辞めておいたほうがいいですよ?なんだかはわからないけど、その期待、裏切られますよ?
えっと、しどろもどろにアイリーン様が説明した内容をまとめると、こんな感じだ。
幼少の頃、突然『いせかいのにほん』なるところで生きていた記憶が蘇ったらしい。
そこで、一つ前のアイリーン様は『おとめげーむ』というゲームを『げーむき』で遊ぶのに嵌まっていたが、ルメール王国がその『おとめげーむ』にそっくりの世界であって大層驚いたそうな。
・・・・いやもっと色々と言ってたがしかし、アイリーン様の話、知らない単語がたくさん出てきてわかりにくいな・・・。私はここでたまらず質問した。
「サラさんや、『おとめげーむ』とはなんぞや???」
「彼女の話だと、遊戯専用の魔法道具のようなものに多様の選択肢を記憶させて、遊び手が主人公の言動を操作することで物語の、それも恋愛模様の結末を変えていく。つまり一人遊び専用の『ゲーム』ね」
私達に馴染みの深い『ゲーム』とは少し形式が違うみたいね、とサラは続けた。
ほうほう・・・・つまりぼっち用ゲームか。サラの説明に、アイリーン様が感心したように頷いた。
アイリーン様よ、『おとめげーむ』は貴方の『いせかいのにほん』のものではないのか?それで良いのか??
「私としては『ゲーム』は生身の相手があってこそ面白いのだから、正直受け入れがたいけれどね」
サラは気に入らなそうだなー。人と人の知略戦が大好きだもんなー。
私は面白そう、と思ったけど、結末がいくつもあって全部見るのは大変だ、と聞いた瞬間興味を失った。てへ。
その『おとめげーむ』の物語の登場人物に、なんとアイリーン様そっくりの登場人物が出ていて、しかもどの選択肢を選んでも、どんな結末でも死んでしまうそうな。それは酷い物語だな、いや主人公じゃないからいいのか?
それを思い出して、自分のことだと悟ったときの恐怖から、なんとか死を逃れようと、懸命に行動を起こしたらしい。
えっと、アイリーン様??その、『おとめげーむ』って空想の物語なんだよね??え?違うの??
しかしその物語の登場人物だと思っているアイリーン様は、自分の死因に関わるような人には敵対されないように、色々と『ふらぐ』を折ったりしたらしい。・・・だから単語わからんぞぉぉぉぉ!!
要するに、人助けってことかな?
しかし、直接死を宣告する婚約者に対しては、恐怖が先に出てしまい、どうしても仲良くすることが出来なかった、とアイリーン様。
・・・・・あの、元王太子殿下への冷たい態度とかはそのせいか。やっぱり哀れだな、彼は。今どうしてるんだろう・・。神よ、彼に幸あれ・・・。
そして、男たちを侍らせ、じゃなくて男たちが侍っていたのは、アイリーン様が人助けをしたせいだったのか。いやいや、でもあれ多すぎだし、厄介すぎるけどいいのか??アイリーン様。
そうしてあの卒業パーティーの『婚約破棄騒動』か。そこでアイリーン様はマリアさん(懐かしいな!)に危害を加えたとして、牢に入れられて、毒殺・衰弱死・絞殺・転落死、と様々な方法で死に至る、はずだったが、私の証言で(まじか!!)免れたのだった。
アイリーン様の話がホントなら、私、アイリーン様の命の恩人じゃない?
・・・まぁ、そんなこと、少なくともあの王弟殿下が許すとは思えないけど。
「へーー」パリパリ「なんか大変そう」パリパリ「だったんですねーこれ美味しい!!」パリパリ
「あの時はホントありがとっ!ルルリーアさん!!ちなみにそれは『ぽてとちっぷす』で、薄いジャガイモを揚げんだっ!」
ほーコレも『いせかいのにほん』とやらの食べ物か。指が油っぽくなってしまうのが難点だけど、薄いからついつい食べ続けてしまうな。パリパリ。
甘いものを続けて食べた後だから余計にね!
私が甘味に夢中になっていると、サラはもう少し突っ込んだところを聞いていたようだ。『にほん』の社会構造や各国との関係、制度・・・・。
聞き終えてサラははっきりと言った。
「貴方が異世界の記憶を持っている、というのは納得したわ」
「ほっほんとにっ!!??信じてくれるのっ!!???」
ちなみに、アイリーン様は背もたれの影からは一応卒業している。が、椅子とテーブルの間の床に座り込んでいる。
床に直接座るのが落ち着くらしい。・・・変な人だな。
そんな微妙な位置から、期待を込めた目で喜ぶアイリーン様。
「物証は何もないけれど、貴方の話はどれも違和感が無かったし、多人数が存在した現実の話であるようだしね」
サラさん、わたしにゃちっともわかりませんですよ。もっと碎けた感じでお願いします!!の目で見た。
「・・・・つまり、素直な彼女じゃ全く考えつかないような、複雑な仕組みの世界、だから納得したのよ」
ほほー、そうなんだー。
アイリーン様の話より、目の前のお菓子に気を取られていた私は、『おとめげーむ』の説明以外はきちんと聞いてなかったので、どの辺が複雑なのかはわからんが、サラがそう言うってことは、そうなんだろうなー。
「でも、何故、『異世界の貴方の記憶』を『この世界の貴方』が持っているのか、までは納得出来なかったわ。そこは?」
「わ、私にもわかりませんでございますっ!!」
ビシリ、と額に手を当てるアイリーン様。
・・・・アイリーン様がサラの子分に見えるのは、私の目が急に悪くなったからだろうか。
おぉ、そうだ!思い出したぞ!!『いせかい』じゃないけど『いかい』なら聞いたことあったんだった!
「あ、それ私知ってるかもー」
「・・・・もしかして、例のドラゴン?」
「お!流石はサラ!ご名答だね!まあ、答えかどうかはわからないけど、手掛かりくらいにはなるんじゃないかな?」
そう私が言うと、サラは先程までの退屈そうな態度が一変して、まるで極上のワインを前にした邪悪なるダークドラゴンのような恍惚とした笑みを浮かべた。
(肉じゃなくてワインになったのは、明らかに天眼竜様のせいだ。)
あ、アイリーン様がテーブルの下に隠れた。
「あぁ、本当に、もう。リーアってば・・・どれだけ私を魅了すれば気が済むのかしら」
「怪しい言い方をすなっ!そんな覚えはないよっ!!?」
憤慨するが、サラは歯牙にもかけない。まったくもうっ!
「えっと、単語としては聞き取れたけど、理解はできなかったからそのまま言うよ?
《『ちみゃく』の流れが想定より速く影響範囲も広かったようだ》
《そのせいか、『じかんじく』が歪んでしまった。鱗無き者たちもこの地も数多の『いかい』からの影響も受けたようだ》
だってさ」
表情を一切消し去って考え込むサラ。が、次の瞬間、極上のワインを樽ごと噛み砕いた邪悪なるダークドラゴンのように、獰猛に嗤った。
おわっ!楽しそうだけど、顔怖っ!!!アイリーン様テーブルの下から出てこれなくなっちゃうよ!!!
「なるほど、そういう事ね」
「お?理解ったの??」
「ええ、つまり、アイリーン様の記憶はその『地脈』によって重なった『異界』から流れ着いたもの、ということね」
へー。・・・・どゆこと??え?記憶って流れ着くものなの??アイリーン様はわかった??
「ふむふむ・・・多次元世界が、ドラゴンの力の影響で歪が生じて影響し合っちゃった、ってことかな」
テーブルの下からは意地でも出てこない気なのか?アイリーン様。
まじか。二人共理解ったの??私だけ置いて行かれたようだ・・・くすん。
それぞれ納得したようでようございましたな!!!ふんっだ!
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