3話
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燃え尽きた乙女、ルルリーアでございます。
王弟殿下にネチネチいびられ、騎士団長に責められ、あとから来た宰相閣下にまで小言をもらって、精神がガリガリと削られました。
お祈りを捧げた効果は全く無かったようです・・・・。悪魔の囁きに負けそうになったからかな・・・。
だから、癒やしを求めて我が親友サラの元へ来たと言うのに、何故私は馬車に乗っているんだ??
「何故なんだい?サラよ」
「あら、前に言ったでしょ?確証が持てたら話すって」
・・・・ん???あー、公爵令嬢アイリーン様のお茶会に呼ばれた時のやつか。
確かお菓子が変でアイリーン様が不審、なんだっけ??すっかり忘れてたよ。
「確証、ねぇ。・・・あのーサラさんや。話をするだけならサラの家で十分だったんじゃ」
なんだか嫌な予感しかしない。だってほらサラの顔がぁぁぁぁ!!!
「話をするなら本人も交えたほうが早いわ。だ・か・ら?」
嫌な予感が当たりそうだ。
私は馬車の窓に慌ててへばりつく。こ、この通りは高位の貴族の館しかないとこだぁぁぁ!!!
・・・・まさかぁぁぁ??うそ、嘘ですよねぇ??冗談だって言ってよサラ様ぁぁぁ!!
固まった私に、サラは実に楽しそうな古の邪悪なるダークドラゴンの顔で、笑いかけた。
「馬車の目的地は、ディラヴェル公爵家よ」
やっぱりぃぃぃぃぃ!!!アイリーン様の家かぁぁぁ!!
公爵家の紋章が入った招待状をひらひらと振るサラ。いつの間にィィィ!!!
「リーアも一緒って言ったら彼女、すぐにくれたわよ?」
アイリーン様ぁぁぁぁ!!ひょいひょい招待状あげないでぇぇぇ!!
公爵令嬢でしょーがぁぁぁ!!!
無情にも馬車が止まる。もう着いたの!!??
「さぁて?どうなるかしら。あぁ・・楽しみ!」
・・・・・頑張れアイリーン様。私陰ながら応援してるよ!!
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「ごきげんよう!!ルルリーアさん!サラさん!!我が家へようこそ!!」
アイリーン様の満面の笑顔で迎えられた私達。
・・・・・もう何も言うまい・・・。
乾いた笑みを浮かべる私と、猫を何重にも被って完璧な淑女の笑みを浮かべるサラ。
「突然の申し出にも関わらずお受け頂き、ありがとうございます。アイリーン様」
恭しくカーテシーをするサラの横で私も倣う。隣から冷気がぁぁぁ!!ていうか猫をかぶったサラが気持ち悪いィィ!!と、鳥肌がっ!!
「どうぞこちらへ!実は今朝、当家自慢の温室で新種の薔薇が咲いたのです!」
「まぁ!それは楽しみですわ」
「・・・・・・・」
嬉しさを隠しきれないアイリーン様に、穏やかな笑みを浮かべるサラが胡散臭すぎて、何も言えない・・・。
そうして私たちは、公爵家ご自慢らしい(多分)希少な水晶をふんだんに使った温室に吸い込まれていった・・。
ワタシ、オウチ、カエリタイ。
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「さぁ!どうぞ!召し上がってくださいませ!」
迎え入れられてからずっと、上機嫌なアイリーン様。
早く帰りたい気持ちは消えていないが、お菓子に罪はない。しかたがないな、もぐもぐ。
「まぁ美味しい!これは珍かなお菓子ですわね?」
白々しく驚くサラに鳥肌が収まらない。
だがお菓子につみは(以下略)。ふむ、確かに食べたことがないお菓子だな、美味しい!もぐもぐ。
「こちらは私が発案した『どらやき』と言う名のお菓子ですのよ」
へー、そうなんだー。アイリーン様すごいな。料理人か??
外側はもちもちしっとりしてて美味しいし、中身の甘い黒っぽいものと合わさって美味しい。もぐもぐ。
「へぇ・・・『どらやき』で、ございますか?」
目を細めるサラ。あっやばい、これやばい。まるで獲物を目前にした古の邪悪なるダークドラゴンが獲物に気づかれないよう息を潜めているかのようだ。
でもそんなサラに気付かないアイリーン様頑張れ。すごく頑張れ。
あっ、このちょっと渋い緑のお茶も美味しいな。
「えぇ!そうなんです!中身は『あんこ』と言いまして、これを完成させるのに大変苦労したのです!」
「・・・・・なるほど」
扇子で覆っているが、横にいる私にはやはり恐ろしい笑みを浮かべているサラが丸見えだ。
アイリーン様そろそろ逃げたほうがいいですよ?
ぱちん、とサラが扇子を閉じる。あ、古の邪悪なるダークドラゴンの笑みをまともに見たアイリーン様が固まる。
「アイリーン様は、我が国の民ではございませんね」
おお、断定したな。すごいな、サラ。あっこっちのも美味しい!もぐもぐ。
「なっ!!」
絶句するアイリーン様。あれ?てっきり怒られると思ったけど、なぜに顔が真っ青なの??
え?本当なの???それすごいな!!
びくりと身を固くするアイリーン様とは違って、まるで自分の家かのように落ち着いているサラ。
「この頂いたお菓子ですが、アイリーン様が自力で考えたものではなく、アイリーン様のお国に元々あったものではございませんか?」
「ひっ!・・・そ、そんなことっ、ありませ、んわ!!!わ、わたくしがっ、かんがえたのですっ!」
そう震えながらもアイリーン様が反発すると、サラはそう来なくてはと言わんばかりに、まるで古の邪悪なるダークドラゴンが爪先で哀れな獲物を弄ぶかのように、にぃっと笑った。
ひゃあ!こわぁ!!むっちゃこわぁぁ!!
「では、その根拠をご説明いたしましょう。まずは、その菓子の名、ですわ」
「名前??確かに聞き慣れないけど??」
憐れにもサラの笑みをまともに見て固まってしまったアイリーン様の代わりに、サラへ聞いてみる。
サラが断定する理由、ちょっと気になってたんだよねー。もぐもぐ。
「ええ、但し、聞きなれない、程度ではないわ。『どらやき』も『あんこ』も、我が国の語源をいくら遡っても意味が汲み取れないものなのよ」
「えっそうなの?」
「『やき』は『焼き』だとしても、『どら』がねぇ・・・。まぁ無理矢理当てるとしたら、ドラゴンか、古代語のデュラぐらいかしらね?『あんこ』に至ってはかすりもしないわ」
うーん、ドラゴンは、この丸い形から連想出来ないしねぇ・・・。
「え、デュラってなんて意味?」
「まぁ諸説あるけど、『落ち行くもの』とか『異形なる』が有力ね」
ほへー、お菓子に繋げる言葉じゃないねー。あっごめんごめん。続けてちょうだいサラ。
「まぁそれだけなら、私の知らない言語から引用したのかもしれない。でも決定打は『あんこ』自体の完成度と作成過程ですわね」
「完成度??」
「そう、この『あんこ』はたった3ヶ月で奢った王族の口に合ったのよ?例え料理の達人であったとしても異常だわ」
ねぇねぇ、異常とか言われてるよ?アイリーン様?
・・・・・あれ・・・返事がないな・・・。
「加えて作成過程。公爵家の料理人の話では、『まるで完成品を知っている』かのような指示だったそうですわね?アイリーン様?」
あー・・・・これはあれだな・・・・・。
「そして他国民であると疑う根拠は、材料が」
「ねぇねぇサラさんや」
話をぶった切ったにも関わらず、上機嫌のままのサラが、なあに、と首を傾げる。その姿だけなら可愛いんだけどね。
いや、古の邪悪なるダークドラゴンが首を傾げてるだけか、恐ろしいわ。
「アイリーン様多分気絶してる」
「あら」
そう言ってアイリーン様をまじまじと見るサラ。するとおもむろに扇子を取り出した。
ぱぁぁんっ
「ひゃあ!」
すっと目を細めたサラが、取り出した扇子をテーブルに叩きつけた。ら、アイリーン様が復活して情けない悲鳴を上げた。
・・・・・私もびっくりしたのは内緒だ。
「ひっ!!え??あれ?え???」
狼狽えて涙目になるアイリーン様。靴を脱ぎ、椅子の上で膝を抱えるその姿は、残念だが私の目にも公爵令嬢には見えない。
・・・・・いや、サラが怖すぎるだけかな?陛下もクッションよく抱えてるし。
「繰り返すのは面倒だわ。だから気絶するのはやめてちょうだい」
「は、はひぃぃぃっ」
立場逆転してるよ。あ、敬語やめたなサラ。これ多分つまらなくなったなサラ。
「えー、だから、そうねぇ。『あんこ』の材料、大陸の東の僻地、シェイ・ルーから取り寄せてるけれど、現地で『あんこ』に似た料理すらないのよ」
単に煮たものはあったけどね、と呟くサラ。辛うじて説明は続けてるけど、肘置きにもたれかかってて・・・・・あぁあぁ外見ちゃってるよ、完全に飽きたねこれ。
そしてさっきから思ってたけど、公爵家の情報筒抜けすぎじゃないか??
「他にも・・・まぁ・・色々証拠はあるけれど、聞きたいことは一つ。貴方、どこから来たの?」
それだけはわからなかったのよねーと毛先を弄ぶサラ。
へー、そうなんだー。そうするとアイリーン様がどこでこの『あんこ』って料理を知ったのか、わかんないってことねー。
サラがわからないってことは、少なくとも大陸にある国じゃないな。
人を寄せ付けない孤島か、深き森の奥の秘境かな。おお、すごいな!!
と、突然立ち上がるアイリーン様。
お?反撃か??と思いきや、素早く、椅子の後ろにかく、れた、だと?????
「す」
「す?」
アイリーン様の零れた声を繰り返す。
そのアイリーン様も、公爵家の豪奢な椅子の背もたれにすっかり隠れてしまったので、姿は全く見えない。
「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
背もたれから聞こえてくる悲鳴に近い叫び声。
え???これ本当に、アイリーン様、他国の、人なの?????
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