【閑話】どうでもいいよ少年は微笑む
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美味しそうにパイを頬張る少女に手製のお茶を注ぎながら、自分は変わったなとしみじみ思った。
こんな甲斐甲斐しさ、アイリーン以外にすると思わなかった。
「でね?もうほんと頭が爆発するかと思ったのよ・・・」
へーそうなんだーと適当に相槌を打つと、憤慨した彼女はもっといい反応を寄越せぇぇと叫ぶ。
きみ、本当に伯爵令嬢なの??
それにしても、アイリーンへ執着していた僕が、こんなにも変われるものなんだなと、本当に不思議に思う。
そしてそれ以上にリーアは不思議な子だな、とも思う。
面倒を嫌がっているくせに自分から面倒事に突っ込んでいき、吹けば飛ぶようななよっちい身体のくせに魔力暴走した僕に無謀にも突っ込んでくる。
矛盾だらけで不可解な生き物。それが僕から見たルルリーアという人間だ。
アイリーンが居れば他はどうでも良かった。
アイリーンが僕を見てくれればそれで満足だった。
アイリーンが褒めてくれれば何だってした。
アイリーンが僕の全てだった。
実は今でもそんなに変わっていない。アイリーンは僕の全てだ。
・・・・・そんなこと言ってると、またリーアに頭突きされそうだな。
あの一撃の後では少しだけ他のものが入ってきた。
初めての友達とか、ね。
「それにしてもコノ微妙な色のお茶、美味しい!これ、何?」
「えぇと、ドクダ草とナス皮を蒸留したものとカマ「そ、そこまでぇぇぇ!」・・・なに」
「全てを言うでない!飲めなくなりそうだから!」
「・・・・それでも飲むんだ」
自分で淹れておいてなんだけど、こんな毒みたいな色のお茶、よくホイホイ飲めるよね。
ドラゴンのことになると寝食を忘れてしまう師匠(魔術師団長のことね)のために、アイリーンと会う片手間に開発したものだから、もちろん毒じゃないけどね。
「アイリーンもこのお茶、気に入ってくれててさ」
「あーはいはい」
アイリーンとの思い出を話そうと思ったのに、きみだって適当な反応じゃないか。
ちょっとむくれると、リーアは僕が出したチョコパイを寄越す。これ僕のお菓子だから。
・・・もらうけども。
パイをもしゃもしゃしながら、美味しいねーと笑い合う。
この緊張感のなさ、なんだろう。
アイリーン以外といるとき、いつだって僕は警戒していたと思う。
だってそうだろう?
実の母親だって父親だって、僕を恐怖の目でしか見てこなかった。毎日殴られて蹴られて捨てられそうになるのを、僕は生きるためだけに必死で縋り付いた。それでも愛情はもらえなかった。
師匠に拾われた後も、会う人みんな、僕を見ると『悪魔の子』だと蔑んだ目をする。
そんなことが続いたら、誰かに期待することもなくなるだろ?誰の目も見なくなるだろ?諦めちゃうだろ?
そんな時に、魔力暴走して女神みたいに綺麗な女の子に命を救われたら、僕を受け入れてもらえたら、好きになるのは、僕の全てになるのは、当たり前だよね。
「ねぇねぇ、僕が、アイリーンに好きになって貰うためにリーアを利用しようとしてるとしたら、どうする?」
・・・・こうして、ついつい試すような事を言ってしまう僕は本当に面倒なやつだとは思う。
(ちなみに師匠にやると、無言で拳骨を落とされるので、今はもうやらない。)
でも試したくなってしまう、この不可思議な友達を。
「へー別に?」
「・・・それだけ?」
「それだけって言われても・・・」
興味なさげで適当な返事をよこした後、ちょっと困惑気味に言われる。
・・・自分で言っておいて何だけど、真面目に考えてる??
「あのさ、友達が本気でそれを望んでるなら、願ってるなら、利用?なんなのどんとこい、でしょ?何いってんの?」
「・・・きみ、ほんとに性別間違えて生まれてきたでしょ」
「おい失礼だぞ」
思わず憎まれ口を叩いてしまった僕に、間髪入れず突っ込むリーア。
友達、と躊躇なく言われたことに、口が緩みそうになるのを慌てて茶を飲むことで誤魔化す。
いやいやいや、発言が男前すぎるからね?自覚してほしいよ。
「だがしかし!私がアイリーン様との架け橋になることはない!残念だったな、ソラン君よっ!!」
胸を反らして自慢げに宣言するリーア。
・・・・色々とズレてる気がするけど、ソレは言ったほうがいいのかな?
アイリーンと違って、僕は彼女に執着していない、だから僕がリーアに恋して無いのは確実だ。
それだけど、それなのに、彼女と居ると、息がうまく出来る気がするんだ。
なんでだろうね?あぁでも理解らなくてもいい気もするんだよね。
こんな不確かな自分が可笑しくなって、思わず笑ったら、リーアに、僕の友達に飴玉を投げつけられた。
・・・・まったく、食べ物で遊ばないの!!
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