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【閑話】どうにでもなれ騎士は嫁にと願う

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「おぉ!目を覚ましたか!」



 白い天井が見える。俺は確か会場の警備を・・・。

 ・・・思い出した、団長と魔術師団長の殺気に当てられて、気絶したんだった。



「・・・うむ、問題なさそうだな。さっさと持ち場に戻らんか」



 今起きたばっかりなんだけど。・・・・いつも通りだな、うん。


 うんうんと唸る魔術師のローブの塊に同情を寄せながら、ベットの傍らにあった自分の装備を身に着ける。


 ・・・・またあそこに戻るのか。


 ぶるりと身震いするが、これも騎士の勤め。・・勤め。

 愛する妻と可愛い二人の子の似顔絵が入ったロケットを握りしめ、会場へと向かった。





「おお、戻ってきたな」



 同僚の騎士に片手を上げて挨拶する。


 ・・・・いつもながら思うが、ここまで闘技台を粉々にしなくていいんじゃないか?


 会場に戻ると既に闘技大会は終わっており、観客も疎らだ。

 そしてあとに残るのは、大型の魔物でも暴れたような荒れ果てた会場と、泣きながら数を数える財務官だけだ。


 何度数えても、壊れた結界石の数は変わらないぞ。


 あれ、結構高価らしいな、財務官の飲み友が、『今年は何個残るかな・・・』ってボヤいてたな。

 じゃあ使わなきゃ良いじゃん、といったら、魔術師の飲み友に『俺らを殺す気か!』と怒鳴られたっけな。


 両者が泣き出したので、酒を奢ってやったら高い酒頼みやがって・・・。手持ちが無くてツケにしたら、カミさんに小遣いを減らされたんだぞ。



 それにしても、あの人達は本当に人間なのか?



 これでも村じゃ一番の腕前で、一人前の騎士になってからも中々の実力者と言われていたが、そんな自慢も彼が入団するなりぺしゃんこになった。


 そう、今の騎士団長だ。



 平民はいくつでも騎士見習いになるが、お貴族様は学園に通わにゃならんから、あれは16歳だったんだろう。


 貴族特有のおキレイな顔で女みたいだったから、最初は舐められまくっていた。

 まぁ、貴族が騎士になるなんざ、そうあるわけじゃない。だから通常の見習いより厳しくされんのも、やっかみ混じりの歓迎みたいなもんだ。貴族だったら直ぐに昇格すんだろうしな。


 俺はその時今のカミさんを貰って幸せ一杯だったから、泥だらけになった未来の団長によくタオルを貸してやったもんだ。懐かしいな。


 普通なら悔しがるか泣くかするはずなのに、まったく表情が変わらないなと気づいたときから、変だなとは思っていた。


 由緒ある伯爵のくせに騎士をしてて、しかも『生涯現役で陛下にお仕えするのだ!』とか言って昇格全部蹴ってる変わりもんのおやじが『あれは化けるぞ』とかしたり顔で言っててもしや、とも思っていた。



 しかし化けるは化けるでも、化けもんになるとは思わねぇよ、おやっさん。



 まさか騎士見習いの昇格試験で、対戦した騎士全員、完膚なきまでに叩きのめすなんて。

 俺も叩きのめされた側で、そりゃあ呆然としたもんだ。


 当時の騎士団長に殴り飛ばされるまで終わらなかった時点で、もう俺らの中で決まった。


『あいつは、次の団長だ!!!』ってな。




「おい!早く次の持ち場に行けって!」



 おおっといけねぇ。ついつい考え込んじまった。ええと、つぎつぎっと。



 ・・・あのお嬢さんの護衛、か。



 会場から出て、貴人たちが集まる休憩場へ急ぐ。



 今回の『花鱗の乙女』である彼女を初めて見たのは、鍛錬場だ。


 なんで、見るからに貴族の、しかもロクに鍛えてもなさそうな少女が、こんな所にいるんだ?なんて思ったもんだ。

 団長は面だけはいいからな、団長に熱を上げてる小娘が無理矢理着いてきたのかと、機嫌が悪くなった同僚も居た。特に独身者なんざ、恨みも篭ってたな。



 その少女が、団長の殺気に耐えられるまで、はな。



 いやぁ、生きて団長のあの殺気に耐えられる女にお目にかかれるとは、誰も想像だにしなかったな!!それが例え少女でも気にしない気にしない。

 思わず、『嫁か?』なんて言っちまったよ。


 団長の好みは騎士団の中じゃ有名だったし、あんなにイケメンなのに団長は生涯独身か!?なんて言われたもんだが。


 これは逃しちゃいけないと、二人目の子供が生まれて幸せ一杯だった俺が、応援係を買って出たわけだが。



 おいおいおいおい、団長よ。女の子に、厳しすぎやしないかね?


 何度も何度も高いところから落とされて、ぼろぼろになっていく彼女に俺は焦り始めた。


 よ、嫁が!団長の嫁がっ!こんなんじゃ嫌われちまうぞっ!!




 助けるつもりで、彼女を応援する。が、がんばれ!!団長の嫁になって、鍛錬の時間を減らしてくれェェェ!!





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 ドラゴンに乗る団長とルルリーア嬢を見て、俺は涙を流した。

 よかった、これで団長の恋が実る!!


 なんだか盛大に横道にそれた気がするが、男はそんな細かいことを気にしちゃいけねぇ。



「なぁなぁ、あの騎士団長に抱えられてる子、誰なんだ?」



 花鱗がキラキラと反射しながら零れて素晴らしい景色だ。興奮冷めやらぬ観客が、花鱗を握りしめながら、俺に尋ねる。



「あぁ、彼女か。彼女は、団長の(未来の)嫁だ」




 周りで『騎士団長の嫁!?』『竜騎士の!?』『じゃあ、竜騎士の花嫁、だな!!』なんて騒ぎになったが、気にしない。




 団長、俺、いい仕事したぜ!!





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