【閑話】どうにでもなれ騎士は嫁にと願う
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「おぉ!目を覚ましたか!」
白い天井が見える。俺は確か会場の警備を・・・。
・・・思い出した、団長と魔術師団長の殺気に当てられて、気絶したんだった。
「・・・うむ、問題なさそうだな。さっさと持ち場に戻らんか」
今起きたばっかりなんだけど。・・・・いつも通りだな、うん。
うんうんと唸る魔術師のローブの塊に同情を寄せながら、ベットの傍らにあった自分の装備を身に着ける。
・・・・またあそこに戻るのか。
ぶるりと身震いするが、これも騎士の勤め。・・勤め。
愛する妻と可愛い二人の子の似顔絵が入ったロケットを握りしめ、会場へと向かった。
「おお、戻ってきたな」
同僚の騎士に片手を上げて挨拶する。
・・・・いつもながら思うが、ここまで闘技台を粉々にしなくていいんじゃないか?
会場に戻ると既に闘技大会は終わっており、観客も疎らだ。
そしてあとに残るのは、大型の魔物でも暴れたような荒れ果てた会場と、泣きながら数を数える財務官だけだ。
何度数えても、壊れた結界石の数は変わらないぞ。
あれ、結構高価らしいな、財務官の飲み友が、『今年は何個残るかな・・・』ってボヤいてたな。
じゃあ使わなきゃ良いじゃん、といったら、魔術師の飲み友に『俺らを殺す気か!』と怒鳴られたっけな。
両者が泣き出したので、酒を奢ってやったら高い酒頼みやがって・・・。手持ちが無くてツケにしたら、カミさんに小遣いを減らされたんだぞ。
それにしても、あの人達は本当に人間なのか?
これでも村じゃ一番の腕前で、一人前の騎士になってからも中々の実力者と言われていたが、そんな自慢も彼が入団するなりぺしゃんこになった。
そう、今の騎士団長だ。
平民はいくつでも騎士見習いになるが、お貴族様は学園に通わにゃならんから、あれは16歳だったんだろう。
貴族特有のおキレイな顔で女みたいだったから、最初は舐められまくっていた。
まぁ、貴族が騎士になるなんざ、そうあるわけじゃない。だから通常の見習いより厳しくされんのも、やっかみ混じりの歓迎みたいなもんだ。貴族だったら直ぐに昇格すんだろうしな。
俺はその時今のカミさんを貰って幸せ一杯だったから、泥だらけになった未来の団長によくタオルを貸してやったもんだ。懐かしいな。
普通なら悔しがるか泣くかするはずなのに、まったく表情が変わらないなと気づいたときから、変だなとは思っていた。
由緒ある伯爵のくせに騎士をしてて、しかも『生涯現役で陛下にお仕えするのだ!』とか言って昇格全部蹴ってる変わりもんのおやじが『あれは化けるぞ』とかしたり顔で言っててもしや、とも思っていた。
しかし化けるは化けるでも、化けもんになるとは思わねぇよ、おやっさん。
まさか騎士見習いの昇格試験で、対戦した騎士全員、完膚なきまでに叩きのめすなんて。
俺も叩きのめされた側で、そりゃあ呆然としたもんだ。
当時の騎士団長に殴り飛ばされるまで終わらなかった時点で、もう俺らの中で決まった。
『あいつは、次の団長だ!!!』ってな。
「おい!早く次の持ち場に行けって!」
おおっといけねぇ。ついつい考え込んじまった。ええと、つぎつぎっと。
・・・あのお嬢さんの護衛、か。
会場から出て、貴人たちが集まる休憩場へ急ぐ。
今回の『花鱗の乙女』である彼女を初めて見たのは、鍛錬場だ。
なんで、見るからに貴族の、しかもロクに鍛えてもなさそうな少女が、こんな所にいるんだ?なんて思ったもんだ。
団長は面だけはいいからな、団長に熱を上げてる小娘が無理矢理着いてきたのかと、機嫌が悪くなった同僚も居た。特に独身者なんざ、恨みも篭ってたな。
その少女が、団長の殺気に耐えられるまで、はな。
いやぁ、生きて団長のあの殺気に耐えられる女にお目にかかれるとは、誰も想像だにしなかったな!!それが例え少女でも気にしない気にしない。
思わず、『嫁か?』なんて言っちまったよ。
団長の好みは騎士団の中じゃ有名だったし、あんなにイケメンなのに団長は生涯独身か!?なんて言われたもんだが。
これは逃しちゃいけないと、二人目の子供が生まれて幸せ一杯だった俺が、応援係を買って出たわけだが。
おいおいおいおい、団長よ。女の子に、厳しすぎやしないかね?
何度も何度も高いところから落とされて、ぼろぼろになっていく彼女に俺は焦り始めた。
よ、嫁が!団長の嫁がっ!こんなんじゃ嫌われちまうぞっ!!
助けるつもりで、彼女を応援する。が、がんばれ!!団長の嫁になって、鍛錬の時間を減らしてくれェェェ!!
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ドラゴンに乗る団長とルルリーア嬢を見て、俺は涙を流した。
よかった、これで団長の恋が実る!!
なんだか盛大に横道にそれた気がするが、男はそんな細かいことを気にしちゃいけねぇ。
「なぁなぁ、あの騎士団長に抱えられてる子、誰なんだ?」
花鱗がキラキラと反射しながら零れて素晴らしい景色だ。興奮冷めやらぬ観客が、花鱗を握りしめながら、俺に尋ねる。
「あぁ、彼女か。彼女は、団長の(未来の)嫁だ」
周りで『騎士団長の嫁!?』『竜騎士の!?』『じゃあ、竜騎士の花嫁、だな!!』なんて騒ぎになったが、気にしない。
団長、俺、いい仕事したぜ!!
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