3話
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ほんと、なんなの?きみ」
開口一番、喧嘩腰で言われております、ルルリーアでございます。
なんだかんだありましたが、どうも『花鱗の乙女』役を辞退できそうにないので、ここは頑張らないと相当まずい気持ちがヒシヒシとしている、ルルリーアでございます。
「ごきげんよう、ルルリーア・タルボットです。この度は鍛錬をお引き受け頂きありがとうございます」
礼儀は大事だからね。いくら相手が名乗らず、私にガンつけてきたとしても、礼儀と言う名の建前って必要だと思うの。
そして、魔導の申し子(笑)と名高い彼に教えてもらえれば、私でも出来るようになるのでは?という希望も入っている。
「はぁ?僕が君のためになにかするとか、ホンキで思ってる?」
ええええ???なになに教えてくんないの???
鍛錬場に来てるから教えてくれると思うじゃん、じゃあなんできたんだよ!
「・・・・ではどうしてココに?」
「・・・ライオネルさんに・・言われたから・・・」
何故か急に勢いをなくした魔術師団長養子君。
えっなに、騎士団長に脅されたのか??目が泳いでるぞ??
「とりあえず、適当にやってれば?大体、固定魔法陣なんて練習とか必要ないでしょ」
こんの、天才がぁぁぁぁ!!凡人には出来ないことが山程あるんだよぉぉぉ!!!
喧嘩売ってんのかってそうだよ売られてたよ喧嘩っ!!
派手にその喧嘩買ったろかぁぁ!???
鍛錬場の長椅子に座り込む魔術師団長養子。
いやほんとに教える気ゼロですねそうですね。
しょうがない、こんなんに教えられても嫌だし、どうせこいつ明日からは来なくなるだろう。
そして、こいつが来なくなったら、あのちょっと仲良くなった騎士様に教えてもらおう。
ん??むしろそっちのほうが良い気がしてきたぞ?
「では、私は鍛錬してますので」
そう言っておいて、私は黙々と固定魔法陣の練習を始めた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
やっぱり、体を動かす、というのは気持ちがいいね!
なんだかどんよりした雰囲気を纏った誰かが、鍛錬場の片隅にいるが、まあ気にしない。
昨日と同じようにボロボロになりながらも、独特の爽快感が体を包む。
・・・・・まあ、全然上達できてないんだけどねっ!!!!
そうね、百点満点(自己採点)頑張った私なので、休憩でもしようそうしよう。
1時間の鍛錬中、魔術師団長養子は一切口を出してこなかった。逆にすごいな。
彼が座る長椅子の隣の長椅子に座り、家から持ってきたレモン水を飲む。ちょっと甘味がついてて美味しい。
飲みながら、なんとなく横の魔術師団長養子を見る。
「・・・なんでなんで・・ぼくには・・アイリーンしか・・・なのに・・」
うおおぉぉぉ!??なんかブツブツ呟いてるぅぅ!!!!
ちょっ、こーわーいー!こいつ怖いよ!!
・・・・・・これって無視しちゃ駄目かな?いいかな??
ひゃあ!ちらちら見てたら魔術師団長養子と目があった!!
って目虚ろ!しかもなんか黒いものが体から出てるよ???
「・・・・ねぇ、なんでなの?・・ぼく、こんなにアイリーンのこと、愛してるのに・・・」
ちょっ!おいこら!魔力、魔力漏れてるからァァァ!!
地面抉れてるっ!うわ椅子壊れたー!!魔力暴走してるのか??
「あぁぁ・・・なんでアイリーンは、ぼくのことっ、愛してくれないの?」
・・・・・・・はいはいはい。再燃しましたよ、怒りが。フツフツと湧いてきましたよ?
今ブツブツ呟いているそれ、私関係ないよね?そして、今関係ないよね???
ユラユラしながら魔力の塊を手当たり次第ぶつけている魔術師団長養子の近くへ行く。
魔力の帯が当たって細かい傷ができるが、とりあえず無視。
「ぼくはぼくはぼくはぼくはっ」
「知るかぁっ!!!」
----ガッ!!!!!!!
ローブをひっつかんで、渾身の力(怒り)を込めて、やつに頭突きを叩き込む。
「っ!!????」
びっくりした様子で額を抑えながら座り込む、魔導の申し子(笑)。
ローブを手放して、周囲を確認する。暴走していた魔力は無事霧散したようだ。うむ、狙い通り。
まだ暴走するようだったら、また頭突かなくてはいけなかった。
以前、『魔術師って頭揺らしたら魔法使えなくなるのよねー』と言っていた我が親友のサラ。さすが!!!
・・・・すでに実戦済みのような一言だったが、その話はまた今度にして下さい、サラ様。
「どうでもいいから人様に迷惑かけてないで魔力くらい制御しろっ!!」
全く!っていったぁデコ!!!頬に傷がぁぁ!!うわっ腕にも足にも傷がある!!!
嫁入り前なのに・・・くすん・・。
「・・・・ぼくだって」
全身の傷を確認してたら、なんか呟いてるよ?魔導の申し子(笑)。
と思ったら、ボロボロと涙を流し始めた。やめてよ!私がいじめてるみたいじゃないっ!!
「ぼくだって好きで膨大な魔力を持って生まれてきたわけじゃないっ!!」
えっ?ああ、そういやそうだったね。国一番、いや近隣諸国でも類を見ないほどの魔力の持ち主でしたねー。
で????
「この目もっ!髪もっ!!ぼくが選んだわけじゃないっ!!」
ん??ああ、そういや赤い目で白い髪でしたねー。確か『悪魔の子』とか言われてるんでしたねー。
で????
「こんな!!こんな理不尽な世界でっ!!!アイリーンだけが僕を認めてくれたんだっ!!!!アイリーンだけが僕の全てなんだ!!!アイリーンが僕を愛してくれなかったら僕はっ!!!」
あぁ・・・まるで昔の自分を見ているようで、腹が立つ。
世界の理不尽に晒されて、泣くだけしかできなかった自分。悲嘆に暮れて何も守れなかった自分。
泣きながら頭を掻きむしるやつに、苛立ちが募る。
「おい、アイリーンアイリーン煩いわ」
乱暴に彼の襟首を掴んで、無理矢理立ち上がらせる。
自分の世界に浸りきっていた彼は、揺り起こした私を睨みつけてきた。
「世界が理不尽なのは当たり前だ」
睨みつけてきたその赤い目を、真正面から覗き込む。
「己に浸るな。理不尽に抗え」
腹に力を込めて、自らの言葉に苦い気持ちを噛み締めながら、彼を睨めつける。
こんなの只の八つ当たりだ。奴のも八つ当たりだけど。
「抗って抗って、最期の瞬きの瞼が落ちきるその時まで、抗い戦え」
膨大な魔力を持つ苦悩も、『悪魔の子』と言われる苦痛も、どんな理不尽に晒されたのかも、私には理解らない。
でもこれだけは理解る。言える。
「私には貴様の苦労はわからない。でも彼女が大事なら、愛してるなら、縋るんじゃない。貴様が守れ」
襟首を離すと、ソランはぽかんとした顔で座り込んだ。
ぽろり、と目から水晶のような涙が溢れる。ふんっ、まったくもう・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと冷静になってきたよ?
・・・・あっ・・・なんか・・・・淑女に・・あるまじき・・言葉を色々言った気がする・・・。
なんだかワタシ的に気まずい空気が流れる。
こっ、これはっ!!なんか誤魔化そうっ!!
「・・・・と言うことで、今日はなんだか雲行きが怪しくなってまいりましたねー?私帰りますわ」
「・・・・いやいやいや、え?なに?え?」
そそくさと帰ろうとしたら、座り込んだソランが声を上げる。
ちっ!そのまま呆けてれば良いものをっ!!
「どうかされましたか?ソラン様」
「いや、どうかされましたか、じゃないよ。何、歴戦の猛者みたいなこと言ってそのまま帰れると思ったの?」
し、しらないなぁー??私、淑女で伯爵令嬢だから、歴戦の猛者とかよくわかんなぁぁぁい???
「女の子に頭突きされたの、生まれて初めてだし・・・あっこれかっ!!!」
いやいやソラン君よ。これから人生長いからそういうこときっとあるよ?いっぱい頭突きされるよ???多分。
って、なにかな??何故に、その何かを期待したキラキラした目でこっち見てくるのかな??お目々、えぐり出してもいいのかな?
「これが、拳を交えた男の友情ってやつだねっ!!」
「おいこら、私は女だ」
間髪入れず突っ込んだが、僕こういうの憧れてたんだよねーなんて頬を緩ませてるよ魔導の申し子。
「友情とか芽生えてないから、どこにそんな要素あったのっ!!???」
「あーそういう反応ね。いいよいいよ恥ずかしがらなくても」
おいこらぁぁぁ!!話聞けぇェェェ!!!
なんなの??私の周り話し聞かない人ばっかぁぁぁ!!
ーーーもういやオウチカエリタイィイィィィ!!!
その後なんと言っても、ソランは『照れ隠し』と言って聞いてくれなかった。
・・・・えっ?もしかして・・・私こんな面倒くさいやつに、友達認定、された?????
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
----それから。
友達だから、と、魔力暴走でついた私の傷を綺麗に治し、恥ずかしそうに済まなそうに謝ってくれた。
その表情が、そこらの乙女よりよっぽど可愛らしかったのは秘密だ。そしてその可愛らしさに免じて、許そうかなって気になったよ。あ、気になったような気がするだけだから、つまりまだ許してない。てへ。
うわー美形、すげーーー。
その後も、人が変わったように丁寧に教えてくれるようになった、魔導の申し子。
お陰様で私の固定魔法陣が大分上達しました。
このまま行けば『花鱗の乙女』の役目を十分果たせる、と騎士様に太鼓判を押してもらった。
そういえばそんなこともありましたね。忘れかけてたけどこの魔法音痴の私がよくぞここまで・・・。
うわー魔導の申し子、すげーーー。
しかし、鍛錬中顔を見せた騎士団長に『さすがルルリーア嬢、ソランを手懐けるとは』としたり顔で言われたときは、本気で殺意を覚えたなぁ・・・・うん。
おっお前のせいでぇぇぇぇ!!!!ぐぁぁぁああ!!!
「嗚呼、兄様。なんだか大変なものに取り憑かれたような気がします。どうしよう、やっぱり神殿に行ったほうがいいかしら・・・」
「そんなお前にプレゼントだよ」
・・・・この間、兄様の出世の道を険しいものにしてしまってから、ちょっと私に冷たくなった気がする。
よよよ、と泣き真似をしていると、兄様がニヤニヤしながら手紙を渡してきた。
・・・・・・・・ぅゎ・・アイリーン様、からだ・・・・。
破り捨てたい衝動を押さえ込んで、とりあえず一旦読むことにした。
えっと、なになに??
あーー、要約すると、『ソランがまともになったんだけど何したの?』か。
・・・・何かしたっけ??頭突きしたくらいしか覚えてないなー。
だからとりあえず、ソラン君の頭に頭突きすればいいんじゃないかな??好転するかは保証できんがね。
二回目だから、また元に戻る可能性もある。
あら、追伸もあるぞ?なになに??
『ルルリーアさんの友達は宣言した者勝ちなんですか?でしたら』
・・・・・・・・・・コレ見なかったことにしてもいいかなぁぁぁ!!!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※此処から先は書ききれなかった設定です。主人公目線なので主人公が知らないとどうしても書けませんでした。ので読まなくても問題ありません。
※裏設定
・騎士団長ライオネル・アレスタント
甥っ子と仲のいい(と思っているが実際はライバル)魔術師団長養子のソラン君の様子が最近おかしいので、主人公の騎士育成プログラムとソラン君の公正の一石二鳥を狙った。上手く言ってよかったな←イマココ
・文官様
本当は財務担当なのに人手不足で祭事に駆り出された挙句、本来の仕事もやっていて睡眠不足気味。この祭り終わったら妻子と共に遠くに遊びに行くんだ。←イマココ
・魔術師団長養子ソラン
赤目白髪で両親に捨てられ、魔力の高さのみで魔術師団長に拾われたが、放任主義の魔術師団長にも愛情はもらえなかった。そんな自分を綺麗と言ってくれたアイリーンに執着する。何百回目かの告白をやんわり濁されて精神的に病んで魔力暴走したら頭突された。←イマココ
・騎士様
今年第二子が生まれて幸せいっぱい。騎士団長は怖いが、姪っ子と同い年の主人公がなんだか放っておけない。でも怖いから何も出来ない。頑張れ!!←イマココ
・主人公ルルリーア・タルボット
本当は魔術回路が迷子になっていたせいで魔法音痴になっていたが、知らない間にソラン君に正されて魔法が上手く使えるようになった。早熟にならざるを得ないこの国では若くても色々苦い過去があるようで、ある男にガツンと植え付けられたトラウマを思い出させられてイライラしてぶちまけたら大変なことに。オウチカエリタイ。←イマココ