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1話

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 思えばここ最近、運のない出来事ばかりだ。



 元王太子殿下の婚約破棄騒動に巻き込まれ。

 国王陛下に『国王専属愚痴聞き係』という名の盾に任命され。

 騎士団長には『騎士にならないか?』とか言われ。

 王弟殿下に『あとで覚えてろ』とか言われ。

 公爵令嬢アイリーン様主催の茶会に招待され、友達になりたいと言われ。(ん?これはいいのか?いやだめだな)


 卒業後の社交シーズンで結婚相手を探そうと思っていた。

 それなのに、何故か『アイリーンの友達に相応しくない』と判断された私は、王弟殿下に目の敵にされてて、結果未だに見つけられないでいる。

 おうていでんかめぇぇぇぇぇ!!!!全く!!!どうしてこうなったんだ???



「そういえば、もうじき竜舞踏祭が始まるわねぇ~」



 父様の外套に刺繍をしながら、母様はのんびりと言った。



「そういえばそうですね」



 私はハンカチへの刺繍の手を止めて、過去を振り返るのをやめて、竜舞踏祭に思いを馳せた。

 べ、べつに現実逃避とかじゃ、ないんだからねっ!!??




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 この竜舞踏祭について説明する前に、我がルメール王国の成り立ちを知る必要がある。



 正確な年数は定かではないが、今から千余年前、大陸で戦に敗れたご先祖様たちが、この島で建国したことから始まる。

 そう、我が国は四方を海に囲まれた、島国なのだ。


 とはいっても、大陸からの距離はそう遠くなく、再び攻め込まれる可能性は大きかった。そこで、海軍を鍛え上げ、大陸の国々と小競り合いを繰り返しながら、なんとかやっていた。



 建国しておよそ400年後、大陸とは反対側の孤島に、ドラゴンたちが巣を作るまでは。



 当時、ドラゴンという存在は死に絶えた古代の生物、という認識であった。

 であるから、そんな存在自体ありえないはずのドラゴンを見た当時の人々は、大混乱に陥り、恐怖に支配されたそう。


 さらに、ドラゴンの巣を巡回していた精鋭であるはずのルメール海軍が、海中から浮上してきた一匹のドラゴンによって木っ端微塵にされたのだ。よく滅ばなかったな我が国。

 そしてドラゴンって泳ぐんだね。


 だが、当時のルメール国王、サラマン様は狼狽えなかった。


 海軍が狙われて攻撃されたわけではないこと、ドラゴンたちがこちらに手を出してこないことを冷静に見極めると、国中にドラゴンへの接触禁止令を発令した。



 更に我が国に不運が降りかかる。


 ドラゴンたちが住み始めてから、周囲の魔物たちが年々増え、強くなっていったのだ。まさに泣きっ面に蜂。



 これでは我が国は滅びる、そう悟った王は臣下を国民を広場に集め、こう言った。



『己を鍛えよ』



 それからがすごかった。


 他国には『え?ドラゴン?うちのマブダチだけど何か?』を装って牽制しつつ、裏では死に物狂いで国民を鍛えた。


 船では海中の魔物に対抗できないため、海軍を解体。騎士団と魔術師団を設立。

 それはもう血反吐を吐ききるほど鍛え上げたそうだ。兵士平民問わず。


 その御蔭で、今では普通の漁師に見えるおじさんでも、大抵の魔物を倒せるようになっている。サラマン様バンザイ。



 そりゃ後に『思慮深き賢王』とか『ルメール王国にいてよかった王様第一位』とか『鍛錬の鬼神』とか『ドラゴンよりも怖い王様』とか言われちゃうよ。

 ・・・・・最後の方は当時の人の感想かな・・・。


 ちょっと話がずれたが、とにかく我が国がドラゴンに馴染み深いのはご理解いただけただろうか。


 大抵ものすごく遠くでしか見ないドラゴンだが(たまに鳥と間違える)、三年に一度幼体のドラゴンが隊列を組んで、我が国の上空を飛行する。


 中々見ごたえがあるので、『竜舞踏祭』と名をつけてお祭りにしたのが、サラマン様の次代女王ルルライラ様だ。

(ちなみにこの女王様の名前から私の名前を頂いた)


 それが今では国中で行われる、国一番のお祭りとなりました。


 そんな竜舞踏祭が、あと1ヶ月後に行われる。

 いつもは領地で祭りを楽しむのだが、今回は(・・・色々あって)王都で祭りを楽しむこととなった。

 王都での竜舞踏祭は、それはもう盛大だそうなので、初めて参加する私としては楽しみな限りだ。わくわく。



「た、たいへんだぁぁぁぁ!!!!リーアァァァ!!」



 なんか、兄様の声が聞こえるが、きっと幻聴なんだ。そうに違いない、そうであってくれェェェ!!!





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





「私が、王都の竜舞踏祭の『花鱗の乙女』役を、ですか・・・?」



 王宮の政務塔に呼ばれた私は、大分やつれた風の、目の下の隈が色濃く残る文官様に告げられた言葉を、繰り返した。



「はいそうです、ルルリーア嬢には王都の竜舞踏祭で『花鱗の乙女』役をやっていただきます」



 忙しそうになにかの書類を仕分けている文官様が、無感動に繰り返した。

 くっ!ちょっとは『あ、間違えました』みたいな振りが欲しかったァァ!!



「こちらが任命書になっておりますのでご確認下さい。では」



 ぺろっと紙を渡されて風のように居なくなる文官様。

 ちょ、ちょっとまってぇぇぇ!私、まだ、納得してなぁぁぁぁいいいい!!


 任命書と言われた紙を持ちながら魂を飛ばしていると、入り口から誰かが顔を出した。



「よし、受け取ったか」



 お、お前はっ!騎士団長!!!!

 なんだなんだ、なんなの??いや説明してほしくないけど知りたいいいいい!!



「『花鱗の乙女』とは名誉なことだな。よかったなルルリーア嬢」



 ん?んんん???


 なんで騎士団の長が、祭りの配役とか、知ってるの??

 ・・・・・・・・・・・・・・・まーさーかぁぁぁぁ????



 問い詰めると、騎士団長は簡単にあっさり白状した。



『私が推薦した』



 なんだってぇぇぇぇぇ!!!!!

 王都でやるお祭りだよ!!??国中から人が集まって、他国からだって人が来るのに!!????

 こういうのは王家とか公爵家とか巫女様とか、そういう有名な人がなるもんでしょうがぁぁぁ!!


 またしても問い詰めると、どうも、騎士団長はかなりゴリ押ししたらしい。

 当然だ。知名度もない爵位も微妙な私を、管轄外である騎士団長が推薦して、むしろよく通ったと思いますよ。


 なんでそんなことしたぁぁ!!ゴリ押すな!!!!



「みなを説得するのに時間がかかってしまったな」



 いやいやいや、なに満足そうに『やりきった』感だしてんのよ騎士団長ぉぉぉぉ!!!


 一体何故なんだ?こいつがここまでする理由はなんなんだ???


 私の恨みを込めた視線など、歯牙にもかけない騎士団長は、キラキラした目で私にこう言った。



「これで騎士に一歩近づいたな」



 ん?

 んんん????どゆこと??私にはわかんなかったなぁぁぁ??

 ・・・・・ん・・・・・あっ。



「あああああぁぁぁぁぁあああっ!!!!!」



 思わず叫んでしまったよ私。どうどうとか言ってんじゃないよ騎士団長!!!



 わかってしまった。騎士団長こいつの狙いがわかってしまった!



 せ、説明・・しよう・・・。

 国中の民が全力で鍛えまくった、という話をしたと思う。


 魔術師は攻撃魔法はもちろん防御魔法を重点的に鍛え上げ、更に肉体まで鍛えた。

 騎士は肉体はもちろん剣技を重点的に鍛え上げ、更に魔法まで鍛えた。


 そしてこれ!!

 魔術師も騎士も、最低限必須なのが、足場を固定して空中位でも戦える『固定魔法陣』を扱えることなのです。

 海の魔物相手だと、船だと壊されちゃうからね。空中で戦うのだ。


 ココまでは覚えたかな?


 竜舞踏祭のドラゴンたちの飛行に合わせて、ドラゴンの鱗を模した『花鱗』を撒くのだ。そこが一番盛り上がるからね。

 撒くのは男女二人、『花鱗の乙女』と『花鱗の騎士』となって、上から撒くのだ。


 そう、自力で、それも固定魔法陣を足場にして、集まった国民の『上から撒くのだ』。


 つまり固定魔法陣が出来ないと、この役目を果たすことは出来ない。


 ココも覚えたかな?



 最後に一言。私『固定魔法陣』下手くそなんだよね。あっ魔法全般か、てへっ。

 先生に『魔法学を専攻すると卒業できませんよ』と言われるほど魔法音痴なんだよね。魔法学園なのによく卒業できたよ・・・ぐすん。



 それらを踏まえて私が導き出した答えは、おそらく真実であろう。


 騎士になる→固定魔法陣が必須→私魔法音痴で出来ない→『花鱗』役は固定魔法陣が必須→できるようになるまで訓練できる→騎士になる!!??


 つぅまぁりぃぃぃ?????

 騎士団長こいつ、私を騎士にするために、固定魔法陣を出来るようにさせるためだけに、『花鱗の乙女』に推薦したなぁぁぁぁ!!!????



 ・・・・・ねぇねぇ騎士団長・・・この祭り、国で一番力が入ってる祭りだって、ホントわかってる???



「なにせ王都の竜舞踏祭の『花鱗の乙女』は固定魔法陣が必須、国を挙げての最高の環境で心置きなく鍛錬できるだろう。私が指導するゆえ、明日から騎士鍛錬場に来てくれ」



 あっ、これ特に隠してないわ、むしろ『いいことやった!』みたいな感じがヒシヒシと伝わってくるわ!



「ぇええぇえ??いや、いやぁぁ!なんでこうなるのぉぉぉ!!わたし淑女だから騎士にならないっていってるでしょぉぉぉ!!!じ、辞退っ!じたいしますぅぅぅぅ!」



 もうなりふりかまってられない。

 苦手な魔法の練習をしたくないし、大勢の目前に晒されるの恥ずかしいし、祭りを楽しむ側でいたい!楽しむ側でェェェ!!!!


 そう、渾身の叫びで訴える私に、騎士団長はそのピクリともしない顔を、やはりピクリともしない顔で言った。




「これは、決定事項だ」




 こ、これだから権力を持つやつなんて嫌なんだァァァァ!!!!!!





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