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【閑話】どうでもいいけど彼女は楽しげに嗤う

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 今宵の月は綺麗な三日月ね。


 御機嫌よう、サラ・ウェールよ。


 夜更かしはお肌に悪いのだけれど、今日は用事があるから仕方がないわ。

 お客様が来るまでまだ時間があるからと、淹れた紅茶を飲む。


 あぁ、こんなにも穏やかな時間を過ごせるなんて、思いもしなかったわ。



 物心ついた時に最初に思ったのは『この世が退屈で仕方がない』だったわね。

 ふふっ、小さな子供が思うこととは言え、あのときは青かった、と言わざるを得ないわ。


 目が大人と同じ物を捉えられるようになってから、どんな難解な理論も現象も全て解することが出来た。

 誰かが一言話せば、その人の弱点利点行動理念、嘘も真実も、手に取るように理解った。


 それ故、早々に人と喋ることを辞めてしまった私は、喧しくない書籍を相手にするようになった。生まれてから3年経った頃だった。


 当時の私は驕っていて、両親への根回しをしていなかった。

 そのため、心配と言うより恐怖に駆られた父が、隣のタルボット領に相談したのだから、結果的に良かったのかもしれない。


 退屈のあまり『この国を滅ぼしてみたい』なんて零していたのだから、尚更ね。



 そうして引き合わされたのが、ルルリーアだった。



 態々移動したと言うのに、対面したのが何も考えてなさそうな、如何にも愚鈍そうな子供だったから、私の機嫌は最悪だった。

 家に帰ったら、予てから用意しておいた計画を実行しよう、この国を滅ぼせば少しは退屈も凌げるだろう、そう本気で思っていた。


 だから、二人きりにされて、腹立ち紛れにリーアへ言った。



『私この国を滅ぼそうと思うの』



 そう言うと、間抜けな顔が更に間抜けになって少し気が晴れた。・・・・本当に子供ね、恥ずかしいわ。


 でも、リーアが返した言葉は、私の想像を超えていた。



『それ、たのしいの?』



 虚を突かれた私は、考えた。・・・・確かにまだ庇護のいる子供の身体、それに焼け野原になった光景を想像して・・そんなに楽しそうじゃないな、とも思ってしまった。

 思ってしまったことに、私は腹を立てた。



『楽しくはないかも知れないけれど、達成感はあるわ』


『たっせ、かん??』



 そんなことも知らないのか、と鼻で嘲笑った。こんな子供と話していても私に利が無い、と帰ろうとさえした。

 本当に帰らなくてよかったわ。そのまま帰っていたら、滅ぼすまでいかなくても国を二分することは出来ただろうから。



『にぃにがね、やるならたのしいことにしなさい、って。そうだ!どろあそびしよ!』


『え、泥???』



 泥って、あの泥よね?泥を使って遊ぶって意味が無いわ??

 考え込む私を引っ張って、何も植えられていない花壇に、丁度あった水を撒いた。前日雨が降ったから雨水でしょうね。


 耕された土から泥に変わった地面へ、リーアは躊躇なく飛び込んだ。


 ・・・・何故自分から汚れるのか、全然理解できない。

 そう遠巻きにしていたら、楽しそうなリーアが泥で塊を作り始めた。



 びちゃん



 ・・・顔に、泥がついている。



『ぷふーー!さらちゃん、まぬけーー!』



 生まれてから言われたことのない暴言に、絶え間なく巡らされていた思考が、ぷつんと切れた。




 そうして、私は、文字通り泥仕合に参戦した。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 大変機嫌よくリーアが帰っていったのは、夕刻だった。

 彼女が私に当てたのは数回だけで、私の手によって体中泥だらけになったと言うのに、本当に楽しそうだったわ。



 泥だらけになったと言うのに、父と母は嬉し泣きをし始めた。・・・私の顔が年相応に見えたのでしょうね。



 一人になって考える。どうして私はあんなに反発したのかしら。


 リーアの行動は、平民の子供ならまぁ普通の範疇、といってもいいくらいの行動でしか無かった。

 ・・・・まあ貴族の息女がすることではないけれど。


 暴言だって、あれ以上に酷い言葉を大人にも子供にも言われたことがあったのに。

 ・・・・まぬけ、は言われたことがなかったけれど。



 なのにどうして。



 なんだろう、この腹から迫り上がる気持ちは、あぁ、此れが『楽しい』という気持ちなのね。

 理解らない彼女が『面白い』、こんな気持になる私が理解らなくて『楽しい』、あぁ愉快だわ!!


 楽しくて笑い声を上げたら、父と母が部屋に飛び込んできて、一緒に来た侍女が卒倒したのはいい思い出ね。




 あれからリーアとは長い付き合いとなったけれど、謎は深まるばかりだった。


 行動も言葉も、後から考えれば予想範囲のはずなのに、何故か虚を突かれるの。裏もない、ひょっとしたら表もないのかしら。


 リーアと居ると楽しいことばかり起こると学習した私は、彼女から引き離される可能性は全て排除した。



 自身の異常さをきちんと理解しているから、定期的に来る他家からの密偵もきちんと見逃し、学園内でも目を付けられないよう極めて大人しい学生だったわ。




 あぁ・・お客様が来たようだわ。


 ディラヴェル公爵家、というよりアイリーン様の暗部といったところかしらね。


 あらあら、人数が少ないわね、主人には内緒、かしら。悪い子ね。

 それとも、手綱を握ってもらえない可哀想な飼い犬、と言ってあげるべきかしら。



 リーアと接してから、私は人に対する評価を改めた。


 どんな相手でも、全力になれば思わぬ行動に出ることがある。それに私も全力で相対する、あぁなんて楽しいひと時!

 知略感情立地、全てを網羅するのは容易いことではない。だからこそ挑み甲斐があるというもの!



 そんな私の可愛らしい楽しみも、リーアと引き離されては本末転倒だから、めったに遊べないけれど、今回の相手は流石は公爵家、とっても楽しかったわ。

 でもそれも終わり。暗部の頭がこんな所に来てしまうなんて・・・大事な公爵家ががら空きだわ。



 まぁ、そう仕向けたのは私なのだけれどね。



 が来るのを後は待つだけ。全力を出した同士、挨拶を交わさなくてはね。



 目の前の扉が開くのを見つめながら、私は笑みを深める。





 -----もう二度・・と、リーアを、私から奪わせないわ。絶対にね。





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