表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/86

1話

楽しんでいただけると幸いです。

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






 -----なんというかまぁ、茶番よね。



 只今、王立ルメール魔法学園の卒業パーティの真っ最中です。

 学生最後の時を楽しんでいたと言うのに、突如、この場に相応しくない、きゃんきゃんと甲高い声で何やら告発が始まった。



 悲しいかな、その犯人は、我が国の王太子殿下であらせられる、クリストフ・ルメール様だ。



 ・・・・・国の重鎮も他国の要人も居ると言うのに、駄目じゃない???



 殿下曰く、婚約者であるアイリーン・ディラヴェル公爵令嬢が、殿下の横にいるマリア・ルージュ男爵令嬢へ危害を加えたとのこと。


 そこまで思い返して、不意にこみ上げる笑いを扇で隠す。



 公爵令嬢 対 男爵令嬢ってwwぷぷwww



 周囲を見回すと扇で隠しているご令嬢が大多数、どうやらお仲間のようだ。


 加害者(公爵令嬢)と被害者(男爵令嬢)。どう見ても被害者側が相手にならない勝負だ。

 むしろ被害者まりあさんが可哀想だぞ??


 それだと言うのに、殿下は何をあんなにムキになられているのだろうか。



 でもねぇ、殿下も不憫よねーー。



 氷のような視線で殿下を見るアイリーン様と、必死になって抗弁している殿下を見、私は殿下へ同情を寄せる。


 確かに、殿下はアイリーン様に不貞行為をなじられて然るべきなほど、マリアさんにべったりだった。

 本来婚約者を連れて行くパーティでもマリアさんを連れて行く、校内ではマリアさんの影に殿下あり(悲しいかな逆ではない)、の状態であった。


 アイリーン様がマリアさんへ常々言っていた、「婚約者のいる殿方へ」云々の指摘は、なるほどごもっともであるのだ。



 でもねぇ、その婚約者が、あれじゃ、ねぇ・・・・・。



 アイリーン様を見ると、案の定、その後ろには国内外の高位の、その上麗しい殿方たちが、殿下を絞め殺すと言わんばかりの眼光で睨んでいる。



 まぁ、有名な話である。



 殿下の不貞行為の噂(限りなく真実に近いが)は最近であるが、アイリーン様は幼少の頃より、数々の殿方と、それも皆高位の方々と、非常に、非常に懇意にされているのだ。

 加えて、光り輝くほど美しく、賢いアイリーン様であるが、殿下への態度は冷たく、常々「婚約破棄してくれ」という始末。



 周りには、優秀で美しい殿方。自分を嫌う婚約者。これでは、殿下でなくても他に走りたくなるもの。



 っていうか、これは内々でやってくれないかなー?あーー、早く帰りたい!!



「更にだっ!!貴様は、あろうことか、マリアを階段から突き落としたのだっ!!」



 一際大きく叫んだ殿下のその言葉に、静観していた人々が、どよめく。



 おーー、まじか。それ証明できたら、如何に公爵令嬢でも終わるわ。



 貴族など所詮評判で持っているようなところがある。

 評判が落ちれば爪弾きにされ、領地持ちであれば反乱を起こされでもすれば、ハイおしまい。領地没収、爵位返上、こんにちわ平民だ。


 うぬ、世知辛いものだな。



 まぁそれも、『証明できれば』なんだけどね。



 王弟殿下やら隣国の皇子、若き辺境伯、王国騎士団長・・・数え上げればきりがないが、とにかく切れ者と名高い方々が背後にいるアイリーン様が、そんなヘマをするわけがない。


 我が王国の貴族法は『疑わしきは罰せず』であるのだ。


 廃嫡かなぁ、と殿下への同情を更に深める。



「ルルリーア・タルボット伯爵令嬢っ!!」

「へっ、はいぃぃっ!??」



 え?なになに??いきなり呼ばれたから変な声出ちゃったよ。

 どうも、ルルリーア・タルボットでございますが、何か????


 呼ばれた上に、何故か殿下が手招きをするものだから、仕方なくぽっかり開いた舞台へ進み出る。



「ルルリーア嬢っ!さぁ、すべてを正直に話すが良いっ!!」



 こ、これは、何も聞いてなかったとか言えない空気ですな・・・。

 とりあえず曖昧に濁そう!



「は、はぁ・・・」


「アイリーンが公爵令嬢であるからと言って、遠慮することはない。私が保証しよう」



 え、なに??何保証してくれるの??廃嫡寸前なのに????

 ていうか何を言えばいいの???



「そうですよぅ!アイリーン様が私を突き落としたのを、見てたでしょう?」



 うるうるとした目を上目遣いで向けてくるマリアさん。いや私女だから。じゃなくてぇぇ!!


 ナ、ナーーーイス!!マリアさんっ!!!

 なるほどなるほど、私は目撃証言をするように言われているわけねっ!


 え?でもそんなの見てないよ??いつの話よ??



「先月、東の塔で見てたでしょう?」



 えぇ!!マリアさんはもしや心が読めるのっ!!??

 恐ろしい子っ!!


 しかし記憶にない・・・、なーんて言えないよねぇぇーーー。

 だってさ・・・マリアさんの後ろからものすごい目で見てるもん殿下。


 腐ってもドラゴン・・・、廃嫡の危機であっても王族だもんなーー。

 これ、はいって長いものに巻かれちゃった方が良いかなー。


 なんて日和見なことを考えていたら。



 ぞわわわわわわっ



 生まれて来て、これ程の殺気に包まれたことはなかった。


 怖いぃぃぃ!!こ、これ騎士のはずの騎士団長からだぁぁ!私淑女のはずなのにぃぃ!殺気ぶつけられてるぅぅ!

 どうやら騎士といっても男、愛する女性の前には他の女など女ではないようだ。くすん。


 悲鳴を上げそうな喉を気合で飲み込み、殿下へ一礼する。



「申し訳ございませんが、私見ておりませんわ。殿下」



 はい、長いものに巻かれましたーー。ごめんね殿下。だってあの人怖いんだもん。



「なっ、嘘を申すでないっ!!」


「殿下。そのような一大事、もし私が目撃しておりましたら、学園へ報告しております」



 淡々と返す。お、殺気が弱まった。怖かったよーーー!父様母様兄様帰りたいーー!



「そ、そんなの嘘よっ!!もしかしてアイリーンに脅されてるんじゃないのっ!!」



 マリアさん、猫落ちてる落ちてる。呼び捨ては悪手ですよー。



「そう言われましても・・・」


「だって!あの時、心配して保健室へ一緒に行ってくれたじゃないっ!」



 ん??保健室?マリアさん?東の塔・・・・。



「あーーーー!!!」



 思い出したぁ!すごいすっきりした!

 いきなり叫びだした私に、なぜかアイリーン様がびくりと身をすくませ青い顔をする。



 なぜに???



 アイリーン様とは対照的に、その時の事を思い出した私の様子に、満面の笑顔で頷くマリアさん。

 うんうん!私もスッキリしたよ!と、笑みを返して答える。



「マリアさんが転んでしまったときですわねっ!」


「え?」

「は?」

「あぁ??」



 アイリーン様、殿下、マリアさんの順です。あらあら、マリアさん猫が(以下略)



「思い出しましたわー。嫌ですわマリアさん。アイリーン様が突き落としたなんておっしゃるから、全然思い出せませんでしたわ」



 ニコニコする私に、マリアさんが詰め寄る。



「だ、だからっ!そのとき、私アイリーンに突き落とされたのよっ!」

「え?あのときアイリーン様いらっしゃったの??気づきませんでしたわ」



 キョトンとすると、マリアさんが何故か我が意を得たりと言わんばかりに頷く。



「見えてなかったかもしれないけど、アイリーンが居て私を突き落としたのよ」

「それはありえませんわよ」



 淡々と返すと、マリアさんがオーガのような顔で睨む・・って乙女がそれでいいの??



「だって、私の位置からアイリーン様が見えなかったということは、マリアさんの後ろに居なかったということです。突き落とすのは不可能ですわ」



 どう頑張っても。とダメ押しすると、殿下とマリアさんは魂が口から出たかのように、勢いをなくした。




 こうして茶番劇は幕を閉じたのであった。ちゃんちゃん。





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ