1話
楽しんでいただけると幸いです。
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-----なんというかまぁ、茶番よね。
只今、王立ルメール魔法学園の卒業パーティの真っ最中です。
学生最後の時を楽しんでいたと言うのに、突如、この場に相応しくない、きゃんきゃんと甲高い声で何やら告発が始まった。
悲しいかな、その犯人は、我が国の王太子殿下であらせられる、クリストフ・ルメール様だ。
・・・・・国の重鎮も他国の要人も居ると言うのに、駄目じゃない???
殿下曰く、婚約者であるアイリーン・ディラヴェル公爵令嬢が、殿下の横にいるマリア・ルージュ男爵令嬢へ危害を加えたとのこと。
そこまで思い返して、不意にこみ上げる笑いを扇で隠す。
公爵令嬢 対 男爵令嬢ってwwぷぷwww
周囲を見回すと扇で隠しているご令嬢が大多数、どうやらお仲間のようだ。
加害者(公爵令嬢)と被害者(男爵令嬢)。どう見ても被害者側が相手にならない勝負だ。
むしろ被害者が可哀想だぞ??
それだと言うのに、殿下は何をあんなにムキになられているのだろうか。
でもねぇ、殿下も不憫よねーー。
氷のような視線で殿下を見るアイリーン様と、必死になって抗弁している殿下を見、私は殿下へ同情を寄せる。
確かに、殿下はアイリーン様に不貞行為をなじられて然るべきなほど、マリアさんにべったりだった。
本来婚約者を連れて行くパーティでもマリアさんを連れて行く、校内ではマリアさんの影に殿下あり(悲しいかな逆ではない)、の状態であった。
アイリーン様がマリアさんへ常々言っていた、「婚約者のいる殿方へ」云々の指摘は、なるほどごもっともであるのだ。
でもねぇ、その婚約者が、あれじゃ、ねぇ・・・・・。
アイリーン様を見ると、案の定、その後ろには国内外の高位の、その上麗しい殿方たちが、殿下を絞め殺すと言わんばかりの眼光で睨んでいる。
まぁ、有名な話である。
殿下の不貞行為の噂(限りなく真実に近いが)は最近であるが、アイリーン様は幼少の頃より、数々の殿方と、それも皆高位の方々と、非常に、非常に懇意にされているのだ。
加えて、光り輝くほど美しく、賢いアイリーン様であるが、殿下への態度は冷たく、常々「婚約破棄してくれ」という始末。
周りには、優秀で美しい殿方。自分を嫌う婚約者。これでは、殿下でなくても他に走りたくなるもの。
っていうか、これは内々でやってくれないかなー?あーー、早く帰りたい!!
「更にだっ!!貴様は、あろうことか、マリアを階段から突き落としたのだっ!!」
一際大きく叫んだ殿下のその言葉に、静観していた人々が、どよめく。
おーー、まじか。それ証明できたら、如何に公爵令嬢でも終わるわ。
貴族など所詮評判で持っているようなところがある。
評判が落ちれば爪弾きにされ、領地持ちであれば反乱を起こされでもすれば、ハイおしまい。領地没収、爵位返上、こんにちわ平民だ。
うぬ、世知辛いものだな。
まぁそれも、『証明できれば』なんだけどね。
王弟殿下やら隣国の皇子、若き辺境伯、王国騎士団長・・・数え上げればきりがないが、とにかく切れ者と名高い方々が背後にいるアイリーン様が、そんなヘマをするわけがない。
我が王国の貴族法は『疑わしきは罰せず』であるのだ。
廃嫡かなぁ、と殿下への同情を更に深める。
「ルルリーア・タルボット伯爵令嬢っ!!」
「へっ、はいぃぃっ!??」
え?なになに??いきなり呼ばれたから変な声出ちゃったよ。
どうも、ルルリーア・タルボットでございますが、何か????
呼ばれた上に、何故か殿下が手招きをするものだから、仕方なくぽっかり開いた舞台へ進み出る。
「ルルリーア嬢っ!さぁ、すべてを正直に話すが良いっ!!」
こ、これは、何も聞いてなかったとか言えない空気ですな・・・。
とりあえず曖昧に濁そう!
「は、はぁ・・・」
「アイリーンが公爵令嬢であるからと言って、遠慮することはない。私が保証しよう」
え、なに??何保証してくれるの??廃嫡寸前なのに????
ていうか何を言えばいいの???
「そうですよぅ!アイリーン様が私を突き落としたのを、見てたでしょう?」
うるうるとした目を上目遣いで向けてくるマリアさん。いや私女だから。じゃなくてぇぇ!!
ナ、ナーーーイス!!マリアさんっ!!!
なるほどなるほど、私は目撃証言をするように言われているわけねっ!
え?でもそんなの見てないよ??いつの話よ??
「先月、東の塔で見てたでしょう?」
えぇ!!マリアさんはもしや心が読めるのっ!!??
恐ろしい子っ!!
しかし記憶にない・・・、なーんて言えないよねぇぇーーー。
だってさ・・・マリアさんの後ろからものすごい目で見てるもん殿下。
腐ってもドラゴン・・・、廃嫡の危機であっても王族だもんなーー。
これ、はいって長いものに巻かれちゃった方が良いかなー。
なんて日和見なことを考えていたら。
ぞわわわわわわっ
生まれて来て、これ程の殺気に包まれたことはなかった。
怖いぃぃぃ!!こ、これ騎士のはずの騎士団長からだぁぁ!私淑女のはずなのにぃぃ!殺気ぶつけられてるぅぅ!
どうやら騎士といっても男、愛する女性の前には他の女など女ではないようだ。くすん。
悲鳴を上げそうな喉を気合で飲み込み、殿下へ一礼する。
「申し訳ございませんが、私見ておりませんわ。殿下」
はい、長いものに巻かれましたーー。ごめんね殿下。だってあの人怖いんだもん。
「なっ、嘘を申すでないっ!!」
「殿下。そのような一大事、もし私が目撃しておりましたら、学園へ報告しております」
淡々と返す。お、殺気が弱まった。怖かったよーーー!父様母様兄様帰りたいーー!
「そ、そんなの嘘よっ!!もしかしてアイリーンに脅されてるんじゃないのっ!!」
マリアさん、猫落ちてる落ちてる。呼び捨ては悪手ですよー。
「そう言われましても・・・」
「だって!あの時、心配して保健室へ一緒に行ってくれたじゃないっ!」
ん??保健室?マリアさん?東の塔・・・・。
「あーーーー!!!」
思い出したぁ!すごいすっきりした!
いきなり叫びだした私に、なぜかアイリーン様がびくりと身をすくませ青い顔をする。
なぜに???
アイリーン様とは対照的に、その時の事を思い出した私の様子に、満面の笑顔で頷くマリアさん。
うんうん!私もスッキリしたよ!と、笑みを返して答える。
「マリアさんが転んでしまったときですわねっ!」
「え?」
「は?」
「あぁ??」
アイリーン様、殿下、マリアさんの順です。あらあら、マリアさん猫が(以下略)
「思い出しましたわー。嫌ですわマリアさん。アイリーン様が突き落としたなんておっしゃるから、全然思い出せませんでしたわ」
ニコニコする私に、マリアさんが詰め寄る。
「だ、だからっ!そのとき、私アイリーンに突き落とされたのよっ!」
「え?あのときアイリーン様いらっしゃったの??気づきませんでしたわ」
キョトンとすると、マリアさんが何故か我が意を得たりと言わんばかりに頷く。
「見えてなかったかもしれないけど、アイリーンが居て私を突き落としたのよ」
「それはありえませんわよ」
淡々と返すと、マリアさんがオーガのような顔で睨む・・って乙女がそれでいいの??
「だって、私の位置からアイリーン様が見えなかったということは、マリアさんの後ろに居なかったということです。突き落とすのは不可能ですわ」
どう頑張っても。とダメ押しすると、殿下とマリアさんは魂が口から出たかのように、勢いをなくした。
こうして茶番劇は幕を閉じたのであった。ちゃんちゃん。
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