80.アベル=ドラク
リョウ視点です。
俺とフランは来る時に利用した転移魔法で、ブラックアサシン所有の建物へと戻る。
相変わらずの広さと豪華さだが、1度見ていたため、最初程の驚きはなかった。
ほんとはこのまま学園に帰っても良かったのだが、さっき部屋に戻ったばかりで、しかもその時から夕飯を作り始めたばかりだったため、すぐに戻るのは気が引けた。
そのため、訓練は終わったことだし、オーノス内でフランとデートしようと考えた。
「フラン、夕飯までまだ時間があるから少し町を歩かないか?」
《大歓迎だ、リョウ殿とならまわるだけでも楽しいからな!》
そういって嬉しそうな顔を見せるフランは、いつもの真面目すぎるとこが抜け、普通の女の子に見える。
そんなフランと手を繋ぎ、屋敷を出る。
街中はちょうど夕飯時の一歩手前だけあって、人が数多く存在し、歩くのに苦労するまではいかないが、それでも自分のスピードでは歩けないくらいだった。
そんな中にも関わらず、俺とフランはそれほど気にせず歩いていく。
特に目的地はなく、気になったお店を見たり、夕方の独特の明るさを楽しんだりと、訓練終わりのまったり過ごしていた。
そして、いよいよ日が完全に沈み夜となると、空には星が輝き、町の明かりが強くなりその場で見ているだけでも綺麗だった。
ーーーーっ!!
俺は何かしらの声が聞こえた気がして辺りを見渡す。
聞こえた声は雑踏にかきけされたが、俺はどうしても忘れる事は出来なかった。
なぜなら、聞こえてきた声には必死さが混ざっていたから。
俺の様子を不思議に思ったのか、フランが尋ねてくる。
《リョウ殿?、何かあったのか?》
「何か必死な声が聞こえた気がしたんだ、気のせいなら良いんだが、どうにも引っ掛かってな、悪いが、少し探すのに集中する、せっかくのデートなのに悪いな。」
《気にするな、困っている人を助られるかもしれないなら、そっちの方が優先に決まってる。》
先程の女の子の顔から、いつもの真面目な顔に戻り、フランも辺りに耳を済ませてくれる。
俺もそれに習い、身体強化しつつ、目と耳に魔力と生命力を多目に流し、視覚と聴覚を強化、そして辺りには策敵の魔力を応用し、捜索の魔力を流す。
聞こえてきた声と同じ声質、息遣いの持ち主の発見に伴い、その人物の強さ、周りにいるものの強さ、そしてその他の音を関知する物だ。
俺はそれを全方位に撒いていく。
中には反応する人もいるが、この雑踏の中では俺がやってるとわかるはずもなく、そのまま雑踏に消えていく。
本来なら情報量が多過ぎて処理できないはずだが、(並列思考)があるため、問題ない。
やがて、裏通りの方で追われているであろう男と、それを追っているであろう男達の声が聞こえてくる。
「護衛を撒いてしまったのが仇になった、とりあえずはもう一度叫んでみるしかないか、望み薄だろうがな、誰か!助けてくれ!」
「は!、こんな裏通りでしかもこんな時間にそんな声が届くわけねーだろ!」
「お前の身柄さえ押さえちまえば、上からの命令達成だからな、おとなしく捕まれ!」
「まあ、ここまで逃げてきたのは褒めてやるがな!」
どうやら追われている方が俺が聞いた声の主だったようだ。
そして追っているのは3人だけだが、少し離れた所からもう5人程が逃げ道を塞ぐように動いている。
このままだと、何者かは知らないが、そこそこ高い役職にいるであろう彼は捕まってしまうだろう。
俺はフランに目で合図し、着いてくるように指示を出す。
それに素早く応えるフラン、既にどこにでも行けるように人混みは抜けてあるため、そこから声のした方向へと全力で走る。
本来なら追い付けないかもしれなかったが、どうやらどちらもそれほど足が速くなかったようで、裏通りを少し走ると、声の主と追っている集団が目にはいる。
声の主は、以前裏通りで遭遇した護衛付きの女の人のように、普通の人が着る服のように見せかけた高級な服を着ていて、整った容姿に、綺麗な黒髪、女の人に声をかければ簡単に落とせそうな顔立ち、そんな男を追うのは、どことなくブラックアサシン達よりも練度は低いが、似たような雰囲気を持つ人物達。
これがシャームの行っていた裏組織の活性化の内の1つなのだろう。
そして、遂に回り込んでいた5人組が声の主に追い付き、囲まれてしまった。
途方にくれている声の主、これから捕まるであろう未来を想像し悔しそうにしていた。
そんな声の主を嬉しそうに囲む8人の男達、だが残念ながらそれは叶わない。
俺がまず先行して、3人組の男達を吹き飛ばし、声の主を守るように立つ。
遅れてフランが隣に立ち、守りは完璧だ。
既に3人組は5人組の方へと飛ばされていて、誰もが状況を理解できないという顔をしていた。
そんな中で助けを求めていた声の主が先に俺たちに声をかけてきた。
「君たちは一体、、、?」
「俺たちはあなたの助けを求める声を聞きつけて、助けに来ました。」
「けれど、君たち2人だけであの人数を何とかできるのか?、2人ともそれほど強そうには見えないんだが。」
「安心してください、問題なく処理できます、心配なら負けそうになった瞬間逃げてくれて構いませんので。」
「どっちにしろあのままなら捕まっていたんだ、君たちに賭けよう。」
「任せてください。」
俺の声が聞こえていたのだろう、見るからに怒り心頭といった様子を見せる8人組。
「おいガキ!、この人数を何とか出来ると思ってんのか!」
「さっきは油断したが、その借りはお前の命で償ってもらうぞ!」
「その女も中々だな、お前を殺すのはその女で遊んでからにしてやるよ!」
他にも何かしら言っていた男達だが、俺は既にこの男達を生かすつもりはなかった。
裏組織所属の連中ならいなくて困る人間はいないだろう、ブラックアサシン達ならまだしも、こんな行動に出るやつらなら尚更だ。
一応、俺はシャームに連絡を入れる。
[シャーム、裏通りで身分高そうな男を追ってる裏組織の連中と思われる奴等を見つけた、俺としてはお前らの勢力を磐石にするために殺そうと思ってるが、どうする?]
[それもありだが、そこまでリョウに頼ってたら俺達の面子に関わる、そいつらの処理は俺達がやる、だからリョウは俺達がいくまで捕縛しといてくれ!]
[わかった、場所はリンクイヤーで辿ってくれ、人数は8人だ、そっちの人員は任せる。]
[ああ、すぐに駆けつける!]
そういってシャームとの連絡を終えた俺は、まだ騒いでる8人組に呆れながら言い放つ。
「誰もお前らの意見なんか聞いてねーよ、ここで降伏するなら手を抜いてやるけどどうする?」
俺の一言にいよいよ正気を保てなくなったらしい男達は何かしら叫びながら突っ込んでくる。
もうあんな奴等の声を聞くのもうんざりした俺は理解するのを諦めたが。
近づいてくる男達は連携をとっていると思っているようだが、ブラックアサシンとの訓練をしてきた俺にとってみればごっこ遊びも良いところだった。
そして、個人個人の実力も見てわかるほど低すぎてお話にならない。
フランには、リンクイヤーで声の主を守るように、主に俺の攻撃の余波を受けないようにしてもらう。
そんなやり取りをしてもまだ俺の元へ到達できない8人組。
しかも、遠距離攻撃を出来る人材もいないというバランスも悪い編成。
ブラックアサシン達との違いにため息が出そうになりながら、俺は武器を出すのも面倒だったが、せっかくなのでこいつらを訓練対象にすることにした。
「マスターオブウエポン!」
俺の持つ武器達が全て現れ、俺の前に留まる。
これら全ては俺の意思で自由に操れる、もちろん、シャームに殺さないように言われている為に、手加減はするつもりだが。
俺の前に現れた武器を見て動きを止める8人組。
それはそうだろう、自分達の見たこともない質の武器が突然目の前にいくつも現れたのだから。
そんな予想通りの反応に俺は更にこの8人組に失望する。
完全にこいつらに興味を無くした俺は、マスターオブウエポンで呼び出した武器達で意識を刈り取っていく。
その調節の方が苦労したぐらいに弱すぎて、俺の攻撃の余波を受けないようにさせていたフランの役目が無駄になってしまった。
そんな8人組を一瞬で無力化した俺を見た声の主はとても驚いていた。
「いや、まさかこれほどの実力者だとは思わなかった、改めて聞くんだが、君たちは、いや君は何者だい?」
「俺はエジマリフ魔導学園金クラスのリョウ=テンジンと言います、これが生徒手帳です。」
俺の生徒手帳を確認して本物とわかったんだろう。
俺に生徒手帳を返し、こちらも自己紹介をしてくれた。
「済まない、僕も自己紹介をしていなかった、グランバニア王国第1王子アベル=ドラクという、助けてくれて感謝するよ。」
「えっと、まさか他国の王子様だとは思いませんでした、先程から言葉使いが悪くて申し訳ありません、俺は、いえ自分は礼儀とかに疎いので出来れば見逃してもらえると嬉しいです。」
「気にしないでくれ、王子が護衛を連れずにこんな所を歩いて襲われ、それを助けてくれたんだ、咎める所か感謝しかない、だから公の場じゃなければ今まで通りで構わないさ。」
「そうです、、いやそうか、そうしてくれて助かるよ、それとこいつらなんだけど、信頼できる裏組織に引き渡す予定なんだけど構わないか?」
「ああ、リョウが言うくらいなら信頼できるんだろう、そこは任せる、それで悪いんだけど、護衛を撒いてこんなことになってしまったから、良ければ僕の滞在先まで送ってもらえないか?、もちろんタダでとは言わないけど。」
「いやいや、気持ちは嬉しいけど、王子から報酬ねだったなんて知られたら騒ぎになりかねないから、護衛は構わないけど報酬はいらないぞ?」
「そうすると、僕の立場的にも問題になるから、出来れば受け取ってほしいんだが駄目か?」
「そうか、そしたらありがたく受け取ることにするよ、その代わり護衛は任せてくれ。」
「ああ、幸いここからそう遠くはないから、リョウ程の実力があれば問題ないと思う、ついでに護衛達を探しながらでもいいかい?、多分心配かけているだろうし。」
「ああ、俺は構わないよ、フラン勝手に話を進めちゃったけど、良かったか?」
フランを見ると、アベルを見て固まっていた。
まあ、フランの真面目すぎる性格から考えたら、他国の王子という超重要人物が目の前にいたら、言葉使いから何まで考えすぎて動けなくなるのも仕方ないだろう。
だからこそ、俺が話を進めていたんだし。
《わ、私はリョウ殿と同じくエジマリフ魔導学園金クラスの者です、グランバニアの第1王子であるアベル様に会えて光栄です!、護衛はお任せ下さい!、私の命に代えても守ります!》
「いや、頼むからもう少し落ち着いてくれ、悪いなアベル、フランは俺と違って真面目すぎるから、少し暴走気味なんだ、実力はあるから心配しなくていいけど。」
「ああ、こういう反応はいつも通りだから慣れているさ、じゃあフランさんよろしく頼むよ。」
《はい!、必ず使命を全うして見せます!》
力を入れすぎなフランに俺とアベルは苦笑いしながら、シャーム達の到着を待つ。
次回更新は7/16です。
遂にユニークが10000を超えました!
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