76.アジトへ
リョウ視点です。
俺達はマドルからの連絡を受けて、部屋へと戻っていく。
最近はマドルの家事が半端ない速度で成長しているため、今では俺たちは訓練をギリギリまで行い、部屋の事は全て任せている。
あの成長速度は俺なんか比にならないくらいのスピードなんじゃないかと最近思っている。
俺達が帰ると、いつも部屋は完璧に整っている。
短い間にどれだけの作業をこなしているのか想像もできないが、俺達の成長を支えてくれているのは間違いない。
部屋に戻ったところで、マドルに日頃の感謝を伝え、料理が冷める前に食べる。
恒例のくじ引き大会の勝利者はエルンとマドルだった。
2人とも洗練された動作でご飯を食べる。
顔立ちが整っている上に、その洗練された動作は見るものの目を自然と引き寄せるくらいに、彼女達の気品の高さを表していた。
他のメンバーの食べ方もちゃんとしているのだが、この2人が整いすぎているため、どうしても霞んでしまう。
まあ、どう考えても俺が1番ちゃんとしていないんだろうけど、そこは触れないでおく。
一応、努力はしているんだが、1日2日でどうにかなるものでもないからな、俺の成長速度が活きる事を祈るしかない。
朝ごはんを食べ終えた俺とフランは、早速シャームに連絡をいれて、校門へと向かう。
一応、裏組織のアジトなため、周りの目を気にする必要もありそうだったので、念のためインセプションリングを作っておく。
俺とフランは既に持っているため、これはシャームの為の物だ。
知らない間に道具生成が苦もなく行えるようになったことに、成長を感じながら正門に着くと、既にシャームが待っていた。
こうして見ると、上手く一般人に紛れている。
今の彼をみてブラックアサシンの団長とは誰も気づかないだろう。
最も身のこなしまで誤魔化せてはいなかったが。
それでも、初めて会った時より動きの質がいいのがわかるのは本人の訓練の賜物だろう。
「急に訪問することになって悪かったな、準備は大丈夫か?」
「まあ、完璧とはいかないが、見せて恥ずかしくないくらいにはなってるはずだ。」
「なら楽しみしておくさ、早速案内してくれ、ついでにインセプションリングを渡しておくからこれで姿を隠していくぞ、案内頼む。」
そして、インセプションリングを着けると、俺とフランがシャームの視線から消えて驚いていた。
そして、シャームもインセプションリングを着けるが、効果を実感できないのか不思議そうな顔をしている。
[この状態だと会話できないから、何かあればリンクイヤーで言ってくれ。]
[相変わらず訳わからん出鱈目な性能の物をホイホイ用意しやがって、まあ、どうやって人目を忍んでいくか考えていたから、助かった。]
[やはり何度使っても慣れないものだな、まあ便利なアイテムに変わりないが。]
[なあ、リョウ、これを団員分、いや偵察部隊の分だけでも用意してくれないか?、そうすれば情報を取りやすくなる。]
[それはとりあえず、今日の訓練の結果をみて考えさせてもらう、装備に振り回されるようじゃ話にもならないからな。]
[ああ、それで頼む、さてそう言っている間に到着だ。]
因みに今フランが会話に混ざれるのは、俺がシャームとフランのリンクイヤーを繋いでいるからだ。
俺がその辺の設定を弄らない限り、フランとシャームが自由に連絡を取ることはできないようになっている。
最も、リンクイヤーを悪用するような事をブラックアサシンがするとは思えないがな。
そして、俺達の連れてこられたブラックアサシンのアジトは、冒険者区にあり、その中でも比較的綺麗できちんとした建物だった。
俺はそんな建物に驚きながら、インセプションリングを外して中へと入る。
中は見た目通り綺麗で、とても裏組織の人間達が暮らしている場所には見えなかった。
しかも、メイドのような人物達が普通に働いていて、知らない者が入り込んでも、ここがブラックアサシンのアジトとは気づかないだろう。
俺はそんな家の中をキョロキョロ見ながら、シャームへと着いていく。
そして、いくつもある部屋の内の1つに入ると、置いてあったソファーをずらし、何かの合言葉なのだろう、それを口ずさむ。
「光には闇、闇には光。」
その合言葉を唱え終わった途端、俺達は先程いた部屋から突然地下のような場所に移動した。
その高度な技術に驚く俺達を見て満足そうな表情を浮かべるシャーム。
「これすげーだろ?、うちの魔法使いに無属性、特に転移魔法の使い手がいてな、それしか使えないし、マーキングが必要なんだが、便利な魔法だから結構活用してるんだぜ?」
「いや、素直にこれは凄いな、俺もその魔法を教わりたいところだ、今日はその魔法使いはいるのか?」
「ああ、そう言うだろうと思って、ここ何日かはアジトにいるように指示しておいた、ちなみにここはあの建物の地下室なんだぜ?、何でこんなもんがあるのかはわからねーが、便利に使わせてもらってる、想像以上に広いしな。」
「ずいぶん良い買い物をしたみたいだな、とりあえず簡単に潰されないのがわかって安心した。」
「こっちも伊達にトップ狙ってないからな、準備はきちんとしてるんだよ。」
そんなシャームに感心しながら、ブラックアサシン達が訓練している場所へと向かう。
そこでは、俺の用意した武器を使って訓練しているブラックアサシンのメンバー達がいた。
その中でも動きが違って洗練されているのは、やはりというか、俺がかつて襲われ、義手義足を渡したメンバー達だった。
彼らは自らの訓練をこなしながらも、他のメンバーの動きを注意深く観察している。
そんな様子に感心していると、シャームが自慢げに話してくる。
「どうだ?、中々だろう?、リョウと一緒に行動したやつは、みんな今までの自分が嘘だったかのようにメキメキと頭角を表し始めたんだ、今ではリョウと一緒にいた奴等は隊長や副隊長をやってる。」
「まあそうだろうな、明らかに俺やフランと行動した奴らだけは動きが違うからな。」
「見ただけでわかるのは流石だな、まあリョウ程の実力があればそのくらいは簡単か。」
「まあな、それで俺はどうすればいい?」
「とりあえず、今から集めてリョウを紹介する、おいお前ら一端集まれ!」
シャームが声をかけると、訓練をしていたブラックアサシンのメンバー達は動きをとめ、どこにいたのかもわからないほど多くのメンバー達が集まってきた。
その数はゆうに100人を超えていた。
俺はその人数に驚きを隠せなかったのだが、シャームはそんな俺を気にした様子もなく、俺を紹介し始める。
「おし、集まったな!、今日は以前から話していたが、俺たちに武器とこの手と足を用意してくれたリョウを紹介する、俺の隣にいるこいつがリョウだ、実力はまあ、言ってもわからねーだろうから、自分達で確かめろ、今日はお前らの訓練を見るらしいからな。」
団長の言葉だから渋々と言った感じで、頷く団員達。
まあ、そんなもんだろうな、俺が逆の立場ならそんな反応になるだろうし。
「シャームから紹介されたリョウだ、まあ俺の実力が納得できないのは当然だ、だから今から模擬戦をやろうと思う、そうだなー、面倒だから好きな人数でかかってきていいぞ?」
俺の言葉に明らかに怒気を纏わせるブラックアサシンの団員達。
それも、予想通りな反応で、上手くいった喜びと、これにどの程度引っ掛かるか試す気持ちが混ざり合う。
リーダー格と、シャームは俺の実力を知っているため、俺の行動の理由を何となく察しているようで、事の成り行きを楽しそうに見ていた。
そんな上層部とは裏腹に、俺への怒りを募らせていく団員達。
だが、怒りに飲まれている割には、きちんと俺を倒すために連携を取るグループを作っている。
そんな様子に感心しながら、俺はカリバーンを構える。
試合のスタートはシャームに任せることにした。
フランも参加したそうにしていたが、俺が1人で戦った方が余計な手間も無くなりそうだったので、1人で戦うことにした。
「お前ら、わかってると思うが、模擬戦だから殺すなよ、まあやってみりゃわかると思うが、本気で行けよ?、ルールは相手を戦闘不能にするか、致命的な一撃をいれるかのどちらかだ、そんじゃ試合開始!」
こうして、俺のブラックアサシンの実力把握が始まる。
次回更新は7/12です。
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