8.1日の終わり
リョウ視点です。
親子二人にからかわれ、動揺しまくっていた俺だが、ようやく落ち着いてきたところで、キエラさんが、
「リョウさんは学園へ通おうとお考えですか?」
と俺に再度確認してきた。
「はい、一刻も早く十分な実力をつけて通いたいと思っています。」
俺の返事を聞いたキエラさんは満足気な様子である提案をしてくれた。
「リョウさんならそういってくれると思いました。もしよろしければ、学園に入学するまでの間この村で滞在してはいかがですか?」
「村には学園に入るための勉強教材もありますし、森の中で戦闘訓練もできますので。」
俺としては願ったり叶ったりだ。
正直、この後すぐにエフォルを出たところで、学園の場所を聞いたところで行き方もわからないし、行けたとしても学園に入るのはかなり難しいだろう。
ここはキエラさんのご厚意に感謝しよう。
「素敵な提案ありがとうございます。キエラさん達がよろしければ是非滞在させてください!」
キエラさんは頷くと、いくつか注意点を教えてくれた。
「気をつけることとしては、夜に森に無断で出ないことと、素材の売買は必ず誰かと一緒にすることです。」
「夜はモンスターと呼ばれる生物達が活発化する時間帯であり、ただでさえ光の届きづらい森の中で戦うのはかなり危険です。」
「素材の売買に関しては、この世界の相場を知らないリョウさんでは、足元を見られて適正価格で取引されない可能性があります。誰か他の人といればそういうことも無くなると思いますので。」
それを聞いて、やはり夜になると危険が増すのはどこの世界も変わらないんだなと思った。
物価に関してもそもそも取引の方法すら知らない状態だし、これから生活していくうえで必要になっていく知識だろう。
そこまで心配してくれるキエラさんに改めて感謝した。
しかし、モンスターが活発化してるなら村に入ってくる心配はないのだろうか。
わからない事は聞いてみようと思い、キエラさんに尋ねてみる。
「モンスターが活発化しているなら、村の中にモンスターが入ってきたりしないんですか?」
するとキエラさんが説明してくれた。
「この村には、先祖代々伝わる宝具があり、それがモンスターや魔物の侵入を防いでくれるので、村の中は安全です。」
そんな宝具があるのが驚きではあったが、余所者の俺に見ることは出来ないだろうと思った。
それはキエラさんの目からも伝わってくる。
無言の圧力をかけられたが、何とか平常心を保てた。
だが、下手に詮索しない方が良さそうだ。
いつか、もっと信頼関係を築けた時に見せてもらいたい。
それからキエラさんと今後の予定について話す。
「今日はもうすぐ日暮れですので、村の案内は明日にしましょう。学園に入学するための教材は村の中の書庫にありますので、明日案内します。次に寝る場所ですが、、、」
キエラさんが寝る場所の話しを始めようとすると、リナが割り込んで来た。
《お父さん!リョウは家に泊まっていってもらっていいよね!?空いてる部屋もあるし、見回りするにしても、連絡取りやすい方がいいし、村の案内とか素材の売買は私が一緒にいればいいもんね!》
すごい勢いで意見を通しにきたリナ。
すると、キエラさんは笑いながら
「大丈夫だよ、リナ。最初からリナに頼むつもりだったし、泊まる場所も家にする予定だったから。しかし、リナは随分とリョウの事を気に入ってるんだね。」
そんか事をサラッと言ってくる。
チラッとこちらを見ることを忘れない辺り、また俺で遊んでるんだな思い、俺は複雑な気分になった。
するとリナは
「うん!リョウは面白いし、話しもちゃんと聞いてくれるし、話してると楽しいから、もっと色々知りたいし話したいって思えるんだ!」
とすごい笑顔で話していた。
俺としては嬉しい限りなんだけど、すごい恥ずかしい。
というか、こんなに好意的な感情を向けられるのが初めてでどうしたらいいかわからない。
しかもリナはすごい美人だし、可愛い所もあって俺から見たら非の打ち所がない。
キエラさんもニヤニヤしながらこっちを見てるし、俺はどうしたらいいか分からなかったが、とりあえずの泊まる場所と、異世界に来て初めての協力者に会えて、改めて俺の運の良さと、俺を受け入れてくれたキエラさんとリナに感謝した。
そんなやり取りが終わると、中断していたキエラさんとの話しに戻った。
「寝床に関しては先程のリナとのやり取り通りということで、あちらの一番左の部屋を使ってください。」
「明日からの同行者は、引き続きリナになりますので改めてよろしくお願いします。」
「それと、今気付いたのですが、リョウさん靴はお持ちではないんですか?よろしければ私の靴の余りを渡しますが。」
そう言われ、今更ながら自分が靴を履いてない事に気付いた。
普通気付くだろう!と思うが、異世界にきた直後は、食料、水の不安にかられて頭からとんでいたし、木を登った時は疲れと、気を抜いたら死ぬかもしれないという緊張感、降りた後にはゴブリンとの戦闘と落ち着く暇がなかったため気づかなかった。
そしてゴブリンを倒した際に(精神耐性)を手に入れた事で、痛みなどはほとんど感じなかったのだろう。
リナと村へ着くまでの間歩いていても気づかなかったのだ。
リナとの会話が楽しかったから気付かなかったというのも理由の1つだろうけど、、、
しかし、靴がないことに気づいて足元を見ると、血までは出ていないが、所々傷や土汚れがある。
(浄化)のお陰で伝染病などの病気にかかることはないため、そこは心配していないが、(精神耐性)は少し気を付けなければならない気がしてきた。
仮に刃物で切られたりしても、それほど痛みを感じず、気づいたら意識が遠くなり死にいたるみたいな事もあり得る。
これは今後の課題になりそうだと思い、色々試してみようと思った。
足の汚れや傷があることをキエラさんに説明すると、リナが近づいてきた。
突然距離が近くなったため、心臓が破裂しそうなくらい、心拍数が上がり、もはや音が聞こえるんじゃないかと思うほど俺の胸の辺りで暴れている。
心音が聞こえないように願っていると、リナが俺の足に手を近づけてきて何かを唱え始めた。
《我は求める、ケガレを払う力、クリア!》
リナが何かを唱え終わると、淡い光がリナの手から俺の身体に移り、全身に広がる。
すると、全身が綺麗に洗い流されたような心地良い感覚が身体に広がり、足だけでなく、汚れていたジャージまで綺麗になった。
おそらくさっき唱えていた言葉が、小説やゲームに良く登場する魔法の詠唱で、その後に出た淡い光が魔法なのだろう。
初めて見た魔法に感動していると、リナはもう一度詠唱を始めた。
先程とは違う詠唱だった。
《我は求める、癒しの力、ヒール!》
今度は先程よりも力強く、かといって眩しすぎない緑色の光が先程と同じように全身を包む。
足の小さな傷はもちろん、知らない内についていた細かい傷のある場所が塞がっていく不思議な感覚が広がり、傷が治り元の肌に戻っていった。
魔法っていうのは、俺のいた世界ではあり得ない現象を平然と起こすなと思い、早く使えるようになりたいと思う反面、俺に使いこなせるのかや、魔法に依存してしまわないかの不安も広がる。
魔法を覚える時にはこの事を忘れないようにしようと心に決めた。
魔法を唱え終わったリナは
《これでキレイになったでしょ!これが魔法だよ!》
とすごい嬉しそうに俺に話しかけてくる。
相変わらず近いままなので、そんな表情を向けられると顔を直視するのも難しいのだが、そこは頑張って目を合わせ、
「リナありがとう!おかげで快適に過ごせそう!それに魔法って初めて見たけど、すごい綺麗で神秘的だったよ!」
素直に思ったままをリナに伝えると、少し照れながら満面の笑顔を向けてながら、
《ほっ、ほんと!私魔法はあんまり得意じゃなかったんだけど、練習しててよかったよー!》
と喜んでいた。
やった!とガッツポーズをするリナはもう言葉で言い表せないほど可愛い!
もうこの笑顔を見れるだけで、今まで生きてきて良かったと思える。
そんな中、キエラさんが靴を持ってきてくれた。
いつの間に取ってきたのかはわからなかったが、靴を受け取り履いてみると、最初は少し大きかったのだが、少し経つとピッタリの大きさになった。
その事に驚いていると、キエラさんが説明してくれた。
「この世界の装備品には、体格が変わって買い直さなくてもいいように自動で大きさを調節してくれる魔法がかけられているんです。」
「この魔法は、どの装備品にも付いていますが、あまりにも大きく体格が変わった場合は調節が効かない事もあるので注意してください。」
魔法が付いているアイテムなんて、めちゃくちゃ高いんじゃないかと心配していたが、そういうわけでもないらしいので安心した。
改めてキエラさんにお礼をして、外を見ると日が完全に落ちていた。
話しをするのにかなりの時間が過ぎていたようだ。
すると、リナが
《じゃあ、私はお夕飯の準備をしてくるね!二人ともちょっと待っててー!》
と言って奥に行ってしまった。
ご飯が出来るまでの間、キエラさんと話した。
この家には、キッチンと、今俺のいる玄関とリビングが繋がった広い部屋、寝室となる部屋が三つあり、左が俺の部屋、真ん中がキエラさん、右がリナの部屋になっている。
俺の部屋に案内してもらったが、木で作られたテーブルと椅子の他に、何とベッドがあり、何故ベッドがあるのか聞くと、エフォルの村は商人の中継地点になっているらしく、人族もよく来るそうだ。
その時に商品を売ってもらうらしく、ベッドは村の皆持っているそうだ。
意外と現代的で、村での生活も楽しめそうだと思った。
使ってないこの部屋に家具が置いてあったのは、時々リナが友達を連れてきたりするからだそうだ。
今回は俺がその友達になるそうだ。
まだ会って1日も経っていないし、結構な日数お世話になると思うが、まあ二人が迷惑しないなら、俺は嬉しいから気にしないことにした。
そして、何より驚いたのはトイレだった。
様式で、便器に穴のような物が付いており、初めは塞がっているのだが、ウォーター!、と唱えると、その穴が開き、水が汚れを落とし、落ちた排泄物は(クリア)の魔法で、菌や汚染物質をなくし、残ったものは土に吸収されて栄養になるそうだ。
しかも、ウォシュレットと温風も、スチーム!、と唱えると出るため、まさに紙要らずの状態だった。
俺の世界にあるものよりも魔法があるおかげで進んでいるトイレを見て、感動したのは言うまでもない。
しかも、各部屋に一つずつあるのだから、驚きが隠せない。
これはこの世界のほぼ全域に存在するらしく、どこでもトイレに苦労をしないようだ。
その他にも、今俺たちを照らしている電球のような物も点灯させる時は、ライト!、消灯する時は、ダーク!、と唱える物もほぼ全域に存在しているそうだ。
これは、魔具と呼ばれる物であり、人族の開発した魔力を持たない者でも、魔法を使える道具で、魔力の補充が必要だが、魔力石と呼ばれる魔力を溜め込む石が壊れるまで使える。
魔力石はモンスターから手に入り、大きさによって溜めておける魔力量が上がるため価値が上がるようだ。
勉強するための紙と文房具もあり、これの作り方はさすがにキエラさんも知らなかったが、余っているペンと紙を勉強のためにもらった。
紙は綴じていないノートのような感じで、ペンも、俺の世界の物とほとんど変わらなかった。
キエラさんに感謝を伝え、それを自室に持っていった。
改めて人族の開発力に感心するばかりだった。
一通り見終わった頃、先程からしていた良い匂いがより強くなり、キッチンからエプロン姿のリナが出てきた。
この世界にエプロンが有ったことも驚きではあるが、あまりにもリナにエプロンが似合いすぎて思わず見惚れて、動けなくなってしまった。
白と黄色を基調とした、落ち着いた色のエプロンに、リナの金色の髪の美しさが合わさり、神秘的ですらある。
そして、腰の辺りには熊の刺繍があり、それがアクセントとなり、彼女の魅力を更に上げている。
そしてリナが料理を運び終える頃、ようやく我に返った俺は、目の前に広がる料理に感銘を受けた。
見るからに新鮮さがわかるサラダが木のお皿に盛られ、同じく木のお皿に森の食材をふんだんに使っているスープ、鉄のお皿の上には見たことのない輝きを放ち食欲を刺激するソースのかかった厚めに切ってある肉、バケットに入れられた肉や野菜を挟める焼きたてのパン、木のコップに入った爽やかな香りのするドリンク。
テーブルいっぱいに広がる料理に、食欲が刺激される。
皆が席につくと、リナとキエラさんは一度手を合わせ、パンに肉とサラダを挟み、美味しそうに食べている。
俺はまず、スープを飲んでみた。
濃厚なスープには、おそらく何種類もの野菜や、キノコ等が入っており、絶妙なバランスで味を作っている。
スープにパンをつけてみようと思い、パンを取ってみると、外はカリカリで中はふわふわだ。
一口食べると、食材本来の甘みが口の中に広がり、いくらでも食べれそうだ。
スープにつけると、よりスープの味が強調され、パンの甘みも加わり、より洗練された味わいへと変わる。
ドリンクも飲んでみると、口の中を洗い流すようなスッキリとした味わいと、鼻から抜ける爽やかな香りで、一度口の中がリセットされる。
次に新鮮なサラダを食べると、何もかかっていないのに野菜本来の味と匂いで、食べるだけで身体が健康に近づくのを感じた。
いよいよ、熱々の肉を食べると、とても柔らかいのに、程よい弾力もあり、噛めば噛むほど肉の旨味が溢れてくる。
最後にパンにサラダと肉を挟み、一口食べてみる。
肉の旨味と野菜の自然な味、パンの甘みが合わさり、一体感があるのにそれぞれの個性も残されていて、先程とは格段に美味しくなっていた。
これにスープをつけてみる。
食材全てをスープが包み込み、普段ならごちゃごちゃになりそうな中で肉が中心となって、味をまとめていく。
あっという間に食べ終わった俺は、しばらく食事の余韻にひたっていた。
これらの料理はお祝いの時しか作らないらしく、今日は俺と出会えた記念で作ってくれたそうで、一生忘れない料理になった。
食べ終わって片付けが終わると、今日1日の疲れが一気にきたせいか、猛烈な眠気に襲われた。
リナとキエラさんに先に寝ますと声をかけると、二人からまた明日と言われ、二人に頭を下げて俺の部屋へと入った。
靴を脱いで、ベッドに入った瞬間、目を開けているのもつらくなり、目を瞑るといつの間にか意識がとんだ。
こうして俺の長かった1日が終わった。
次回更新は4月20日です!
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