7.エフォル村の村長
リョウ視点です。
村へと入ると、リナは色んな人に挨拶していた。
畑仕事を終えたおじさん、遊び終えてこれから家に帰る途中の子供達、食材を売ってる若い兄さんに、買い物中のおばちゃん、皆エルフでリナが挨拶すると笑顔で挨拶を返してくれていた。
俺の方に視線を向けてくる人もいるが、リナが隣にいるからか俺にも挨拶をしてくれる。
敵意まで向けられなかったとしても、あまり歓迎されないかも、と考えていたが、そんなこともなかったらしい。
俺も村の人達へ笑顔で挨拶すると、皆喜んでくれた。
もちろん、隣にいるリナもすごい嬉しそうだ。
やっぱ挨拶は基本だなと、俺の世界を思い出しバイトやってて良かったと初めて思った。
村の人達に挨拶しながらリナに着いていくと、一際目立つ建物があった。
他の建物はテントを大きくして、それぞれ独自の紋様などを入れて家々を区別しているみたいなのだが、この建物はまず、大きさが他の家々より二倍は大きいし、紋様も何種類も入れてある。
適当に紋様書いてるのかと思っていたが、良く見るとバランスを考えてあるらしく、それぞれの紋様がお互いの紋様の特徴をより強調している。
俺の世界では見たことのない建物で、思わず立ち止まってしまっていた事に気付き、慌てて意識を前方に戻すと、リナがこっちへ笑顔を向けて
《これ、村長の家なの!すごいでしょ!?》
と俺に言ってくる。
「うん、ほんとすごいね!思わず見入っちゃったよ!」
俺の感想にリナも満足したようだ。
ニコニコしながら村長の家へと入っていく。
リナに連れられ村長の家に入り
《村長ただいまー!》
リナが呼び掛けると、中からエルフの男性が歩いてくる。
スラッとしているが、良く見ると身体はこれでもかというほど引き締められている。
身長は俺よりも少し高いくらいだと思うが、村長としての風格のせいか、もっと高く見える。
何となく惹き付けられるのは、彼の持つカリスマ性みたいなものなのか。
俺がそんな分析をしていると、村長から
「森の中までわざわざご苦労様です。私はこの村で村長をしているキエラ=エルフィンと言います。娘がお世話になったようでありがとうございます。」
と言われた。
まず突っ込んでもいいだろうか。
リナって村長の娘さんかよ!?
しかもお世話するどころか完全にお世話されてるよ!
むしろこのままお世話され続けたい、、、あー、なしなし!今のなし!
衝撃のカミングアウトに焦っていると
《ちょっと、お父さん!せっかくリョウを驚かせようと思ったのに!何で先にばらしちゃうのー!》
とリナがキエラさんをポコポコと叩いていた。
この世界の住人は皆俺を驚かすのが趣味みたいだ、、、
まだ会話したのは二人だけだけど。
というか、怒ったリナも可愛いな、ただ、キエラ
さんだからリナのはポコポコで済んでるように見えるが、あれを俺がくらったら死ぬんじゃないかな、、、
一刻も早く身体を鍛えようと思った瞬間だった。
そんなじゃれあいが終わると、リナはこちらを忘れていたらしく、俺を見て恥ずかしそうにしていた。
《黙っててごめんね。無いとは思ったけど、権力目的で近寄られるのは嫌だったの。でも村長の娘だからとかじゃなくてリョウの事を知りたかったのはホントだから!》
そんな事を言われて俺の頭は再びショートしかけて、何とか堪えたが、何でそんな思わせ振りなこというの!?
何、リナは俺の事好きなの!?
喜んでお嫁にもらいます!むしろ婿にもらってください!?
と、いつも通りかそれ以上に暴走していた。
まあ、(考察)があるから時間は経ってないんだけどね。
ホント便利なスキルだよ(考察)は。
これなかったら俺会話出来ないんじゃないかな。
まあ、一通り暴走し終わり落ち着いてきた俺は、うやむやになってしまったキエラさんとの挨拶を再開した。
「初めまして。俺は天神 凌と言います。リナに招待を受け、お言葉に甘えさせていただきました。財産など何もないので、よろしければ何か手伝わせていただけませんか?」
図々しいお願いなのは十分承知しているが、このままリナと別れ、この村から出ていかなくてはならなくなると、生きていけるか不安で仕方ない。
何としてもこの村でこの世界の知識を学び、一人になっても生きていけるようにならないといけない。
まあ、リナと離れたくないと言うのも本音ではある。
むしろそっちの方が割合が高い気がする。
そのうちリナは学園に行ってしまうだろう。
出来れば知り合いがいる内に学園へ入っておきたい。
それがリナなら尚更だ!
とまあ、そんな理由もあって図々しいお願いをしてみた。
すぐに立ち去れと言われてしまったら、その時は何とかするしかない。
策はないけど、やるしかないならやるだけだ。
それで死んでしまうなら仕方ない。
俺の努力や実力が足りなかっただけなのだから。
ネガティブな事ばかり出てきたため、ポジティブに考えようと思い始めたところで
《じゃあ、リョウは私と一緒に見回りしよう!戦闘経験も積めるし、リョウともっと話したいし!いいでしょ!?お父さん!》
リナがキエラさんに提案してくれた。
さっき落ち着いたばっかりなのにまた思考が暴走しかける。
今度は何とか抑えられたが、そろそろ心臓への負担が限界になりそう。
ホントに好きじゃないなら思わせ振りしないで!?
届かない事はわかりつつ、心の中で叫んでいた。
「リナが連れてきた客人なので、リョウさんがそれで良いならこちらとしては大歓迎です。しかし、村長として、また娘の父としては相手の素性は知りたいと思うのですが、よろしいですか?」
キエラさんは笑顔の疑問形で聞いているが、目が笑っていないため、話さないならどうなるかわかるだろ?みたいな圧力を感じた。
ここで誤魔化したり、言わなかったりすれば今日は大丈夫かもしれないが、明日以降に村から出されて殺されてもおかしくない。
何が起こるかわからない世界なんだから、敵は少ない方がいい。
どっちにしろ隠す必要はない。
信じてもらえなければどっちにしろ俺の命はないのだ。
だったら、嘘をつかない方が後で後悔しない。
そう思い、俺は今日の出来事をキエラさんに話した。
まだ1日も経っていないのか、と思いながら今まで経験してきた中で一番濃い日だなと改めて思った。
キエラさんは俺の話を聞いて驚き、俺の世界がどんな所か聞いてきた。
表情を見る限りあまり疑っている感じは見えない。
むしろ、何かを確認するために質問している気がする。
俺はリナに聞かれたときと同じようにキエラさんへ説明した。
すると、やはりと一人納得していたキエラさん。
なぜだろう?と思っていると
「リョウさんが異世界から来たことはわかりました。実はこの世界アーテラスでは、昔からごく稀に別の世界から人が訪れることがあると言われています。
私も前に本で読んだだけなので、お伽噺の類いだと思っていたのですが、リョウさんの話を聞いて、その本が本物だったのだと確信しました。」
俺は心底驚いた。
ごく稀にとは言っているが、異世界人が来ることがあるのだ。
それならいくつか聞かなければと思い
「その異世界人は元の世界に帰りましたか!?その本はどこにありますか!?今生きている異世界人はいますか!?」
慌てて詰め寄ってしまったため、リナもキエラさんも驚いていたが、キエラさんは一つずつ答えてくれた。
「まず、彼らが元の世界に帰ったのかは私にはわかりません。本で読んだだけで証拠などはないからです。」
「次に本がどこにあるのかですが、学園都市オーノスのエジマリフ魔導学園にあります。しかし、トップクラスで成績優秀かつ、許可を得た者のみが入れる区画にその本はあります。」
「今生きている異世界人ですが、私は見たことも聞いたこともありません。しかし、他の種族なら知っているかもしれません。」
これを聞いて俺は尚更早く学園に通わなければならないと思った。
元の世界に帰れるのか、この世界で暮らすしかなくなるのか、全ての答えが学園都市オーノスで揃う。
この世界に来て明確な目標ができた。
「色々と教えてくれてありがとうございます。学園へはどうしたら入れますか?」
いずれ聞く予定だったが、今は一刻も早く学園へ向かうのが一番みたいだ。
この国で一番大きな学園らしいし、それだけ大きな学園がある町ならそれなりに栄えているだろう。
ある程度の常識をこの村で学んでからオーノスに向かい、色々調べればいいだろう。
情報の集まる所にいた方が調べるうえでは効率もいいし。
考えをまとめたところでキエラさんが先程の質問に答えてくれた。
「学園に入るためには、ある筆記試験と実技試験の合計が基準点を超える必要があります。その他に学費が必要ですが、これは学園から卒業するまでに払えばいいものです。」
「しかし、学費を払うまでは卒業できず、年に2回あるテストそれぞれで一定の成績を取れないと強制退学+強制労働になります。」
「卒業試験は6人の先生の推薦が必要で、それをもらうと、卒業試験を受けられます。卒業試験の成績によって、卒業証の価値が変わります。あとは学園でもらえる学生証に書いてあるので目を通してもらえれば大丈夫です。」
かなり詳しい説明だった。
そして意外とハードな学園だなと思った。
学費を払うまで卒業できないのに、年2回のテストそれぞれで一定の評価を取れないと強制労働。
これは、入ってからも苦労しそうだと思い、今の内に気を引き締めておこうと思った。
しかし、なぜこんなに詳しいのだろう。
本の場所を知っているということは、卒業生か関係者かのどちらかなのだろう。
それでも、資料を見ないでこんなにスラスラと出るものだろうか。
そう思い聞いてみた。
「詳しく教えてくれてありがとうございます。これだけスラスラ情報が出てくるということは、キエラさんは学園の関係者なんですか?」
するとキエラさんは笑いながら答えてくれた。
「私は6人いる理事長の内の一人です。」
ホントにポンポン、ポンポン、驚愕の内容をぶっこんでくるな!?
関係者だとは思ったけど、まさか理事長だとは思わなかったよ!
そんな事を考えていると、キエラさんが笑いを堪えられないといった様子で俺に話しかけてきた。
「すみません、最初に言おうと思っていたのですが、リョウさんの反応が面白くて、ついつい後回しにしてしまいました。」
とんでもない事をサラッと言ってくるキエラさん。
ついつい後回しって、それ意図的って事ですよね!?
心の中で叫んでいると、今度はリナが楽しそうに
《やっぱりお父さんもそう思ったんだ!?必死に落ち着こうってしてるとことか、焦ってるのを必死に隠そうとしてるとことか、ホントに面白いよね!》
爆弾を落としてきた。
これを本人の前で言うのもどうかと思うが、今まで驚かされてばっかりだったのは、俺の反応が面白かったからと言われ、俺は恥ずかしくて死にそうになった。
え、今までの苦労なんだったの!?
面白がられてたって、ホント超絶恥ずかしいんですけどー!
もうどんな顔してリナを見ればいいかわかんない!!!
チラッとリナの方を見ると、恐らく恥ずかしくて悶えていた俺を見てすっごいいい笑顔をしていた。
くっそ!可愛いすぎる!あんなの反則だろう!!!
そんなリナにまた悶えながら、俺はこれからどんな顔して過ごせばいいんだろうと、わりと真剣に悩んでいたが、もう一回リナの方を見ると、相変わらず素敵な笑顔でニコニコしていたので、このままでいっか、と思い今まで通りに過ごそうと決めた。